LINEの生活 シーズン5(最終章)完全版
判断
見慣れた光景が広がった。立ち並ぶ数々の工場。なぜかあたりが騒がしい。まるで、電波に不都合が起こって、テンヌキのいたLINEの世界に戻ってしまったようだ。
東は自分のいる場所を確かめるため、聳え立つ大きなスマホに駆け寄った。
『和樹』と表示が出ている。
クローンの東は、まだ和樹とLINEをしているようだった。
「よし、じゃあ...」
東はクルッと後ろを向いた。屋敷が見える。
「行くぞ...ってうわああ!」
東が走ろうとした時、誰かに頭を掴まれた。
「だ、誰!?」
東は掴まれた頭に顔を向けた。そこには、いわゆる「カーソル」がいた。
「あんた、何しようとしてんの?」
カーソルの頭を握る力が、少し強くなったような気がした。
「痛い痛い!頼むから放せ!」
すると、急に握る力が弱くなった。
「うおっ!」
東は尻餅をついてしまった。全身に痛みが走った。
「ってえな...」
「で?」
「は?」
「何しようとしてんだよ」
「うるせえ!お前にはかんけえのねえことだ。それよりお前こそ何なんだよ!?普通初対面のやつの頭掴んで、地面に投げるか!?」
「投げてはいない」
「でも実際、投げられたみたいになって...。ああ、もう!そんなことより俺は行かなきゃいけないんだ」
東は立ち上がり、走り出そうとした。が、前に二歩足を出した途端、今度は足を引っ掛けられ、前のめりになった東は、派手に転んだ。
「ぐおっ!もお、!何なんだよお前!??」
東は後ろを向き、カーソルを睨んだ。
「カーソルですが何か?」
「わかってるよそんなこと!ああもう!お前ほんとにメンドくせえやつだな。...お前、仕事しなくていいのか?お前なんて大抵スマホに張り付いてないとやってられんだろ?」
「よく言われる。...今は別の人がやってくれてる」
東は立ち上がり、カーソルに言った。
「で?何回も引き止めてきたけど、何?何か用?」
「『ボス』の屋敷に行くのはやめといた方がいいよ」
「は?何でだよ」
カーソルは一瞬言葉をつまらせたが、続けた。
「ここの世界は、今日が一斉処刑の日で、警備が堅い」
「?...何で?」
「だから今日が一斉処刑だから警備が...」
「何で今日が処刑なんだ?今日はまだ二日だぞ!?」
「ここの一代目の『ボス』が決めた。ちなみに『ボス』は、この世界の『ボス』の頂点なんだ。実質、コイツが全てを牛耳ってると言っても過言ではない」
「!!?じゃあ-----」
「処刑は何時にやられるか知ってる?」
東が何かを言いかけたが、カーソルが話を遮った。
「いや...?」
「今日の夜九時。その時は、全ての工場のシステムを切って、LINEのサービスを止める。人間の世界では何とかごまかしてる。あとさ...」
カーソルは東を引っ張っていった。東が連れて行かれたところは、前にいた和樹のスマホでは見たこともないような、広場があった。その広場では...「ボス」の家来であろう「守」の文字の団体と、その他の文字が、武器を持って争っていた...。
「これって...君がきたときに起こったテロ?...っていうのかな?その時、まあついさっきなんだけど、君がここにきて横たわっているのを僕が見つけてすぐ、スマホから、大量の文字が出てきたんだ。それで、東ー!!とか何とか叫びながら、『そいつだけずるいぞおお!!』って。それで、なぜかそこらへんの家に入って、ナイフとか色々奪って、こんなことになったんだけど...これって、君となんか関係ある?」
東は震えながら答えた。
「あるよ...大ありだよ...あずまって、俺だからさ........」
「!?じゃあまさか...」
「ああ。...俺の......俺のせいだ...」
東は頭を抱えて座り込んだ。
「...どういうことなのか聞かせてもら-----」
「俺が人間の世界に行きたいとか言ってたから...」
テロのやっている方を見ると、ついに怒りが頂点に達した「守」の文字たちと、テンヌキのLINEの世界の住民との、殺し合いが始まっていた...
血飛沫が舞い上がっていた...。
「俺のせいで...テンヌキのスマホのみんなが...全部、俺のせいだ...!!」
そこへ、東たちのもとに、テンヌキが走ってきた。
「あ!新しく和樹のスマホの『ボス』になったって...!!」
「うん、そうだよ。それより東!!!」
テンヌキはうずくまっている東を揺さぶった。
「君は自分で何をしたか理解してるの!!?君は判断を間違えた!寿命が尽きるまで、僕の治めているLINEの世界にいればよかったのに!!!」
テンヌキは大声を上げた。一瞬近くにいた文字が動きを止めたが、すぐにまた動き始めた。
「どうするんだよ!!」
「テンヌキ!!」
東が怒鳴った。
「俺は確かに判断を間違えた!!けど、今からでも、正しくすることはできる!!判断を間違って、そのまま終わりにはしたくない!!俺が判断を間違えたんだからな、俺が正しくしてやるんだよ!!判断なんて、何回だって間違えてやる!!そのたんびに、俺が何回でも正しくするんだよ!!!!」
「東...」
今まで黙っていたカーソルが、口を開いた。
「君はいいことを言っていると、僕はおもう。でも、どうやってこの状態を良くするんだ?何か考えがあるのか?」
「ずっと考えてたんだ。...賭けに出る。こうするしかないんだ...これしかない」
東は二つの文字に作戦を耳打ちした。
「...それは...」
「うまく行くのかな...」
「俺の判断を正しくするには、これしかないんだよ...!俺は、世界を変える!!」
テンヌキとカーソルは、
「まあ、頑張ってみよう。この世界を変えよう!!」
「「「『ボス』の頂点をぶっとばああす!!」」」
三つの文字は武器を持って、それぞれの持ち場へと歩いていった。
東とカーソルは、屋敷へ侵入する係だ。テンヌキは---いずれ分かる。
東たちは、家来に見つかりにくいルートを調べておき、そのルートを使って、「ボス」の屋敷に侵入することにしたのだ。
「ボス」の屋敷の入り口についた。ここでは家来に見つかった。でも...好都合だった。
「行くぞ!!」
東とカーソルは、銃を構えて、「守」の群れに突っ込んでいった...!!
おじいちゃん
「ねえ、おじいちゃん!今日はどこへ連れてってくれるの?」
「そうじゃなあ...」
2004年(当時の東は6歳)、東湊太は目を覚ましてすぐに、自分のおじいちゃんに声をかけた。
「今日は仕事はないし、遊園地でも行くか!」
「やったあ!」
東のおじいちゃんは、携帯電話製作会社の社長だ。大体30歳くらいからこの仕事を始めて、60歳を過ぎてもまだ、この仕事を続けている。
「こーら!今日はダメでしょう?3時から歯医者に行くんだからね?」
東野お母さんが、寝癖を治していない髪のまま、東を叱った。
「えー!?おやつの時間じゃん!うっそお!歯医者さん嫌だ嫌だ嫌だあ!!!」
「わがまま言わないの!」
「まあまあ、静花さん、ちゃんと歯医者さんの時間...1時半には帰っておきますから、いかせてやって良いじゃろう?この子だって毎日、静花さんやワシの手伝いで疲れているんじゃよ。だからちょっとくらい、息抜きさせてやっても良いでしょう?」
おじいちゃんは、優しい声でそう言った。
「まーたそうやって湊太を調子に乗らせて!......今日だけですからね?ちゃんと約束通りに帰って...」
静花は圧をかけた。
「わ、わかっとる、わかっとる。さあ、湊太。早く用意しなさい」
「わーい!やったあ!ありがとう、おじいちゃん!」
おじいちゃんは、ニコッと微笑んで、東の頭を優しく撫でた。
3時になっても、二人は帰ってこなかった。
「マぁマぁー!おじいちゃんとはぐれちゃったァー...」
東が泥まみれになって家に帰ってきたのは、5時12分のことだった。
「ちょっ、湊太!どうしたの!?」
「おじいちゃんが、電車降りてすぐに......急にいなくなっちゃってぇ...」
「いつ!?どこらへんで!?」
そんなことを聞いたって無駄なことを、静花はわかっていた。まだ6歳の子供に、そこまで具体的な説明はしにくいだろう。...大好きなおじいちゃんとはぐれ、悲しみに暮れている子供は特に...
案の定、東はただ泣いているだけだった。
「うわあああああん!!」
「電話、つながらないわね...」
「けーたい、つながらないの...?」
静花は大きなため息をついた。
「東、歯医者さんの予約は、明日にしておいたから。おじいちゃんが帰ってくるまで待とうか...」
「嫌だ嫌だ嫌だあ!!おじいちゃんを探しに行くゥ!」
「...」
静花も、すぐにでも探したかった。でも、電話もつながらないのでは、どうやって探せばいい?何の手がかりもなしに...もしかしたら、最悪の状態になって見つかるかもしれないじゃないか...!!
(でも、そんなこと...湊太に言ったら...)
言えない。絶対に言ってはいけない。
でも、この子は、目を離した隙に、勝手に行ってしまいそうで...
「わかった。行きましょう」
「おじいちゃーん!!」
「修二郎さーん!」
人通りの少なくなった6時の街を、二人はあてもなく、彷徨っていた。
「...いないわね...」
「そんなぁ...」
東が目に涙を浮かべる。静花が、それを宥めようとすると、
「おい、湊太、静花さん、そんなところで何しとるんじゃ?」
「!おじいちゃあん!!」
「修二郎さん!」
修二郎が、何やら大きな袋を抱えて、東たちの元へやってきた。
「何でこんな...この子から目を離すようなことをするんですか!!」
「いやぁ、すまんのう...。前に、湊太が、これを欲しがっていたのを思い出しての...」
そう言って修二郎は、大きな袋の中身を取り出した。
「あっ!それ!」
それは、東が前に、テレビのCMでそれを見て、「欲しい欲しい!これ欲しいいいい!!」と駄々をこねていた、ミニカーの道路セットだった。
「まさか...それを買っていて!?」
「すまんすまん...つい、湊太の喜ぶ顔が目に浮かんだもんで...」
「おじいちゃん!ありがとう!!」
「...はあ、......もう、こんなこと、やめてくださいよ...」
静花は、大袈裟なため息をついた。
2007年。東のおじいちゃん、つまり、東修二郎は、LINEのサービスを開発した。よほど自分が作ったと知られたくなかったのか、世間に公表する際には偽名を使った。それは、東が8歳の頃だった...。
2008年。修二郎は、癌を患い、病院で、寝たきりの生活を始めた。修二郎は、病院でも、スマホをいじっていたらしい。
2009年の正月。病院から、修二郎が消えた。
現代。
東は、薄れゆく意識の中で悟った。これが、あの「走馬灯」と言ったやつだ...てことは自分は、そろそろ死ぬんだ...と。
何で今更こんなことを...こんなに平和だった頃を思い出すのだろうか...
東は、血で染まった自分のお腹を抑えて、後ろに倒れた。
「東ァーーーーーーーーーーーッ‼︎‼︎‼︎」
「東」という人間
時は少し遡り、東たちが「ボス」の屋敷に潜入した頃...
ダダダダダダダダダダ!屋敷中に、激しい銃声が響いている。
「殺すなよ」
「ああ...」
二つの文字は、小さな声で耳打ちし合う。そして、エレベーターから家来を遠ざけるように、エレベーターと距離をとった。すると、家来も東たちの動きに合わせて、こちらに近づいてきた。
まだだ...。じりじりと家来を近づける...。
まだだ...
まだだ...
「今だ!!!」
東は叫んだ。それと同時に、東とカーソルは、エレベーターへ駆け出した。
「っ!!しまった...!!奴らを確実に捕らえなければ!!」
家来たちは、エレベーターに全速力で走ってくる。
「おい!!急げ!!」
「わかってるから!!」
東は「閉」のボタンを押した。
ドアが閉まりかけた時、「このっ!」ガッ!家来がエレベーターのドアをこじ開けようとする。
「やべっ!」
ダダダダダ!東はボタンを連打する。
グググググ!家来はドアをこじ開けようとする。
ダダダダ!
グググ...グ...
疲れたのか、家来のドアを開ける力が弱くなった。
「よし!!」「今だ!!」ダダダダ!
ポーン!
「閉まったあ!!」
東とカーソルを乗せたエレベーターは、七十階へ上がっていく。
「ついに『ボス』とご対面かあ...」
「...東」
「ん?」
表示が、十階になる。
「やっぱり、無茶だよ......こんな作戦...」
「馬鹿野郎...今更何言ってんだ!もう引き返せねえところまで来たんだぞ?」
「......もし、もしもさ」
エレベーターの表示が、十五階になる。
「もし、俺が『ボス』のスパイだったらどうする?」
「......どういうことだよ...?」
カーソル...スパイなのか!?
「お、おま、お前、スパイだったのかよ!!」
「...ちゃんと協力はするし、裏切ったりはしない。でも、もしもそうだったらどうするって話さ...」
「...俺は、ただの、最低なやつだ。そいつがどんな奴か、どんな性格か...そいつと関わって俺は得するか...そんなことを考えてからしか、行動できない。...もし、嫌いな奴が死にかけていて、俺に助けを求めていても、俺は助けない...当然の報いだって思って...いい気分になる...。まともに本音で語り合える奴なんて、親友しかいねえよ...。...もしかしたらみんな、そんなやつかもな...」
エレベーターは、ぐんぐん上に上がっていく。
「じゃあ、...僕はどうなんだい...?僕はその...東にとっての『関わって得する奴』?『好きな奴』?」
心なしか、エレベーターのスピードが上がった。
「それとも、『関わっても得しない、嫌いな奴』?」
「...お前がスパイだってどういうことだよ」
「だからそれは例えばだって...」
五十階...
「......深く関わった奴じゃないと、そんなにすぐには決められないな...。けど、今日俺たちは深く関わることになる。だから.......」
六十階...
「もしかしたら決まるかもしれねえな、お前のこと、俺がどう思うか」
東はカーソルに向き直った。
「もうおしゃべりは禁止だ。分かったか?」
カーソルは、大きく頷いた。
「行くぞ!」
エレベーターの表示が、七十階になった。すると...
「なっ!?」
ぬっと「守」の文字が...
「守」の文字は、手に持っていた金槌を振り上げた。
「くっ!!」
カーソルが銃も向けるが...手遅れだった。
ドカッ!ドカッ!
「っあ゛ッ!!」
金槌は、二つの文字の頭に激突した。
(くそっ...こんなところで......見つかる...なん...て......)
東とカーソルは、気を失った。「守」の文字は、二つの文字を、「ボス」の部屋まで運んで行った...
「んっ...痛ってえ...は!?」
東は目を覚ました。わけがわからなかった。手足には、枷がはめられている。隣にはカーソルがいる。まだ気を失っているようだ。カーソルも同じように、手足に枷をはめられていた。
自分たちは今、「ボス」の部屋にいるらしい。「お」の部屋と全く同じ造りだった。
...一つ、違う点を挙げるとすれば、「ボス」の席に「老」の文字が座っていることだった......
放送
「う...ウ゛....あ...!?」
カーソルも目を覚ましたらしい。カーソルは、目を見開いて、「ボス」の席を見ていた。
「ど、どういうことだよ!?おじいさん‼︎‼︎‼︎」
「......湊太...覚えているか?」
「ああ!あんたは俺たちを助けた...おじいさんだよ!...ってかなんで俺の名前知ってんだよ??」
「...以前、わしをどこかで見た、と思ったことは無かったか?」
どういうことだ!?東は少し迷ったが、すぐに言った...
「!!まさかあんた、俺の-----------」
「急げ急げ!」
東とカーソルが「ボス」の屋敷に入ってすぐ、テンヌキは屋敷の裏口へと向かっていた。
「僕の屋敷にもあったから...多分、ここにもあるはず!!」
裏口の柵が見えてきた。テンヌキは柵を越えた。
「!!あった!」
テンヌキの目の前には、「放送室」と書かれたドアがある。
「よし...」
テンヌキはドアを蹴飛ばした。中には、放送機材が並んでいた。テンヌキは、マイクの音量を上げた。そして、大きく深呼吸をして、マイクに向かい、言葉を発した。
『このスマホの世界にいる文字、全員に伝える!!』
「あんた、-----------------だろ?」
「えっ?」
「そうじゃ、わしはお前の-----------------じゃ」
「なんで...こんなことしたんだよ!!」
「それは...」
テンヌキの声が、ありとあらゆる場所のスピーカーから聞こえ、広場にいた文字は、びくっと肩を跳ね上げた。幸い、テンヌキの世界の文字は、少ししか死ななかった。
『私はテンヌキ。「和樹」のスマホのLINEの世界の「ボス」だ!!』
広場がざわめいた。
「『ボス』...だって!?」
「は!?そんなことのために!!?」
東は「老」の話を聞いて怒鳴った。
『私の世界の文字よ、伝えたいことがある。東は、元々人間だった。だが、「通路」に不具合が起きてしまい、このLINEの世界に迷い込んでしまったのだ。なので、この世界から人間の世界に戻るために、この「東湊太」のスマホに来たのだ。それを許してほしい。それから、』
テンヌキの声が強く大きなものに変わった。
『私の世界の文字を殺したこの世界の文字よ!!』
「守」の文字たちがびくっと肩を跳ね上げる。
『お前たちは、いくつもの命を奪ったことを反省しろ!!...そして、』
テンヌキの声が少し小さくなった。
『今からこの世界にいる全ての文字に、ある「作戦」を手伝ってほしい.........。今からすぐ、屋敷近くの公園に来てほしい』
テンヌキは、マイクを切った。
「ふう」
テンヌキは、放送室から出た。放送中に家来が来なくてよかった。テンヌキはつくづくそう思う。
「あとは...」
テンヌキは屋敷の非常階段を駆け上がった。
「送電室!」
屋敷の最上階には、この屋敷に通っている電気のもとがある。電気を止めて目をくらませて逃げようということだ。
だが、送電室には、家来がいた。
『警報!警報!』
ジリリリリリリ!
送電室では、警報を鳴らすこともできる。
「くそっ...こんなところで...」
『侵入者!侵入者です!放送室に何者かが入り、放送を...うぐっ!』
テンヌキは静かに送電室に忍び込み、送電室にいる文字の口を塞いだ。
『もがっ...だ、誰、か...』
テンヌキは「守」の文字の頭を、銃の持ち手で殴った。
『うあ゛っ!』
「よし...」
テンヌキは階段を駆け下りた。
「うっ!」
テンヌキは階段の途中で足を止めた。さっきの騒ぎを聞きつけて、銃を構えた家来が、数え切れないほど立っていた。
「くそっ、ここまでか......」
家来の文字の一つが、「撃て!」と指示した。家来たちの指が一斉に引き金にかかった。
「......とでも言うと思ったか!!」
テンヌキは玉が一発飛んできたところで、階段から地面に飛び降りた。
「なっ...ここは...六十階だぞ!?」
テンヌキは飛び降りながら考えた。
(...当初からここで飛び降りる予定だったんだ...ここで、東たちが、クッションを持ってきてくれる...)
はずだった。テンヌキがクッションにしっかり着地する...はずだったのだ。だが...
「えっ?」
下には誰もいなかった。
テンヌキの体は硬い地面に...
グシャアッ!
狂った愛
「...あんた、俺のおじいちゃんだろ?」
「そうじゃ」
テンヌキが送電室へ行く少し前の会話だ。
「なんでこんなことしたんだよ!!」
「それは...」
「老」は、...東のおじいちゃんは、話し始めた。
「わしがLINEを開発した時、ふと、思ったのじゃ。こんなにSNSが広がったら、流行語...SNSを通じて流行るような言葉が出てくるんじゃないかとな...。そんな、気色悪い言葉なんか、孫に使って欲しくないじゃろう?そこでわしは、湊太、お前のために、お前が十二歳の頃、お前のスマホに入っていたLINEのアプリに細工し、あの、『お』から非通知のLINEが来るようにして、この世界に来させ、ちゃんとこのことを話そうと思っていたのじゃ」
「...は!?たったそんなことのために...狂ってるだろ、お前...」
「孫への愛が深くて...」
「ふざけんな!!!!!!」
東は怒りをあらわにして怒鳴った。
「じゃあ...あの『お』は!!」
「わしがあの『感情洗濯機』の元となる機械を作り、あいつを洗脳した。文字通りの『洗脳』をな...。じゃが、あいつ、使いもんにならんわ!無様に死におって...ちょっと仲良しごっこをさせすぎたか...」
「は!?じゃああいつの言っていたことは全部...本心じゃなかったのかよ...」
「ああ、わしが孫を流行語から守るための...駒に過ぎなかったのじゃ」
「おい!クソジジイ!!」
東は目の中に、怒り、憎しみ、恨み、悲しみ、と言った感情を浮かべ、自分の祖父に怒鳴った。
「なっ...なんじゃその口の利き方は...?今更反抗期を拗らせおって...」
「ふざけんじゃねえ!!お前は俺のおじいちゃんじゃねえ!!悪魔が!!!消えろ!!!!」
「な、何を言っとるんじゃ!?」
一人(?)だけ、展開についていけねーと言った表情を浮かべ、二つの文字を見ていたカーソルであった。
(これは口を挟んだら死ぬな...)
カーソルはしっかりと口を噤んだ。
「わ、わしは本物の...お前のおじいちゃんじゃぞ!?湊太!わしは東修二郎じゃ!確かにわしはLINEを作った時は、偽名を使ったが...」
「ごちゃごちゃうっせえ!!俺のじいちゃんはなああ!!こんな...
こんな...」
東は目に涙を浮かべた。
「俺を...悲しませるようなことはしねえよ...」
それには、「老」も少し焦ったが...
「わしの愛を受け止めれないのなら、もう、殺るしかない!!!」
「老」は懐をゴソゴソと探っている。
カーソルが、東に叫んだ。
「っ!!
東!!」
いち早く異変を感じたカーソルが、東に飛びかかろうとするが、「守」の文字が押さえつける。
「ぐっ!!東、危ない!!!」
東も異変に気付いたのか、身をかわそうとするが...
「遅い!!」
「老」は銃を構え、引き金に指をかけた。ぐっと引かれた引き金...
弾は東の胸へ...
「くそっ!!」
バアン!!
ブシュッ!!!
...薄れゆく意識の中、東は走馬灯を見た。
(なんで...こんな...平和だった頃しか...思い出せないんだ...)
「おじい...ちゃん...」
かすれた声で、東は言った。
「東ァーーーーーーーーーーーッ‼︎‼︎‼︎」
「いった...痛いですよ、『ボス』...」
テンヌキは目を覚ました。なんだ、自分は死んだんじゃなかったのか?それとも...ここが...天国...?
「ん...えっ!?」
間違いない。そこには、あの「法律変更宣言」の時にいた、「東」の文字が...
「『東』!?」
「もう、なんで落ちてくるんすか...」
「あ、いや、ちょっとね......。それより、君はなんでここに?」
「あのですね...あの、この近くの公園に、文字が集まってるじゃないですか。僕もそこにいたんです。それでなんか、『ボス』がなかなか戻ってこないなーって思って、探しにきたら...このザマです」
「あはは...ごめん、ごめん...。それより、東が...」
「東ァーーーーーーーーーーーッ‼︎‼︎‼︎」
「あ、あれはカーソルの...」
「上からですね...」
「行こう!今、東がやばいんだ!!予定の時間になっても、ここに来なかった!...もしかしたら...」
「や、やばいじゃないですか!!!!!」
「だから、急ごう!」
二つの文字は、通常出入り口へ向かった。
計画通りに、家来たちは睡眠薬などで倒れている。(東たちがまいた)
「よし、エレベーターに乗って!」
「東」は、「開」のボタンを押した。
「滑りこめ!」
ザッ!二つの文字は、エレベーターに滑りこむ。
テンヌキは、七十階のボタンを押した。
(早く!!早く!!)
エレベーターは、テンヌキを煽るように、ゆっくりと上へ上へ登って行った。
「お」
「...時間になっても、東さんがこなかったって、確かにやばいですよね...」
「うん...」
エレベーターの表示が十階になった頃、「東」が口を開いた。
テンヌキは返事をしながら、東とカーソルの安否を考えていた...
(...東は今ここにいるんだよな?実際僕の指定した場所に来ていないわけだし...何かあったのかな...?)
バアン!
「じ、銃声!?」
「東」の声で、テンヌキは我に帰った。
「どこから!?」
「多分...『ボス』の部屋から...」
「っ!!!今何階だ!?」
二十階。
「チッ!」
テンヌキは二十一階のボタンを押した。
「な、何を...?」
「階段で七十階まで上がる!こんな遅いエレベーターよりも、階段で行ったほうが早い!!」
ポーン、ドアが開いた。
「急げ!」
テンヌキは全速力で階段を駆け上がった。
「あ!!侵入者!あの声からして奴は、放送室や送電室を使った奴だ!」
「くそっ!家来に見つかった!」
「『ボス』!ここは任せて!!」
迫ってくる「守」の文字の前に、「東」が立ちはだかる。
「僕、柔道やってますから、こいつらを足止めすることくらいはできます」
「...信用してもいいのか?」
「大丈夫です。死亡フラグなんかじゃありませんから」
「...わかった...」
テンヌキは七十階に駆け上がった。
「...さあ来い!!」
「東」は拳を構えた...
テンヌキが階段から落ちた頃。テンヌキは下敷きになってくれた「東」に、頼み事をしていた。
「『東』、ちょっと頼みたいんだけど...」
「?なんですか?」
「-------------------------------」
「...えっ?」
「そして------------------その後、----------------------------------」
「...分かりました。やりましょう!!」
「おい!クソジジイ!何してくれてんだ!!」
カーソルが東に駆け寄るも、手足の枷が邪魔をして、動けない。そこへ、「守」の文字がカーソルを抑え込みに来た。
「ぐうっ!」
必死に抵抗するが、すぐに抑えられる。
「...お前、前はわしの言いなりだったくせに、よくそんな口の聞き方をできるもんじゃ。
...『お』」
「...うるせえ」
「お前はわしに従って戻ってきた。...そうじゃろ?」
「...」
「お」は、銃を取り出した。
「ごめんな」
バアン!!
「お」は、マネキン人形に弾を打った。マネキン人形についている水風船が破れ、血の色をした血のりが出てきた...
...指令だ。仕方ない。こうするしかない。俺は悪くない...。
今日、この日、「老」に従っていた俺は、東のスマホの世界に戻らなければならない。俺にはまだ任務が残っている。
東をうまいこと、「老」の屋敷に連れ込むこと。
そんなことして東を騙したくない。嫌だ。なのに体は勝手に動く。従わなければいけないような気持ちになる。
なぜだ...。そう考えることを、体が拒絶する。
気がつくと俺は、ナイフで自分の体を切り裂いていた...
そしてできたのは、存在しない文字...
カーソルだった。
痛い、痛い、痛い...
従わなくちゃ、従わなくちゃ...
気が狂いそうになりながら、俺は誰にも見えない道で、スマホに向かい、この世界にきた...
これが、「和樹」のスマホの世界に送り込まれ、任務をこなす...俺の運命だ。
「...どうじゃ湊太、カーソルは『お』だったんじゃ!びっくりしただろう?カーソルは文字じゃないからバレるかなーなんて思っとったが...お前は昔から、騙されやすいのう」
「ふざけんじゃねえ!!」
カーソルは目に涙を浮かべて怒鳴った。
「そ、そんなに怒ることないじゃろう?湊太の反応が見たかっただけじゃ...」
「東は...お前に...!」
カーソルは東の方を向いた。
「なあ、『ボス』...東を...自分の孫を撃ったことについては...どう思ってるんだよ...」
「......あいつがわしの言うことを聞かなかったのが悪いんじゃ!」
「お前、それでも...
おじいちゃんかよ...!」
「っ...」
バタン!
二つの文字が話していると、ドアが大きな音を立てて開いた。
「東!...カーソ...ル?...なんで、東が...」
テンヌキが、血で染まった東を見ている隙に...「守」の文字がテンヌキを抑えた。
「っ!うぐっ...!」
テンヌキはなんとかカーソルの方を向いて、カーソルに尋ねた。
「ど、どう言う状況?」
「東は...」
カーソルは全てを話した。
「そうか...」
「ハハハハハハハハハハハ!」
急に、「老」が笑い出した。
「お前らはもう終わりじゃ!東は撃たれ、テンヌキ、カーソルも何もできない!!!もう東を人間の世界に戻すことなど、不可能なのじゃ!!!」
すると、テンヌキはニヤッと笑った。
「...それはどうかな?」
反乱
「どう言うことだ?それは------」
バコン!
部屋の扉が、大きな音をたてて、真っ二つに割れた。
「『ボス』!来ましたよ!!」
そこには、「東」とその他、東と和樹のスマホにいる文字たちが、銃を構えて立っていた。
「家来たちは?」
「全員制圧しました!あとはここにいる奴らだけです!」
「わかった。『東』、君は東の手当てを!他の文字は、ここにいる文字を制圧!わかったかい?」
「「ハイ!!」」
一体何が起きているのかわからない...というように立ち尽くす家来たちの背後にまわりこみ、文字たちは、家来を制圧した。
「ぐっ!」
「老」が、立ち上がって家来を押さえ込んでいる文字を制圧しようとした。だが、「東」が「老」のこめかみのあたりに銃を撃った。
「...抵抗しても無駄だぞ」
「東」が手当てに戻った頃、テンヌキがカーソルを押さえ込んでいる文字たちを引き剥がした。
「もうあんたの仲間はいない」
「っ...」
「老」はテンヌキに向かって銃を構えたが、「東」がまた米神の辺りに銃を撃った。
「抵抗をやめろ。もうお前は終わりなんだ!」
「ぐっ...」
「老」は自分の椅子に座った。
「......あの、いまいち状況が飲み込めないんですが...」
カーソルがおずおずと言った。
それに、「東」が答えた。
「...あなたの知らないところで、僕らが活躍していたんです!」
「『東』、ちょっと頼みたいんだけど...」
テンヌキが「ボス」の部屋に来る直前に、全て起こっていたのだ。東が考えた、この状況をクルッと七百二十度ひっくり返せる作戦が...
「なんですか?」
「君は公園にいる文字たちに、今から僕の話す作戦を伝えてほしい。
作戦はこうだ。
今更バレるもどうもないから、屋敷からできるだけ近い絵文字工場へ行き、武器を作って『反乱』を起こす。絵文字工場の職員をどうするかは、任せよう。まずは屋敷に潜入する。絵文字工場で武器を作った奴がいるとなったら、騒ぎが起きると思うから、それに紛れて屋敷の通常口から潜入してくれ。もし家来に見つかってしまったら、その文字を制圧。その後、『ボス』の部屋に来てくれ。
...分かったかい?」
「...分かりました!『ボス』、任せてください」
「じゃあ、頼んだよ!」
「東」は階段を二段飛ばしで駆け下りていった。家来に何度か見つかったが、「東」は足が速かったので、なんとか逃げ切ることができた。そして、文字たちの集まる公園に来た。
「え...なんか...増えてる...!!」
公園にいる文字は、最初集めた文字よりも、明らかに増えていた。
「俺たちを毎日こき使っている『ボス』に、鬱憤晴らしてやるう!!」
「おう!!」
「...まさか...増えてる文字って...」
「ここのスマホの住民ジャイ!」
「やっぱり...!!」
「東」は感激した。こんなにも協力してくれる文字がいるなんて...!
「お、おい!あそこ!」
集まっている文字の誰かが、「東」の後ろを指さした。そこには、家来たちが...
「いくぞお前ら‼︎反乱だあーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!」」」」」」
文字たちが、家来の方へ走っていく。いつの間にか武器を持っていた。
自分たちと文字の意見が一致した!
なら俺も...しっかりしなきゃ!
「東」は文字たちに続き、走っていった。
「...っていう感じで」
「そ、そんなことが...」
テンヌキは、自分を押さえ込んでいた文字を振り払い、逆に自分が家来を押さえ込んだ。
「これで最後の一人だね」
「くっ...」
「老」は降参したように、両手をあげた。
「全員!ついに、『ボス』の頂点に、勝ったぞ!!!」
忘れている人のために復習↓
「『ボス』は、この世界の『ボス』の頂点なんだ。実質、コイツが全てを牛耳ってると言っても過言ではない」
#34 判断 より カーソルのセリフ
つまり「老」は、「ボス」の中の頂点なんです。
わああああ!!
テンヌキの声に応えるように、歓声が上がった。
「...東にも、聞かせてやりたかったなあ...」
カーソルは小さな声で呟いた。
「ボス」の頂点を倒して喜んでいられるのは今だけだった...
「東」が顔を青くしてテンヌキに駆け寄る。
「どうした?『東』」
「大変です...東さんの呼吸が......!!」
The Life Of LINE
「ど、どうしたんだ!?」
「東さんの呼吸が...浅くなっています!」
「!?」
「い、急いで薬を!...おじいさん、お願いできますか」
「老」は、「東」の声を聞いても、動こうとはしなかった。
「...あんた、」
テンヌキが口を開いた。
「あんた、今の状況がわかってるんですか!?あんたの孫が今、死にかけているんですよ!?わかるだろ!?自分の罪を償おうとか、思わないのか!?あんたのせいで東が、死んでしまいますよ!?」
「わしには罪を償う資格など...」
「はあ!?あんた頭おかしいんですか!?」
「わしは...あいつが言うことを聞かなかったからやっただけじゃ...」
「はあ...」
テンヌキは大きなため息をついた。
「あんた、おじいちゃん失格ですね...」
「っ...!!」
「そんなんで東が喜ぶとでも思ってるんですか。馬鹿らしい」
「黙れ!」
「老」が椅子をバン!と叩いた。
「喜ばれるとは思っていない!!自分が死んで、天国に行けるとも思っていない!!ただ...わしはもう......東にあわせる顔がないのじゃ。自分の罪はもう償えない...。これだけのことをしてしまったのじゃから...どんなことをしても、償うことはできん...」
急にカーソルが喋り出した。
「東は...最低なやつですよ、自分にとって、都合の悪い奴は見捨てるような奴だ......けど、あんたが自分なりの方法で罪を償ったら、...東が、あいつが怒って、あんたを見捨てると思いますか!?」
「...」
「それはあんたが一番わかってるはずですよ」
「......東っ...」
「老」は目に涙を浮かべた。
「さあ、早く薬を」
「...わかった」
「老」は部屋を飛び出して、薬を取りに行った。
...あれ...俺は...
俺は目を開いた。ここは...おじいちゃんの屋敷...!「ボス」の部屋か...。
そういえば俺、おじいちゃんに撃たれて...弾が胸に当たって...死んだんじゃなかったのか?
じゃあ天国か...ここは...
「あっ!みんな、東が目を開いたぞおおおおお!!」
「「「「「「よっしゃあ!」」」」」」
ん...テンヌキの声...
「はっ!!」
「東、大丈夫!?」
「え?あ...一体、ここは...?」
「よかったあ...死んでなかった...!」
「て、テンヌキ、これはどういうことだよ!?」
「...実はね......」
.....................
「そんなことが...」
「でも...生きてて、ほんとによかった...!一事は、死んだかと...」
テンヌキが俺に抱きついてきた。
「すまんかった、湊太...わしは、薬を撮りに行ってやることしかできんかった...」
「いいっていいって!」
「な?怒らなかった」
カーソルがおじいちゃんの肩を叩く。
「...なあ、テンヌキ、この世界のシステムを変えるんだろ?」
「あっ。そうだ!」
テンヌキはおじいちゃんとしっかり向き合った。
「おじいさん、この世界の、『一斉処刑』のシステムをなくし、文字は、文字の寿命が尽きるまで生きていけるというシステムを、導入してもいいですか?」
「...ああ。では、民たちに伝えて来よう」
おじいちゃんは、部屋を出て行った。
するとすぐ、放送が聞こえてきた。
『これより、全てのLINEのシステムをなくす...「和樹」のスマホのあの初代「ボス」、「あ」様からの手紙を使い、「法律変更宣言」を行う!...この放送を聞いた者は、今から他のスマホのLINEの世界に行き、この放送の内容を伝えるのだ!!』
「あの手紙、まだ使えたんだな」
「制限とかないからね」
「じゃあこれで全部OKだな!」
俺は立ち上がって、帰ってきたおじいちゃんに言った。
「じゃあ、俺、帰るわ」
「......ああ。元気で」
「おじいちゃんも行くぞ」
俺はおじいちゃんの手を握った。
「...いや、わしはここに残って、『ボス』の使命を全うしたい」
「そんなに生きられんの?文字の寿命って3、4年じゃないの?」
「わしは特別じゃから。なんか寿命の日きても死なんかったし。人間の世界から来た奴は、人間の世界で全うする寿命で生きれるんじゃないのか?」
「そっか。...じゃあ」
俺は、テンヌキとおじいちゃんの手を握った。...あったかい...。
「二人とも、『ボス』の仕事、頑張れよ!」
「うん!」
「おう」
そして、俺はカーソルの手を握った。
「お前も、色々と、頑張れよ」
「おう!」
「おじいちゃん、通路、頼む」
「わかった」
おじいちゃんは自分が座っていた、大きな椅子をどかして、床を触った。すると、床が円の形にパカっと開いた。
「よし」
俺はその穴に入った。
「じゃあな、みんな、元気で!」
テンヌキ、カーソル、おじいちゃんが大きく手を振っているのが見えた。
これが、三日間の、「LINEの生活」の思い出だ。
「ふぐっ!」
気がつくと、あっという間に自分のアパートの部屋についていた。
「ぐっ!!!このっ!!!!!」
何故か、自分の下半身が、思うように動かない。慌てて下を見ると、...なんと、俺の下半身が、スマホのカメラの中に押し込まれていた!
「はっ?」
そうか、「戻れない」って、こういうことだったんだ...
バタン!
ドアが開けられた。
「ちょっとあんた!さっきからガサゴソガサゴソうるさいんだよ!!」
隣のおばちゃんだ。いつもこうやって、俺が少しでも大きな音を出すと、部屋に上がり込んでくる。(たまにちっこい音でも来ることがある。こいつは地獄耳だ)
「...っていうかあんた、何してんだよ...」
「!こ、これ、抜いてください!」
「いい大人が何やってんだい...」
そう言いながらも、おばちゃんは俺を引っこ抜いてくれた。さすが怪力おばちゃん。
「静かにしてくれよ!!」
おばちゃんはドアをバタン!と閉めた。
「お前のたてる音の方がうっさいんだよ...」
バタン!ドアがまた開いた。
「なんか言ったかい!?」
「い、いえ、何も...」
バタン!
地獄耳め...
二千二十一年、一月。俺は普段通りの生活を続けている。毎日毎日、朝、昼、晩、とSNS三昧だ。
...ただ、LINEを使うときは、いつも少しワクワクしている。
今日、急にテンヌキやカーソル、おじいちゃん、...「お」が、スマホから出てきたりしないかな、と、少し期待しながら、スマホの電源を入れた。
ピロン!通知が鳴った。
誰からだろう、と思い、アプリを開いた。
非通知{東、元気してるか? おじいちゃんより 8:15
非通知{人間の世界、楽しい? テンヌキよりぃ 8:16
非通知{このメッセージたち、見えてますか〜?LINE送る方法覚えたyo byカーソル 8:16
俺の目から、何故か涙が溢れた。
俺は、全てのはじまりの、この非通知のLINEに、文字を打ち込み、返信を送った。
LINEの生活 -完-
ご愛読、ありがとうございました!
今まで本当にありがとうございました!
全シーズン完全版制作中!もう少しだけ待ってください(^^;;
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