チベットと日中文化あれこれ
昨日の23時に起きて、「もうひとつのチベット現代史」を読んでいたらいつの間にか日付が変わっていた。いま、FPIプロジェクトの「リッチ・イン・パラダイス」を聴きながらこれを書いている。断酒3日目。
「もうひとつのチベット現代史」はちょうどプンツォク・ワンギャルが1958年から18年間の秦城監獄への投獄を経て名誉回復したところまで読んだ。彼が解放された1976年は1月に」周恩来が没し、9月に毛沢東が没した年でもある。鄧小平が実権を握り、1979年には1月にダライ・ラマの兄、ギャロ・トゥンドゥップを招き、「完全な独立は別として、他の全ての問題は論議され、解決される」と告げ、8月にはカロン・ジュチェン・トゥプテン・ナムギャル率いるチベット亡命政権の第一次使節団がチベット視察を開始した。このあと、文化大革命の終焉とともに政治の表舞台へ復帰し、全国人民代表大会常務委員、中央民族委員会副主任などのポストを歴任していくことになる。
プンツォク・ワンギャルのことを調べていたら中国ウォッチャーであり、社会、文化、政治、経済など多角的な取材を通じて "近くて遠い隣の大国" との付き合い方を考える福島香織の公式サイトに行き着いた。ブログを見ると、「もうひとつのチベット現代史」を書いた阿部治平は青海省に暮らしているとのこと。ただ、このサイト、2014年10月31日で更新が止まっている。何があったんだろう?今はもっぱらツイッターで情報発信しているらしい。
ツイッターでの中国ウォッチャーなら谷崎光のツイートはよく見るのだが・・・谷崎光は進学した武庫川女子大学文学部国文科から、京都芸術短期大学(現・京都造形芸術大学)芸術学部染織科へ転学。1987年卒業後、ダイエーと中国の合弁の貿易商社(大阪の旧ダイエー本社内)にて総合職として5年間勤務。1996年、貿易商社の経験を描いた「中国てなもんや商社」が文藝春秋から出版されデビューした。出版したきっかけは、文藝春秋の受付への持ち込み。ベストセラーとなり、1998年、松竹にて映画化される。2001年、北京に渡り、北京大学(経済学院)留学を経て、以後、北京在住で執筆創作活動を続けている。彼女の著書なら「中国てなもんや商社」、「てなもんやパンチ!」、「スチャラカ東京のオキテ」、「今ごろ結婚しているハズが…!?」、「てなもんやOL転職記」、「感動中国! 女ひとり、千里をいく」とけっこう持っている。彼女がDIAMONDオンラインに書いた「中国人が日本人に絶対言わない日本旅行の意外な本音」を読みたかったのだが、ネタ元が削除されていて、読めなかった。読んだ人の感想を追ってみると、「毎年、中国から日本にたくさんの観光客がやってくる。彼らに日本の感想を尋ねれば、「日本はすごい」「日本がうらやましい」等と口々に賞賛するだろう。しかし、経済が急成長している現在の中国人の目から見て、本当に「すごい」と思っているのだろうか。中国在住17年目の筆者があえて本音を聞いてみると、辛辣で意外な感想が次々と出てくるのである。」そうだ。「あまり豊かじゃないけど、日本て、いい国よね」もそのひとつかもしれない。
春節も近いので、いくつか彼らの日本観を見てみよう。
「鑑真は中華文明の伝播者として、最も繁栄していた時代の中華文明を日本に持ち込み、それは日本文明の源流となった。私は京都、そして奈良に足を踏み入れ、当時鑑真が中華文明を伝えたその地に立ったとき、心が震える思いがした。京都と奈良では、まるで時空を超えたかのように、華めき、賑わう長安の光景が私の眼の前に浮かび上がった。私は感嘆した。1200年の時を経た今、この地は中国人がかつての中華文明の味わいを感じるための「生きた化石」となっているのだ」。これなどは、アーノルド・ジョゼフ・トインビーが著書『歴史の研究』の中で、「中華文明は形成後、周辺へと拡散し『衛生文明』を生み出した。日本文明もそのうちの一つである」と指摘した証拠かもしれない。
「日本の京都には1000年を超える歴史があり、非常に歴史の趣を感じさせる街であるゆえ、中国人観光客に人気がある場所であると紹介。続けて、京都を訪れたことのある中国人なら、京都と中国の西安や洛陽など歴史のある都市の作りが非常に似ていることに気づくはずだと伝え、それゆえ中国ネット上でも「京都は中国の都市を真似して作られた、パクリ都市ではないか」と言われている」という記事もある。確かに、京都は中国の「洛陽」を模している点は少なからず存在する。日本では京都に平安京があった頃、当時の中国王朝の首都だった洛陽にちなんで平安京の東側を「洛陽」と呼ぶようになったとされる。中国人が京都を訪れた時に何か懐かしい気持ちになるのは、こういう経緯があるためだ。中国では一部の歴史ある都市以外では、伝統的な文化が失われ、歴史ある建造物も壊されるケースが目立つと指摘する一方、日本は自分たちの文化を誇りとし、それを大切に受け継いできたがゆえに、京都は今なお風情ある街並みを現代に伝えているのだと強調している。日本には中国から伝えられた文化が数多く存在する。だが、自分達の伝統や文化を継承していくという面では、今のところ日本人に軍配が上がることだろう。中国には数千年の歴史があるが、経済発展を優先するなかで文化や伝統が軽視され、歴史的価値のある伝統や文化が失われるケースが増えていると言われる。
中国人観光客の間では、大阪とそこに住む「大阪のおばちゃん」が人気なのだという。中国で日本の観光をPRする「行楽ジャパン」の袁静社長は「中国人に大阪のイメージをたずねると、必ず出てくるのが『熱情』というキーワード。情熱的でフレンドリー。世話好きで、親しみやすいと思われている」という記事もあった。実際、中国からのLCC就航数は、関西国際空港までが週36便、成田空港までが週22便、羽田空港までが週11便と、圧倒的に関空が多い。人民日報系列の新聞で、海外ニュースを中心に報道している「環球時報」が、大阪を「もっとも日本らしくない都市」と紹介したことがある。「東京人が他人行儀でクールなのに対し、大阪人は率直で情熱的。東京の電車内は静かだが、大阪の電車内は笑い声がよく聞かれる」と。「東京の地下鉄は話もしちゃいけない雰囲気だけど、大阪の地下鉄は大声で話している日本人がいるので安心する」、「東京へ行くときは、きちんとした格好をするとか、少し身がまえちゃう。大阪へ行くときはちょっとラフになる」。なんとなくわかる気がする。記事はこのあと有料記事になって読めなくて残念だ。2018年の記事だが、中国メディア・今日頭条は2日、「中国人が最もお気に入りの日本の都市は、東京ではなかった」とする記事を掲載した。記事が紹介したのは、天下の台所・大阪らしい。日本が嫌いという人でも「大阪は別」という人もいるらしい。1年半大阪に住んでいたという中国人ネットユーザーは、大阪が大好きで「ここは日本という感じがしない」と絶賛している。
「もうひとつのチベット現代史」を読み終えたので、続いてツェリン・オーセル、王力雄夫妻の「チベットの秘密」を読み始める。翻訳と編集の劉燕子はフェイスブックで友達になっているし、チベット関連のイベントでは何度も会っている。
民族固有の文化を圧殺された上、環境汚染・資源枯渇など全般的な存在の危機に直面するチベット。北京に「国内亡命」を余儀なくされ、一人のメディアとして創作と発信を続けてきたチベット出身の女性詩人が、闇に隠された「秘密」に澄明な光を当てる。彼女の詩やエッセイから、廃墟となった古刹、町中にあふれる兵士や警官、地響きを立てて進む戦車や装甲車、狙撃されて倒れる少女、背後に光る目、連行、拷問、投獄、処刑、逃走、抵抗、抗議の焼身自殺等々を読みとることができる。そして、読後には加害者の凶悪な姿か、抵抗者の尊厳ある偉大な姿か、人間としていずれを選ぶべきかと考えさせられる。デヴィッド・ボウイの「Heros」を聴きながら読み始めたら思わず震えてしまった。