LINEの生活#32 払うべき代償
「...ナンデ...モドレナイノ?」
東は涙目になりながら、テンヌキにたずねた。
「東には、話してなかったね。元々は...」
テンヌキは、「お」が、裏切り者を逃してしまうことを防ぐ為に、元々あった人間の世界への通路を塞いでしまった、ということを話した。
「...マジ?」
「マジ」
「え!?じゃあ俺どうすればいいの?」
「え〜、寿命が尽きるまで暮らしたら〜?この世界で〜」
テンヌキは、「そんなことは別に僕にはどうでも良いので早くおさらばしてください」というように喋った。
「いやいやいや!!俺は人間の世界に戻って、やり残したこととかいろいろ叶えんだよ!!それを諦めろと!??」
「知らんし」
東は怒鳴ったが、テンヌキは何事もなかったかのように振る舞っていた。
「じゃあどうすればいいの!??お前にはもう頼れないから俺で探さないとでも俺はこの世界の権力者じゃないんだからわかるわけないしテンヌキに気持ちの悪い声で煽られんのも嫌だしねえ...!じゃあもう無理だよ!!」
うわあああああ!と、東は泣き叫んだ。流石にテンヌキも、真面目に考えてくれて、
「......危険だけど、戻れる方法はなくもない」
と、意味ありげに呟いた。すると、東はガッとテンヌキの肩を掴んだ。
「ほんとっすか神様あ!」
あまりの態度の代わりように、テンヌキも少し戸惑った。
「あ、うん」
「ねえ教えて教えて教えて教えてくださいませよ神様あああ!!」
東はテンヌキの体を、ブンブン揺らした。
「あーもうわかったから!」
テンヌキは東を振り解いた。
「で?どうやったら良いの」
「...電波に乗って、君のスマホに行くと良い。ここが君の友人の『和樹』のスマホなら、多分...。スマホの一つ一つに、ここみたいな『ボス』が支配する世界があるんだ。だから、その東のスマホの中にある『ボス』の屋敷に忍び込んで、その屋敷にある通路を通ると良い。...でも、...前にも、別のスマホに迷い込んだ、『ボス』の血を引く人間がいたんだ。その人間は、東みたいに、『ボス』の屋敷に忍び込んで、人間の世界への通路に入ることができたらしいんだ。だけど、通路をどんどん進んでいくと、だんだん体が元の状態に戻っていった。つまり、だんだん人間の姿に戻っていってしまったんだ。そして、通路の途中で、挟まって動けなくなってしまったらしいんだ。そして、それを見つけた『ボス』が、その人間を見つけて...あの『感情洗濯機』で...。とにかく、ほぼ確実に、LINEの世界に入った人間は、元の世界には戻れない。...ここは、君の話によると、『和樹』のスマホなんだよね。だったら、『和樹』が東とLINEのやり取りしてる時にしか入れない...。そのタイミングはわかるわけないんだ。つまり、...0%くらいの確率しかなくても、その可能性に賭けてでも、人間の世界に戻りたいの?」
東は少し黙っていたが、やがて覚悟を決めたような表情になって。言った。
「そんなの、決まってんだろ!行くよ!行くっきゃねえだろ!」
「そっか。わかった」
そして、東は、ずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「なあ、あのおじいさんはどこ?」
「おじいさんは...」
テンヌキが話し始めた時、一瞬時が止まったようになり、東の目の前に、「老」が現れた。
「!おじいさん...ん?」
何やら、ぶつぶつ呟いているようだった。
「...ハア、ワシらは人間のために、文字をこき使わせ、働いている...。しかも、どの世界も残酷だとくる...。人間の世界に戻っても、良いことなんか一つもない。せいぜい自分の世界の残酷さを知るだけだ......。生きていることの何が良いんだろうか...。ああ、死んでよかった。殺されてよかった。...人は、自分の世界の残酷さの一部分しか見ていない...『1』を知っただけなのに、『10』を知ったような気分になり、死んでいくのだな..ああ、全く、哀れだ...。湊太、人間の世界なんて、何も良いことはないぞ」
まるで訳がわからなかった。でも、人間の世界へ行くことを、「老」が否定しているのはわかった。
(...おじいさん、俺は、人間の世界へ行かなきゃいけないんだよ......ところで、何でこのおじいさん、俺の名前を知っているんだ?)
そこで、時が動いた。
「『お』の家来に」
「殺された、か?」
「何で知ってるの...?」
「おじいさんが...」
「?」
東は、さっき見た幻覚?のことを話した。
「そっか...」
「ああ。...でもなんか...」
(いろいろ引っかかる...話し方、俺の名前を知っていること、態度...誰かに似ている...)
東の頭の中に、優しく笑うおじいさんの顔が浮かんだ。
(誰だ...!?こいつ...!!)
「東?」
そこで東はハッと我に返った。
「大丈夫?今ぼーっとしてたけど」
「..いや、何でもない。...それより、行く準備しよう」
「そうだね」
二つの文字は、屋敷に戻って、リュックを出し、武器を詰め込んだ。
続く
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