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ある日、賃貸を出てけといわれたら?(1)

大家さんがインターホンを鳴らすとき(戦慄)

 痛ましい地震で新年を迎えた2024年のお正月。家で夫が魚をさばいていると、ピンポンが鳴り、インターホン画面には、見慣れた大家さんがうつっていた。新年のご挨拶かな。だらしない部屋着姿だった私は、夫が台所から離れられないので、仕方なく玄関に向かった。

高級フルーツと大家さん

 ドアを開けると、大家さんは大きな果物のダンボールをかかえていた。4人家族の大家さんは、我が家の目の前に住まれていて、うちがお年賀やお土産を持っていくと、ご実家で贈答用の果物店を営まれている大家さんは、よくお返しにフルーツをくださった。しかし、今回はずいぶん立派な贈答用のハコ…?しかも今年は、我が家でお年賀を用意できていない…どうしよう。

突然の退去のお願い(あくまでお願いベース)

 しかし、フルーツの役割はお年賀ではなかった。大家さんが、大変申し訳なさそうにおっしゃるには、今住んでいるマンションの部屋を引き払い、売りにだすという。我が家と大家さんは同じマンションの同じ階に住んでいて、大家さんは両方を所有されている。今回、大家さんがおっしゃるには、フロア全体を管理会社に売りにだしたい、そのためには退去していただけないか?とのことだった。当マンションの賃貸契約は、普通借だったので、貸主が「でていく」というまで、よほどの事情がない限りは、借主が貸主を追い出すことはできない。(ざっくりの解釈だから誤りがあったらごめん)だから、大家さんは、あくまでお願いベースで申し訳なさそうに、果物まで持参されて現れたのだった。

とりあえずの日常

 大家さんからは、すぐの退去を求められたわけではなかったので、とりあえず、私たち家族は日常を過ごしていた。子どもは、今通っている小学校を絶対転校したくなさそうだし。学区外に引っ越して、今の学校に通い続けるには役所と交渉しなければいけならず、今の学区内で、今と同じ予算で、賃貸マンションを探すのは困難なことは、わかりきっていた。今のマンションも、小学生含めた三人で住んでいたので、手狭だから、これまでも賃貸は探していたのだ。

一度担当者が飛んだ管理会社からの着電

 しかしそんな平穏な日常はつづかず、大家さんの来訪から、ひと月も経たずに、管理会社から連絡があった。その管理会社は、大家さんが我が家含めた物件を売ろうとしている相手先である。大家さんのいうとおり、まだ我々に住み続けるという選択肢がまだあるのであれば、我々の部屋の貸主は大家さんから、管理会社に移されることになる。連絡があった時点で、そんな読みは甘いような気がしたが、とりあえずは賃貸人が変更されることについて、管理会社から説明したいということで、いちど打ち合わせをすることになった。
 私は、この管理会社から連絡がくると嫌な予感しかない。なぜかというと、以前、同じ管理会社でうちのマンションを担当してくれていた社長が、会社のお金を横領して飛んでしまい、刑事事件になったようだからだ(うちに不利益はなく、その後の展開は知らない)。その社長は、THE不動産的ピンストライプのスーツで、焼けた肌を包んでいたが、書類を渡してくれる時に、いつもなぜか手が震えていて、人を不安な気持ちにさせた。
 当時まだ、新庄耕氏の『地面師たち』がネトフリドラマ化される前だけど、原作を齧っていた私は、業界の闇を安易に想像して余計にふるえた。大家さんが、その社長を信頼して、フロア全体を、ひと部屋を御自宅、もうひと部屋を賃貸に切り分けてリフォームしたという。大家さんにはなんの恨みもない。だが、たとえば、玄関をでてすぐ屋根がなくて、数秒ほど雨に濡れる瞬間があるなど、ここギリギリで予算を削ったのかな?というプチ不便ポイントがあったこともあり、私はその社長、及び管理会社にはあまり信頼を置けていなかった。(賃貸というのはそういうものかもしれないが)つづく



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