「センセー」
少し高いパイプ椅子に座る小学2年生の
ぷらぷらと揺れる脚が微笑ましかった。
学校での出来事を懸命に伝えてくれる小学生4年生の
ことばたちに耳を傾けるのが楽しみだった。
「ちょっと待って!考えるから!」と叫んだ小学生6年生の
真剣な眼差しに心を打たれた。
「先生分かんないです」と自分から言えるようになった中学2年生の
泣きそうな声に何とか応えたかった。
「よく頑張った!」の拍手と紙吹雪に照れ笑いを浮かべる中学3年生が
ただ無性に愛おしかった。
テキストを見つめて眉間に皺を寄せる高校2年生と
共に格闘するのが清々しかった。
狭くて雑多で少し汚い教室のそこかしこに響いていたのは、
溢れんばかりの笑い声。
それと、ときおり怒鳴り声…。
塾が子どもたちの居場所になるように、と
もがいているつもりだったけれど、
ふと気づくとそこは
どこよりも大切な僕の居場所になっていた。
4年と少しの月日が流れて、
小学5年生だったあの子は
もうすぐ高校生。
だから、
コンビニのコーヒーを片手に教室の鍵を開けて
週2日、「センセー」と呼ばれるこの幸福な生活も
寂しいけれど
もうすぐおしまい。