LINEの生活 シーズン1 完全版 (漫画でいう単行本みたいなものです。全シーズン作るつもりです。最終的にはちゃんとした完全版も載せます)
東湊太
ピロン!スマホの通知音がなり、東湊太(あずまそうた)は、自分が寝そべっていたソファーから身を起こし、スマホを取った。友人からLINEが来ている。
和樹{今日、予定ある? 7:00
湊太{特にないけど 7:01
和樹{お袋から映画のチケットもらったんだけど、来る? 7:01
湊太{いいよ 7:02
和樹{わかった!ホラー映画だからな!一時に駅に集合! 7:03
(げっ!よりによって大嫌いなホラー映画かよ…)
東はチッ、と舌打ちして、スマホを机の上に戻した。
東湊太。そこそこの中学、そこそこの高校、に通い、そこそこの大学を出た平凡な男である。年齢は二十七歳。恋人いない歴イコール年齢。ピザ屋でアルバイトをしているので、生活についてはどうにかなる。SNSをよく利用しており、主にTwitterやInstagram、ブログ、LINEなど、定番(?)のSNSを利用している。東は、普通の人より想像力が豊かで、小説家になることを夢見ている。ブログに小説を載せている。
ふう、と息を吐いた東は、朝食の準備に取り掛かる。いつものようにできた朝食の写真をInstagramに載せ、朝食を食べ、いつものようにTwitterに朝の呟きを載せる。東にとっていつもの日常。朝の呟きを載せた後、東はソファーに寝そべり、考え事をした。
元々この様に考え事をするのが好きな性格で、もう日課にまでなっている。いつもの考え事の内容は、別に重大なことではない。パンケーキとホットケーキの違いや、人形の作られるわけなどだ。(少しかわっているかもしれない)今日の話題(?)も、特に重大なことではない。今日は、「鉛筆とシャーペン、なぜ二つもあるのか」と言うことについて。鉛筆もシャーペンも、同じ様な機能を持っているのに、なぜ存在するのか?なかなか思い浮かばない。こんなことすることになるなら、どちらかはいらないのではないか?(ひどいとばっちりだ。鉛筆もシャーペンも何も悪くない)それならどちらをなくすべきか?
「う~んンンンンん?」
東はいつもこんなことをしているが、今まで一度も自分の満足できる結論は出ていない。
「あ~もうどっちでもいいか」
考え事が終わったのは8時ごろ。まだ時間はある。
「よし!ブログするか!」
東はパソコンに向かい、ブログを開いた。
東のブログで東がフォローしている人数は五千六人、フォロワー九千四百人。とても人気だ。ブログには、「東(ひがし)の長編小説」というタイトルがついている。ペンネームは「東(ひがし)湊太」だ。東は毎日、長編小説を一作書いて、ブログに載せている。ジャンルは主にSF、ファンタジーやミステリーなど。(恋人がいない歴イコール年齢なので、恋愛系は一切書いていない)『毎日こんなに長くて面白い小説が書けるなんて!』『あなたは天才ですか!?』など、コメントも好評である。そして今日も、長編小説を書き始める。
『その日』
「うーん」気に入らなかった様で、文字を消して書き直した。
『時は二千XX年』
「おお!良いじゃん!」多分今日書くのはSFだろう。
エンターキーをおし、次の行に移った。
『時は二千XX年。
日本は..』
カタカタカタ…
ピロン!小説を書いている途中に、スマホが鳴った。
「またLINEか?」
東はスマホを撮って、ロック画面を開いた。そうすれば、誰から来たのかわかるだろう。
『非通知 から、LINEが来ています 💬』
「は?非通知!?電話ならあり得るけど、LINEじゃあそんなはずないよな…」
少し戸惑いながらも、東はLINEを開いた。
非通知{相談がある 8:15
非通知{お前も来るか? 8:16
非通知{来い 8:16
「は?これ、壊れた?どういうことだよ?意味わからん」
LINEに非通知のやつからメッセージが来たこと、そのメッセージの内容の意味不明さに東は慌てた。
「悪戯か!?いや、でも…そんなことできるのか…」
と、その時!!!東のスマホが大きく光った!!!!!!
「な、なんだ!?」
ピカああああああああああ!!!!!
光が東を包み込んだ後。グニュ!東の腕が勝手にスマホの中まで動き———スマホの中から、漫画やLINEで使われるフキダシが飛び出し、東をスマホの中に引っ張り込んだ!!!
「や、やめ…」
スポン!
東がスマホに引き摺り込まれた後、
タンスから———東が出て来た。
文字の仕事①
「う、うーん」
起き上がった東は、スマホの中にいた。いや、これは東の意識が入った、「東」の文字、と言ったほうがいいかもしれない。そして、東の意識が入った、「東」の文字(何度も何度も東の意識が入った、「東」の文字と書くのはややこしくなるので、この後は東と書き表す)の目に映った景色は、想像を絶するものだった。
「は!?ここLINEの…」
東の目に映った景色を詳しく説明する。
そこには、私たちの世界にもあるような、5階建ての、煙突がついた大きな工場のような建物が、そこら中に、数えきれないほど並んでいた。その工場のような建物の壁には、小さな筒がついており、そこから、東のように、意識の入った文字が出て来ていた。その後、その文字たちは、さも当たり前のように大きなスマホの画面が映し出されている方に歩いて行っていた。東のいるスマホを使っている人間の指が、キーボードに触れるたび、平仮名、片仮名、漢字、英語、絵文字がスマホに向かって走っていく。
「なんだ…これ…」
今の状況をイマイチ理解できていない東のもとに、「お」の文字が駆け寄って来た。
「おい、お前、工場の近くで横たわってるけど…新人?」
今になって東は気づいた。自分は今工場の近くで横たわっているのだ。
新人?なんのこっちゃ?
混乱している東はとりあえず、
「は…?」
と答えておいた。
「ああもう!どうでもいいからとりあえず来い!!」
「お」の文字はがしっと東の腕(?)を掴んだ。
「ちょっと!何するんだよ?!」
「あ!説明すんの忘れてた!!!!!!!やっべ」
なんてことを東の話を無視してまで呟いている「お」の文字は、勝手に話を進めていく。
「説明?」
「おう。ここの世界のことをな…」
「お」の文字は、意味深なことを言って話し始めた。
東が考えてもいなかった、この世界のことを…
文字の仕事②
「ここは見ての通りLINEというSNSの世界。ここには数え切れないほどの種類の文字がいる。人間が何か文字を打ち込んだら、打ち込まれた文字のやつが、あの大きなスマホの中に飛び込む」
「お」は、すぐ隣の大きなスマホを指した。
「あ、あの、食事は…人間に姿を見られてないんですか…?」
「え?あ、ああ、お前、もともと人間だったやつ?!食事は大丈夫。ほら、食べ物の絵文字があるだろう?あれ、俺たちにだけ食べれるんだよ。なんで人間には姿を見られていないのかっていうと、ここはあの人間が文字を打ち込むのに使うキーボードの裏側の世界なんだ。だから人間には姿を見られない。なんでお前がここにいるかっていうのはな。ここには、お前らの世界でいう大統領的な存在が…。あ、なんで俺がこんな『大統領』とかの言葉を知ってるかっていうとな。政治に関心のある奴らが、よくLINEで話すんだよ」
結構おしゃべりらしい。「お」はおしゃべりの「お」なのかな、なんていうことを東が考えていると、
「おい!お前の文字が打ち込まれてるぞ!早く行かなきゃ!」
「お」の文字は、東を引っ張って行く。
「ちょ、ちょっと、総理大臣的な奴らが何してるか教えろよ!!」
「うっせえわ!これは文字の仕事!宿命だ!そのことは昼飯んとき話すから!さあ、スマホに飛びこめ!」
「お」の文字に言われるがまま、東はスマホに飛びこんだ(飛び込んだ、と言っても、自分の意思で飛び込んだわけではなく、「お」の文字に引っ張られているので、「お」の文字のせいで飛び込んだ、と言ったほうがいいのかもしれない)。
べたっ!
「え!なんだよこれ!?」
東はスマホにべったり張り付いている状態。
そうこうしているうちにも、次々といろいろな文字がスマホに張り付いていく。
「くそっ!はがれろ〜!!」
東は力を入れてはがれようとするが、びくともしない。
するとこのスマホの持ち主が、送信ボタンを押した。
べちん!
「うわっ!」
東はフキダシに貼り付けられる!もちろん、どうやっても動かない。
「くっそお!!!!!」
ピロン!ピロン!ピロン!ピロン!
返信が来て、東の張り付いた拭き出しは、どんどん画面の上に上がって行く。
そして東は、スマホの画面からはみ出した(つまり、返信がたくさん来て、スマホの画面に収まり切らなくなり、画面からはみ出してしまったということだ)。その途端、ぺらっ!東の体はスマホの画面から離れ、あの工場が立ち並ぶ街の地面へと落ちて行った…
「どうだ?初仕事は」
「お」が東を覗き込んで話しかける(これからは『お』の文字は、『お』と表す)。
「け、結構疲れた」
「ははは!そうか!結構きついよなあ!」
「はあ…」
そして東は、この仕事をやる前から、一番聞きたかったことを尋ねた。
「なあ、もう仕事終わったんだからさ、その、ここの総理大臣的な奴のことについて、教えろよ!!」
「よし…わかった。もう昼飯だから、話してやるか」
意味深な口調で、「お」が言う。
「この世界の秘密について…」
この世界の「ボス」
「この世界の総理大臣的な奴は、みんなから『ボス』と呼ばれている。その、『ボス』は、お前んとこの世界か、ここの『クニ』を治める、つまり、LINEの世界を治めるのが役目だ。主に、俺たちが作られるもととなる工場の管理や、食料の配給などが仕事だ。えーっとね、まれに、工場に事故が起こることがある。お前んとこの世界や、『クニ』でいう、停電とかだな。事故が起きたときは、文字や食料が作れないだろ?だから、人間の世界から、食料、緊急の時は人間を連れてきて、手作業で、そういう専門の文字が、LINEの世界で受け入れられる姿に変える。その中に、お前が選ばれたのだろうな。そして、厄介なことに、ここに来た人間は、人間の世界での記憶を残してきちゃうんだよなあ...気の毒だ」
と、カレーにサラダ、フライドチキンを机の上に並べ、生ビール(すべて絵文字)を飲みながら、長々と「お」がしゃべり終わった。その「お」に、うどん、おにぎり、コーラ(もちろんすべて絵文字)を並べた東が、うどんをすすりながら訪ねた。
「その『ボス』って、なんの文字なんだ?ちょっと気になるんだけど」
「それは家来の奴ら以外、誰も知らない」
「そっか...やっぱり、家来みたいなやつがいるんだな」
「ああ」
「ふーん...」
どんな文字かわかったら、そいつに頼んで人間の世界に戻ることができるんじゃないか、と思いながら、東は机の上を、ドン!と叩いた。
「じゃあ、『ボス』と接触する方法はないのか?」
「ない」
「直に接触できなくてもいいんだ!ほら、絵文字の電話があるだろう!?」
「ないね。できたとしても番号なんて誰が知ってる?」
「ぼ、『ボス』の居場所は!?」
「知らん」
「ぼ、『ボス』ってなんの文字なの?」
「さっきも聞かれた家来以外誰も知らんっつってんだろ!?」
「ぼ、『ボス』とセッショク...」
「もう質問はやめろ。俺が知ってる限り、方法はない。人間の世界に戻れる確率は低すぎる」
「...」
東は絶望して、少し黙った。
すると、「お」が口を開いた。
「俺たちは、ここで一生過ごすしかないんだ」
「?一生!?」
文字にも一生があるのか!?と、東は戸惑った。
「文字にも一生が?!」
「ああ。文字にも寿命はある。...まあ、実際には、殺されて死ぬ、といったほうがいいかもしれない」
「!?」
「知ってるか?毎年、スマホに出てくる文字のフォントは、ほんの少しだけ変化している。人間の目では見えないくらいな。そうやって、文字のフォントが変わっていくとともに、俺たちはボスに殺される。
それで、残念だけど、今年はもうあと一か月で終わるよ(笑)」
「あ!そうだった...」
そう、今、人間の世界は十二月。あと一か月しかない!それまでに東がこの世界から逃げ出せるという保証はない。
「お前、まだ逃げ出そうと思ってんのか?」
東は黙ったままだ。
「...ちなみにな、人間の世界の旧暦は、こっちの世界の旧暦と同じだ。全然関係ないけどな」
「っ!頼む!」
東は頭を下げた。それが運悪くうどんのお椀に頭を突っ込むことになってしまい、頭がやけどするくらい熱くなったが、そんなこと言ってられない!
「俺の仲間になって、ここから抜け出すのに協力してくれ!」
「ムリだ」
「おい...」
「お」はしらけた顔で続ける。
「リスクがデカ過ぎる。そんなことまでするメリットなんか無い。俺は死ぬまでここで暮らしたい。ビール飲んでゆったりとな」
なぜかあたりが少しざわめく。
でもそんなの関係ない。
「じゃあ...」
東は最終兵器を出すことにした。
東は皿を持ち、地面に叩きつけて、割った。
「お、おい、何するつもりだ...?」
東は無言で、割った皿の中でもとりわけ大きなものを取り、「お」に向けた。
「お前の命はここで終わりだ!!!!」
「きゃあああああ!!!!!」
あたりの文字が悲鳴を上げる。
「ま、待て、殺すことだけは...」
東は殺意の湧いた目で「お」に向かって走って行った。
「ムリだ。嫌なら俺に従え」
「っ...」
野次馬の文字は、ただ悲鳴を上げて見ている。
東は「お」との距離を詰めていく...
「殺ってやる...」
「わかったわかった!!わかったから!仲間になるから!!ただし、ほんのちょっとサポートしてやるだけだぞ?」
すると東は、顔をぱっと明るくして、
「ありがとうございますう!」
と言って、何度も何度もお辞儀をした。
野次馬は、訳がわからないがなんとかおさまったらしい、と、安堵の表情を浮かべ、二人(?)から離れて行った。
「ま、まあ良いよ」
「さっきはあんなことしようとしてすまん。これからは二人でがんばろうぜ!!!!!!!!」
「おう!」
ニコッと笑った二つの文字は、(二人(?)と表すと、ややこしくなりそうな気がしたので、これからは二つの文字と表す)ハイタッチをした。
「よし!じゃあ、仲間集めるか!」
「え?まだ仲間集めんの!?これで充分じゃない?」
「いや、俺たちだけじゃほぼ不可能だ。それに、ここに迷い込んだ、もともと人間だった奴も逃してやりたいだろう?」
「...そうだな」
「お」は、案外優しい奴なんだな...と、東は思った。
「じゃあ、お前らの世界でいう、『広告』かなんか作って、呼び込もうぜ!」
「え!?そんなことできんの!?」
「ああ、ついてこい!」
「お」は東の手を引っ張って行って、立ち並ぶ工場の中にある、「絵文字工場」に連れて行った。
「『絵文字工場』?」
「そう、ここで、パソコンの絵文字と、印刷機の絵文字をもらう」
そこで東の頭に、疑問が浮かぶ。
「パソコンの絵文字は...あったような気がするけど、印刷機の絵文字なんかあったか?」
「作って貰えば良い」
そう言って「お」は、どこから取り出したのか、クレジットカードのような大きさのカードを出した。そのカードには、「『ボス』家来団」と書かれている。
「え!?お前、『ボス』の家来だったの!?」
「昔はな」
「お」はそのカードを上に投げた。カードはクルクルと回転し、力尽きたように「お」の手の中に真っ逆さまに落ちて行った。「お」はカードをキャッチし、ニコッと笑った。
「お前は入ってくるなよ。ここは『ボス』の家来しか入れない。お前が入ると殺されるぞ?」
「お」はわざとらしくおどけたジェスチャーをし、「絵文字工場」へ消えて行った。
絵文字工場
「絵文字工場」のドアが開いた。ここは二階建ての工場。一階が受付で、二階が工場だ。ここは、誰でも好きなように工場に入って絵文字を作って良いわけじゃなく、一年以上、「『ボス』の家来」という肩書きがないと入っては行けない仕組みになっている。
「お」が受付の前に歩いていく。受付は相変わらず清潔だ。受付にいる、「管」の文字が、「お」に言う。
「カードをお見せ願います」
「お」は持っていたカードを受付の目の前に持っていく。
「では、このカードが本物かどうか確かめます...多分本物でしょうけど」
「早くしてくれ」
「管」の文字は、奥から虫眼鏡をとってきて、カードにかざした。
「...」
「...」
しばらく沈黙が流れた。少し経って、カードの隅々を虫眼鏡で見ていた「管」の文字は、
「本物でした。やっぱりね...。では、工場まで...」
「いや、別に良い。自分で行ける」
「...では」
「お」は二階へ行くための階段を登る。
ここには何回もきている「お」。だが、毎回カードを調べられる。何回ここにきた文字でも、武器なんか作られて街中でぶっ放されたらたまったもんじゃない、と思っているのだろう。
「お」は二階についた。ここにも受付がある。「お」は受付の「作」の文字に言った。
「パソコンと、印刷機の絵文字を作ってくれ。もちろん、ネット環境とか細かいこと全部やっといてくれ」
「かしこまりました。では、少々お時間いただきます」
「作」の文字は、工員たちに指示を出す。そして、三分ほど経って(早いな)、「作」の文字が、箱を持って歩いてきた。
「相変わらず早いな」
「はい、それがモットーですので。では、こちら、パソコンと印刷機です」
「ありがとう」
「少し伺ってもよろしいでしょうか?」
「何だ?」
「これ、何に使うんでしょうか?小説でも書いて、本にするんですか笑」
「まあ、ちょっとね...」
「まさか...例の件...!?」
「黙ってくれ」
「お」は一階におりて行き、工場の外に出た。
「どうだった!?」
工場にもたれかけて座っていた東は、「お」がくるとすぐ立ち上がり、「お」に聞いた。
「お」は箱の蓋を開け、中身を東に見せ、ニコッと笑いながら、言った。
「これで準備OKだ!じゃあ、『広告』作ろうぜ!!!!」
「ちょっと待って、あんまり目立つことしたら...」
「殺されるかもって?それとも捕まる...。お前、結構この世界のシステムわかってきたじゃねえか。...まあ、実際そうだけど、俺たちもそんな馬鹿じゃない。捕まっちまったら、抜け出すも何もねえ。家のポストに、こっそり入れれば良いじゃねえか。ここの世界の新聞配達のやつに紛れて...」
「家!?家なんてどこに...」
「お前馬鹿か?!家がなけりゃどこで寝れば良いんだよ」
「野宿...」
「お」は大袈裟なため息をついて言った。
「あっちに家がある。あっちで俺たちは過ごしてるんだ」
「お」が指差した先は------地平線の向こうだった。
「さ、もう遅くなったし、家に帰ろう!」
「あんなところに...家なんてあるのか!?」
「あるったらある!!!こい!」
「お」は東の頭をがっしりと掴んで、引っ張った。
「ちょっ!いてえ!やめろ馬鹿!!」
東の声が、誰もいない工場の周辺に響いた。
仲間集め
東は、「お」の家に着いた。中は普通の一軒家、と言う感じで、少し違和感があるのは、家具が全部絵文字だ、と言うことだ(まあしょうがないことだが)。
「なあ、『お』?」
「ん」
東は、ずっと疑問に思っていたことを尋ねた。
「今、俺はLINEの世界にいるわけじゃん?じゃあさ、人間の世界での、俺の存在はどうなってんの?」
「お前の世界では、クローンのお前が働いてる。クローンは、お前が今までしたこと、見たこと、聞いたこと、全部の記憶が埋め込まれてる。そいつは、お前の分身みたいなやつだから、お前の日常を毎日繰り返してるだけ。今日は友達となんかしてんじゃねえか?」
「そっか...」
自分のクローンなんか、考えただけで恐ろしい。そのクローンは、今、何をしているのだろうか?東のやり残したことを、楽しんでいるのだろうか?
東がしゅんとしていると、その空気を振り払うように、「お」が言った。
「そんないつまでもメソメソしてたら、人間の世界なんか戻れねーぞ!!!早く広告作れ!!!」
「お、おう!!」
「あともう二十九日しかねーぞ!!」
「やるぞ!!!!!!!!!!!!」
東の心にあった後ろ向きな気持ちは消えた。「お」には、周りの人を元気付ける力があったんだな、と、東は思った。
「よし、じゃあ、パソコン開いて...」
「待った、広告は俺が作る」
「え?!できんのか!?」
「は?何でそんなこと」
「さっきまでずっと子供みたいにメソメソメソメソしてたくせに...」
ぐさっ!
「う、うるせえ!まあ見てろよなあ...」
東はパソコンに向かい、広告の文字を打ち始めた。
「パソコン操作すんのは得意なんだよ!!!」
「お」が東の手元を覗き込むと...
「うおっ!こいつ、やべえ!!」
東は、目にも止まらぬスピードで、文字を打ち込んでいく。
「できたぞ!!」
「おお!!すげえええ!」
「どうよ?」
「み、見直したわ...」
「じゃあ、印刷機の電源入れて...」
「おう!」
ポチッ!ウィーン...
「「印刷!!!」」
印刷機から、東の作った広告が出てきた。
ウィーン...ウィーン...ウィーン...
「おおお!!!」
「どんどん出てこ〜い!!」
ウィーン...ウィーン...
三百枚ほど出てきたところで、「お」は印刷機を止めた。
「よし!こんだけあれば...」
「二人くらいはくるかなあ....」
「頑張るぞ!!!」
「おう!!!!!」
そして二人は、眠りについた。
「------お、おい!」
「んあ〜〜?」
東は目を覚ました。「お」がいう。
「おい、早くいくぞ」
「ヘア?今何時?」
「自分で見ろ」
東は渋々、置いてあった絵文字の時計を見た。そして...
「はあああああああA AAAAAAAAAaaaaaAAAAAaaaaaaaa ???」「
と、悲鳴のような声をあげた(まあ、無理もないが... )
「よ、四時!?朝の!?」
「ああ」
「ふっざけんなあAAAAAAA!!早すぎだろ!!」
「あんま目立ちたくないから、早めに行きたい」
「いやいやいや!!!そうだけれども!!!俺、まだねむ...ねむ...くない!!」
「さっきあんだけ叫んだんだから...もう眠気も覚めただろ?さ、いくぞ!」
「ちょっ、飯は?!」
「後で」
「え!?ひどくない!?」
「知らんわ。いくぞ」
「ヤダ〜〜〜〜」
「お」は駄々をこねる東を引っ張って、三百枚の広告を持ち、外に出た。
テンヌキ
「よし、じゃあ、お前には半分渡すから、ヨロシクぅ!」
そう言って「お」は、東の手に、明らかに二百枚を超えた量の広告を手渡した。
「ちょっ?は!?これ、明らかに二百枚超えてるよな!?」
東が手元の広告から目を離したときは...もうとっくに手遅れだった。
「あいつ、帰ったらドロップキック食らわせたる...」
と、東は半ば呆れたような顔で言った。
「と、言うことで、お前にドロップキックを食らわせまぁす☺️」
「ひえっ!?」
帰ってきてから東が最初に放った言葉がこれだった。
「良いよね☺︎」
東はニコッと笑いながら言う。
「い、いやあああああああああああ!!!!」
「お」は少し泣いている。でもそんなこと知らん。
「俺の苦労を思い知るが良いい」
「やめてくださいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!」
プルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!
電話がなった。
「チッ、こんな時に...」
「や、ヤッタァ!!」
「お」は今は時間が止まってる、とでも言うように、踊りながら電話をとった。
「はいぃ、もしもし?...えっ!?......本当ですか!?...はい、はい。今から!?......わかりました!...はい。...どうぞ!おいでください!」
がちゃっ、と、受話器が置かれた。
「何の話だった?」
「今からここにくるって!!」
「誰が?」
「この世界から抜け出したいって言う文字!!!」
東と「お」のもとにやってきたのは、「玉」の文字(以下「玉」)だった。
「俺、ここから抜け出したいんです!『ボス』に支配されるなんて、まっぴらごめんだ!!!!...僕、もともと人間で、この世界に連れてこられて、『ボス』の元で働いていて、理不尽な体罰を受けていて...」
「お」が、ピクッと反応した。
「だから、早く人間の世界へ行きたいんです!!あなたたちに協力します!ここから出ましょう!!」
「もちろんですよ!なあ、東!」
「おう!」
「じゃあ、みんなで頑張りましょう!」
三つの文字は、ぐっと手を握り合った。
「ちょっとおさらいしていいか?」
東が口を開いた。
「ここは人間界のような世界で、血の通った文字がいて、街などがある。人間界と違う点は、文字がいること。後、文字や絵文字を作る、工場があると言うことで良いか?」
「そんな感じだな」
「そうですね」
「ああ、よかったよかった。...じゃあ、改めて自己紹介するか!」
「じゃあ、俺から」
「お」が話し始めた。
「俺は見ての通り『お』。俺はこの世界で、文字として生まれ、こうやって毎日働いて生きてる。多分、この『お』って言うのは、おしゃべりの『お』だと思う。俺、おしゃべりだからw」
こいつも自覚してたのか...と、東は思った。
「俺は『東』。ひがしって書いてあずまって読むんだ。俺も『玉』と同じように、もともと人間で、三日前にここに来た。人間の世界では、ピザ屋でバイトして暮らしてる」
「僕は『玉』です。僕も人間の世界から来ました。...人間の世界では、信じられないかもしれませんが、スパイをやっていました」
「スパイ?じゃあ、コードネームとかあるの?」
東が、興味深そうに尋ねた。
「はい。そこで呼ばれていた名前は、『テンヌキ』です」
作戦
「『テンヌキ』...」
「お」が何か考え込んでいる。
「ちなみに、スパイの世界では、誰も本名を明かしませんし、そもそも、仲間の顔も見れません。情報を漏らさないようにするためでしょうね、きっと」
「そうか...」
「『お』、さっきからなんか考え込んでいるが、どうかした?」
「いや、別に」
「ふーん」
明らかに「お」は何かを隠している。だが、向こうが何もないと言っているのだから、これ以上問い出しても無駄か、と、東は質問をやめた。すると、「玉」(テンヌキ)が口を開いた。
「なんか、『玉』って呼ばれるの、そんなに慣れていませんので、これからは、『テンヌキ』と呼んでもらってもよろしいですか?」
「ああ、全然良いんだけど......お前、いや、テンヌキも敬語やめろよ!水臭え!」
東が言った。
「は、はい、わかりました!」
「だから敬語やめろって(笑)」
「う、うん!」
はははははは!
東とテンヌキの間には、和やかな空気が流れた。だが、「お」だけが、意味深な表情でテンヌキを見ていた...。
「よし、じゃあ、明日にでも、逃げ出そうか。ここには、人間の世界へ行ける、通路がある。そこから逃げ出そう」
テンヌキは、早くも敬語を話す癖が治ったようだ。
「ちょ、ちょっと待った!お前、何で、『ボス』の屋敷のことについて、こんなに詳しいんだよ!?」
「確かに...」
「まあ、僕はボスの秘書だったからね。そこから何とか抜け出してきたよ」
「そんな奴が屋敷に潜入して、見つかったらどうすんだよ」
「お」は観察力が高いのだろうか?実際、「お」は結構鋭い質問をする。今は結構それが激しいらしい。警戒しているのだろうか?
(だとしても...もう、そんなに警戒しなくても良いんじゃ...?)
もう、結構馴染んできているのに、少し用心深すぎではないか?と、東は思った。
「大丈夫、考えがある」
「考えって...」
「今はここから抜け出すのが最優先だよ。こんなことを話していても時間の無駄だ。早く作戦を立てなきゃ」
「...わかったよ...」
「お」もやっと納得したのか、テンヌキに従う。それを聞いていて思った疑問を、東が聞いた。
「なあ、俺がこの世界にきた時は、人間の俺は文字になったけど、もともと文字だった奴が、人間の世界に行った時は、どうなるんだ?ボスのいっちゃん近くで働いてたテンヌキはわからないのか?」
「ああ、それなら知っている。もともと文字だった奴が、人間の世界に行った時は、その文字は、新しい人間として生まれ変わる」
「!じゃあ...」
「俺も人間の世界に行けるってことか!!行ってみてえええ!人間の世界!!」
「お」はとても興奮している。それをみたテンヌキは、ふっと微笑んで言った。
「そのための作戦を立てているんだよ。だから、頑張ろう!
「うおっシャア!やろうぜ!!」
「おう!」
東と「お」の目には、火がともった。そこで、テン貫が、屋敷の屋敷の簡単な地図を描いて言った。
屋敷は、お城のような見た目だった。一階の門の奥には、エレベーターがあり、そこには、家来の「守」の文字がずらっと並んでいる。二階、三階、と、様々なフロアがあり、七十階に「ボス」の部屋がある。屋敷の隣には、六十階ほどのビルが建てられており、そこが家来たちの住む場所になっている。
「さすがに入り口...門から入ってもダメだから、ここ、マンホールから入る」
テンヌキは地図に、マンホールを描き足した。
「マンホール!?」
「そう、この屋敷から少し離れた公園のマンホールは、実はエレベーターの前とつながっているんだ」
「よく誰も気づかなかったなあ...」
「僕が初めて気付いたんだ。...そして、『ボス』の部屋には、人間の世界への通路がある。ここから逃げるんだ」
「お前、結構詳しいな」
またもや「お」が言った。ついに東もうんざりして言った。
「『お』、お前、警戒してんのか?警戒しすぎだぞさすがに鬱陶しいわ」
「...」
「お」は黙ったままだ。
「確かに警戒するのも無理はない。...僕は、『ボス』の秘書で、唯一、秘密を伝えられていたんだ。だからこんな感じの情報を知っている」
「その情報は本当に正しいのか?」
「おい、『お』!分かっただろ!?警戒しすぎだって!」
「まだ警戒しているのか...僕は本当に秘書だった!......君なら知っているだろう?」
「お」は、テンヌキの意味深な質問を無視して、
「お前が本当に秘書だったと言う情報は!?お前は偽物かもしれない!俺たちにデマを...」
「『お』!!」
「...今、家来たちの様子が変だろ?少し焦っているじゃないか。僕を見つけたら、直ちに捕まえろ、と言う放送がそろそろ...」
テンヌキが言いかけたところで、放送が流れた。
『「ボス」の秘書、「玉」の文字が、今日、屋敷から逃亡しました。見つけたら、直ちに屋敷にご連絡ください。番号は...』
「...これで分かってくれた?大丈夫。作戦は僕が成功させる!これからはお互いに信頼して行こう」
「...分かったよ」
「お」は少し笑って、テンヌキと握手をした。
東は、その光景を、微笑んで眺めていた。
だが、テンヌキと握手をする「お」の顔は、思い詰めたような表情だった...
シーズン2に続く(シーズン2連載中!)
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