LINEの生活外伝制作決定記念 LINEの生活 全シーズン完全版
超遅くなってごめんなさい!
目次はない!変になりそうだから!(ハ?)なんか画像読み込めなかったです…ナンデ?!
序章
シーズン1
EP1 東湊太
ピロン!スマホの通知音がなり、東湊太(あずまそうた)は、自分が寝そべっていたソファーから身を起こし、スマホを取った。友人からLINEが来ている。
和樹{今日、予定ある? 7:00
湊太{特にないけど 7:01
和樹{お袋から映画のチケットもらったんだけど、来る? 7:01
湊太{いいよ 7:02
和樹{わかった!ホラー映画だからな!一時に駅に集合! 7:03
(げっ!よりによって大嫌いなホラー映画かよ…)
東はチッ、と舌打ちして、スマホを机の上に戻した。
東湊太。そこそこの中学、そこそこの高校、に通い、そこそこの大学を出た平凡な男である。年齢は二十七歳。恋人いない歴イコール年齢。ピザ屋でアルバイトをしているので、生活についてはどうにかなる。SNSをよく利用しており、主にTwitterやInstagram、ブログ、LINEなど、定番(?)のSNSを利用している。東は、普通の人より想像力が豊かで、小説家になることを夢見ている。ブログに小説を載せている。
ふう、と息を吐いた東は、朝食の準備に取り掛かる。いつものようにできた朝食の写真をInstagramに載せ、朝食を食べ、いつものようにTwitterに朝の呟きを載せる。東にとっていつもの日常。朝の呟きを載せた後、東はソファーに寝そべり、考え事をした。
元々この様に考え事をするのが好きな性格で、もう日課にまでなっている。いつもの考え事の内容は、別に重大なことではない。パンケーキとホットケーキの違いや、人形の作られるわけなどだ。(少しかわっているかもしれない)今日の話題(?)も、特に重大なことではない。今日は、「鉛筆とシャーペン、なぜ二つもあるのか」と言うことについて。鉛筆もシャーペンも、同じ様な機能を持っているのに、なぜ存在するのか?なかなか思い浮かばない。こんなことすることになるなら、どちらかはいらないのではないか?(ひどいとばっちりだ。鉛筆もシャーペンも何も悪くない)それならどちらをなくすべきか?
「う~んンンンンん?」
東はいつもこんなことをしているが、今まで一度も自分の満足できる結論は出ていない。
「あ~もうどっちでもいいか」
考え事が終わったのは8時ごろ。まだ時間はある。
「よし!ブログするか!」
東はパソコンに向かい、ブログを開いた。
東のブログで東がフォローしている人数は五千六人、フォロワー九千四百人。とても人気だ。ブログには、「東(ひがし)の長編小説」というタイトルがついている。ペンネームは「東(ひがし)湊太」だ。東は毎日、長編小説を一作書いて、ブログに載せている。ジャンルは主にSF、ファンタジーやミステリーなど。(恋人がいない歴イコール年齢なので、恋愛系は一切書いていない)『毎日こんなに長くて面白い小説が書けるなんて!』『あなたは天才ですか!?』など、コメントも好評である。そして今日も、長編小説を書き始める。
『その日』
「うーん」気に入らなかった様で、文字を消して書き直した。
『時は二千XX年』
「おお!良いじゃん!」多分今日書くのはSFだろう。
エンターキーをおし、次の行に移った。
『時は二千XX年。
日本は..』
カタカタカタ…
ピロン!小説を書いている途中に、スマホが鳴った。
「またLINEか?」
東はスマホを撮って、ロック画面を開いた。そうすれば、誰から来たのかわかるだろう。
『非通知 から、LINEが来ています 💬』
「は?非通知!?電話ならあり得るけど、LINEじゃあそんなはずないよな…」
少し戸惑いながらも、東はLINEを開いた。
非通知{相談がある 8:15
非通知{お前も来るか? 8:16
非通知{来い 8:16
「は?これ、壊れた?どういうことだよ?意味わからん」
LINEに非通知のやつからメッセージが来たこと、そのメッセージの内容の意味不明さに東は慌てた。
「悪戯か!?いや、でも…そんなことできるのか…」
と、その時!!!東のスマホが大きく光った!!!!!!
「な、なんだ!?」
ピカああああああああああ!!!!!
光が東を包み込んだ後。グニュ!東の腕が勝手にスマホの中まで動き———スマホの中から、漫画やLINEで使われるフキダシが飛び出し、東をスマホの中に引っ張り込んだ!!!
「や、やめ…」
スポン!
東がスマホに引き摺り込まれた後、
タンスから———東が出て来た。
ボス編
EP2 文字の仕事①
「う、うーん」
起き上がった東は、スマホの中にいた。いや、これは東の意識が入った、「東」の文字、と言ったほうがいいかもしれない。そして、東の意識が入った、「東」の文字(何度も何度も東の意識が入った、「東」の文字と書くのはややこしくなるので、この後は東と書き表す)の目に映った景色は、想像を絶するものだった。
「は!?ここLINEの…」
東の目に映った景色を詳しく説明する。
そこには、私たちの世界にもあるような、5階建ての、煙突がついた大きな工場のような建物が、そこら中に、数えきれないほど並んでいた。その工場のような建物の壁には、小さな筒がついており、そこから、東のように、意識の入った文字が出て来ていた。その後、その文字たちは、さも当たり前のように大きなスマホの画面が映し出されている方に歩いて行っていた。東のいるスマホを使っている人間の指が、キーボードに触れるたび、平仮名、片仮名、漢字、英語、絵文字がスマホに向かって走っていく。
「なんだ…これ…」
今の状況をイマイチ理解できていない東のもとに、「お」の文字が駆け寄って来た。
「おい、お前、工場の近くで横たわってるけど…新人?」
今になって東は気づいた。自分は今工場の近くで横たわっているのだ。
新人?なんのこっちゃ?
混乱している東はとりあえず、
「は…?」
と答えておいた。
「ああもう!どうでもいいからとりあえず来い!!」
「お」の文字はがしっと東の腕(?)を掴んだ。
「ちょっと!何するんだよ?!」
「あ!説明すんの忘れてた!!!!!!!やっべ」
なんてことを東の話を無視してまで呟いている「お」の文字は、勝手に話を進めていく。
「説明?」
「おう。ここの世界のことをな…」
「お」の文字は、意味深なことを言って話し始めた。
東が考えてもいなかった、この世界のことを…
EP3 文字の仕事②
「ここは見ての通りLINEというSNSの世界。ここには数え切れないほどの種類の文字がいる。人間が何か文字を打ち込んだら、打ち込まれた文字のやつが、あの大きなスマホの中に飛び込む」
「お」は、すぐ隣の大きなスマホを指した。
「あ、あの、食事は…人間に姿を見られてないんですか…?」
「え?あ、ああ、お前、もともと人間だったやつ?!食事は大丈夫。ほら、食べ物の絵文字があるだろう?あれ、俺たちにだけ食べれるんだよ。なんで人間には姿を見られていないのかっていうと、ここはあの人間が文字を打ち込むのに使うキーボードの裏側の世界なんだ。だから人間には姿を見られない。なんでお前がここにいるかっていうのはな。ここには、お前らの世界でいう大統領的な存在が…。あ、なんで俺がこんな『大統領』とかの言葉を知ってるかっていうとな。政治に関心のある奴らが、よくLINEで話すんだよ」
結構おしゃべりらしい。「お」はおしゃべりの「お」なのかな、なんていうことを東が考えていると、
「おい!お前の文字が打ち込まれてるぞ!早く行かなきゃ!」
「お」の文字は、東を引っ張って行く。
「ちょ、ちょっと、総理大臣的な奴らが何してるか教えろよ!!」
「うっせえわ!これは文字の仕事!宿命だ!そのことは昼飯んとき話すから!さあ、スマホに飛びこめ!」
「お」の文字に言われるがまま、東はスマホに飛びこんだ(飛び込んだ、と言っても、自分の意思で飛び込んだわけではなく、「お」の文字に引っ張られているので、「お」の文字のせいで飛び込んだ、と言ったほうがいいのかもしれない)。
べたっ!
「え!なんだよこれ!?」
東はスマホにべったり張り付いている状態。
そうこうしているうちにも、次々といろいろな文字がスマホに張り付いていく。
「くそっ!はがれろ~!!」
東は力を入れてはがれようとするが、びくともしない。
するとこのスマホの持ち主が、送信ボタンを押した。
べちん!
「うわっ!」
東はフキダシに貼り付けられる!もちろん、どうやっても動かない。
「くっそお!!!!!」
ピロン!ピロン!ピロン!ピロン!
返信が来て、東の張り付いた拭き出しは、どんどん画面の上に上がって行く。
そして東は、スマホの画面からはみ出した(つまり、返信がたくさん来て、スマホの画面に収まり切らなくなり、画面からはみ出してしまったということだ)。その途端、ぺらっ!東の体はスマホの画面から離れ、あの工場が立ち並ぶ街の地面へと落ちて行った…
「どうだ?初仕事は」
「お」が東を覗き込んで話しかける(これからは『お』の文字は、『お』と表す)。
「け、結構疲れた」
「ははは!そうか!結構きついよなあ!」
「はあ…」
そして東は、この仕事をやる前から、一番聞きたかったことを尋ねた。
「なあ、もう仕事終わったんだからさ、その、ここの総理大臣的な奴のことについて、教えろよ!!」
「よし…わかった。もう昼飯だから、話してやるか」
意味深な口調で、「お」が言う。
「この世界の秘密について…」
EP4 この世界の「ボス」
「この世界の総理大臣的な奴は、みんなから『ボス』と呼ばれている。その、『ボス』は、お前んとこの世界か、ここの『クニ』を治める、つまり、LINEの世界を治めるのが役目だ。主に、俺たちが作られるもととなる工場の管理や、食料の配給などが仕事だ。えーっとね、まれに、工場に事故が起こることがある。お前んとこの世界や、『クニ』でいう、停電とかだな。事故が起きたときは、文字や食料が作れないだろ?だから、人間の世界から、食料、緊急の時は人間を連れてきて、手作業で、そういう専門の文字が、LINEの世界で受け入れられる姿に変える。その中に、お前が選ばれたのだろうな。そして、厄介なことに、ここに来た人間は、人間の世界での記憶を残してきちゃうんだよなあ...気の毒だ」
と、カレーにサラダ、フライドチキンを机の上に並べ、生ビール(すべて絵文字)を飲みながら、長々と「お」がしゃべり終わった。その「お」に、うどん、おにぎり、コーラ(もちろんすべて絵文字)を並べた東が、うどんをすすりながら訪ねた。
「その『ボス』って、なんの文字なんだ?ちょっと気になるんだけど」
「それは家来の奴ら以外、誰も知らない」
「そっか...やっぱり、家来みたいなやつがいるんだな」
「ああ」
「ふーん...」
どんな文字かわかったら、そいつに頼んで人間の世界に戻ることができるんじゃないか、と思いながら、東は机の上を、ドン!と叩いた。
「じゃあ、『ボス』と接触する方法はないのか?」
「ない」
「直に接触できなくてもいいんだ!ほら、絵文字の電話があるだろう!?」
「ないね。できたとしても番号なんて誰が知ってる?」
「ぼ、『ボス』の居場所は!?」
「知らん」
「ぼ、『ボス』ってなんの文字なの?」
「さっきも聞かれた家来以外誰も知らんっつってんだろ!?」
「ぼ、『ボス』とセッショク...」
「もう質問はやめろ。俺が知ってる限り、方法はない。人間の世界に戻れる確率は低すぎる」
「...」
東は絶望して、少し黙った。
すると、「お」が口を開いた。
「俺たちは、ここで一生過ごすしかないんだ」
「?一生!?」
文字にも一生があるのか!?と、東は戸惑った。
「文字にも一生が?!」
「ああ。文字にも寿命はある。...まあ、実際には、殺されて死ぬ、といったほうがいいかもしれない」
「!?」
「知ってるか?毎年、スマホに出てくる文字のフォントは、ほんの少しだけ変化している。人間の目では見えないくらいな。そうやって、文字のフォントが変わっていくとともに、俺たちはボスに殺される。
それで、残念だけど、今年はもうあと一か月で終わるよ(笑)」
「あ!そうだった...」
そう、今、人間の世界は十二月。あと一か月しかない!それまでに東がこの世界から逃げ出せるという保証はない。
「お前、まだ逃げ出そうと思ってんのか?」
東は黙ったままだ。
「...ちなみにな、人間の世界の旧暦は、こっちの世界の旧暦と同じだ。全然関係ないけどな」
「っ!頼む!」
東は頭を下げた。それが運悪くうどんのお椀に頭を突っ込むことになってしまい、頭がやけどするくらい熱くなったが、そんなこと言ってられない!
「俺の仲間になって、ここから抜け出すのに協力してくれ!」
「ムリだ」
「おい...」
「お」はしらけた顔で続ける。
「リスクがデカ過ぎる。そんなことまでするメリットなんか無い。俺は死ぬまでここで暮らしたい。ビール飲んでゆったりとな」
なぜかあたりが少しざわめく。
でもそんなの関係ない。
「じゃあ...」
東は最終兵器を出すことにした。
東は皿を持ち、地面に叩きつけて、割った。
「お、おい、何するつもりだ...?」
東は無言で、割った皿の中でもとりわけ大きなものを取り、「お」に向けた。
「お前の命はここで終わりだ!!!!」
「きゃあああああ!!!!!」
あたりの文字が悲鳴を上げる。
「ま、待て、殺すことだけは...」
東は殺意の湧いた目で「お」に向かって走って行った。
「ムリだ。嫌なら俺に従え」
「っ...」
野次馬の文字は、ただ悲鳴を上げて見ている。
東は「お」との距離を詰めていく...
「殺ってやる...」
「わかったわかった!!わかったから!仲間になるから!!ただし、ほんのちょっとサポートしてやるだけだぞ?」
すると東は、顔をぱっと明るくして、
「ありがとうございますう!」
と言って、何度も何度もお辞儀をした。
野次馬は、訳がわからないがなんとかおさまったらしい、と、安堵の表情を浮かべ、二人(?)から離れて行った。
「ま、まあ良いよ」
「さっきはあんなことしようとしてすまん。これからは二人でがんばろうぜ!!!!!!!!」
「おう!」
ニコッと笑った二つの文字は、(二人(?)と表すと、ややこしくなりそうな気がしたので、これからは二つの文字と表す)ハイタッチをした。
「よし!じゃあ、仲間集めるか!」
「え?まだ仲間集めんの!?これで充分じゃない?」
「いや、俺たちだけじゃほぼ不可能だ。それに、ここに迷い込んだ、もともと人間だった奴も逃してやりたいだろう?」
「...そうだな」
「お」は、案外優しい奴なんだな...と、東は思った。
「じゃあ、お前らの世界でいう、『広告』かなんか作って、呼び込もうぜ!」
「え!?そんなことできんの!?」
「ああ、ついてこい!」
「お」は東の手を引っ張って行って、立ち並ぶ工場の中にある、「絵文字工場」に連れて行った。
「『絵文字工場』?」
「そう、ここで、パソコンの絵文字と、印刷機の絵文字をもらう」
そこで東の頭に、疑問が浮かぶ。
「パソコンの絵文字は...あったような気がするけど、印刷機の絵文字なんかあったか?」
「作って貰えば良い」
そう言って「お」は、どこから取り出したのか、クレジットカードのような大きさのカードを出した。そのカードには、「『ボス』家来団」と書かれている。
「え!?お前、『ボス』の家来だったの!?」
「昔はな」
「お」はそのカードを上に投げた。カードはクルクルと回転し、力尽きたように「お」の手の中に真っ逆さまに落ちて行った。「お」はカードをキャッチし、ニコッと笑った。
「お前は入ってくるなよ。ここは『ボス』の家来しか入れない。お前が入ると殺されるぞ?」
「お」はわざとらしくおどけたジェスチャーをし、「絵文字工場」へ消えて行った。
EP5 絵文字工場
「絵文字工場」のドアが開いた。ここは二階建ての工場。一階が受付で、二階が工場だ。ここは、誰でも好きなように工場に入って絵文字を作って良いわけじゃなく、一年以上、「『ボス』の家来」という肩書きがないと入っては行けない仕組みになっている。
「お」が受付の前に歩いていく。受付は相変わらず清潔だ。受付にいる、「管」の文字が、「お」に言う。
「カードをお見せ願います」
「お」は持っていたカードを受付の目の前に持っていく。
「では、このカードが本物かどうか確かめます...多分本物でしょうけど」
「早くしてくれ」
「管」の文字は、奥から虫眼鏡をとってきて、カードにかざした。
「...」
「...」
しばらく沈黙が流れた。少し経って、カードの隅々を虫眼鏡で見ていた「管」の文字は、
「本物でした。やっぱりね...。では、工場まで...」
「いや、別に良い。自分で行ける」
「...では」
「お」は二階へ行くための階段を登る。
ここには何回もきている「お」。だが、毎回カードを調べられる。何回ここにきた文字でも、武器なんか作られて街中でぶっ放されたらたまったもんじゃない、と思っているのだろう。
「お」は二階についた。ここにも受付がある。「お」は受付の「作」の文字に言った。
「パソコンと、印刷機の絵文字を作ってくれ。もちろん、ネット環境とか細かいこと全部やっといてくれ」
「かしこまりました。では、少々お時間いただきます」
「作」の文字は、工員たちに指示を出す。そして、三分ほど経って(早いな)、「作」の文字が、箱を持って歩いてきた。
「相変わらず早いな」
「はい、それがモットーですので。では、こちら、パソコンと印刷機です」
「ありがとう」
「少し伺ってもよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「これ、何に使うんでしょうか?小説でも書いて、本にするんですか笑」
「まあ、ちょっとね...」
「まさか...例の件...!?」
「黙ってくれ」
「お」は一階におりて行き、工場の外に出た。
「どうだった!?」
工場にもたれかけて座っていた東は、「お」がくるとすぐ立ち上がり、「お」に聞いた。
「お」は箱の蓋を開け、中身を東に見せ、ニコッと笑いながら、言った。
「これで準備OKだ!じゃあ、『広告』作ろうぜ!!!!」
「ちょっと待って、あんまり目立つことしたら...」
「殺されるかもって?それとも捕まる...。お前、結構この世界のシステムわかってきたじゃねえか。...まあ、実際そうだけど、俺たちもそんな馬鹿じゃない。捕まっちまったら、抜け出すも何もねえ。家のポストに、こっそり入れれば良いじゃねえか。ここの世界の新聞配達のやつに紛れて...」
「家!?家なんてどこに...」
「お前馬鹿か?!家がなけりゃどこで寝れば良いんだよ」
「野宿...」
「お」は大袈裟なため息をついて言った。
「あっちに家がある。あっちで俺たちは過ごしてるんだ」
「お」が指差した先は------地平線の向こうだった。
「さ、もう遅くなったし、家に帰ろう!」
「あんなところに...家なんてあるのか!?」
「あるったらある!!!こい!」
「お」は東の頭をがっしりと掴んで、引っ張った。
「ちょっ!いてえ!やめろ馬鹿!!」
東の声が、誰もいない工場の周辺に響いた。
EP6 仲間集め
東は、「お」の家に着いた。中は普通の一軒家、と言う感じで、少し違和感があるのは、家具が全部絵文字だ、と言うことだ(まあしょうがないことだが)。
「なあ、『お』?」
「ん」
東は、ずっと疑問に思っていたことを尋ねた。
「今、俺はLINEの世界にいるわけじゃん?じゃあさ、人間の世界での、俺の存在はどうなってんの?」
「お前の世界では、クローンのお前が働いてる。クローンは、お前が今までしたこと、見たこと、聞いたこと、全部の記憶が埋め込まれてる。そいつは、お前の分身みたいなやつだから、お前の日常を毎日繰り返してるだけ。今日は友達となんかしてんじゃねえか?」
「そっか...」
自分のクローンなんか、考えただけで恐ろしい。そのクローンは、今、何をしているのだろうか?東のやり残したことを、楽しんでいるのだろうか?
東がしゅんとしていると、その空気を振り払うように、「お」が言った。
「そんないつまでもメソメソしてたら、人間の世界なんか戻れねーぞ!!!早く広告作れ!!!」
「お、おう!!」
「あともう二十九日しかねーぞ!!」
「やるぞ!!!!!!!!!!!!」
東の心にあった後ろ向きな気持ちは消えた。「お」には、周りの人を元気付ける力があったんだな、と、東は思った。
「よし、じゃあ、パソコン開いて...」
「待った、広告は俺が作る」
「え?!できんのか!?」
「は?何でそんなこと」
「さっきまでずっと子供みたいにメソメソメソメソしてたくせに...」
ぐさっ!
「う、うるせえ!まあ見てろよなあ...」
東はパソコンに向かい、広告の文字を打ち始めた。
「パソコン操作すんのは得意なんだよ!!!」
「お」が東の手元を覗き込むと...
「うおっ!こいつ、やべえ!!」
東は、目にも止まらぬスピードで、文字を打ち込んでいく。
「できたぞ!!」
「おお!!すげえええ!」
「どうよ?」
「み、見直したわ...」
「じゃあ、印刷機の電源入れて...」
「おう!」
ポチッ!ウィーン...
「「印刷!!!」」
印刷機から、東の作った広告が出てきた。
ウィーン...ウィーン...ウィーン...
「おおお!!!」
「どんどん出てこ~い!!」
ウィーン...ウィーン...
三百枚ほど出てきたところで、「お」は印刷機を止めた。
「よし!こんだけあれば...」
「二人くらいはくるかなあ....」
「頑張るぞ!!!」
「おう!!!!!」
そして二人は、眠りについた。
「------お、おい!」
「んあ~~?」
東は目を覚ました。「お」がいう。
「おい、早くいくぞ」
「ヘア?今何時?」
「自分で見ろ」
東は渋々、置いてあった絵文字の時計を見た。そして...
「はああああああ ???」
と、悲鳴のような声をあげた(まあ、無理もないが... )
「よ、四時!?朝の!?」
「ああ」
「ふっざけんなあAAAAAAA!!早すぎだろ!!」
「あんま目立ちたくないから、早めに行きたい」
「いやいやいや!!!そうだけれども!!!俺、まだねむ...ねむ...くない!!」
「さっきあんだけ叫んだんだから...もう眠気も覚めただろ?さ、いくぞ!」
「ちょっ、飯は?!」
「後で」
「え!?ひどくない!?」
「知らんわ。いくぞ」
「ヤダ~~~~」
「お」は駄々をこねる東を引っ張って、三百枚の広告を持ち、外に出た。
EP7 テンヌキ
「よし、じゃあ、お前には半分渡すから、ヨロシクぅ!」
そう言って「お」は、東の手に、明らかに二百枚を超えた量の広告を手渡した。
「ちょっ?は!?これ、明らかに二百枚超えてるよな!?」
東が手元の広告から目を離したときは...もうとっくに手遅れだった。
「あいつ、帰ったらドロップキック食らわせたる...」
と、東は半ば呆れたような顔で言った。
「と、言うことで、お前にドロップキックを食らわせまぁす☺️」
「ひえっ!?」
帰ってきてから東が最初に放った言葉がこれだった。
「良いよね☺️」
東はニコッと笑いながら言う。
「い、いやあああああああああああ!!!!」
「お」は少し泣いている。でもそんなこと知らん。
「俺の苦労を思い知るが良いい☺️」
「やめてくださいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」
プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!
電話がなった。
「チッ、こんな時に...」
「や、ヤッタァ!!」
「お」は今は時間が止まってる、とでも言うように、踊りながら電話をとった。
「はいぃ、もしもし?...えっ!?......本当ですか!?...はい、はい。今から!?......わかりました!...はい。...どうぞ!おいでください!」
がちゃっ、と、受話器が置かれた。
「何の話だった?」
「今からここにくるって!!」
「誰が?」
「この世界から抜け出したいって言う文字!!!」
東と「お」のもとにやってきたのは、「玉」の文字(以下「玉」)だった。
「俺、ここから抜け出したいんです!『ボス』に支配されるなんて、まっぴらごめんだ!!!!...僕、もともと人間で、この世界に連れてこられて、『ボス』の元で働いていて、理不尽な体罰を受けていて...」
「お」が、ピクッと反応した。
「だから、早く人間の世界へ行きたいんです!!あなたたちに協力します!ここから出ましょう!!」
「もちろんですよ!なあ、東!」
「おう!」
「じゃあ、みんなで頑張りましょう!」
三つの文字は、ぐっと手を握り合った。
「ちょっとおさらいしていいか?」
東が口を開いた。
「ここは人間界のような世界で、血の通った文字がいて、街などがある。人間界と違う点は、文字がいること。後、文字や絵文字を作る、工場があると言うことで良いか?」
「そんな感じだな」
「そうですね」
「ああ、よかったよかった。...じゃあ、改めて自己紹介するか!」
「じゃあ、俺から」
「お」が話し始めた。
「俺は見ての通り『お』。俺はこの世界で、文字として生まれ、こうやって毎日働いて生きてる。多分、この『お』って言うのは、おしゃべりの『お』だと思う。俺、おしゃべりだからw」
こいつも自覚してたのか...と、東は思った。
「俺は『東』。ひがしって書いてあずまって読むんだ。俺も『玉』と同じように、もともと人間で、三日前にここに来た。人間の世界では、ピザ屋でバイトして暮らしてる」
「僕は『玉』です。僕も人間の世界から来ました。...人間の世界では、信じられないかもしれませんが、スパイをやっていました」
「スパイ?じゃあ、コードネームとかあるの?」
東が、興味深そうに尋ねた。
「はい。そこで呼ばれていた名前は、『テンヌキ』です」
EP8 作戦
「『テンヌキ』...」
「お」が何か考え込んでいる。
「ちなみに、スパイの世界では、誰も本名を明かしませんし、そもそも、仲間の顔も見れません。情報を漏らさないようにするためでしょうね、きっと」
「そうか...」
「『お』、さっきからなんか考え込んでいるが、どうかした?」
「いや、別に」
「ふーん」
明らかに「お」は何かを隠している。だが、向こうが何もないと言っているのだから、これ以上問い出しても無駄か、と、東は質問をやめた。すると、「玉」(テンヌキ)が口を開いた。
「なんか、『玉』って呼ばれるの、そんなに慣れていませんので、これからは、『テンヌキ』と呼んでもらってもよろしいですか?」
「ああ、全然良いんだけど......お前、いや、テンヌキも敬語やめろよ!水臭え!」
東が言った。
「は、はい、わかりました!」
「だから敬語やめろって(笑)」
「う、うん!」
はははははは!
東とテンヌキの間には、和やかな空気が流れた。だが、「お」だけが、意味深な表情でテンヌキを見ていた...。
「よし、じゃあ、明日にでも、逃げ出そうか。ここには、人間の世界へ行ける、通路がある。そこから逃げ出そう」
テンヌキは、早くも敬語を話す癖が治ったようだ。
「ちょ、ちょっと待った!お前、何で、『ボス』の屋敷のことについて、こんなに詳しいんだよ!?」
「確かに...」
「まあ、僕はボスの秘書だったからね。そこから何とか抜け出してきたよ」
「そんな奴が屋敷に潜入して、見つかったらどうすんだよ」
「お」は観察力が高いのだろうか?実際、「お」は結構鋭い質問をする。今は結構それが激しいらしい。警戒しているのだろうか?
(だとしても...もう、そんなに警戒しなくても良いんじゃ...?)
もう、結構馴染んできているのに、少し用心深すぎではないか?と、東は思った。
「大丈夫、考えがある」
「考えって...」
「今はここから抜け出すのが最優先だよ。こんなことを話していても時間の無駄だ。早く作戦を立てなきゃ」
「...わかったよ...」
「お」もやっと納得したのか、テンヌキに従う。それを聞いていて思った疑問を、東が聞いた。
「なあ、俺がこの世界にきた時は、人間の俺は文字になったけど、もともと文字だった奴が、人間の世界に行った時は、どうなるんだ?ボスのいっちゃん近くで働いてたテンヌキはわからないのか?」
「ああ、それなら知っている。もともと文字だった奴が、人間の世界に行った時は、その文字は、新しい人間として生まれ変わる」
「!じゃあ...」
「俺も人間の世界に行けるってことか!!行ってみてえええ!人間の世界!!」
「お」はとても興奮している。それをみたテンヌキは、ふっと微笑んで言った。
「そのための作戦を立てているんだよ。だから、頑張ろう!
「うおっシャア!やろうぜ!!」
「おう!」
東と「お」の目には、火がともった。そこで、テン貫が、屋敷の屋敷の簡単な地図を描いて言った。
屋敷は、お城のような見た目だった。一階の門の奥には、エレベーターがあり、そこには、家来の「守」の文字がずらっと並んでいる。二階、三階、と、様々なフロアがあり、七十階に「ボス」の部屋がある。屋敷の隣には、六十階ほどのビルが建てられており、そこが家来たちの住む場所になっている。
「さすがに入り口...門から入ってもダメだから、ここ、マンホールから入る」
テンヌキは地図に、マンホールを描き足した。
「マンホール!?」
「そう、この屋敷から少し離れた公園のマンホールは、実はエレベーターの前とつながっているんだ」
「よく誰も気づかなかったなあ...」
「僕が初めて気付いたんだ。...そして、『ボス』の部屋には、人間の世界への通路がある。ここから逃げるんだ」
「お前、結構詳しいな」
またもや「お」が言った。ついに東もうんざりして言った。
「『お』、お前、警戒してんのか?警戒しすぎだぞさすがに鬱陶しいわ」
「...」
「お」は黙ったままだ。
「確かに警戒するのも無理はない。...僕は、『ボス』の秘書で、唯一、秘密を伝えられていたんだ。だからこんな感じの情報を知っている」
「その情報は本当に正しいのか?」
「おい、『お』!分かっただろ!?警戒しすぎだって!」
「まだ警戒しているのか...僕は本当に秘書だった!......君なら知っているだろう?」
「お」は、テンヌキの意味深な質問を無視して、
「お前が本当に秘書だったと言う情報は!?お前は偽物かもしれない!俺たちにデマを...」
「『お』!!」
「...今、家来たちの様子が変だろ?少し焦っているじゃないか。僕を見つけたら、直ちに捕まえろ、と言う放送がそろそろ...」
テンヌキが言いかけたところで、放送が流れた。
『「ボス」の秘書、「玉」の文字が、今日、屋敷から逃亡しました。見つけたら、直ちに屋敷にご連絡ください。番号は...』
「...これで分かってくれた?大丈夫。作戦は僕が成功させる!これからはお互いに信頼して行こう」
「...分かったよ」
「お」は少し笑って、テンヌキと握手をした。
東は、その光景を、微笑んで眺めていた。
だが、テンヌキと握手をする「お」の顔は、思い詰めたような表情だった...
ボス編 第二部
シーズン2
EP8 考えごと
文字が一掃されるまで、残り二十八日の朝。
東は目を覚まして、スマホを取ろうとした。だが、できなかった。そして東は苦笑いをした。ここはLINEの世界だった。東は、ここではスマホを持っていなかったのだ。なのに、いつものように、SNSを利用しようとしていた。
「呑気なもんだな...」
隣を見てみると、「お」とテンヌキが眠っていた。東は、二つの文字を起こさないように、冷蔵庫から、パンと牛乳を取り出し、(全て絵文字)朝食を済ました。その後、東は床に寝そべって考え事を始めた。考え事は、SNSもいらないので便利だ。
(...『お』は何を考えているのだろう......)
「お」はずっと、意味深な表情をしている。あいつは何を隠しているのか...あいつは何を...何を見ているんだ-----
東は目を瞑った。
(.......)
.......
(.......)
.......
東は考える。「お」の真意を...
「はっ!まさか!」
東は少し声を上げた。
(あいつはもしかしたら!『ボス』の正体に感づいているんじゃないのか!?なら、あいつが『ボス』だと思っている相手は...)
東は「お」を叩き起こした!
「おい!おい!『お』!」
これで、テンヌキが起きてしまうのではないかと心配したが、ぐっすり眠っているようで、東の声は聞こえていない。
「ふぇあぁ~?何だヨォ?」
「ちょっと話したいことがある」
「却下」
「お」は布団を頭まで被った。
「は!?なんで!?」
「寒いもん!」
「今日はあったかいぞ!!」
「マジで寒いから。北風ビュ~ビュ~うるさいなあ♪」
「北風なんて、ふいてないっ!!♪」
東は布団を引き剥がそうとするが...
ジリリリリリリリリリリ!!
「また都合の悪い時に...」
東は電話を取った。
「はいもしもし?」
『「お」!「東(ひがし)!」仕事だ!このスマホの予想によると、お前らの文字が四分後に打たれる確率が高いんだ!すぐにこい!』
ひがしじゃなくて、あずまなんだけど...って言うか、そんな予想とかできるのか、と思いながらも、東は答えた。
「はい!今すぐ向かいます!」
電話が切れた。
「おい!『お』!文字の仕事だ!急ぐぞ!」
すると、「お」はガバッと起き上がって...
「東!急ぐぞ!」
「分かってる!」
東と「お」は、急いで外へ飛び出した。
バタン!という音で扉が閉まった。すると、テンヌキが起き上がった。
「そろそろか....」
EP9 潜入① 「ボス」の正体
今日の「仕事」は、結構長かった。まだ朝も早いからか、全く既読がつかず、東たちは、ずっと張り付いたままだった。
「なあ、東」
スマホに張り付いたまま、「お」が話しかける。
「どした?」
「俺、気付いたんだ」
「ナニヲ?」
「『ボス』の正体」
「!!」
「『ボス』は...」
ピロン!ピロン!ピロン!ピロン!
「----だ」
「は?」
通知音がたくさん鳴って、LINEの返信が来てしまい、「お」が言っていることが全く聞こえなかった。東たちは、フキダシから離れた。
東は「お」にもう一度「ボス」の正体を聞こうとしたが、「お」が「ボス」の正体をいう時だけ、何故か爆発が起きたり(もちろん遠くで)、品のない音楽が爆音で聞こえてきたりして、何度試しても、「お」から「ボス」の正体は聞き出せなかった。何度も東が聞いていると、「お」も流石に鬱陶しく
なったのか、それから一度も教えてくれなかった。
(もう、自分でなんとかするしか...)
東は途方に暮れた。もう、手がかりなんか...
「あったあ!!!!」
「なんだよ!?」
不機嫌そうな「お」が、東に言葉を返した。
「分かったんだ!『ボス』の正体!!」
東は、声を潜めて、「お」に言った。
「『ボス』は...」
東は、そいつの名前を言った。
「大正解」
久しぶりに、「お」がニコッと笑った。
家に戻った東と「お」は、「玉」の文字(自称『テンヌキ』)と共に、「ボス」の屋敷に潜入する準備をしていた。
この三つの文字(東と『お』とテンヌキ)は、「ボス」という、LINEの世界の王から逃れ、人間の世界へ逃げ出すための計画を立てていた。今目指しているのは、「ボス」の屋敷の「ボス」の部屋にある、「人間の世界とLINEの世界をつなぐ通路」だ。テンヌキ、という、「ボス」の秘書をしていた経験のある文字のナビゲーションにより、屋敷に潜入することになった。つまり、今は、その準備をしているのだ。
「よし、大体準備はできたな!」
「お」が明るい声で言った。
「そうだな」
すると、テンヌキが何かに気づいて言った。
「あ!大事なもの忘れてた!工場からもらってこなくちゃ!ちょっと、行ってくるね!」
「工場」とは、LINEの世界の文字や絵文字が作られる場所のことだ。
「おう」
がちゃっ!バタン!
......
「よし、テンヌキが戻ってくる前に、リュックの中確認しなくちゃ、」
「そうだな、あいつが戻ってくる前に...」
これは、少し前の二つの文字の会話。
「分かったぞ!!」
「何が?」
「『ボス』の正体!」
「ふうん?で?誰よ?」
「『ボス』は...テンヌキだ」
「なんでそう思った?」
「テンヌキは、ヒントをぶら下げていたんだ。とてつもなく簡単なヒントをな...。『テンヌキ』それは、つまり、『玉』の文字から点を抜いたらいいっていうことで、そうしたら...」
「『王』の文字になる!」
「そう!どうだ!正解か?!」
「...大正解」
「やったあ!!」
EP10 潜入② マンホール
東や「お」のリュックには、テンヌキを殺すための武器がたっぷり入っている。だから、テンヌキに見られてはならない。
「テンヌキを殺す。それは、『ボス』たち『政府(と称しておく)』側にとって、大きなダメージになる。『ボス』を殺すことができたら、『政府』側を支える柱を崩すことができる。『ボス』がいなくなった世界は、家来のどんなやつも、治めることはできないだろう。実際、『ボス』はほぼ一人で政治を進めていて、家来たちには、会議でアドバイスをいうくらいしかできないらしい。これは全部、ニュースで見たんだ。そうなると、パニックになった状態の世界を、どさくさに紛れて抜け出すことができる。家来たちは、政治をやっていないからと言って、民たちの暴走を治めないといけないだろう。その隙に逃げ出す、っていうのが、俺たちの作戦。......まあ、実際テンヌキは殺さない。俺たちの表の作戦にもある、マンホールの中にでも、一時的に監禁し、殺したように見せるんだ。テンヌキが死んでなかったとしても、いなくなれば、パニックを起こすことぐらいはできる。もしもの時になったら...やるしかないがな......。東、覚悟はできてるか?」
「相変わらず話がなげえな...。分かってる...俺はやる、この世界から、なんとしてでも抜け出す!覚悟はできてる。...やろうぜ!!」
がちゃっ、と、玄関の方から、ドアの開く音がして、テンヌキが帰ってきた。
「よし、テンヌキ、準備はできた!!明日にでもやるぞ!!」
テンヌキは、東たちの声に反応しながらも、東たちの見ていないところで、全てを悟ったかのように、静かに微笑んだ。
「ボス」はテンヌキだ----。
次の日、東たちの作戦が始まった。
「よし!行くぞ!!」
「お」の提案に、東は驚いた顔で尋ねた。
「ちょ、ちょっと待って、抜け出すなら、夜の方が目立ちにくいんじゃないの!?」
「んあ?」
「お」はわざとらしくとぼけた顔で言った。
「その裏をかくんだろう?誰だって、夜の方が目立ちにくいと思うだろう。その裏をかいて、昼に行くっていうのが、いいんだろうが!!てかもう行くぞ」
「お」は、東とテンヌキの持ち物を、二つの文字に無理やり背負わせ、東とテンヌキの手を掴み、玄関まで引っ張っていった。
(こいつもう何言っても聞かねえな...)
東は、苦笑いして、「お」に体を任せた。
テンヌキが引っ張りながらもなんとかマンホールまでたどり着いた一同。
「じゃあ、開けるぞ」
東は、マンホールの蓋を開ける。意外にマンホールはすぐ開いた。だが...
「うげえっ!」
東は声をあげた。
「きたねっ!」
マンホールの中には、ドブ川が広がっている。ごぼごぼごぼ...という音をたてて、どす黒い液体が、マンホールの全てを黒に染めている...。それと同時に、謎の異臭が鼻を貫く......
「これを...何メートル?」
「ひ、100メートル...」
「はあ!?」
あれだけやる気満々だった「お」も、
「う、があ、...ぇぇ?」
と、ここまでの変わりようだ。
果たして、こんな状態で、テンヌキを捕まえて、この世界から抜け出すことなんて、できるのだろうか...
EP11 潜入③ 追い詰めろ!
「行くしか...」
「行かなきゃね...」
「あ゛あ゛...」
こんな状態が三十分ほど続き...
「行くぞ!」
東がマンホールの中に飛び込んだ。そして、それに続くように、テンヌキ、「お」が飛び込む。
ばちゃっ!
「クッっっっっっさ!!!」
「オ゛エ゛~゛!!」
あまりの臭さで、全然進めない。なんとか二分で一歩進めた。
約二時間くらいで、出口が見えた。「行くぞ」
「お」はリュックから、絵文字工場が休みの日に勝手に機械を動かして奪ってきた武器の予備を出して、東とテンヌキに渡した。
「お」が二人に武器を渡した後、東がマンホールの蓋をそっと開けた。
目をつぶすくらいの眩しい光が、三つの文字を包み込んだ。
マンホールの蓋を開けた後、東、「お」、テンヌキは、自分たちの後ろに立っている「守」の文字に気づかれぬよう、素早く、そして、静かに、エレベーターに乗り込んだ。
ウイーンという機械音をたてて、エレベーターは「ボス」の部屋がある、最上階まで登っていく。
「なあ、テンヌキ、」
「お」がテンヌキに話しかけた。
「この屋敷って、何階建てなんだ?この屋敷、結構高いけど...」
「七十階」
「結構...高いな......」
「屋敷は高いのがお約束だ」
そんなことを話していた東たちだが、東と「お」は、緊張していた。
「----------潜入後、『ボス』の部屋に着いたころ、テンヌキを追い詰める」
ポーン!
気持ちの準備ができていない東と「お」をからかうように、エレベーターは七十階で止まった。
ウイーン...
幸い、途中でエレベーターに誰かが乗ってくることはなかった。
「行こう、『ボス』ほ部屋はすぐ隣にある」
テンヌキの言葉を合図に、三つの文字はエレベーターから駆け出し、「ボス」の部屋の前まできた。
と、急に、「お」がサッカーボールを蹴る時のように、片足を後ろに上げた。
「おい、何するつもりだ...?『お』...?」
東が少し焦った声で言った。東の質問を無視した「お」は、「ボス」の部屋のドアを......思いっきり蹴った。
「うらあーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!」
ばきっ!ばこっ!
鼓膜を麻痺させるような嫌な音が聞こえる。
東に、「お」、テンヌキの三つの文字は、「お」が壊した「ボス」の部屋の中を見た。
テンヌキが目を見開いて言った。
「誰も...いない」
「予想どおり」
東がそう呟いた。
「何が?」
「......『ボス』は........お前だろ!!裏切り者!!!!テンヌキ!!」
「...」
テンヌキは黙っている。
「証拠もある。------お前、ヒントをぶら下げていたんだろう!勝者の余裕を見せつけるように...。『テンヌキ』。それは、お前の『玉』という文字から、点を抜く。だから、『テンヌキ』...。点を抜くと、『王』の文字になる!つまり、お前が『ボス』だろう!!」
「お」は、追い討ちをかけるように言い放った。
「なぜ、ここまで作戦がうまくいった!?なぜ、『ボス』の部屋に、警備が一人もいなかった!?『ボス』が不在だからって、偽物が来てしまったり、泥棒が来ないように、少しくらい警備をつけておくはずじゃないのか!?『ボス』は政治の柱だぞ!!お前は...この世界の反逆者の、俺たちを捕まえたいのだろう!?」
「...」
テンヌキは、黙ったままだ...
EP12 どこの世界も
東はしびれを切らして、テンヌキに怒鳴った。
「黙ってねえでなんか言えよ!!!なんのために俺たちをここまで連れてきた!?なんであそこまで俺たちに協力した!?なんで...なんで!?...全部...今までのこと全部...演技だったのかよ...」
「....」
「裏切り者。いい加減白状しろよ!俺はもう、うんざりだ!あんだけ騙しといて、何も言わないとか...ずるいぞ...。なあ。テンヌキ。教えろよ。全部...!!俺は捕まったって文句なしだから!!」
「...」
「テンヌキ!!」
「...」
「テンヌキ!!!!!!!!!!」
東が何度怒鳴っても、テンヌキは口を開かない。
「テンヌキ、お前は何がしたい...?」
「はあ...」
テンヌキは大きなため息をついた。その目は...とても冷たかった。
「テンヌキ?」
「わかった。全部話すよ。......『お』!あんた!!」
テンヌキは、ビシッと「お」を指差した。
「...あんた、『ボス』のくせに、秘書の顔を忘れたわけじゃないよね...?」
「は...?」
東は呟いた。
「『ボス』は...『お』、あんただ!!」
「...おいおいテンヌキ、何を」
「あんたはあのとき、僕に、『ボス』の濡れ衣を着せた...!!僕を疑うそぶりを東に見せ、て...。あんたは...あんたの計画は、『あの血』を持つ東、そして、この世界から逃げ出そうとする裏切り者を捕まえることだ!!東の方は万事OKだったけど、ここから逃げ出したいと思っている裏切り者が...僕だった。...そこであんたは、僕が東に、あんたが『ボス』だってバレることを恐れて、僕に疑いをかけ、ここまで誘導した...。違うかい?」
「.........」
「『お』、違う...よな?」
東が助けを求めるように聞いた。
「一緒に酒飲んで、一緒に喋って...全部、全部、...『本心』だよな?こんな、お前が『ボス』だなんて、嘘に決まって」
「俺が『ボス』だよ。東」
「お」が静かに、そして少し強く、言い放った。
「ちょっと、まだ僕の話、終わってないんだけど」
「お前の話を聞いてたら、ストレスがたまるだけだ、だから、黙」
「東」
テンヌキが、東の言葉を遮って、言った...
「仕方ない。人間の世界だって、文字の世界だって、『人間』という残酷な動物が作ったものなんだから、残酷なんだよ...どこの世界も」
「...」
東の目から、弱く光る、生温い涙がこぼれ落ちた。
「残酷だろう?人間(そっち)の世界も」
「そうだな.......。そうだ....」
(ん?)
そこで東は、テンヌキの言った言葉に、違和感を持った。「...お前、もともと人間の世界にいたのに、『人間(そっち)の世界も』って、おかしくないか?まるで...もともとLINEの世界で暮らしていたような...」
「そうさ。僕はもともとLINEの世界にいたんだよ」
「!?じゃあ、なんでそんな嘘を...」
「そっちの方がやりやすかったんだよ」
やはり、テンヌキのいう通り、残酷じゃない世界なんてどこにもない。どんなに頑張っても、世界は、「残酷」という鎖に繋がれてる。どの世界も、綺麗事なんかで丸く収めることなど、できないのだ...。
「で、僕の話の続きなんだけど。『ボス』、あんたは東に、『ボス』について、何か嘘を教えていないかい?」
「...テンヌキ、お前のいう間違いっていうのがなんなのかわからんが...俺は『お』に、『ここにいる文字は全員、年末に「ボス」に殺されてしまう』と聞いた」
「それはなんで?」
「毎年、LINEは少しずつ、文字のフォントを変えているから」
「違うね。それは間違いだ」
東は目を見開いて叫んだ。
「そうなのか!?俺は、俺は...何回、騙される!?」
東の心の中に、悔しさがこみ上げてきた。
「文字は、毎年フォントを変えるから殺されるんじゃない。文字は......。
東!!危ない!!
EP13 脱出せよ!
「東!!お前には来てもらわないと困るんだよ!!!!!」
「何言ってんだよ!!『お』!?」
「東、急げ!!」
テンヌキは、東の手を取り、エレベーターへ駆け出した。
「どういうことだよ?!さっぱりわかんねえよ!!テンヌキ、お前、秘書だから知ってんだろ!?」
「ごめん、東、今は言えない!!うまく逃げれたらちゃんと話す!今は逃げることに集中して!!」
テンヌキは、全ての力を使って、エレベーターに体を滑り込ませた。テンヌキが掴んでいる東の後ろには、ナイフをかまえた「お」が立っている!!
「ひっ!!!!!!」
「東!!」
テンヌキはとっさに東をエレベーターの中に入れ、「閉」のボタンを連打した。だが、「お」は、力尽くでエレベーターのドアをこじ開けようとする!
「東あ!!早くこおおおおおい!!!!」
そして「お」は指を咥え、ピーッと音を鳴らした。多分、家来を呼んだのだろう。
「やばい!!!」
東は「お」に頭突きを喰らわせた。
「ぐはっ!!」
「お」がバタンと後ろに倒れた。味音がだんだん近づく。家来の足音...!!
「家来が来る!!」
二人はボタンを連打した。やっとのことでドアが閉まり、なんとか家来にはやられずに済んだ。
「お」は、家来に起こされて、なんとか目を覚ました。
「『ボス』、大丈夫ですか?!」
「大丈夫じゃない!!東...あの血を持つ文字が逃げた!!警報をならせ!!奴らは一階エレベーターのマンホールから逃げるはずだ!!総員、直ちに捕らえろ!!奴らは『東』と『テンヌキ』...俺の秘書だ!!!」
「「「「「はっ!!!」」」」」
家来たちが散っていくのを見ながら、「お」は呟いた。
「あいつは...東はこの世界に必要なんだ...!この世界がこれからも平和であるように!!それが、あの血を持つ文字の運命なんだ!!」
ジリリリリリリリリリリリリ!!
『警報!警報!先ほど、あの血を持つ、「東」と、「ボス」の秘書、テンヌキが逃げた!!直ちにとらえよ!テンヌキは殺しても良いが、東は殺すな!!彼はこの世界に必要なのだ!!』
けたたましい警報が、屋敷中に響いた。
その警報は、エレベーター内にも響いていた。
「やばいよこれ...」
「出た途端に捕まる...!」
ブルブル震えながらも、エレベーターはどんどん降りてゆく。
10、9、8、7、6、5、4、...
ポーン!『一階です』
ドアが開いた。ドアの向こうには、やはり家来たちが大勢いた。しかもその家来たちは、銃を構えているのだ!
「「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!」」
東とテンヌキは、大きな悲鳴を上げた。そして、一瞬動きが止まった家来たちから、銃を奪い取った!そして、銃を構える家来たちに銃を向けながら、家来の網を華麗にすり抜けていった。
「なあ、多分、この銃の安全装置ってここか!?」
「ああ、それを後ろに下げて!!」
がちゃっ!
「撃ちまくれ!!」
東とテンヌキは、いつでも銃が打てるように準備して、出口に向かって走り出した!!もちろん、目の前には家来が出てくる。そんな時は、東とテンヌキは、
「巨ええええええええtt!!」
「チュロおおおおおおおっt!!」
と、奇声をあげた。そして二つの文字は、同時に引き金を引く。
「絶対殺すなよ、テンヌキ!」
「うん!」
バン!バン!!
家来たちは、少し怯んだのか、動きを止めた。
東とテンヌキは、ニヤッと笑った。
「撃てるもんなら撃ってみな!!」
「俺たちは絶対つかまんねえぞ!!」
東たち二つの文字は、呆然としている「お」の家来たちに、高らかに告げた。
EP14 なぜ必要?
東とテンヌキは、屋敷の外へ出た。
「もう追ってくる気配はないな」
東は屋敷の方を向いて、テンヌキに行った。もう追ってくる気配はなさそうだが、念のためまだ走り続けている。
(...なんで『お』は、あそこまでして俺を捕まえようとしたんだろう...?俺はなぜ必要とされているんだ?)
「なあ、テンヌキ、そろそろ『ボス』の本当の役割、伝えてくれよ。約束してただろう?」
「無理」
「なんで!?」
「前」
東は前を見て、テンヌキの言いたいことを察した。
「...確かに、無理だな」
「ね?」
「今話してたら、三分くらいでボコボコにされるわ」
「ああ、簡単にやられる」
「そうだよな...」
二つの文字の目の前には、数え切れないほどの文字たちが、道を通せんぼするように並んでいると言う光景が広がっていた。その文字たちはどれも、『裏切り者』『この世界を壊すな』『お前のせいで...』などと、謎の言葉が書かれていた。縦40cm、横50cmくらいの、大きな長方形のプレートと、ナイフ、フォーク、フライパンなど、武器になりそうなものを持った文字が並んでいるのだ...
「絶体...絶命だな...」
「...」
二つの文字は足を止めた。
「これじゃまるで、デモじゃねえか...」
こんなことで戦争なんかに発展したらどうすんだよ...と、東は思った。
文字たちは、東とテンヌキ...いや、殆どは東に向かって、
「お前はこの世界をぶち壊したいのか!??」
「なにが目的だ!?」
「黙ってないでなんか言えよ!!」
「クソッタレ!!!」
「裏切り者が!!!」
と、訳のわからない文句を言っている。
「あのお~」
東が口を開いた途端、文字たちは暴言を吐くのをやめ、東の方に視線を向けた。
「失礼ですが、人違い...いや、文字違いでは?...俺たち、あなた方の言っていることが、...全く理解できないのですが...」
すると東の方を向いていた文字たちの表情が、みるみる険しくなって、
「とぼけんなクソ野郎!!」
「いい加減にしろ!!」
「この世界の裏切りもんがああ!!!!!!」
と、さっきよりも大きな声で怒鳴りながら、手に持った武器を投げつけてきた!!
「うおっ!!」
なんとか避けることはできるのだが、当たってしまうのも時間の問題だ。東はテンヌキに囁いた。
「一気にぬけるぞ」
「うん...!」
東とテンヌキは、文字たちを無視して、全速力で駆け出した。幸い、デモの奴らは一ヶ所しか道を塞いでいなかったので、武器を投げつけられながらも、近くにいる文字を押し除け、なんとかデモから抜け出せた、追ってくる文字もいたが、テンヌキのナビゲーションにより、なんとか巻けた。
気づけば、もう夜になりかけていた。
「寝床を探さなくちゃ...」
EP15 おじいさん
二つの文字は、なんとか寝床を見つけようと、街をうろついていた。
「今日は野宿かあ...」
「お金もないから食べ物も買えない...」
この世界では、工場の他に、人間の世界と同じように、コンビニやスーパーがある。
「『絵文字工場』にも行けないし...」
「最悪これで...」
東は銃を構えて、テンヌキの方に向けた。
「あ、東?何するつもり...!?」
「お前を食べよう」
「怖っ...」
すると後ろから、バアン!と言う音と共に、東の頬に弾が飛んできた!!
「うおお!!」
なんとか避けたので、かすり傷ですんだ。
二つの文字が後ろを向くと、家来たちが大勢、銃を構えて走ってきていた...
「ヤバあああ!!」
「追ってきてないんじゃなかったのか!?テンヌキ」
「わからない...。僕たちを油断させるためだろうけど...とにかく逃げるよ!!」
東は後ろに向かって、何発か銃を撃った後、全速力で走った。だが、交差点に入ったところで、家来たちが出てきて、一気に囲まれてしまった。
「うわっ!」
「くそ!!」
ジャッ!二つの文字は銃を構える。家来たちも銃を構える。
「...」
「...」
しばらく睨めっこが続き、家来の一人が、
「撃てえ!!」
と叫んだ。すると、一斉に弾が飛んできた!
「うわ!!」
弾は足元に飛んでくる。なぜか殺す気はないらしい。東がこの世界に必要だから...
(なんで俺が必要なんだよ!!?)
足元ばかりに飛んでくる弾。それを避けようとする二つの文字は、ダンスのステップを踏むような動きになっていった。
「おお!これならなんか楽しいかも!」
その言葉に反応したのか、家来たちは銃をお腹に向けてきた。
「やべっ!」
二つの文字はなんとか逃げ道を探すが、囲まれているので、逃げ道はない。家来の上でも飛び越えない限りは---。
ピュン!東とテンヌキの頭上に、老文字の「老」の文字が飛び込んで来た。
「行くぞ、若いの」
東とテンヌキは全く状況を理解できていない。それに気づかず、「老」の文字(以下「老」)は、老文字とは思えないほどの身のこなしで、家来たちの頭を次々に蹴り倒して行く。
「ぐあっ!」
家来たちが全員伸びてしまった頃、「老」は、東とテンヌキの手を取って、走り出した。
「噂は知っとる。わしが匿ってやろう」
「老」に連れられて着いたのは、少し寂れた、文字の工場だった。全体的に黒く汚れていて、所々ペンキが剥がれた跡がある。周りにはゴミが捨てられている。つまり、とても汚い場所だ。
「あの、おじいさん、ここ、どこですか?」
「わしの家じゃ」
「え!?こんな汚いところが!?」
「東!失礼だよ」
だが、「老」はそんなことも気にせず、
「事情は中に入ってから話す。とりあえず入れ、湊太」
「老」は、いかにも臭そうなドアをいとも臭そうなそぶりをせず、開けた。
「うわあ!」
「すげえ!」
外見はとても汚く見えた工場だったが、中身はゴージャスとしか言いようがない。東が見たこともないような、高級感が溢れるソファやベッド、お菓子。さらに、人間の世界でいう4Kテレビが置いてあったり...
「若いの、まずは座りなさい」
「老」に勧められて、二つの文字は、フカフカのソファに座った。
「あの...あなたは一体...」
「わしは...この世界の反逆者だ。反逆者を集めて人間の世界に行きたいのだが、それは出来ない」
「なんでですか!?」
「...お前さんら、まずは自己紹介をしてくれんかの?お前さんらも反逆者なら、仲間に入れたい」
そして二つの文字は、全てを話した。
「あの、俺がここに連れてこられた理由って知ってますか?」
「ああ。知っとる」
「!!本当ですか!?」
「ああ、この世界の歴史を知れば、全て分かる」
そして「老」は、話し始めた。このLINEの世界の真実を...。
EP16 LINEの世界の真実
「この世界は、『LINE』という、SNSのサービスが始まってすぐ造られたんじゃ。この世界では、数え切れないほどの文字が、せっせと働いている。
では、『ボス』について話そう。
『ボス』わしら文字を、年に一度、抹殺するのには理由がある。
反逆者を出さないためじゃ。この『和樹』のスマホの初代の『ボス』は、この世界で3、4年も生活していたら、「飽きた」「人間の世界に行きたい」などと言って、反乱が起きることを恐れたのじゃ。その時は『ボス』も一緒に死んで、次のボスに変わる。
そして東、お前さんがここに来た理由は...
お前さんが、『ボス』の血を引いているからじゃ。
文字にはちゃんと血管があり...
ああ、そこじゃないのか...。
わかった、ちゃんと説明するぞ。
ごくたまに、『ボス』の部屋にある人間の世界への通路に、不具合が起きることがある。
その時は、その通路が塞がれていても関係なく、『ボス』の血を引く人間が、人間の世界から
そしてその不具合が起きるのは、決まって十二月三十一日。『一斉処刑』という、文字抹殺計画が終わった後なんじゃ。
わかるな?東。
お前さんが、その不具合の対象じゃ
「"『ボス』は総理大臣”...つまり、お前は総理大臣の息子じゃ」
「...は!?う、嘘だそんなの!俺は信じねえ!」
「今現在の日本の大臣は名字を『森』に変えているからわからんじゃろうが、お前は大統領の息子なんじゃ!」
「お、おかしいだろそんなの...」
「まあ、東、ちょっと落ち着いて、おじいさんの話を聞こう」
テンヌキに宥められて東は深呼吸をした。
「...信じられないのはわかるが...そういうことじゃ」
「なんで...」
東の目から、涙がこぼれた。
「あ、東?!」
「俺...この世界の虐殺者になんかなりたくねえ!!なんでだよ!なんで...別の世界にこんな......システムが存在するんだよ...!!」
「東...」
「テンヌキ、明日、『お』の屋敷に行くぞ!」
「え..明日!?今日あったことで警備が硬くなって、入れないかも知れないのに!?」
「俺はまだ、恋だってしてない!小説家にもなってない!『お』に話をつけに行く。LINEの世界で生活して、『ボス』になって死ぬくらいなら、あいつに一発ドカンと言ってやる!!!!」
東はおいているお菓子を、手当たり次第に食べ始めた。
「あ、東、大丈夫?」
「ほはへほふへ。はひはほへへふひーひひほ!!(お前も食え。明日のエネルギーにしろ!)」
「はぁ?」
「はーはーは!(だーかーら!)」
東はお菓子をごくんと飲み込んだ。
「エネルギーだ。ほら」
東はお菓子を5個つかんで、テンヌキの口にねじ込んだ。
「ほがっ!」
「あ~あ。疲れたわ、もう寝る。明日行くからな、お前も来い、テンヌキ」
東は大きく伸びをした。
「おじいさん、ありがとう。寝かしてもらうぞ」
「散らかっとるが、いいか?」
「とりあえず眠いんでいいです」
東は大きく欠伸をした後、寝室のドアをくぐった。
東が中に入った後、
「テンヌキくん」
「老」がテン抜きに囁いた。
「ちょっと聞いてくれるか?」「老」はテンヌキに、とんでもない作戦を耳打ちした。
「え!?それって東を...」
「しっ。東が起きる。......やってくれるかの?これも東のためじゃ」
「...わかりました。やりましょう」
ボス編 完結編
シーズン3
EP17 仲間割れ
「ふぁああ!おはよう」
東は寝室のドアを開けて外に出た。テンヌキは起きているだろうか?
そして東はリビングのドアを開けた。テンヌキは起きていた。リビングの、いかにも豪華に見える机には、朝ご飯と思える絵文字があった。
「起きてたのか、テンヌキ」
「見たらわかるでしょ?」
東は椅子に座って、朝ごはんを頬張り始めた。
「準備できてるか?」
トーストを飲み込んで、東が聞いた。
「東、そのことでちょっと話があるんだけど」
「ん?どした?」
「東、君の作戦はあまりにも無防備だ!昨日あそこまでの事を起こして、そんな容易に侵入できるとでも思ってるのかい!?」
「なっ、お前、なんだよ急に!」
「昨日考え直してわかった。ことの重大さを...。これを見て、昨日の事...」
テンヌキは新聞を、東に見せた。
「新聞にも載ってるんだよ!!これがどういうことかわかるよね!?」
「!?」
東は目を見開いて驚いた。
テンヌキは、新聞をバン!と机に叩きつけて言った。
「こんな城代で潜入できる確率なんてほぼゼロ。こんなことになってたら、外に出ただけで殺される。......君は『ボス』になりたくないんだろう?」
「お前...どういうことだよ」
「このまま君が逃げたら、この世界の次の『ボス』がいなくなる。そうなるとこの世界は潰れていくんだ。『この世界を壊すつもりか?』まさに今の君がそうなんだよ」
「おいテンヌキ。お前の話で、悪いのは俺だってわかってる。けど、なんで...お前は人ごとみたいに言ってるんだよ...!?お前だって俺に協力してくれたじゃんか...」
「謝りに行った」
「は?」
「昨日の夜、『お』に謝りに行った」
「なんで...」
「大丈夫、君が今日屋敷に行くことは伝えてないよ」
「お前も来いよ!!」
「いやだ」
「来い!!」
「東!!」
少し低い声が響いた。「老」の声だ。
「んだよじじい!?」
「テンヌキと謝りに行ったのは本当じゃ」
「知らねえよそんなのどうでもいい!!!!!!」
「テンヌキは、何度も何度も考えて、この結論を出したんじゃ。受け止めてやってくれ」
「老」は宥めるように、東に言った。
「......勝手にしろよ」
東は銃を出し、窓に向かって撃った。
「東!?」
「俺は一人でも行く。もうお前みたいな裏切り者にはたよらねえ」
東はテンヌキと「老」に背を向けた。
「ちょっと待ちなよ東!」
テンヌキが呼び止める。
「僕の話を聞いてるの!?潜入するのは無理だって...」
「知るか」
東はドアを乱暴に閉めて、「ボス」の屋敷へ向かった。
外では、何も洗い流してくれないのに、いつまでも降り続く雨があった...
東が外に出てから。
「おじいさん、本当にこれで...いいんですか」
「ああ、君の演技は素晴らしかった。でも、嘘でも仲間...東を裏切るのは、嫌だっただろう」
「この世界のため...です。結果的には裏切ることにはなっていないので...これでいいんです、多分」
テンヌキの目には、涙があった。
「老」はテンヌキに言った。
「いい心構えじゃ。では、準備するかの」
「はい」
テンヌキは涙を拭いて、答えた。
EP18 怖い
外に出てから、東は、今日の考え事をするのを忘れていたことに気づいた。
「忘れるなんて...な...」
東は今日の考え事を忘れていた理由に気づいていた。
「怖いからだ」
東はここにきて、言葉の怖さを味わった。
喋る物には、言葉の「ブレーキ」が効きにくい。いつでも好きなように、好きな事を喋れる...
そして神は、言葉に「嘘」を与えた。
「そのせいで...」
東は地面に座り込んだ。
「怖い...」
もう誰にも騙されたくない。怖い、怖い、怖い。
東は前に進む力をなくしそうになっていた。
「けど...」
(行かなきゃ)
東は立ち上がって、前に進んだ。「お」という仲間に、本音を答えてもらうために...
東が少し進むと、所々から、たくさんの文字が出てきた。
そして、物を投げつけてきた。
「『ボス』になれ!!」
「反逆者!!」
飛び交う物と暴言...
「俺は---!」
東は声を張り上げて言った。文字たちの動きが止まった。
「俺は、人間の世界から来たんです。恋も...自分の夢を叶えることもできずに...。こんなに...こんなに心残りがある俺は、この世界を収めるなんて、到底無理です!!!!!」
あたりが、時が止まったように静まる。
「だから...俺は『ボス』にはならない!!!せめて、俺が人間の世界に置いてきたものを取りに帰らせてくれ!!その後だったら俺はいつでも『ボス』になってやる!!いいか、俺は、人間の世界に置いてきたものを撮りに行って、満足してからじゃないと、『ボス』にはならないからな!?絶対に!!!」
辺りにいる文字たちは、言葉を発せないようだった。その隙に、東は、一番言いたかった事を叫んだ。
「だいたい、この世界の裏切り者が、この世界をまとめられるわけねえだろが!!せいぜいこの世界を這いずり回って、『ボス』に殺されろ!俺は絶対に『ボス』にはならない!!!」
そして東は、ハッとした。今、東は、言葉の「ブレーキ」をかけ忘れてしまった...
なんの罪もない文字たちにこんな事を...
現実では、言葉一つで死んでしまう人間だっている...東はそこに、手を突っ込んでしまったのだ。
「...」
東は、恐怖、罪悪感、と言った感情に囚われ、その場から動けなくなった。
すると、東を囲んでいた文字たちは、目に怒りの色をあらわにし、
「てめえええええええ!!!!」
家から椅子、机など持ってきて、東に投げつけた。
「お前のせいで、LINEの世界も人間の世界にも、大混乱を起こすことになるぞ!!」
「『ボス』になれ!!」
東は、言いたいことがたくさんあった。けれど、今は口を開けず、『ボス』の屋敷に向かって、走ることしかできなかった----。
昨夜、「老」の住処にて。
「テンヌキ、ちょっときてくれんかの」
「?」
テンヌキは「老」の前に座った。
「なんでしょうか?」
「テンヌキ...明日、東を一人で屋敷に行かせなさい」
「ど、...どういうことですか!!?」
「東を裏切るんじゃ」
テンヌキは、ギリッと「老」を睨んだ。
「何を言っているんですか!?東は僕の大切な仲間ですよ!?それを裏切れと!?!?!?!?」
「しっ、テンヌキ、東が起きてしまうではないか」
「...」
「老」はテンヌキを宥めて続けた。
「お前さん、『ボス』になる気はないかの?」
「...なぜ急に」
「いいか、テンヌキ。東は『ボス』になる気がない。そのまま東が人間の世界に戻ったら、LINEの世界は大混乱。人間の世界にも影響がある。あずまに迷惑がかかってしまう」
「...東は、自分のやりたい事をするためには、迷惑なんて関係なしです」
「東以外にも、人間に迷惑がかかってしまう!」
「っ...」
テンヌキは言葉を失った。
「テンヌキ、お前さんは、『ボス』の一番近くにおった。治め方くらいわかるじゃろう?」
「...」
「テンヌキ、頼む、この世界のためじゃ。やってくれんかの?」
テンヌキは少し考えてから、言った。
「わかりました。やりましょう」
「------テンヌキ、準備はできたかの?」
「はい」
テンヌキは銃を手にとった。ずっしりと重い。
「では、行くぞ。突撃じゃ」
EP19 失敗
東が「老」の住処から出てから少し経った頃。テンヌキと「老」は、東とは違う道で、屋敷に向かっていた。
できるだけ最短の道で、東よりも速く、「ボス」の屋敷に着いておかなければいけなかった。
二つの文字は、地図を持って、一番短い時間で、「ボス」の屋敷に着く道を調べて、その道を進んでいった。ある時は「絵文字工場」の機械を踏み付けながら、「絵文字工場」のシステムをスクラップにしてしまい...
この過程で、二つの文字は、三つの「絵文字工場」のシステムをスクラップにしてしまった...
そして最後。「ふさふさな森」に着いた。そこは、通り道をなくしてしまうほどに、そこらじゅうから枝、枝、枝。そしてその枝から、目が痛くなるほどに濃い色の葉っぱが、数千枚ほど生えているのだ。
「おじいさん、やっぱり進みにくいですね」
「そうじゃの、ただでさえ体が弱ってきて....うおっ!」
ガサガサボキボキザアッ!
「おじいさん!?」
「うぐっ!」
テンヌキはすぐに音のしたほうを見た。そこには、信じられない光景が広がっていた。「ボス」の屋敷にいた、「守」の文字が、「老」の文字の線一本一本をおかしな方向に曲げていたのだ。
「おじいさん!!!」
「老」は悲鳴を上げている。
「はなせ!おじいさんに触るな!」
テンヌキはリュックから銃を取り出し、銃を構えた。それに合わせて、「守」も銃を構えた。
「僕は秘書だぞ...」
「前のな」
「守」は銃を「老」に向けて、素早く引き金を引いた。
バン!!
「お前っ!!」
テンヌキはすぐに引き金を引いたが、誰かに頭を殴られ、当たったかどうかわからなかった。
テンヌキは後ろに倒れこんだ...
東はなんとか文字たちから抜け出し、「ふさふさの森」のそばに来た。
「...この森すげえな...」
東は少しため息をついて、
「ここでちょっと休もう」
東の体は、あの東を攻撃してくる文字によって、ぐちゃぐちゃにされてしまったのだ。
「しっかしなあ、あの文字たちもひでえよなあ」
東は持ってきたお茶を少し飲んだ。すると、「ふさふさの森」からテンヌキの叫び声が...!!
「はなせ!おじいさんにさわるな!!」
東はお茶を吹き出し、目を白黒させた。
「テンヌキい!?!?!!?」
ちょっと確かめに行ってこようと、東が「ふさふさの森」に近づいた時、東の後頭部に、金属バットで殴られたような激痛が走った。
「ぐっつう!!いってえ...な...」
東は意識を失いかけていたが、「何としてでも殴ったやつの顔を見たい!」と、残り僅かの力を振り絞り、後ろを振り向いた。
「っ...『お』!!!」
そこには、氷よりも冷たい表情の「お」が立っていた。
「お前はこの世界に必要なんだ」
「お」は意識を失った東をおんぶした。
屋敷に着いた「お」は、自分の部屋ではなく、屋敷の裏側にある倉庫に向かった。倉庫の扉には、「もしもの時以外、使用禁止」と書いてあった...
EP20 トラウマ
「今が...もしもの時...だな」
「お」は東をおんぶしたまま、倉庫のドアを開けた。ドアが軋む音がする。
バアン!
ドアを開けた先には、謎の機械以外、何もなかった。
謎の機械は、文字の平均の身長くらいの直方体の上に、先の方に吸盤がついたチューブが、二本ついていた。
「お」は、東を、その機会にもたれかけさせるように座らせた。そして、チューブについている吸盤を、東の頭に取り付けた。そして、後ろに回り込んだ。機械の後ろには、赤いボタンがポツンと一つだけついていた。
「ごめんな」
「お」は、そのボタンを押した。
テンヌキが目を覚ました場所は、「ボス」の部屋だった。
(何回も思うけど、息苦しい場所だな、ここは)
テンヌキの頭の中に、まともに家来に食事も与えず、こき使っていた「お」の姿が浮かんだ。
「うっ!」
頭が痛い。テンヌキは頭に手を伸ばそうとしたが、できない。手元を見てみると、ロープが巻き付けられていた。
(くそ...はっ!おじいさんは!?)
その疑問はすぐに解決した。死んだのだ。
「ボス」の椅子には、「お」が座っている。
「『お』!!お前か!?おじいさんを殺すように、家来に命令したのは!?」
「お」は紅茶をすすって言った。
「テンヌキ、お前は東を人間の世界へいかせようとしているらしいじゃないか。なぜなんだ?」
「当たり前だ!僕は東の願いを叶えるだけだ」
「東は多分、お前も一緒に人間の世界に連れていくつもりだろう」
「知ってる!!それより、なぜお前はおじいさんを殺した!?」
「テンヌキ」
「お」は冷たい声で言った。
テンヌキが凍りつく。あの時の声だ----。
テンヌキには、あるトラウマがあった。
話は、十一ヶ月前の、一月十五日。
『二千二十年一月一日!十三代目の「ボス」が決定いたしました!今回はその「ボス」が、お話をしてくださります!!』
スピーカーから、テンヌキの声が響く。テンヌキは、劇場のステージに、「お」とともに立っていた。「お」は、高価な机の後ろに立っている。テンヌキは、司会者用の(?)机の後ろに立っている。机の上に乗ったマイクを通して、テンヌキは文字に声を通している。
劇場のステージの下には、このスマホのLINEの世界に暮らす、全ての文字が並んでいる。その文字たちから一斉に、大きな歓声が響いた。
「いやあ、凄かったですよ、『ボス』」
テンヌキと「お」は、会議室へ向かっていた。「お」はテンヌキの言葉を無視して、そのまま歩いていく。
(なんだこの文字、感じ悪い)
だが、テンヌキは顔色を一切変えず、
「もうお分かりになっているでしょうが、この後は、『これからのこの世界のこと』について話し合います。いい意見、ジャンジャン出して行ってくださいよ!」
「言われなくてもそうする」
おしゃべりをしているうちに、会議室についた。
「この世界で優秀な働きをした文字が、『ボス』の家来になることができる」
一代目の『ボス』が、一番最初に、この法律を作った。
この世界にいる文字たちは、「ボス」の家来になる事を望んでいた。「ボス』の家来になるのが、文字の誇りだ、と、教えられていたからだ。テンヌキも、その中の一つの文字だった。
この世界の「ボス』が決まると同時に、この世界の文字たち全員に、二週間の「チャンスタイム」が与えられる。「ボス」が決まるのは一月一日。その次の日、一月二日から一月十五日の正午までが、「チャンスタイム」。その十四日間の中で、最も優秀な働きをした文字が、秘書になれる。それに、テンヌキが選ばれたのだ!その他、雑用係などの、合計三十の文字が家来に選ばれた。
テンヌキのトラウマの原因は、ここから始まったのだ---。
EP21 「提案がある」
「お」とテンヌキが会議室に入ると、そこには、いかにも政治家のような、「政」「治」「大」「臣」と言った文字が集まっていた。「お」が席につき、会議が始まった。
テンヌキのトラウマは、会議が始まってすぐ植え付けられた。「ボス」の「お」が、『今後のLINEの世界について』というテーマで話し合った時、
「裏切り者と思われるような怪しい文字は全て、即処刑!!裏切り者のない世界を造り上げましょう!!」
というような意見を述べた。その意見に、「政」「治」「大」「臣」は、
「それはいい!のった!」
と、賛成の声を上げていた。だが、テンヌキは、「お」の意見は間違っていると思い、反論した。
「あのお...お言葉ですが、その意見は間違っていると思います...。裏切り者と分かった文字を処刑するのまだしも、ただ怪しい文字まで殺すのは流石におかしいのでは...?ただ怪しいだけで、その文字が何も罪を犯していなかったら、イメージダウンにもつながるし、そもそも---」
そして「お」が口を開いた。
「テンヌキ、お前は黙っていろ」
「な、なぜお爺さんを殺した!?そ、そんな冷たい声で名前を呼ぶことは、質問に答えることではないぞ......!」
「...あのジジイはずっと、俺に...俺たちに反抗してきた。なかなか処刑する機会が見つけられなかった...。でも、あの場で殺した時、いけると思った。だからあの場で処刑した」
「東は今どこだ!?東は何をされているんだ!?
「テンヌキ~、君は本当に質問が好きだねえ」
「答えろ!!」
テンヌキは、今にもロープを力ずくで千切って、襲ってきそうな顔をしていた。
「東は今、屋敷の裏の倉庫にいる」
「なぜだ!?」
「それよりお前、なぜここに来た?」
「はぐらかすな!」
「それを教えるなら、俺も全てを教えてやろう」
テンヌキは、ここにきた用件を話し始めた。
「提案がある」
「提案?」
「僕を『ボス』にしてくれ。そして、東を人間の世界に帰してくれ!!」
テンヌキはものすごい勢いで、土下座をするように、床に頭を叩きつけた。
ゴチン!
さぞ痛いだろうに、テンヌキは、「痛い」の言葉も発さずに、続きを話した。
「僕はあんたの一番近くにいた!いくら『ボス』が中心となって政治を行なっていたとしても、僕だって政治に関わっていたから、このLINEの世界を治めればいいのかくらいはわかる!!...東は、」
テンヌキは頭をあげた。
「東は、人間の世界でやり残したことがたくさんあるんだ。だから、そのやり残したことをやらせてやってほしい...」
「...」
テンヌキはさっきよりも勢いをつけて、頭を床に叩きつけた。
ゴチン!
ピシッ!
床にヒビが入る。
「おいテンヌキ、床が」
「知ったこっちゃない!そんなこと!...頼む!東が、どうしても『ボス』にはなりたくないらしいんだ!理由もある!だから僕を...『ボス』にして下さい...!!」
「...それは無理だ」
「なんで!?あんたには、良心っていうものがないのか!?」
「良心か...」
「お」は昔を懐かしむような表情になった。
EP22 「お」とテンヌキ
「良心とか言う甘ったるい感情はとっくに捨て---」
「じゃあなんで」
さっきよりも穏やかな声で、テンヌキが尋ねる。
「また質問か?いい加減にしろよテンヌキ」
「なぜあんたは法律を守らなかった!裏切り者は殺すんじゃなかったのか??良心が無いなら、なぜ僕を殺さなかった!?」
「...それは...」
「お」は考え込むような表情をする。
「良心を、捨て切れていないからだろう?」
「...」
「『お』、あんたは優しい。優しすぎる。誰よりも、他の文字を思いやれていた...。近くで見ていた僕ならわかる。あんたはいつも、苦しそうな顔をしていた...」
「お」は今、悪魔に殺されそうになっている。逃げる。逃げる。逃げる。追い詰められたその時、「お」の目の前に、大きな手が差し出された。「お」は無我夢中でその手にしがみ付く...
「お」は自分に言い聞かせるように言った。
「うるさいな!お前は口出しするな!これは『ボス』の使命なんだ!!こうするしかない!!良心を捨て切らないと、...虐殺者にならないといけないんだ!!俺は自分でそれを望んだ!!だからお前にとやかく言われる筋合いはない!!」
「そこまで虐殺者になりたいのなら、両親なんて捨て切れよ!!本当に虐殺者になりたいのなら。良心を捨てることなんて簡単だ!!」
「うるさあああああい!!」
「お」は泣きながら訴えた。
「俺は良心を捨て切ったと言っただろう!?なぜわかってくれないんだ!?お前の処刑はただただ忘れていただけだ!!」
「お」は銃を出し、テンヌキに銃口を向け、光のない目をして言った。
「邪魔者は今、ここで殺す」
テンヌキは怖がるそぶりもなく、「お」に尋ねた。
「撃てるの?」
「撃てる!お前はもうしゃべるな!!」
「お」は引き金を引---こうと思ったのだが、手が震えてそれができない。
「捨て切れないんだろう?」
「お」がしがみ付いた手は、ゆっくり、優しく、「お」を包み込んだ。
「...そうだよ、俺は良心を捨て切れなかったんだ,,,。...テンヌキ、...いや、
『王』」
「...ところで今、東はどうなっているの?」
「俺の口からは言い出せない。...大丈夫。起動は遅い」
「え?」
「...とにかく早く行かないと、東が...」
「ヤバいことに!?」
テンヌキは「お」に背を向けた。
「じゃあまた後で!」
「...ああ」
テンヌキは部屋から飛び出して、エレベーターに飛び乗った。
「僕がやらなきゃ...」
「お」はテンヌキが部屋を出てから少し経った頃、トランシーバーを取り出し、スイッチを押した。
「全ての職員に告ぐ。緊急会議だ。議題は後で伝える。今すぐ会議室に集まれ」
『『『了解!』』
このトランシーバーは、「絵文字工場」で作ってもらったもので、一度に複数の文字と通信ができる。今のように。
「お」はスイッチを切って、会議室に向かった。
「あいつ、気付くといいんだが...」
テンヌキは、屋敷のエレベーターからおり、一直線に東のもとへ走った。
テンヌキが最初に、この世界を抜け出したいと言ったのは、嘘だった。まず、この世界にいる文字は、人間の世界に行くことができない。
十二代目の「ボス」がいた頃は、まだ人間の世界へ行くことが許されていた。文字たちは、「旅」と言った形で、人間の世界へと通じる「道」を通り、人間の世界に旅行していた。
だが、十三代目の「ボス」、つまり、「お」が決めた法律により、人間の世界に行くことが禁止された。裏切り者の逃げ道をなくすために、「お」が「道」を塞いでしまったのだ。無理に「道」の中に入ろうとすると、体が肺のように細かい塵となって、消えてしまうのだ。これを、「お」は、自分の両親を犠牲にしながら、「ボス」の使命のために、こなしていったのだ...
「...どれだけ、苦しかったのだろう...」
テンヌキは呟いた。
EP23 緊急会議
テンヌキは一度、人間の世界の話を聞いたことがあった。十二代目の「ボス」の家来が、テンヌキのように逃げ出してきたのだ。まだ「ボス」の家来でもなんでもなかったテンヌキは、街でたまたま、その文字に出会った。
「聞いて欲しいことがある」
そう言って、その文字は、テンヌキに、「旅」で行った人間の世界で知ったことを話し始めた。
テンヌキは、その話を、目を輝かせて聞いていた。だが、話を聞いているうちに、どんどん顔色が悪くなっていった。
話の内容はこうだ。まず、人間の世界は、ここに立ち並んでいるような工場で、食糧を大量生産しているわけではなく、「畑」などを使って、長い時間をかけて食糧を作っているのだということ。その文字は、そんな人間の世界のシステムに、憧れているのだ、と言っていた。前半は、そんなふうに、『人間の世界は不便だけど、憧れられるところもある』ということを話していた。だが、後半は酷いものだった。人間は、毎日毎日平和を謳っているが、現実は違う。戦争、犯罪が絶えず起こっていて、人間が謳っていることと、全てが真逆なのだ。
そして、
このLINEの世界もそうなのだ。「文字のため」だと「ボス」は謳い、毎年毎年、自分を殺し、文字たちを殺す。全てが真逆だ。
そしてテンヌキも、「ボス」になれば、この定めを辿ることになってしまうのだ。
「くそっ!!」
だが今は、そんなことを考えている場合ではない。東を助けなくては!!
テンヌキが東に惹かれたのは、東がいつでも真っ直ぐに、自分の意見を言えることを知ったからだ。たとえ、誰かを傷つけることになってしまっても、自分の意見を貫き通す。それが、東湊太という人間なのだ、とわかったのだ。
(どうか、東は、人間の世界に行って、その長所を伸ばしていって欲しい)
テンヌキは、東と出会ってからずっと、この想いを胸に秘めて過ごしていたのだ。
「だからなんとしても...東を人間の世界に戻してやりたい!!」
テンヌキは、家来を押し除け、屋敷の裏に走った。体力はとっくに限界を迎えていた。だが、胸に秘めた想いが、テンヌキの体を動かしていた。
「急げ!!」
「お」の言葉から察するに、東は「アレ」に取り付けられている。
「『アレ』はヤバいんだよ...!!」
テンヌキが倉庫の前についた。やけに時間がかかった気がする。
「東...」
テンヌキは最後の力を振り絞り、倉庫のドアを蹴飛ばした。
「...それでは今から、緊急会議を始める!!事情により、『ボス』の秘書、テンヌキは不在のまま行う。それでは『ボス』、説明をお願いします」
「お」は席を立った。例によって、この会議室には、いかにも政治家のような、「政」「治」「大」「臣」と言った文字が集まっていた。
「では、議題を発表する」
そう言って「お」は、用意していたテレビの電源をつけた。モニターに、テンヌキの画像が映る。
「みなはもう理解していると思うが、次の『ボス』候補の『東』は、人間の世界にいた。だが、『東』は、『ボス』にはならず、この世界から逃げ出したい、ということだ」
「『ボス』!!次の『ボス』がいないと、この世界が壊れてしまうではありませんか!!」
「どういうつもりなのでしょう...その『東』とやらは......」
「仮に『ボス』にならず、人間の世界に逃げるとしても、出口などないのに...」
(...違う、出口はある。あいつらなら分かってくれる)
「静粛に!!」
「お」が怒鳴り、会議室が静まり返る。
「『東』が逃げる逃げないは、一度置いておこう。今は、次の『ボス』をテンヌキにするのかどうかを決めたい」
「「「異議あり!!」」」
「『ボス』!あなたは一代目から受け継がれてきた決まりを破るつもりですか!?」
「あなたの意見はどうなんです!?あなたはそれでいいのですか!??」
「...私は東を人間の世界へ行かしたい。おかしな理屈はいらない。ただ、それだけのことだ」
「...じ、じゃああの決まりは!?」
「今ここで法律を変える」
「!!」
「次の『ボス』は、私が独断で決めれることにする!!」
「おお...」
「それなら従わないとな...」
「賛成です!」
「私も!」
「では、これにて次の『ボス』を、テンヌキにすることを決定する!!」
会議が終わって、「お」は自分の部屋に戻った。そして、一冊のノートを取り出した。
「見つけてくれるよな、あいつらなら」
「お」は、銃を取り出した。
「ごめんな」
バアン!!
脱出編
シーズン4
EP24 「感情洗濯機」
「!?銃声??」
テンヌキがあずまに取り付けられていた装置を外した時、屋敷の上の階の方から、銃声が聞こえてきた。
「一体何が!?」
すると東が、
「う~ん」
と言って目を覚ました。
「東!!」
「ん~?テンヌキ~?どしたノォ?」
「良かったあ!覚えてたんだ!!『お』が少し効果を弱めたのか?はたまた『お』は何もやっていないとか...」
「なんのことぉ?それよりなんか...『お』に話があったんだけど...」
「やっぱり!もしかしたら『お』は効果を弱めたのか!?じゃあ、少し...ほんの少しだけ忘れていることがあるはず...」
テンヌキは東の体を掴んだ。
「ちゃんと全部覚えてる?ここはLINEの世界で、東はなぜかここに連れてこられて...。忘れたことはある?」
「...なんか...人間の世界でなんのアルバイトをしてたか忘れちゃってさ...」
「なんだそんなことか!!ああ、良かった良かった!」
「本当にどしたのテンヌキ...怖いわ、今のお前」
「良かったああああああ」
「......と、とりあえず事情を説明してくれ。お前の今の姿、明らかに異常だから...なんかあったんだろ?とりあえず話せ」
すると、テンヌキは、「忘れてた!」とでも言うように、パッと目を見開いた。
「そっか...東、これは大事な話なんだ、心して聞いてね。東、君が取り付けられていた装置は、「感情洗濯機」といって、『お』が『ボス』になることが決まってから、秘密裏に絵文字工場で作られたものなんだ。これは、万が一、『ボス』の血を引く文字が逃げ出そうとした時、その文字の全ての記憶を洗い流して、「必ず『ボス』にならなければならない」という暗示をかけるための道具。つまり洗脳さ。今がまさに、万が一の時だね...。...それで、多分、東は、まだ少ししか記憶を洗い流されていないんだと思う。だから、良かった、って...」
「...そっか、『お』はそこまでして、俺を...」
東は言葉を失った。
「でも、『お』はいいやつだよ」
「どういうこと?」
そしてテンヌキは、『お』の部屋であったことを全て話した。
「...あいつ......俺もちゃんと話がしたい」
「...あ!そうだ!東、それよりさ...」
「?」
「僕が東に取り付けられていた、『感情洗濯機』を外していた時、外から銃声が聞こえたんだ...!!」
「は!?ど、どこから!?」
「多分...」
テンヌキは少し言葉を詰まらせた。
「
「!!まさかあいつ...!!!」
東は倉庫を飛び出した。「ちょっ!東、待って!」テンヌキも走り出した。ザアアアアアアア!と、雨水のシャワーが降り注ぐ。冷たい雨水が二つの文字の顔を撫でる。東とテンヌキ。二つの文字の足音だけが、外に響いていた。
「東、もしかしたら僕が聞き間違えただけかもしれない。『お』の部屋から聞こえたという確証もない。だからそんなに急がなくても...」
東は、雨に負けないくらいの大声で言った。
「それでももし、『お』に何かあったら...!!『お』の部屋から聞こえたという確証はない...でも、『お』の部屋から聞こえていないという確証もないぞ!!」
「っ...!!」
「とにかく走れ!!」
二つの文字は、屋敷に入って、家来をおしのけ、エレベーターに飛び乗った。そして、七十階につくと、全速力で「お」の部屋に駆けつけた。
部屋の前に着いた。以前「お」が壊したドアは、きれいに修理されていた。
東は素早くドアを開け放った。
「っ!!」
「『お』...!!」
二人はただ、立ち尽くすことしかできなかった...。
「お」が、自身に銃口をむけた状態で、倒れていたのだから...
「お」の頭から、目が痛くなるような、真っ赤な血が、ドクドクと流れていたのだから...
少し強い風が吹いた。その風で、本棚から、一冊のノートが落ちた。
それは、「お」の思いが全て書かれている、「手記」だった...
「『ボス』の生活を、どれだけ呪ったか...」
これが、その「手記」の書き出しだった。
この「手記」には、一体、どんな思いが秘められているのだろうか...
EP25 手記
「ボス」の生活を、どれだけ呪ったか
ある日、私が昼食を食べている時。「守」の文字(のちの私の家来)が、ゾロゾロと私の方へやってきた。私は焦っていた。誰だこの文字は?なぜ私に寄ってきた?
焦りながらも、私は椅子から立ち上がり、「守」の文字と距離をとった。だが、「守」の文字は足が早く、すぐに私に追いついた。
「な、なんなんだよ!?」すると、「守」の文字が私の腕を空に掲げて言った。
「『お』、あなたは『ボス』の血を引いている。先ほど、十二代目の『ボス』がお亡くなりになった。なので、今すぐ屋敷に来て、十三代目の『ボス』となるための儀式を初めてくれないか?儀式のやり方、『ボス』の仕事の内容は、儀式の前に話す」
「は?...儀式?『ボス』?なんの話だ?」
何がなんだかわからなかった。そうやって私が戸惑っていると、周りから大きな歓声が聞こえた。
わああああああああああああああ!!
「おめでとうございます!!」
「『ボス』、この世界を頼みます!!」
悪い気分ではなかった。なのでつい、
「ワ、ワッハッハ!」
と偉そうに笑ってしまった。すると、またもや歓声が。
わああああああああああああああ!!
自然と笑みが溢れた。
屋敷に着くと、私はエレベーターに乗せられ、七十階へ上がった。エレベーターのすぐ横に、私の部屋はあった。とても豪華な場所だった。
壁一面に並ぶ本棚。
偉い文字が座るような、フカフカの椅子。
応接間のように、きちんと並べられたソファ。
「おお...」
と、思わず簡単の声をあげた。
「で?『ボス』の儀式とは?仕事はなんですか?」
私はもう、『ボス』になる気満々だ。なので、調子に乗って、軽々しく聞いてしまった。
「それは、『ボス』担ってくださるということで間違い無いですか?」
「守」の文字の言葉遣いが急に良くなったのは少し戸惑ったが、
「はい!なんでもやります!仕事を教えてください!」
「一斉処刑をしてもらいます」
「え?」
仕方がなかったのだ。私は十二代目の『ボス』世代の文字を殺し、長生きすれば、十三代目世代の文字も殺さなければいけない...
一線を超えてしまった...
私は無知だった...
この世界のことも、
「ボス」のことも、
何も知らなかったのだ...
言葉というものは恐ろしい。うっかり発してしまった言葉で、ここまで苦しむことになるとは...
言葉は言葉。言葉の力は、時にすごく、時に恐ろしいものだと実感した。
十四代目の『ボス』へ。
すまなかった、こんな役目を押し付けてしまって。
本当に反省している。
私は二千二十年十二月二日に、自殺する。
どうか今までのこの世界より良い世界を造り上げてくれ。
十三代目の『ボス』 「お」より
「『お』!お前、何、やってんだよっ!!」
東は叫んだ。
「お前、死んで償おうなんて、考えてたのか...?」
「お」は答えない。冷たい体を床に置いているだけだ。
「生きて償えよ...償いたいなら...」
東とテンヌキの目から、涙がこぼれた。
「...『ボス』...死んじゃったら、何も...何も、できないじゃ無いか......」
テンヌキは、冷たくなった「お」の体にしがみついた。
すると、東が、床に落ちていた「手記」に気づいた。
「テンヌキ...これ、何かな?」
「...?」
テンヌキは涙を拭いて、東の方に歩いて行った。
その「手記」は、何十枚ものページが破り取られた、ノートだった。長い間取り出していないのか、埃をかぶっていた。
二つの文字は、ページをめくって、手記を読み始めた。
「『お』...」
東は「お」に駆け寄った。
「お前、...ほんとに...バカなことばっか...考えてんな......」
「『ボス』!『お』!!」
うわあああああああああ!!
二つの文字は、「お」にしがみつき、泣き声をあげた。天国にいる「お」に、届くくらいの音量で。
「守」の文字たちが鳴き声を聞きつけて、東とテンヌキを引っ張って行ったのは、「お」が死んでからちょうど一時間が経った頃だった...
東の手には、ボロボロになった「手記」が、強く握られていた...
EP26 法律変更宣言(例外)
東とテンヌキは、「事情聴取室(人間界でいう取調室)」につれていかれた。二つの文字は、「事情聴取室」についてからも、涙を流していた。
「おい!お前ら!!『ボス』の部屋にいたな!?」
東とテンヌキはうなずいた。
「あそこで、『ボス』の頭から血が出ていたが、どういうことだ!?お前らが殺したのか!?」
東は黙って「手記」を渡した。
「なんだこれは...」
そう言いながらも、「守」の文字は、「手記」を開いて読み始めた。
「こ...これは...!!」
「守」の文字の手から、「手記」が滑り落ちた。「守」の文字は、頭を抱えた。
「そうか...そんなことが...『ボス』に...」
頭を抱えていた「守」の文字だが、すぐに改まった表情になった。
「テンヌキ様、先ほどのご無礼をお許しください。今からすぐ、あなたを『新「ボス」即位式』にお連れしなければなりません!これは『ボス』の意思です!すぐにきてくださいますか!?」
テンヌキは泣きながらぼーっと座っていたが、すぐにいつもの顔に戻って、
「は、はい!」
と言った。
「東さんも一緒に来てください」
東は涙を拭いて、頷いた。
「守」の文字は、「準備があるので先に行きます」と言って、会場に行ってしまった。「守」の文字から、事前に『新「ボス」即位式』の場所を聞かされていたので、東とテンヌキは、そこへ向かった。
少しばかり沈黙が続いた。すると、東が口を開いた。
「良いのか?テンヌキ、...『ボス』になったら、同時に虐殺者にもならないといけないんだぞ?」
「...大丈夫。それなら考えがあるから」
「考えって?」
「見てたらわかるから」曖昧にしか答えないテンヌキ。東が何度聞いても、はっきりと答えてくれなかった。そうこうしているうちに、会場についた。
会場は、劇場のようだった。そこで、「守」の文字を見つけた。「守」の文字も、こちらのことを見つけたようで、東とテンヌキの近くに走ってきた。
「東さんは、舞台袖で見ていてください。観客席が満員で...すみません」
「いや、良いですよ」
東は言われた通りに、舞台袖に入った。
「テンヌキ様、いよいよですよ」
「わかりました」
「あなたもそろそろ『ボス』になるんですから、敬語をやめても良いんじゃ無いですか?」
「わかった。...ふふっ、慣れないな...」
ザザッ!と、ステージに取り付けられたスピーカーから、ノイズが聞こえた。
『今から、十四代目の新「ボス」即位式を行います!』
スピーカーから、明るく、ハキハキとした声が聞こえてきた。
「これが、僕の秘書...」
「はい、文字は、東さんが決めました」
「東が...?」
「文字は...」
ブウウン...と、幕が開いた。
「『
『処刑の法律を変える!!『法律変更宣言』を今、行うことにする!!!!!』
「法律変更宣言」とは、「ボス」に一度だけ与えられる、法律を変えることができる権利のことだ。もし、変えた方が良い、という法律があれば、「ボス」と家来が全員で話し合って、法律を変えることができるのだ。
東は前に、「お」にこのことを教えてもらっていた。なので、テンヌキの発言に、顔をしかめた。
「...良いアイデアだと思うんだけど...『法律変更宣言』って、大晦日の処刑の直前にしか使えないよな?...今日、大晦日じゃねえぞ...!!」
辺りがざわつく。
「ちょっと...何言ってるんですか...『ボス』...」
「まだ大晦日ではありませんよ!!」
そうだそうだ!と、ブーイングが湧いてきた。
「どういうつもりですか、今日はまだ、使えませんよ!!」
秘書の「東」でさえ、テンヌキに意見をするほど、「法律変更宣言」をすることは、重大なことだったのだ。
テンヌキはしばらく黙っていたが、やがて、ニヤッと笑って、
「これでどうだ?」
と言い、モニターを出した。
「テンヌキ...何するつもりだ...!?」
東はただ、見守ることしかできなかった。
テンヌキはリモコンを取り出し、モニターに向けてスイッチを押した。
バン!とモニターに画像が映る。その画像には、手紙が映っていた。手紙には、
もし、どうしても、処刑を無くしたい「ボス」がいるのなら、いつでもこの手紙を、民衆に見せなさい。
今、ここで、一斉処刑の法律をなくすことを、宣言する。
その際、法律変更の会議は、廃止することとする。
そして、この手紙の有効期限は、一生とする。
ずるいかもしれないが、いつかの「ボス」が、民衆にこの手紙を見せた瞬間から、この手紙に書かれている内容を、今、私の独断で、これからこの世界が続くまでずっと、このLINEの世界の法律とする。
二千七年十二月三十一日 著
いつかの「ボス」へ
一代目「ボス」 「あ」より
と、書かれていた。
「...これは、一代目『ボス』から、代々受け継がれてきた手紙だ」
辺りがしんと静まり返った。
「...つまり、これはテンヌキが法律を変更したわけじゃなくて、一代目の『ボス』が変更したってこと?...まあとにかく法律は変わった!!」
東はぱあっと顔を輝かせた。
「この一代目の『ボス』が残してくれた手紙のお陰で、
一斉処刑がなくなる!!
一斉処刑は廃止だ!!」
「テンヌキ...お前、すげえ..!!!」
「僕はこれから、決して裏切り者を指すような政治をするつもりはない!だから、これからは、この法律でいかせて欲しい!!」
「...裏切り者を出さない、という証拠は?」
「これからの僕を見て決めて欲しい。それと、」
テンヌキは、どこから持ってきたのか、鞘のついたナイフが、大量に入った箱を持ってきて、その中身を、ステージにばらまいた。
「!?これは!?」
「もし、僕が裏切り者を出すような政治をしていたら、」
テンヌキは、首を切るようなジェスチャーをした。
「僕を殺してください」
ざわっ!と、さっきよりも辺りがざわついた。
「おいおいおいおい...何言ってるんですか...」
「うそ...」
テンヌキは、そんな言葉に構わず言った。
「これで、『法律変更宣言』及、『第十四代目 新「ボス」即位式』を終了する!!」
テンヌキは、即位式が終わってからすぐ、民衆にナイフを配った。だが、誰も、そのナイフを手に取らなかった。
「...テンヌキ、殺してくれ、は、言い過ぎじゃないか?」
「大丈夫大丈夫!自信はある!!」
「でもねぇ」
「心配しなくて良い」
そんなふうに話をしていた二つの文字。話のネタが切れてきたところで、東が口を開いた。
「とりあえず一件落着となったことだから、そろそろ俺も人間の世界に戻らないとな」
一仕事終えた!とばかりに、東は汗を拭うようなジェスチャーをした。
「あの...東?」
テンヌキが、言いにくそうに言った。
「ん?」
「人間の世界に戻る方法はないと思うんだけど」
「...はい?」
EP27 払うべき代償
「...ナンデ...モドレナイノ?」
東は涙目になりながら、テンヌキにたずねた。
「東には、話してなかったね。元々は...」
テンヌキは、「お」が、裏切り者を逃してしまうことを防ぐ為に、元々あった人間の世界への通路を塞いでしまった、ということを話した。
「...マジ?」
「マジ」
「え!?じゃあ俺どうすればいいの?」
「え~、寿命が尽きるまで暮らしたら~?この世界で~」
テンヌキは、「そんなことは別に僕にはどうでも良いので早くおさらばしてください」というように喋った。
「いやいやいや!!俺は人間の世界に戻って、やり残したこととかいろいろ叶えんだよ!!それを諦めろと!??」
「知らんし」
東は怒鳴ったが、テンヌキは何事もなかったかのように振る舞っていた。
「じゃあどうすればいいの!??お前にはもう頼れないから俺で探さないとでも俺はこの世界の権力者じゃないんだからわかるわけないしテンヌキに気持ちの悪い声で煽られんのも嫌だしねえ...!じゃあもう無理だよ!!」
うわあああああ!と、東は泣き叫んだ。流石にテンヌキも、真面目に考えてくれて、
「......危険だけど、戻れる方法はなくもない」
と、意味ありげに呟いた。すると、東はガッとテンヌキの肩を掴んだ。
「ほんとっすか神様あ!」
あまりの態度の代わりように、テンヌキも少し戸惑った。
「あ、うん」
「ねえ教えて教えて教えて教えてくださいませよ神様あああ!!」
東はテンヌキの体を、ブンブン揺らした。
「あーもうわかったから!」
テンヌキは東を振り解いた。
「で?どうやったら良いの」
「...電波に乗って、君のスマホに行くと良い。ここが君の友人の『和樹』のスマホなら、多分...。スマホの一つ一つに、ここみたいな『ボス』が支配する世界があるんだ。だから、その東のスマホの中にある『ボス』の屋敷に忍び込んで、その屋敷にある通路を通ると良い。...でも、...前にも、別のスマホに迷い込んだ、『ボス』の血を引く人間がいたんだ。その人間は、東みたいに、『ボス』の屋敷に忍び込んで、人間の世界への通路に入ることができたらしいんだ。だけど、通路をどんどん進んでいくと、だんだん体が元の状態に戻っていった。つまり、だんだん人間の姿に戻っていってしまったんだ。そして、通路の途中で、挟まって動けなくなってしまったらしいんだ。そして、それを見つけた『ボス』が、その人間を見つけて...あの『感情洗濯機』で...。とにかく、ほぼ確実に、LINEの世界に入った人間は、元の世界には戻れない。...ここは、君の話によると、『和樹』のスマホなんだよね。だったら、『和樹』が東とLINEのやり取りしてる時にしか入れない...。そのタイミングはわかるわけないんだ。つまり、...0%くらいの確率しかなくても、その可能性に賭けてでも、人間の世界に戻りたいの?」
東は少し黙っていたが、やがて覚悟を決めたような表情になって。言った。
「そんなの、決まってんだろ!行くよ!行くっきゃねえだろ!」
「そっか。わかった」
そして、東は、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「なあ、あのおじいさんはどこ?」
「おじいさんは...」
テンヌキが話し始めた時、一瞬時が止まったようになり、東の目の前に、「老」が現れた。
「!おじいさん...ん?」
何やら、ぶつぶつ呟いているようだった。
「...ハア、ワシらは人間のために、文字をこき使わせ、働いている...。しかも、どの世界も残酷だとくる...。人間の世界に戻っても、良いことなんか一つもない。せいぜい自分の世界の残酷さを知るだけだ......。生きていることの何が良いんだろうか...。ああ、死んでよかった。殺されてよかった。...人は、自分の世界の残酷さの一部分しか見ていない...『1』を知っただけなのに、『10』を知ったような気分になり、死んでいくのだな..ああ、全く、哀れだ...。湊太、人間の世界なんて、何も良いことはないぞ」
まるで訳がわからなかった。でも、人間の世界へ行くことを、「老」が否定しているのはわかった。
(...おじいさん、俺は、人間の世界へ行かなきゃいけないんだよ......ところで、何でこのおじいさん、俺の名前を知っているんだ?)
そこで、時が動いた。
「『お』の家来に」
「殺された、か?」
「何で知ってるの...?」
「おじいさんが...」
「?」
東は、さっき見た幻覚?のことを話した。
「そっか...」
「ああ。...でもなんか...」
(いろいろ引っかかる...話し方、俺の名前を知っていること、態度...誰かに似ている...)
東の頭の中に、優しく笑うおじいさんの顔が浮かんだ。
(誰だ...!?こいつ...!!)
「東?」
そこで東はハッと我に返った。
「大丈夫?今ぼーっとしてたけど」
「..いや、何でもない。...それより、行く準備しよう」
「そうだね」
二つの文字は、屋敷に戻って、リュックを出し、武器を詰め込んだ。
EP28 電波に乗って
一夜明けて。東はリュックを背負った。
「あ、東、それはやめたほうがいい。怪しまれるぞ」
テンヌキは、東のリュックを引っ張った。
「ああ。そうだな」
東はリュックを下ろした。
「東がスマホに入る直前に、投げ込むよ」
「おう」
テンヌキは東のリュックを拾って、しっかりと掴んだ。
「東」
「ん?」
「今まで、ありがとう」
テンヌキが、少し恥ずかしそうに言った。
「お、おう...。こちらこそ」
東も、少し恥ずかしそうに言った。
「...それじゃ」
「じゃあな」
東は「ボス」の部屋から出た。
テンヌキは、しばらく見送っていたが、やがて自分の席に戻った。
東が部屋を出て少し経った頃、テンヌキは、
「そろそろ投げ込みに行かなきゃな。もうついただろうし」
と言い、東のリュックを持って、屋敷を後にした。
巨大なスマホの前に着いた東は、LINEの画面が開かれていることを確かめた。そして、画面の上の方。東はそこに書かれた送り先を見た。
『東湊太』
「...よし」
LINEが送信された時、文字は電波に乗って、送り先のスマホへ向かう。そして、送り先のLINEの世界の工場から、吐き出される。
そして、スマホの画面に張り付きに行く...。
このスマホは、調べたところ、東の友人の「和樹」のものだった。和樹の巨大な指がスマホに触れる。文字が打ち込まれる。東はさりげなく、スマホに張り付くように、スマホに近づいた。
東がなぜ、自分のスマホではなく、「和樹」のスマホに飛ばされてしまったのかを聞くと、テンヌキは「わからない」と答えた。テンヌキによると、「普通は自分のスマホに行くものだ。君は珍しい」だそうだ。
(誰か黒幕がいるのだろうか?)
東はそう考えてみたが、頭をブンブンと振り、(今は人間の世界に帰ることの方が大事だ!)と自分に言い聞かせた。
「今からこのスマホの電波に乗って、君のスマホに行くときに、電波に不具合が起きて、全く別のスマホに放り出されてしまうかもしれない。それでもいいの?」
東はこのテンヌキの言葉に、うんと頷いたのだ。ここまでの覚悟をしといて、今更行かないのはもったいない!
十分に決意を固めた東は、上の方を見た。文字が打ち込まれ、送信ボタンが押されたので、打たれた文字と同じ文字が、必死に上へ上へと登っている。大体、スマホの上の方のちょうど真ん中に、トンネルのような電波が出ている。文字たちはその電波に入って行く。東は姿を見られないように、素早くスマホに掴まり、トンネルによじ登った。そして、サッ!と、さっきの文字たちのように、トンネルの中へ入っていった。もちろん、こっそりテンヌキが投げ込んだ、リュックも一緒に。
「んっ...うおっ!」
東の体に、物凄い衝撃が走った。あの例の黄色いタコ※のスピードよりも早いんじゃないかというようなスピードで、体が前へ前へと進んで行く。
電波の道は、トンネルのように、どす黒い筒の一本道だった。たまに曲がっているのかもしれないが、体が運ばれるスピードが早すぎて、感じることすらできない。
おまけに、体全体に電気が流れ込んでくるので、唸り声や悲鳴くらいしか上げられない。
(は、早く俺のスマホについて...)
不意に、東の目の前に、光が見えた。
(っ!眩しい!!)
東の体が、前にぐわんと押し出された。
ビタン!
※コイツです↓
暗殺教室めっちゃ好きなので、ここで使わせていただきました!
松井優征 少年ジャンプ
完結編
シーズン5
判断
見慣れた光景が広がった。立ち並ぶ数々の工場。なぜかあたりが騒がしい。まるで、電波に不都合が起こって、テンヌキのいたLINEの世界に戻ってしまったようだ。
東は自分のいる場所を確かめるため、聳え立つ大きなスマホに駆け寄った。
『和樹』と表示が出ている。
クローンの東は、まだ和樹とLINEをしているようだった。
「よし、じゃあ...」
東はクルッと後ろを向いた。屋敷が見える。
「行くぞ...ってうわああ!」
東が走ろうとした時、誰かに頭を掴まれた。
「だ、誰!?」
東は掴まれた頭に顔を向けた。そこには、いわゆる「カーソル」がいた。
「あんた、何しようとしてんの?」
カーソルの頭を握る力が、少し強くなったような気がした。
「痛い痛い!頼むから放せ!」
すると、急に握る力が弱くなった。
「うおっ!」
東は尻餅をついてしまった。全身に痛みが走った。
「ってえな...」
「で?」
「は?」
「何しようとしてんだよ」
「うるせえ!お前にはかんけえのねえことだ。それよりお前こそ何なんだよ!?普通初対面のやつの頭掴んで、地面に投げるか!?」
「投げてはいない」
「でも実際、投げられたみたいになって...。ああ、もう!そんなことより俺は行かなきゃいけないんだ」
東は立ち上がり、走り出そうとした。が、前に二歩足を出した途端、今度は足を引っ掛けられ、前のめりになった東は、派手に転んだ。
「ぐおっ!もお、!何なんだよお前!??」
東は後ろを向き、カーソルを睨んだ。
「カーソルですが何か?」
「わかってるよそんなこと!ああもう!お前ほんとにメンドくせえやつだな。...お前、仕事しなくていいのか?お前なんて大抵スマホに張り付いてないとやってられんだろ?」
「よく言われる。...今は別の人がやってくれてる」
東は立ち上がり、カーソルに言った。
「で?何回も引き止めてきたけど、何?何か用?」
「『ボス』の屋敷に行くのはやめといた方がいいよ」
「は?何でだよ」
カーソルは一瞬言葉をつまらせたが、続けた。
「ここの世界は、今日が一斉処刑の日で、警備が堅い」
「?...何で?」
「だから今日が一斉処刑だから警備が...」
「何で今日が処刑なんだ?今日はまだ二日だぞ!?」
「ここの一代目の『ボス』が決めた。ちなみに『ボス』は、この世界の『ボス』の頂点なんだ。実質、コイツが全てを牛耳ってると言っても過言ではない」
「!!?じゃあ-----」
「処刑は何時にやられるか知ってる?」
東が何かを言いかけたが、カーソルが話を遮った。
「いや...?」
「今日の夜九時。その時は、全ての工場のシステムを切って、LINEのサービスを止める。人間の世界では何とかごまかしてる。あとさ...」
カーソルは東を引っ張っていった。東が連れて行かれたところは、前にいた和樹のスマホでは見たこともないような、広場があった。その広場では...「ボス」の家来であろう「守」の文字の団体と、その他の文字が、武器を持って争っていた...。
「これって...君がきたときに起こったテロ?...っていうのかな?その時、まあついさっきなんだけど、君がここにきて横たわっているのを僕が見つけてすぐ、スマホから、大量の文字が出てきたんだ。それで、東ー!!とか何とか叫びながら、『そいつだけずるいぞおお!!』って。それで、なぜかそこらへんの家に入って、ナイフとか色々奪って、こんなことになったんだけど...これって、君となんか関係ある?」
東は震えながら答えた。
「あるよ...大ありだよ...あずまって、俺だからさ........」
「!?じゃあまさか...」
「ああ。...俺の......俺のせいだ...」
東は頭を抱えて座り込んだ。
「...どういうことなのか聞かせてもら-----」
「俺が人間の世界に行きたいとか言ってたから...」
テロのやっている方を見ると、ついに怒りが頂点に達した「守」の文字たちと、テンヌキのLINEの世界の住民との、殺し合いが始まっていた...
血飛沫が舞い上がっていた...。
「俺のせいで...テンヌキのスマホのみんなが...全部、俺のせいだ...!!」
そこへ、東たちのもとに、テンヌキが走ってきた。
「あ!新しく和樹のスマホの『ボス』になったって...!!」
「うん、そうだよ。それより東!!!」
テンヌキはうずくまっている東を揺さぶった。
「君は自分で何をしたか理解してるの!!?君は判断を間違えた!寿命が尽きるまで、僕の治めているLINEの世界にいればよかったのに!!!」
テンヌキは大声を上げた。一瞬近くにいた文字が動きを止めたが、すぐにまた動き始めた。
「どうするんだよ!!」
「テンヌキ!!」
東が怒鳴った。
「俺は確かに判断を間違えた!!けど、今からでも、正しくすることはできる!!判断を間違って、そのまま終わりにはしたくない!!俺が判断を間違えたんだからな、俺が正しくしてやるんだよ!!判断なんて、何回だって間違えてやる!!そのたんびに、俺が何回でも正しくするんだよ!!!!」
「東...」
今まで黙っていたカーソルが、口を開いた。
「君はいいことを言っていると、僕はおもう。でも、どうやってこの状態を良くするんだ?何か考えがあるのか?」
「ずっと考えてたんだ。...賭けに出る。こうするしかないんだ...これしかない」
東は二つの文字に作戦を耳打ちした。
「...それは...」
「うまく行くのかな...」
「俺の判断を正しくするには、これしかないんだよ...!俺は、世界を変える!!」
テンヌキとカーソルは、
「まあ、頑張ってみよう。この世界を変えよう!!」
「「「『ボス』の頂点をぶっとばああす!!」」」
三つの文字は武器を持って、それぞれの持ち場へと歩いていった。
東とカーソルは、屋敷へ侵入する係だ。テンヌキは---いずれ分かる。
東たちは、家来に見つかりにくいルートを調べておき、そのルートを使って、「ボス」の屋敷に侵入することにしたのだ。
「ボス」の屋敷の入り口についた。ここでは家来に見つかった。でも...好都合だった。
「行くぞ!!」
東とカーソルは、銃を構えて、「守」の群れに突っ込んでいった...!!
おじいちゃん
「ねえ、おじいちゃん!今日はどこへ連れてってくれるの?」
「そうじゃなあ...」
2004年(当時の東は6歳)、東湊太は目を覚ましてすぐに、自分のおじいちゃんに声をかけた。
「今日は仕事はないし、遊園地でも行くか!」
「やったあ!」
東のおじいちゃんは、携帯電話製作会社の社長だ。大体30歳くらいからこの仕事を始めて、60歳を過ぎてもまだ、この仕事を続けている。
「こーら!今日はダメでしょう?3時から歯医者に行くんだからね?」
東野お母さんが、寝癖を治していない髪のまま、東を叱った。
「えー!?おやつの時間じゃん!うっそお!歯医者さん嫌だ嫌だ嫌だあ!!!」
「わがまま言わないの!」
「まあまあ、静花さん、ちゃんと歯医者さんの時間...1時半には帰っておきますから、いかせてやって良いじゃろう?この子だって毎日、静花さんやワシの手伝いで疲れているんじゃよ。だからちょっとくらい、息抜きさせてやっても良いでしょう?」
おじいちゃんは、優しい声でそう言った。
「まーたそうやって湊太を調子に乗らせて!......今日だけですからね?ちゃんと約束通りに帰って...」
静花は圧をかけた。
「わ、わかっとる、わかっとる。さあ、湊太。早く用意しなさい」
「わーい!やったあ!ありがとう、おじいちゃん!」
おじいちゃんは、ニコッと微笑んで、東の頭を優しく撫でた。
3時になっても、二人は帰ってこなかった。
「マぁマぁー!おじいちゃんとはぐれちゃったァー...」
東が泥まみれになって家に帰ってきたのは、5時12分のことだった。
「ちょっ、湊太!どうしたの!?」
「おじいちゃんが、電車降りてすぐに......急にいなくなっちゃってぇ...」
「いつ!?どこらへんで!?」
そんなことを聞いたって無駄なことを、静花はわかっていた。まだ6歳の子供に、そこまで具体的な説明はしにくいだろう。...大好きなおじいちゃんとはぐれ、悲しみに暮れている子供は特に...
案の定、東はただ泣いているだけだった。
「うわあああああん!!」
「電話、つながらないわね...」
「けーたい、つながらないの...?」
静花は大きなため息をついた。
「東、歯医者さんの予約は、明日にしておいたから。おじいちゃんが帰ってくるまで待とうか...」
「嫌だ嫌だ嫌だあ!!おじいちゃんを探しに行くゥ!」
「...」
静花も、すぐにでも探したかった。でも、電話もつながらないのでは、どうやって探せばいい?何の手がかりもなしに...もしかしたら、最悪の状態になって見つかるかもしれないじゃないか...!!
(でも、そんなこと...湊太に言ったら...)
言えない。絶対に言ってはいけない。
でも、この子は、目を離した隙に、勝手に行ってしまいそうで...
「わかった。行きましょう」
「おじいちゃーん!!」
「修二郎さーん!」
人通りの少なくなった6時の街を、二人はあてもなく、彷徨っていた。
「...いないわね...」
「そんなぁ...」
東が目に涙を浮かべる。静花が、それを宥めようとすると、
「おい、湊太、静花さん、そんなところで何しとるんじゃ?」
「!おじいちゃあん!!」
「修二郎さん!」
修二郎が、何やら大きな袋を抱えて、東たちの元へやってきた。
「何でこんな...この子から目を離すようなことをするんですか!!」
「いやぁ、すまんのう...。前に、湊太が、これを欲しがっていたのを思い出しての...」
そう言って修二郎は、大きな袋の中身を取り出した。
「あっ!それ!」
それは、東が前に、テレビのCMでそれを見て、「欲しい欲しい!これ欲しいいいい!!」と駄々をこねていた、ミニカーの道路セットだった。
「まさか...それを買っていて!?」
「すまんすまん...つい、湊太の喜ぶ顔が目に浮かんだもんで...」
「おじいちゃん!ありがとう!!」
「...はあ、......もう、こんなこと、やめてくださいよ...」
静花は、大袈裟なため息をついた。
2007年。東のおじいちゃん、つまり、東修二郎は、LINEのサービスを開発した。よほど自分が作ったと知られたくなかったのか、世間に公表する際には偽名を使った。それは、東が8歳の頃だった...。
2008年。修二郎は、癌を患い、病院で、寝たきりの生活を始めた。修二郎は、病院でも、スマホをいじっていたらしい。
2009年の正月。病院から、修二郎が消えた。
現代。
「東ァーーーーーーーーーーーッ
「東」という人間
時は少し遡り、東たちが「ボス」の屋敷に潜入した頃...
ダダダダダダダダダダ!
「もし、俺が『ボス』のスパイだったらどうする?」
「......どういうことだよ...?」
カーソル...スパイなのか!?
「お、おま、お前、スパイだったのかよ!!」
「...ちゃんと協力はするし、裏切ったりはしない。でも、もしもそうだったらどうするって話さ...」
「...俺は、ただの、最低なやつだ。そいつがどんな奴か、どんな性格か...そいつと関わって俺は得するか...そんなことを考えてからしか、行動できない。...もし、嫌いな奴が死にかけていて、俺に助けを求めていても、俺は助けない...当然の報いだって思って...いい気分になる...。まともに本音で語り合える奴なんて、親友しかいねえよ...。...もしかしたらみんな、そんなやつかもな...」
エレベーターは、ぐんぐん上に上がっていく。
「じゃあ、...僕はどうなんだい...?僕はその...東にとっての『関わって得する奴』?『好きな奴』?」
心なしか、エレベーターのスピードが上がった。
「それとも、『関わっても得しない、嫌いな奴』?」
「...お前がスパイだってどういうことだよ」
「だからそれは例えばだって...」
五十階...
「......深く関わった奴じゃないと、そんなにすぐには決められないな...。けど、今日俺たちは深く関わることになる。だから.......」
六十階...
「もしかしたら決まるかもしれねえな、お前のこと、俺がどう思うか」
東はカーソルに向き直った。
「もうおしゃべりは禁止だ。分かったか?」
カーソルは、大きく頷いた。
「行くぞ!」
エレベーターの表示が、七十階になった。すると...
「なっ!?」
ぬっと「守」の文字が...
「守」の文字は、手に持っていた金槌を振り上げた。
「くっ!!」
カーソルが銃も向けるが...手遅れだった。
ドカッ!ドカッ!
「っあ゛ッ!!」
金槌は、二つの文字の頭に激突した。
(くそっ...こんなところで......見つかる...なん...て......)
東とカーソルは、気を失った。「守」の文字は、二つの文字を、「ボス」の部屋まで運んで行った...
「んっ...痛ってえ...は!?」
東は目を覚ました。わけがわからなかった。手足には、枷がはめられている。隣にはカーソルがいる。まだ気を失っているようだ。カーソルも同じように、手足に枷をはめられていた。
自分たちは今、「ボス」の部屋にいるらしい。「お」の部屋と全く同じ造りだった。
...一つ、違う点を挙げるとすれば、「ボス」の席に「老」の文字が座っていることだった......
放送
「う...ウ゛....あ...!?」
カーソルも目を覚ましたらしい。カーソルは、目を見開いて、「ボス」の席を見ていた。
「ど、どういうことだよ!?おじいさん‼︎‼︎‼︎」
「......湊太...覚えているか?」
「ああ!あんたは俺たちを助けた...おじいさんだよ!...ってかなんで俺の名前知ってんだよ??」
「...以前、わしをどこかで見た、と思ったことは無かったか?」
どういうことだ!?東は少し迷ったが、すぐに言った...
「!!まさかあんた、俺の-----------」
「急げ急げ!」
東とカーソルが「ボス」の屋敷に入ってすぐ、テンヌキは屋敷の裏口へと向かっていた。
「僕の屋敷にもあったから...多分、ここにもあるはず!!」
裏口の柵が見えてきた。テンヌキは柵を越えた。
「!!あった!」
テンヌキの目の前には、「放送室」と書かれたドアがある。
「よし...」
テンヌキはドアを蹴飛ばした。中には、放送機材が並んでいた。テンヌキは、マイクの音量を上げた。そして、大きく深呼吸をして、マイクに向かい、言葉を発した。
『このスマホの世界にいる文字、全員に伝える!!』
「あんた、
テンヌキの声が、ありとあらゆる場所のスピーカーから聞こえ、広場にいた文字は、びくっと肩を跳ね上げた。幸い、テンヌキの世界の文字は、少ししか死ななかった。
『私はテンヌキ。「和樹」のスマホのLINEの世界の「ボス」だ!!』
広場がざわめいた。
「『ボス』...だって!?」
「は!?そんなことのために!!?」
東は「老」の話を聞いて怒鳴った。
『私の世界の文字よ、伝えたいことがある。東は、元々人間だった。だが、「通路」に不具合が起きてしまい、このLINEの世界に迷い込んでしまったのだ。なので、この世界から人間の世界に戻るために、この「東湊太」のスマホに来たのだ。それを許してほしい。それから、』
テンヌキの声が強く大きなものに変わった。
『私の世界の文字を殺したこの世界の文字よ!!』
「守」の文字たちがびくっと肩を跳ね上げる。
『お前たちは、いくつもの命を奪ったことを反省しろ!!...そして、』
テンヌキの声が少し小さくなった。
『今からこの世界にいる全ての文字に、ある「作戦」を手伝ってほしい.........。今からすぐ、屋敷近くの公園に来てほしい』
テンヌキは、マイクを切った。
「ふう」
テンヌキは、放送室から出た。放送中に家来が来なくてよかった。テンヌキはつくづくそう思う。
「あとは...」
テンヌキは屋敷の非常階段を駆け上がった。
「送電室!」
屋敷の最上階には、この屋敷に通っている電気のもとがある。電気を止めて目をくらませて逃げようということだ。
だが、送電室には、家来がいた。
『警報!警報!』
ジリリリリリリ!
送電室では、警報を鳴らすこともできる。
「くそっ...こんなところで...」
『侵入者!侵入者です!放送室に何者かが入り、放送を...うぐっ!』
テンヌキは静かに送電室に忍び込み、送電室にいる文字の口を塞いだ。
『もがっ...だ、誰、か...』
テンヌキは「守」の文字の頭を、銃の持ち手で殴った。
『うあ゛っ!』
「よし...」
テンヌキは階段を駆け下りた。
「うっ!」
テンヌキは階段の途中で足を止めた。さっきの騒ぎを聞きつけて、銃を構えた家来が、数え切れないほど立っていた。
「くそっ、ここまでか......」
家来の文字の一つが、「撃て!」と指示した。家来たちの指が一斉に引き金にかかった。
「......とでも言うと思ったか!!」
テンヌキは玉が一発飛んできたところで、階段から地面に飛び降りた。
「なっ...ここは...六十階だぞ!?」
テンヌキは飛び降りながら考えた。
(...当初からここで飛び降りる予定だったんだ...ここで、東たちが、クッションを持ってきてくれる...)
はずだった。テンヌキがクッションにしっかり着地する...はずだったのだ。だが...
「えっ?」
下には誰もいなかった。
テンヌキの体は硬い地面に...
グシャアッ!
狂った愛
「...あんた、俺のおじいちゃんだろ?」
「そうじゃ」
テンヌキが送電室へ行く少し前の会話だ。
「なんでこんなことしたんだよ!!」
「それは...」
「老」は、...東のおじいちゃんは、話し始めた。
「わしがLINEを開発した時、ふと、思ったのじゃ。こんなにSNSが広がったら、流行語...SNSを通じて流行るような言葉が出てくるんじゃないかとな...。そんな、気色悪い言葉なんか、孫に使って欲しくないじゃろう?そこでわしは、湊太、お前のために、お前が十二歳の頃、お前のスマホに入っていたLINEのアプリに細工し、あの、『お』から非通知のLINEが来るようにして、この世界に来させ、ちゃんとこのことを話そうと思っていたのじゃ」
「...は!?たったそんなことのために...狂ってるだろ、お前...」
「孫への愛が深くて...」
「ふざけんな!!!!!!」
東は怒りをあらわにして怒鳴った。
「じゃあ...あの『お』は!!」
「わしがあの『感情洗濯機』の元となる機械を作り、あいつを洗脳した。文字通りの『洗脳』をな...。じゃが、あいつ、使いもんにならんわ!無様に死におって...ちょっと仲良しごっこをさせすぎたか...」
「は!?じゃああいつの言っていたことは全部...本心じゃなかったのかよ...」
「ああ、わしが孫を流行語から守るための...駒に過ぎなかったのじゃ」
「おい!クソジジイ!!」
東は目の中に、怒り、憎しみ、恨み、悲しみ、と言った感情を浮かべ、自分の祖父に怒鳴った。
「なっ...なんじゃその口の利き方は...?今更反抗期を拗らせおって...」
「ふざけんじゃねえ!!お前は俺のおじいちゃんじゃねえ!!悪魔が!!!消えろ!!!!」
「な、何を言っとるんじゃ!?」
一人(?)だけ、展開についていけねーと言った表情を浮かべ、二つの文字を見ていたカーソルであった。
(これは口を挟んだら死ぬな...)
カーソルはしっかりと口を噤んだ。
「わ、わしは本物の...お前のおじいちゃんじゃぞ!?湊太!わしは東修二郎じゃ!確かにわしはLINEを作った時は、偽名を使ったが...」
「ごちゃごちゃうっせえ!!俺のじいちゃんはなああ!!こんな
こんな...」
東は目に涙を浮かべた。
「俺を...悲しませるようなことはしねえよ...」
それには、「老」も少し焦ったが...
「わしの愛を受け止めれないのなら、もう、殺るしかない!!!」
「老」は懐をゴソゴソと探っている。
カーソルが、東に叫んだ。
「っ!!
東!!
いち早く異変を感じたカーソルが、東に飛びかかろうとするが、「守」の文字が押さえつける。
「ぐっ!!東、危ない!!!」
東も異変に気付いたのか、身をかわそうとするが...
「遅い!!」
「老」は銃を構え、引き金に指をかけた。ぐっと引かれた引き金
バアン!!
...薄れゆく意識の中、東は走馬灯を見た。
(なんで...こんな...平和だった頃しか...思い出せないんだ...)
「おじい...ちゃん...」
かすれた声で、東は言った。
「東ァーーーーーーーーーーーッ
「いった...痛いですよ、『ボス』...」
テンヌキは目を覚ました。なんだ、自分は死んだんじゃなかったのか?それとも...ここが...天国...?
「ん...えっ!?」
間違いない。そこには、あの「法律変更宣言」の時にいた、「東」の文字が...
「『東』!?」
「もう、なんで落ちてくるんすか...」
「あ、いや、ちょっとね......。それより、君はなんでここに?」
「あのですね...あの、この近くの公園に、文字が集まってるじゃないですか。僕もそこにいたんです。それでなんか、『ボス』がなかなか戻ってこないなーって思って、探しにきたら...このザマです」
「あはは...ごめん、ごめん...。それより、東が...」
「東ァーーーーーーーーーーーッ
「あ、あれはカーソルの...」
「上からですね...」
「行こう!今、東がやばいんだ!!予定の時間になっても、ここに来なかった!...もしかしたら...」
「や、やばいじゃないですか!!!!!」
「だから、急ごう!」
二つの文字は、通常出入り口へ向かった。
計画通りに、家来たちは睡眠薬などで倒れている。(東たちがまいた)
「よし、エレベーターに乗って!」
「東」は、「開」のボタンを押した。
「滑りこめ!」
ザッ!二つの文字は、エレベーターに滑りこむ。
テンヌキは、七十階のボタンを押した。
(早く!!早く!!)
エレベーターは、テンヌキを煽るように、ゆっくりと上へ上へ登って行った。
「お」
「...時間になっても、東さんがこなかったって、確かにやばいですよね...」
「うん...」
エレベーターの表示が十階になった頃、「東」が口を開いた。
テンヌキは返事をしながら、東とカーソルの安否を考えていた...
(...東は今ここにいるんだよな?実際僕の指定した場所に来ていないわけだし...何かあったのかな...?)
バアン!
「じ、銃声!?」
「東」の声で、テンヌキは我に帰った。
「どこから!?」
「多分...『ボス』の部屋から...」
「っ!!!今何階だ!?」
二十階。
「チッ!」
テンヌキは二十一階のボタンを押した。
「な、何を...?」
「階段で七十階まで上がる!こんな遅いエレベーターよりも、階段で行ったほうが早い!!」
ポーン、ドアが開いた。
「急げ!」
テンヌキは全速力で階段を駆け上がった。
「あ!!侵入者!あの声からして奴は、放送室や送電室を使った奴だ!」
「くそっ!家来に見つかった!」
「『ボス』!ここは任せて!!」
迫ってくる「守」の文字の前に、「東」が立ちはだかる。
「僕、柔道やってますから、こいつらを足止めすることくらいはできます」
「...信用してもいいのか?」
「大丈夫です。死亡フラグなんかじゃありませんから」
「...わかった...」
テンヌキは七十階に駆け上がった。
「...さあ来い!!」
「東」は拳を構えた...
テンヌキが階段から落ちた頃。テンヌキは下敷きになってくれた「東」に、頼み事をしていた。
「『東』、ちょっと頼みたいんだけど...」
「?なんですか?」
「-------------------------------」
「...えっ?」
「そして------------------その後、----------------------------------」
「...分かりました。やりましょう!!」
「おい!クソジジイ!何してくれてんだ!!」
カーソルが東に駆け寄るも、手足の枷が邪魔をして、動けない。そこへ、「守」の文字がカーソルを抑え込みに来た。
「ぐうっ!」
必死に抵抗するが、すぐに抑えられる。
「...お前、前はわしの言いなりだったくせに、よくそんな口の聞き方をできるもんじゃ。
...『お』」
「...うるせえ」
「お前はわしに従って戻ってきた。...そうじゃろ?」
「...」
「お」は、銃を取り出した。
「ごめんな」
バアン!!
「お」は、マネキン人形に弾を打った。マネキン人形についている水風船が破れ、血の色をした血のりが出てきた...
...指令だ。仕方ない。こうするしかない。俺は悪くない...。
今日、この日、「老」に従っていた俺は、東のスマホの世界に戻らなければならない。俺にはまだ任務が残っている。
東をうまいこと、「老」の屋敷に連れ込むこと。
そんなことして東を騙したくない。嫌だ。なのに体は勝手に動く。従わなければいけないような気持ちになる。
なぜだ...。そう考えることを、体が拒絶する。
気がつくと俺は、ナイフで自分の体を切り裂いていた...
そしてできたのは、存在しない文字...
カーソルだった。
痛い、痛い、痛い
これが、「和樹」のスマホの世界に送り込まれ、任務をこなす
「...どうじゃ湊太、カーソルは『お』だったんじゃ!びっくりしただろう?カーソルは文字じゃないからバレるかなーなんて思っとったが...お前は昔から、騙されやすいのう」
「ふざけんじゃねえ!!」
カーソルは目に涙を浮かべて怒鳴った。
「そ、そんなに怒ることないじゃろう?湊太の反応が見たかっただけじゃ...」
「東は...お前に...!」
カーソルは東の方を向いた。
「なあ、『ボス』...東を...自分の孫を撃ったことについては...どう思ってるんだよ...」
「......あいつがわしの言うことを聞かなかったのが悪いんじゃ!」
「お前、それでも...
おじいちゃんかよ
「っ...」
バタン!
二つの文字が話していると、ドアが大きな音を立てて開いた。
「東!...カーソ...ル?...なんで、東が...」
テンヌキが、血で染まった東を見ている隙に...「守」の文字がテンヌキを抑えた。
「っ!うぐっ...!」
テンヌキはなんとかカーソルの方を向いて、カーソルに尋ねた。
「ど、どう言う状況?」
「東は...」
カーソルは全てを話した。
「そうか...」
「ハハハハハハハハハハハ!」
急に、「老」が笑い出した。
「お前らはもう終わりじゃ!東は撃たれ、テンヌキ、カーソルも何もできない!!!もう東を人間の世界に戻すことなど、不可能なのじゃ!!!」
すると、テンヌキはニヤッと笑った。
「
反乱
「どう言うことだ?それは------」
バコン!
部屋の扉が、大きな音をたてて、真っ二つに割れた。
「『ボス』!来ましたよ!!」
そこには、「東」とその他、東と和樹のスマホにいる文字たちが、銃を構えて立っていた。
「家来たちは?」
「全員制圧しました!あとはここにいる奴らだけです!」
「わかった。『東』、君は東の手当てを!他の文字は、ここにいる文字を制圧!わかったかい?」
「「ハイ!!」」
一体何が起きているのかわからない...というように立ち尽くす家来たちの背後にまわりこみ、文字たちは、家来を制圧した。
「ぐっ!」
「老」が、立ち上がって家来を押さえ込んでいる文字を制圧しようとした。だが、「東」が「老」のこめかみのあたりに銃を撃った。
「...抵抗しても無駄だぞ」
「東」が手当てに戻った頃、テンヌキがカーソルを押さえ込んでいる文字たちを引き剥がした。
「もうあんたの仲間はいない」
「っ...」
「老」はテンヌキに向かって銃を構えたが、「東」がまた米神の辺りに銃を撃った。
「抵抗をやめろ。もうお前は終わりなんだ!」
「ぐっ...」
「老」は自分の椅子に座った。
「......あの、いまいち状況が飲み込めないんですが...」
カーソルがおずおずと言った。
それに、「東」が答えた。
「
「『東』、ちょっと頼みたいんだけど...」
テンヌキが「ボス」の部屋に来る直前に、全て起こっていたのだ。東が考えた、この状況をクルッと七百二十度ひっくり返せる作戦が...
「なんですか?」
「君は公園にいる文字たちに、今から僕の話す作戦を伝えてほしい。
作戦はこうだ。
今更バレるもどうもないから、屋敷からできるだけ近い絵文字工場へ行き、武器を作って『反乱』を起こす。絵文字工場の職員をどうするかは、任せよう。まずは屋敷に潜入する。絵文字工場で武器を作った奴がいるとなったら、騒ぎが起きると思うから、それに紛れて屋敷の通常口から潜入してくれ。もし家来に見つかってしまったら、その文字を制圧。その後、『ボス』の部屋に来てくれ。
...分かったかい?」
「...分かりました!『ボス』、任せてください」
「じゃあ、頼んだよ!」
「東」は階段を二段飛ばしで駆け下りていった。家来に何度か見つかったが、「東」は足が速かったので、なんとか逃げ切ることができた。そして、文字たちの集まる公園に来た。
「え...なんか...増えてる...!!」
公園にいる文字は、最初集めた文字よりも、明らかに増えていた。
「俺たちを毎日こき使っている『ボス』に、鬱憤晴らしてやるう!!」
「おう!!」
「...まさか...増えてる文字って...」
「ここのスマホの住民ジャイ!」
「やっぱり...!!」
「東」は感激した。こんなにも協力してくれる文字がいるなんて...!
「お、おい!あそこ!」
集まっている文字の誰かが、「東」の後ろを指さした。そこには、家来たちが...
「いくぞお前ら
文字たちが、家来の方へ走っていく。いつの間にか武器を持っていた。
自分たちと文字の意見が一致した!
なら俺も...しっかりしなきゃ!
「東」は文字たちに続き、走っていった。
「...っていう感じで」
「そ、そんなことが...」
テンヌキは、自分を押さえ込んでいた文字を振り払い、逆に自分が家来を押さえ込んだ。
「これで最後の一人だね」
「くっ...」
「老」は降参したように、両手をあげた。
「全員!ついに、『ボス』の頂点に、勝ったぞ!!!」
忘れている人のために復習↓
「『ボス』は、この世界の『ボス』の頂点なんだ。実質、コイツが全てを牛耳ってると言っても過言ではない」
#34 判断 より カーソルのセリフ
つまり「老」は、「ボス」の中の頂点なんです。
わああああ!!
「ボス」の頂点を倒して喜んでいられるのは今だけだった...
「東」が顔を青くしてテンヌキに駆け寄る。
「どうした?『東』」
「大変です
The Life Of LINE
「ど、どうしたんだ!?」
「東さんの呼吸が...浅くなっています!」
「!?」
「い、急いで薬を!...おじいさん、お願いできますか」
「老」は、「東」の声を聞いても、動こうとはしなかった。
「...あんた、」
テンヌキが口を開いた。
「あんた、今の状況がわかってるんですか!?あんたの孫が今、死にかけているんですよ!?わかるだろ!?自分の罪を償おうとか、思わないのか!?あんたのせいで東が、死んでしまいますよ!?」
「わしには罪を償う資格など...」
「はあ!?あんた頭おかしいんですか!?」
「わしは...あいつが言うことを聞かなかったからやっただけじゃ...」
「はあ...」
テンヌキは大きなため息をついた。
「あんた、おじいちゃん失格ですね...」
「っ...!!」
「そんなんで東が喜ぶとでも思ってるんですか。馬鹿らしい」
「黙れ!」
「老」が椅子をバン!と叩いた。
「喜ばれるとは思っていない!!自分が死んで、天国に行けるとも思っていない!!ただ...わしはもう......東にあわせる顔がないのじゃ。自分の罪はもう償えない...。これだけのことをしてしまったのじゃから...どんなことをしても、償うことはできん...」
急にカーソルが喋り出した。
「東は...最低なやつですよ、自分にとって、都合の悪い奴は見捨てるような奴だ......けど、あんたが自分なりの方法で罪を償ったら、...東が、あいつが怒って、あんたを見捨てると思いますか!?」
「...」
「それはあんたが一番わかってるはずですよ」
「......東っ...」
「老」は目に涙を浮かべた。
「さあ、早く薬を」
「...わかった」
「老」は部屋を飛び出して、薬を取りに行った。
...あれ...俺は...
俺は目を開いた。ここは...おじいちゃんの屋敷...!「ボス」の部屋か...。
そういえば俺、おじいちゃんに撃たれて...弾が胸に当たって...死んだんじゃなかったのか?
じゃあ天国か...ここは...
「あっ!みんな、東が目を開いたぞおおおおお!!」
「「「「「「よっしゃあ!」」」」」」
ん...テンヌキの声...
「はっ!!」
「東、大丈夫!?」
「え?あ...一体、ここは...?」
「よかったあ...死んでなかった...!」
「て、テンヌキ、これはどういうことだよ!?」
「...実はね......」
.....................
「そんなことが...」
「でも...生きてて、ほんとによかった...!一事は、死んだかと...」
テンヌキが俺に抱きついてきた。
「すまんかった、湊太...わしは、薬を撮りに行ってやることしかできんかった...」
「いいっていいって!」
「な?怒らなかった」
カーソルがおじいちゃんの肩を叩く。
「...なあ、テンヌキ、この世界のシステムを変えるんだろ?」
「あっ。そうだ!」
テンヌキはおじいちゃんとしっかり向き合った。
「おじいさん、この世界の、『一斉処刑』のシステムをなくし、文字は、文字の寿命が尽きるまで生きていけるというシステムを、導入してもいいですか?」
「...ああ。では、民たちに伝えて来よう」
おじいちゃんは、部屋を出て行った。
するとすぐ、放送が聞こえてきた。
『これより、全てのLINEのシステムをなくす...「和樹」のスマホのあの初代「ボス」、「あ」様からの手紙を使い、「法律変更宣言」を行う!...この放送を聞いた者は、今から他のスマホのLINEの世界に行き、この放送の内容を伝えるのだ!!』
「あの手紙、まだ使えたんだな」
「制限とかないからね」
「じゃあこれで全部OKだな!」
俺は立ち上がって、帰ってきたおじいちゃんに言った。
「じゃあ、俺、帰るわ」
「......ああ。元気で」
「おじいちゃんも行くぞ」
俺はおじいちゃんの手を握った。
「...いや、わしはここに残って、『ボス』の使命を全うしたい」
「そんなに生きられんの?文字の寿命って3、4年じゃないの?」
「わしは特別じゃから。なんか寿命の日きても死なんかったし。人間の世界から来た奴は、人間の世界で全うする寿命で生きれるんじゃないのか?」
「そっか。...じゃあ」
俺は、テンヌキとおじいちゃんの手を握った。...あったかい...。
「二人とも、『ボス』の仕事、頑張れよ!」
「うん!」
「おう」
そして、俺はカーソルの手を握った。
「お前も、色々と、頑張れよ」
「おう!」
「おじいちゃん、通路、頼む」
「わかった」
おじいちゃんは自分が座っていた、大きな椅子をどかして、床を触った。すると、床が円の形にパカっと開いた。
「よし」
俺はその穴に入った。
「じゃあな、みんな、元気で!」
テンヌキ、カーソル、おじいちゃんが大きく手を振っているのが見えた。
これが、三日間の、「
「ふぐっ!」
気がつくと、あっという間に自分のアパートの部屋についていた。
「ぐっ!!!このっ!!!!!」
何故か、自分の下半身が、思うように動かない。慌てて下を見ると、...なんと、俺の下半身が、スマホのカメラの中に押し込まれていた!
「はっ?」
そうか、「戻れない」って、こういうことだったんだ...
バタン!
ドアが開けられた。
「ちょっとあんた!さっきからガサゴソガサゴソうるさいんだよ!!」
隣のおばちゃんだ。いつもこうやって、俺が少しでも大きな音を出すと、部屋に上がり込んでくる。(たまにちっこい音でも来ることがある。こいつは地獄耳だ)
「...っていうかあんた、何してんだよ...」
「!こ、これ、抜いてください!」
「いい大人が何やってんだい...」
そう言いながらも、おばちゃんは俺を引っこ抜いてくれた。さすが怪力おばちゃん。
「静かにしてくれよ!!」
おばちゃんはドアをバタン!と閉めた。
「お前のたてる音の方がうっさいんだよ...」
バタン!ドアがまた開いた。
「なんか言ったかい!?」
「い、いえ、何も...」
バタン!
地獄耳め...
二千二十一年、一月。俺は普段通りの生活を続けている。毎日毎日、朝、昼、晩、とSNS三昧だ。
...ただ、LINEを使うときは、いつも少しワクワクしている。
今日、急にテンヌキやカーソル、おじいちゃん、...「お」が、スマホから出てきたりしないかな、と、少し期待しながら、スマホの電源を入れた。
ピロン!通知が鳴った。
誰からだろう、と思い、アプリを開いた。
非通知
俺の目から、何故か涙が溢れた。
LINEの生活 -完-
ご愛読、ありがとうございました!
今まで本当にありがとうございました!
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