国境廃止<第一章> 第七話 「α地点 ①」
「う…」
私は目を開けた。目を突き刺すような眩しい光が入ってくる。きつく縛られている。何もない部屋。ここはどこ?
私は記憶を辿る。月を壊した女の子?に会って眠らされた…そうだ。何処かに連れてこられた?じゃあここはどこ?
そんな私の疑問に答えるように、部屋の扉が開いた。現れたのは白衣に身を包み、メガネをかけた男。
「誰…?」
「私は北原宇宙(そら)。世界の父だ」
彼が世界の父だということに驚きを隠せなかった。(ていうか名前…)
「なんで私を捕らえたの?」
「それは君が、この世界を変える事ができるからだ」
「変える?変えるって…戦争がなくせる?」
「いや、その逆だ。これからは、能力者を使った戦争が始まる」
「っ……!!」
何を言っているんだ、この男は…。
「なぜそれに私が関係あるの?」
「君、というか、『ココロ使い』全員に関係のある事だ。君たちがいる事で、私の計画は完成する」
「どういう事…?」
ねえ「ココロ」、教えて……。
「無駄だよ」
「!?」
「君の『ココロ』は一時停止させてもらった」
「えっ…」
「何せ生みの親は私なのだから、止めるも動かすも自由ってわけだ」
「あなたが『ココロ』を作ったの…?」
「そうだ」
「なんで『ココロ』を作ったの?」
「まあ、強いていうなら、興味があったんだ。君たちが『ココロ』をどう使うのかを。計画のための適正テストとして、能力者ウイルスとともにばらまかせてもらったよ。親父は殺されてしまったが、感謝だな」
「待って、能力っていうのはそもそもウイルスなの?」
「そうだ。それは私の親父が作ったウイルスだ。『S』に対抗するための手段の一つだ。だが親父は、『S』に殺された…」
「『S』っていうのは、高市さんのいる…教団?」
「そうだ。あいつは私たちの復讐すべき存在。その復讐の手段として、能力者を使わせてもらった。『ココロ』はまあ、戦闘の手助けとなるようにっていう意味もあったわけだが」
状況は大方理解できた。北原家と「S」は、なんらかの因縁を持っている。そして、北原家の…世界の祖父は「S」…つまり高市さんの教団の中の何者かに殺された。その復讐のため、北原宇宙は祖父が何かの目的で作った能力者ウイルスをばらまいたわけだ。能力者は強大な力を手に入れる。復讐にはもってこいの武器だ。そして「ココロ」は戦闘のアドバイザーとなる存在を作るため、北原宇宙によって作り出され、ウイルスと一緒にばらまかれた。
でも、そしたら一個、疑問が生まれる。
「なぜ、能力者同士の戦いになるの?」
「能力者ウイルスは、以前『S』信者だった親父によって、『S』に寄付されたのだ。迂闊だった。まさか親父がそんなことをしていたなんて…」
「つまり、『S』にも能力者の手駒がいる……」
「そういうことだ。だが、『ココロ』使いは私たちの手駒にある。私が調べたところ『S』の関係者に『ココロ使い』は一人しかいない」
「誰?」
「高市だ。奴だけなぜか『ココロ使い』になれた。後はみんなお前のような一般人。そこで、そんな一般人を勧誘するため、あの月を壊した女を送り込み、ここまで来てもらったわけだ」
「なんであなたたちの因縁に巻き込まれなくてはいけないの!?」
私は争いが嫌いだ。だから戦争なんか、もちろん嫌いだ。
「戦争なんてする必要ないじゃない!」
「お前は何もわかってないんだ!!半端に介入しないでくれ!!綺麗事垂れやがって!!お前らは俺の指示通り動いておけばいいんだよ!!」
北原宇宙は大きなため息を吐いた。
「もういい、話はやめだ。そろそろ仲間に会わせてやろう」
その言葉とともに部屋の扉が荒っぽく開けられた。
「世界!!」
そこには原型を留めないほど顔を殴られた世界が、黒服の男に引きずられていた。
「これより計画を始める」
北原宇宙は冷たく言った。
そして、世界をも巻き込む最悪の戦いが始まる---------。