転落大戦 第三話 4.「VSトリケラトプス
今日結構長め
本編
手が震える。汗が大量に吹き出る。もう服がぐちゃぐちゃだ。汗が目に入る。汗までもが僕の邪魔をしてくる。息が荒い。できるのか?僕に…
引き金にかかる指が震えている。
トリケラトプス は物珍しそうに重厚に目を近づける。
いまだ。いま撃つしかない。
引き金に力を込める。息がまた荒くなる。ガチガチと歯が音を立てて震える。
いまだ。撃て!
引き金をグッと引いた。
キュイン
水色の光線がトリケラトプスに向かって飛ぶ。眩しい…目を瞑った。
ガン
当たった?
ゆっくり目を開けると、壁に穴が空いていた。
「くそっ…」
僕は片手で朋子を背負った。
はあ、はあ、と荒い息を吐きながら、僕は震える手足を必死に動かしていた。手に持った銃から水色の光線が発射される。それはあっけなく逸れてあらぬ方向へ向かい、壁を破壊する。「シャー!」とトリケラトプスが鳴く。勝利の咆哮だ。どことなく余裕がある目をしている。当たるわけがない。僕は射的が大の苦手なんだ。顔が涙と鼻水でぐちゃぐちゃだ。でも泣いている暇なんてない。朋子だって守らなくちゃいけない。さっきまで泣きじゃくっていた朋子はこんな時でも呑気に寝ている。よく寝れるものだ。放っておいてしまおうかと思う。でもダメだ。もう家族は朋子しかいない。トリケラトプスの足の裏には血がついている。これが夢であればどれほど良いだろうか。頬をつねる。痛い。夢じゃない。夢じゃないなら、戦うしかない。
生きるために、こいつを殺すしかない。
僕はまっすぐ銃を構えた。
引き金を…
トリケラトプス の手?前足?が振り上がる。その前足?が銃に向かって振り下ろされる。とっさに銃を手放してしまう。銃が飛んでいく。やばい。逃げるしかない。
朋子を抱える手に力を入れる。朋子を両手でしっかりと背負った。
目の前にはトリケラトプス。トリケラトプス を抜けないと玄関には行けない。つまり、玄関からは外に出れない。
うちのベランダは、玄関とは反対の方向にある。
よし。ベランダだ。
トリケラトプス に背を向けるのは怖いが、やるしかない。
トリケラトプス に背を向ける。にしてもなかなか襲いかかってはこない。まさか、追い詰めてから嬲り殺すつもりなのか。
まあいい。今は生きるんだ。
ベランダを開けた頃、ようやくトリケラトプス がこっちに向かってきた。
ベランダに出れば壁を突き破って隣の部屋に逃げれるかもしれない。
隣の人になんとか助けを求めるか…
…いや待て。
僕はさっき思ったよな。
生きるためにあいつを殺すしかないって。
なら…
かなり危ない賭けだ。でもやるしかない。自分で決意したんだ。
僕はベランダに出て、朋子の足をしっかりと掴んだ。
そして、
ベランダの外に飛び降りた。
「うわあああああああ」
智子が流石に起きて泣き出す。
やばい。思った以上に落下速度が速い。
4階だと流石に低かったか。
そこからはもう反射だ。
智子を抱えていない方の手で二階のベランダの壁?塀?を掴む。握力だけが僕の取り柄だ。
ギエエエエエエ!!
案の定、トリケラトプスは奇声を上げて落ちていった。
トリケラトプスはおそらくロボット的なものだ。普通に考えて、現代にトリケラトプスが復活するなんて、刃牙の世界じゃないんだからありえない。
目的も理由もよくわからないが、どこか…誰かが送ってきた、いわゆる?殺戮ロボットだろう。
つまり、このトリケラトプスの動きはプログラムされている、ということだ。
この仮説が正しければ、トリケラトプスのプログラムは自ずと見えてくる。
おそらくこんな、簡単なものだ。
目の前にいる人間(物体)は動いているか?
yes→物体に向かって進む。追いついた場合、殺戮を開始
no→動き出すまで待つ
余裕があるような目、や銃口を覗き込むなどはロボットだと思わせないためのカモフラージュか?
まあとにかくこのようなプログラムが組み込まれていたら、僕がベランダから飛び降りたら、僕という物体は動いていることになるため、トリケラトプスは(おそらく壁を壊した時に落ちてくる破片が落ちてこなかったため、壁を飛び越えでもしたのだろうか。わからない…)僕に向かって進む。つまり一緒に飛び降りてくるわけだ。たとえ僕が二階のベランダの壁に捕まっても、人を殺すためだけに作られたようなロボットが、反射的にベランダの壁に捕まるという判断はできるはずはない。そもそもあの前足じゃ、捕まるのも難しいだろう。
こんな、非現実的?突拍子もない?そんな根拠の薄い仮説を信じて飛び降りたが、正解だったみたいだ。
いくら握力に自信があろうが、いつか限界は来る。しかも片手で、僕だけじゃなく背中で泣きじゃくる朋子の重さもあるため、そろそろ限界だ。
滝のように汗が流れている。
手が痛い。壁を、朋子を、なんとか離さないように必死だ(智子は必死にしがみついてくれているので耐えれないこともないが、それにしても壁につかまっている方の手だ)。
だめだ。キツい。そろそろ落ちそうだ。
その時だった。
「へえ、自分、なかなかやるやん」
隣のベランダから声が聞こえる。
ボサボサの髪に眼鏡をかけた若い男だ。ラフな寝巻き姿で頬杖を突きながらこっちを見ている。
「結構困ってたんようちの棟も。あの鳥ケラなんたらとかいう恐竜にさあ。それを…多分新入りやろ?の自分がまさかあんな方法で倒すとは思ってなかったわ」
「あのっ…とりあえず…助け…」
「おう!任せとき」
そう言って彼はベランダの壁によじ登った。
「すぐ跳んだるわ」
と言ってしゃがんだかと思うと、彼は3m?4m?ほど離れている僕のつかまっているベランダに跳んできた。
「ほいさ」
彼は僕の腕を掴んで、グッと引き上げた。
「ここの部屋誰もすんどらんから、俺がおらんとやばかったな自分」
彼はハハハ、と高らかに笑った。
佐久間太郎と出会ったのはこの日のことだった。
第四話に続く