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LINEの生活 シーズン4完全版

※この完全版は、ペンギン人の疲労により、強調などの細かい加工は、最小限にしかやっておりません。
ご理解いただけるとありがたいです。


「感情洗濯機」

「!?銃声??」
テンヌキが東に取り付けられていた装置を外した時、屋敷の上の階の方から、銃声が聞こえてきた。
「一体何が!?」
すると東が、
「う〜ん」
と言って目を覚ました。
「東!!」
「ん〜?テンヌキ〜?どしたノォ?」
「良かったあ!覚えてたんだ!!『お』が少し効果を弱めたのか?はたまた『お』は何もやっていないとか...」
「なんのことぉ?それよりなんか...『お』に話があったんだけど...」
「やっぱり!もしかしたら『お』は効果を弱めたのか!?じゃあ、少し...ほんの少しだけ忘れていることがあるはず...」
テンヌキは東の体を掴んだ。
「ちゃんと全部覚えてる?ここはLINEの世界で、東はなぜかここに連れてこられて...。忘れたことはある?」
「...なんか...人間の世界でなんのアルバイトをしてたか忘れちゃってさ...」
「なんだそんなことか!!ああ、良かった良かった!」
「本当にどしたのテンヌキ...怖いわ、今のお前」
「良かったああああああ」
「......と、とりあえず事情を説明してくれ。お前の今の姿、明らかに異常だから...なんかあったんだろ?とりあえず話せ」
すると、テンヌキは、「忘れてた!」とでも言うように、パッと目を見開いた。
「そっか...東、これは大事な話なんだ、心して聞いてね。東、君が取り付けられていた装置は、「感情洗濯機」といって、『お』が『ボス』になることが決まってから、秘密裏に絵文字工場で作られたものなんだ。これは、万が一、『ボス』の血を引く文字が逃げ出そうとした時、その文字の全ての記憶を洗い流して、「必ず『ボス』にならなければならない」という暗示をかけるための道具。つまり洗脳さ。今がまさに、万が一の時だね...。...それで、多分、東は、まだ少ししか記憶を洗い流されていないんだと思う。だから、良かった、って...」
「...そっか、『お』はそこまでして、俺を...」
東は言葉を失った。
「でも、『お』はいいやつだよ」
「どういうこと?」
そしてテンヌキは、『お』の部屋であったことを全て話した。
「...あいつ......俺もちゃんと話がしたい」
「...あ!そうだ!東、それよりさ...」
「?」
「僕が東に取り付けられていた、『感情洗濯機』を外していた時、外から銃声が聞こえたんだ...!!」
「は!?ど、どこから!?」
「多分...」
テンヌキは少し言葉を詰まらせた。

「......『お』の部屋から...」

「!!まさかあいつ...!!!」
東は倉庫を飛び出した。「ちょっ!東、待って!」テンヌキも走り出した。ザアアアアアアア!と、雨水のシャワーが降り注ぐ。冷たい雨水が二つの文字の顔を撫でる。東とテンヌキ。二つの文字の足音だけが、外に響いていた。
「東、もしかしたら僕が聞き間違えただけかもしれない。『お』の部屋から聞こえたという確証もない。だからそんなに急がなくても...」
東は、雨に負けないくらいの大声で言った。
「それでももし、『お』に何かあったら...!!『お』の部屋から聞こえたという確証はない...でも、『お』の部屋から聞こえていないという確証もないぞ!!」
「っ...!!」
「とにかく走れ!!」
二つの文字は、屋敷に入って、家来をおしのけ、エレベーターに飛び乗った。そして、七十階につくと、全速力で「お」の部屋に駆けつけた。
部屋の前に着いた。以前「お」が壊したドアは、きれいに修理されていた。
東は素早くドアを開け放った。
「っ!!」
「『お』...!!」
二人はただ、立ち尽くすことしかできなかった...。
「お」が、自身に銃口をむけた状態で、倒れていたのだから...
「お」の頭から、目が痛くなるような、真っ赤な血が、ドクドクと流れていたのだから...

少し強い風が吹いた。その風で、本棚から、一冊のノートが落ちた。
それは、「お」の思いが全て書かれている、「手記」だった...

「『ボス』の生活を、どれだけ呪ったか...」
これが、その「手記」の書き出しだった。
この「手記」には、一体、どんな思いが秘められているのだろうか...

手記

ボスの生活を、どれだけ呪ったか...
誰にもこの苦しみを言えない。だからせめて、ここに書き残しておこうと思う。私の文字生の全てを。


ある日、私が昼食を食べている時。「守」の文字(のちの私の家来)が、ゾロゾロと私の方へやってきた。私は焦っていた。誰だこの文字は?なぜ私に寄ってきた?
焦りながらも、私は椅子から立ち上がり、「守」の文字と距離をとった。だが、「守」の文字は足が早く、すぐに私に追いついた。
「な、なんなんだよ!?」すると、「守」の文字が私の腕を空に掲げて言った。
「『お』、あなたは『ボス』の血を引いている。先ほど、十二代目の『ボス』がお亡くなりになった。なので、今すぐ屋敷に来て、十三代目の『ボス』となるための儀式を初めてくれないか?儀式のやり方、『ボス』の仕事の内容は、儀式の前に話す」
「は?...儀式?『ボス』?なんの話だ?」
何がなんだかわからなかった。そうやって私が戸惑っていると、周りから大きな歓声が聞こえた。
わああああああああああああああ!!
「おめでとうございます!!」
「『ボス』、この世界を頼みます!!」
悪い気分ではなかった。なのでつい、
「ワ、ワッハッハ!」
と偉そうに笑ってしまった。すると、またもや歓声が。
わああああああああああああああ!!
自然と笑みが溢れた。

屋敷に着くと、私はエレベーターに乗せられ、七十階へ上がった。エレベーターのすぐ横に、私の部屋はあった。とても豪華な場所だった。
壁一面に並ぶ本棚。
偉い文字が座るような、フカフカの椅子。
応接間のように、きちんと並べられたソファ。
「おお...」
と、思わず簡単の声をあげた。
「で?『ボス』の儀式とは?仕事はなんですか?」
私はもう、『ボス』になる気満々だ。なので、調子に乗って、軽々しく聞いてしまった。
「それは、『ボス』担ってくださるということで間違い無いですか?」
「守」の文字の言葉遣いが急に良くなったのは少し戸惑ったが、
「はい!なんでもやります!仕事を教えてください!」
「一斉処刑をしてもらいます」
「え?」

仕方がなかったのだ。私は十二代目の『ボス』世代の文字を殺し、長生きすれば、十三代目世代の文字も殺さなければいけない...
一線を超えてしまった...
私は無知だった...
この世界のことも、
「ボス」のことも、
何も知らなかったのだ...
言葉というものは恐ろしい。うっかり発してしまった言葉で、ここまで苦しむことになるとは...

言葉は魔法。言葉の力は、時にすごく、時に恐ろしいものだと実感した。

十四代目の『ボス』へ。
すまなかった、こんな役目を押し付けてしまって。
本当に反省している。
私は二千二十年十二月二日に、自殺する。
どうか今までのこの世界より良い世界を造り上げてくれ。

十三代目の『ボス』 「お」より

「『お』!お前、何、やってんだよっ!!」
東は叫んだ。
「お前、死んで償おうなんて、考えてたのか...?」
「お」は答えない。冷たい体を床に置いているだけだ。
「生きて償えよ...償いたいなら...」
東とテンヌキの目から、涙がこぼれた。
「...『ボス』...死んじゃったら、何も...何も、できないじゃ無いか......」
テンヌキは、冷たくなった「お」の体にしがみついた。
すると、東が、床に落ちていた「手記」に気づいた。
「テンヌキ...これ、何かな?」
「...?」
テンヌキは涙を拭いて、東の方に歩いて行った。
その「手記」は、何十枚ものページが破り取られた、ノートだった。長い間取り出していないのか、埃をかぶっていた。
二つの文字は、ページをめくって、手記を読み始めた。

「『お』...」
東は「お」に駆け寄った。
「お前、...ほんとに...バカなことばっか...考えてんな......」
「『ボス』!『お』!!」

うわあああああああああ!!

二つの文字は、「お」にしがみつき、泣き声をあげた。天国にいる「お」に、届くくらいの音量で。

「守」の文字たちが鳴き声を聞きつけて、東とテンヌキを引っ張って行ったのは、「お」が死んでからちょうど一時間が経った頃だった...
東の手には、ボロボロになった「手記」が、強く握られていた...

法律変更宣言(例外)①

東とテンヌキは、「事情聴取室(人間界でいう取調室)」につれていかれた。二つの文字は、「事情聴取室」についてからも、涙を流していた。
「おい!お前ら!!『ボス』の部屋にいたな!?」
東とテンヌキはうなずいた。
「あそこで、『ボス』の頭から血が出ていたが、どういうことだ!?お前らが殺したのか!?」
東は黙って「手記」を渡した。
「なんだこれは...」
そう言いながらも、「守」の文字は、「手記」を開いて読み始めた。
「こ...これは...!!」
「守」の文字の手から、「手記」が滑り落ちた。「守」の文字は、頭を抱えた。
「そうか...そんなことが...『ボス』に...」
頭を抱えていた「守」の文字だが、すぐに改まった表情になった。
「テンヌキ様、先ほどのご無礼をお許しください。今からすぐ、あなたを『新「ボス」即位式』にお連れしなければなりません!これは『ボス』の意思です!すぐにきてくださいますか!?」
テンヌキは泣きながらぼーっと座っていたが、すぐにいつもの顔に戻って、
「は、はい!」
と言った。
「東さんも一緒に来てください」
東は涙を拭いて、頷いた。
「守」の文字は、「準備があるので先に行きます」と言って、会場に行ってしまった。「守」の文字から、事前に『新「ボス」即位式』の場所を聞かされていたので、東とテンヌキは、そこへ向かった。
少しばかり沈黙が続いた。すると、東が口を開いた。
「良いのか?テンヌキ、...『ボス』になったら、同時に虐殺者にもならないといけないんだぞ?」
「...大丈夫。それなら考えがあるから」
「考えって?」
「見てたらわかるから」曖昧にしか答えないテンヌキ。東が何度聞いても、はっきりと答えてくれなかった。そうこうしているうちに、会場についた。
会場は、劇場のようだった。そこで、「守」の文字を見つけた。「守」の文字も、こちらのことを見つけたようで、東とテンヌキの近くに走ってきた。
「東さんは、舞台袖で見ていてください。観客席が満員で...すみません」
「いや、良いですよ」
東は言われた通りに、舞台袖に入った。
「テンヌキ様、いよいよですよ」
「わかりました」
「あなたもそろそろ『ボス』になるんですから、敬語をやめても良いんじゃ無いですか?」
「わかった。...ふふっ、慣れないな...」
ザザッ!と、ステージに取り付けられたスピーカーから、ノイズが聞こえた。
『今から、十四代目の新「ボス」即位式を行います!』
スピーカーから、明るく、ハキハキとした声が聞こえてきた。
「これが、僕の秘書...」
「はい、文字は、東さんが決めました」
「東が...?」
「文字は...」
ブウウン...と、幕が開いた。

「『東(ひがし)』です!」
「へっ!?そ、それって...」
パアン!と幕が開ききり、テンヌキの姿があらわになった。
「東さんが、『これなら俺が人間の世界に帰っても、寂しく無いだろう!』って。では、私はこれで」
「守」の文字は、サッと、舞台袖に消えて行った。
(...東らしいな)
テンヌキは、以前「お」が立っていた、高価な机の前へ歩いた。
『二千二十年、十二月二日!今、十三代目の「ボス」が死去したことにより、十四代目の「ボス」は、「王」の文字に、決定いたしました!!』
ワアアアアアア!!
耳をつんざくような歓声が聞こえる。
『...なお、ここで言うのもなんですが、大晦日に行われる、一斉処刑についてですが...』
(いよいよだ...)
テンヌキはニヤッと笑った。
テンヌキには、この世界の法律を、一瞬でひっくり返すような策があった。
(それが...これだ!!)
『少し早いですが、今年の大晦日に...』
テンヌキは、「東」が言い終わる前に、机をドン!と、叩いた。
(東が優しさでこういう文字にしたんだろう、僕の秘書は...でも......!!)
キイン!と耳が痛くなるほどの、鋭い音が響いた。会場が一瞬で静かになった。
「...テンヌキ...?どうしたんだ...?」
東は舞台袖で戸惑っていた。
テンヌキは、大きく息を吸い込んだ。
(ちゃんと、『ボス』の職務を全うできるように...僕が寂しがらないように選んでくれたんだろうけど...)
『処刑の法律についてだが...』
マイクを通して響くテンヌキの声は、鋭く大きな声だった。
(これが、僕の答えだ!!!)

『処刑の法律を変える!!『法律変更宣言』を今、行うことにする!!!!!』

法律変更宣言(例外)②

「法律変更宣言」とは、「ボス」に一度だけ与えられる、法律を変えることができる権利のことだ。もし、変えた方が良い、という法律があれば、「ボス」と家来が全員で話し合って、法律を変えることができるのだ。
だが、これにはデメリットがあった。使えるのは、十二月三十一日に行われる、一斉処刑の直前まで。もし、直前に「法律変更宣言」をしたとしても、会議にかかる時間もあり、会議しているうちに処刑の時間が来てしまうので、法律変更宣言を使った「ボス」は、殆どいなかった。

東は前に、「お」にこのことを教えてもらっていた。なので、テンヌキの発言に、顔をしかめた。
「...良いアイデアだと思うんだけど...『法律変更宣言』って、大晦日の処刑の直前にしか使えないよな?...今日、大晦日じゃねえぞ...!!」
辺りがざわつく。
「ちょっと...何言ってるんですか...『ボス』...」
「まだ大晦日ではありませんよ!!」
そうだそうだ!と、ブーイングが湧いてきた。
「どういうつもりですか、今日はまだ、使えませんよ!!」
秘書の「東」でさえ、テンヌキに意見をするほど、「法律変更宣言」をすることは、重大なことだったのだ。
テンヌキはしばらく黙っていたが、やがて、ニヤッと笑って、
「これでどうだ?」
と言い、モニターを出した。
「テンヌキ...何するつもりだ...!?」
東はただ、見守ることしかできなかった。
テンヌキはリモコンを取り出し、モニターに向けてスイッチを押した。
バン!とモニターに画像が映る。その画像には、手紙が映っていた。手紙には、


もし、どうしても、処刑を無くしたい「ボス」がいるのなら、いつでもこの手紙を、民衆に見せなさい。
今、ここで、一斉処刑の法律をなくすことを、宣言する。
その際、法律変更の会議は、廃止することとする。
そして、この手紙の有効期限は、一生とする。
ずるいかもしれないが、いつかの「ボス」が、民衆にこの手紙を見せた瞬間から、この手紙に書かれている内容を、今、私の独断で、これからこの世界が続くまでずっと、このLINEの世界の法律とする。

二千七年十二月三十一日 著
いつかの「ボス」へ

一代目「ボス」 「あ」より

と、書かれていた。
「...これは、一代目『ボス』から、代々受け継がれてきた手紙だ」
辺りがしんと静まり返った。
「...つまり、これはテンヌキが法律を変更したわけじゃなくて、一代目の『ボス』が変更したってこと?...まあとにかく法律は変わった!!」
東はぱあっと顔を輝かせた。
「この一代目の『ボス』が残してくれた手紙のお陰で、

一斉処刑がなくなる!!
やった!!!」
「これで理解しただろう。つまり今この時を以て、

一斉処刑は廃止だ!!」
「テンヌキ...お前、すげえ..!!!」
「僕はこれから、決して裏切り者を指すような政治をするつもりはない!だから、これからは、この法律でいかせて欲しい!!」
「...裏切り者を出さない、という証拠は?」
「これからの僕を見て決めて欲しい。それと、」
テンヌキは、どこから持ってきたのか、鞘のついたナイフが、大量に入った箱を持ってきて、その中身を、ステージにばらまいた。
「!?これは!?」
「もし、僕が裏切り者を出すような政治をしていたら、」
テンヌキは、首を切るようなジェスチャーをした。
「僕を殺してください」
ざわっ!と、さっきよりも辺りがざわついた。
「おいおいおいおい...何言ってるんですか...」
「うそ...」
テンヌキは、そんな言葉に構わず言った。
「これで、『法律変更宣言』及、『第十四代目 新「ボス」即位式』を終了する!!」

テンヌキは、即位式が終わってからすぐ、民衆にナイフを配った。だが、誰も、そのナイフを手に取らなかった。

「...テンヌキ、殺してくれ、は、言い過ぎじゃないか?」
「大丈夫大丈夫!自信はある!!」
「でもねぇ」
「心配しなくて良い」
そんなふうに話をしていた二つの文字。話のネタが切れてきたところで、東が口を開いた。
「とりあえず一件落着となったことだから、そろそろ俺も人間の世界に戻らないとな」
一仕事終えた!とばかりに、東は汗を拭うようなジェスチャーをした。
「あの...東?」
テンヌキが、言いにくそうに言った。
「ん?」


「人間の世界に戻る方法はないと思うんだけど」

「...はい?」

払うべき代償

「...ナンデ...モドレナイノ?」
東は涙目になりながら、テンヌキにたずねた。
「東には、話してなかったね。元々は...」
テンヌキは、「お」が、裏切り者を逃してしまうことを防ぐ為に、元々あった人間の世界への通路を塞いでしまった、ということを話した。
「...マジ?」
「マジ」
「え!?じゃあ俺どうすればいいの?」
「え〜、寿命が尽きるまで暮らしたら〜?この世界で〜」
テンヌキは、「そんなことは別に僕にはどうでも良いので早くおさらばしてください」というように喋った。
「いやいやいや!!俺は人間の世界に戻って、やり残したこととかいろいろ叶えんだよ!!それを諦めろと!??」
「知らんし」
東は怒鳴ったが、テンヌキは何事もなかったかのように振る舞っていた。
「じゃあどうすればいいの!??お前にはもう頼れないから俺で探さないとでも俺はこの世界の権力者じゃないんだからわかるわけないしテンヌキに気持ちの悪い声で煽られんのも嫌だしねえ...!じゃあもう無理だよ!!」
うわあああああ!と、東は泣き叫んだ。流石にテンヌキも、真面目に考えてくれて、
「......危険だけど、戻れる方法はなくもない」
と、意味ありげに呟いた。すると、東はガッとテンヌキの肩を掴んだ。
「ほんとっすか神様あ!」
あまりの態度の代わりように、テンヌキも少し戸惑った。
「あ、うん」
「ねえ教えて教えて教えて教えてくださいませよ神様あああ!!」
東はテンヌキの体を、ブンブン揺らした。
「あーもうわかったから!」
テンヌキは東を振り解いた。
「で?どうやったら良いの」
...電波に乗って、君のスマホに行くと良い。ここが君の友人の『和樹』のスマホなら、多分...。スマホの一つ一つに、ここみたいな『ボス』が支配する世界があるんだ。だから、その東のスマホの中にある『ボス』の屋敷に忍び込んで、その屋敷にある通路を通ると良い。...でも、...前にも、別のスマホに迷い込んだ、『ボス』の血を引く人間がいたんだ。その人間は、東みたいに、『ボス』の屋敷に忍び込んで、人間の世界への通路に入ることができたらしいんだ。だけど、通路をどんどん進んでいくと、だんだん体が元の状態に戻っていった。つまり、だんだん人間の姿に戻っていってしまったんだ。そして、通路の途中で、挟まって動けなくなってしまったらしいんだ。そして、それを見つけた『ボス』が、その人間を見つけて...あの『感情洗濯機』で...。とにかく、ほぼ確実に、LINEの世界に入った人間は、元の世界には戻れない。...ここは、君の話によると、『和樹』のスマホなんだよね。だったら、『和樹』が東とLINEのやり取りしてる時にしか入れない...。そのタイミングはわかるわけないんだ。つまり、...0%くらいの確率しかなくても、その可能性に賭けてでも、人間の世界に戻りたいの?
東は少し黙っていたが、やがて覚悟を決めたような表情になって。言った。
「そんなの、決まってんだろ!行くよ!行くっきゃねえだろ!」
「そっか。わかった」
そして、東は、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「なあ、あのおじいさんはどこ?」
「おじいさんは...」
テンヌキが話し始めた時、一瞬時が止まったようになり、東の目の前に、「老」が現れた。
「!おじいさん...ん?」
何やら、ぶつぶつ呟いているようだった。
...ハア、ワシらは人間のために、文字をこき使わせ、働いている...。しかも、どの世界も残酷だとくる...。人間の世界に戻っても、良いことなんか一つもない。せいぜい自分の世界の残酷さを知るだけだ......。生きていることの何が良いんだろうか...。ああ、死んでよかった。殺されてよかった。...人は、自分の世界の残酷さの一部分しか見ていない...『1』を知っただけなのに、『10』を知ったような気分になり、死んでいくのだな..ああ、全く、哀れだ...。湊太、人間の世界なんて、何も良いことはないぞ
まるで訳がわからなかった。でも、人間の世界へ行くことを、「老」が否定しているのはわかった。
(...おじいさん、俺は、人間の世界へ行かなきゃいけないんだよ......ところで、何でこのおじいさん、俺の名前を知っているんだ?)
そこで、時が動いた。
「『お』の家来に」
「殺された、か?」
「何で知ってるの...?」
「おじいさんが...」
「?」
東は、さっき見た幻覚?のことを話した。
「そっか...」
「ああ。...でもなんか...」
(いろいろ引っかかる...話し方、俺の名前を知っていること、態度...誰かに似ている...)
東の頭の中に、優しく笑うおじいさんの顔が浮かんだ。
(誰だ...!?こいつ...!!)
「東?」
そこで東はハッと我に返った。
「大丈夫?今ぼーっとしてたけど」
「..いや、何でもない。...それより、行く準備しよう」
「そうだね」

二つの文字は、屋敷に戻って、リュックを出し、武器を詰め込んだ。

電波に乗って

一夜明けて。東はリュックを背負った。
「あ、あずま、それはやめたほうがいい。怪しまれるぞ」
テンヌキ「王」の文字は、東のリュックを引っ張った。
「ああ。そうだな」
東はリュックを下ろした。
「東がスマホに入る直前に、投げ込むよ」
「おう」
テンヌキは東のリュックを拾って、しっかりと掴んだ。
「東」
「ん?」
今まで、ありがとう
テンヌキが、少し恥ずかしそうに言った。
お、おう...。こちらこそ
東も、少し恥ずかしそうに言った。
「...それじゃ」
「じゃあな」
東は「ボス」の部屋から出た。
テンヌキは、しばらく見送っていたが、やがて自分の席に戻った。
東が部屋を出て少し経った頃、テンヌキは、
「そろそろ投げ込みに行かなきゃな。もうついただろうし」
と言い、東のリュックを持って、屋敷を後にした。

巨大なスマホの前に着いた東は、LINEの画面が開かれていることを確かめた。そして、画面の上の方。東はそこに書かれた送り先を見た。
東湊太あずまそうた
「...よし」

LINEが送信された時、文字は電波に乗って、送り先のスマホへ向かう。そして、送り先のLINEの世界の工場から、吐き出される。
そして、スマホの画面に張り付きに行く...。

このスマホは、調べたところ、東の友人の「和樹1話に出てきたホラー映画好きの友人」のものだった。和樹の巨大な指がスマホに触れる。文字が打ち込まれる。東はさりげなく、スマホに張り付くように、スマホに近づいた。
東がなぜ、自分のスマホではなく、「和樹」のスマホに飛ばされてしまったのかを聞くと、テンヌキは「わからない」と答えた。テンヌキによると、「普通は自分のスマホに行くものだ。君は珍しい」だそうだ。
誰か黒幕がいるのだろうか?
東はそう考えてみたが、頭をブンブンと振り、(今は人間もとの世界に帰ることの方が大事だ!)と自分に言い聞かせた。
今からこのスマホの電波に乗って、君のスマホに行くときに、電波に不具合が起きて、全く別のスマホに放り出されてしまうかもしれない。それでもいいの?
東はこのテンヌキの言葉に、うんと頷いたのだ。ここまでの覚悟をしといて、今更行かないのはもったいない!
十分に決意を固めた東は、上の方を見た。文字が打ち込まれ、送信ボタンが押されたので、打たれた文字と同じ文字が、必死に上へ上へと登っている。大体、スマホの上の方のちょうど真ん中に、トンネルのような電波が出ている。文字たちはその電波トンネルに入って行く。東は姿を見られないように、素早くスマホに掴まり、トンネルによじ登った。そして、サッ!と、さっきの文字たちのように、トンネルの中へ入っていった。もちろん、こっそりテンヌキが投げ込んだ、リュックも一緒に。

んっ...うおっ!
東の体に、物凄い衝撃が走った。あの例の黄色いタコ※のスピードよりも早いんじゃないかというようなスピードで、体が前へ前へと進んで行く。
電波の道は、トンネルのように、どす黒い筒の一本道だった。たまに曲がっているのかもしれないが、体が運ばれるスピードが早すぎて、感じることすらできない。
おまけに、体全体に電気が流れ込んでくるので、唸り声や悲鳴くらいしか上げられない。
(は、早く俺のスマホについて...)
不意に、東の目の前に、光が見えた。
(っ!眩しい!!)
東の体が、前にぐわんと押し出された。

ビタン!
地面に叩きつけられた東は、ふらふらとしながら、立ち上がった。

シーズン5に続く

最終章開幕!

※コイツです↓

殺せんせー

暗殺教室めっちゃ好きなので、ここで使わせていただきました!

松井優征 少年ジャンプ


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