シフォンケーキはいかがですか?(オオハクチョウと空を飛ぶ計画)
北海道には毎年冬になると、シベリアからオオハクチョウの群がやって来る。他の鳥とは全く違う鳴き声を持つので、その声を聞くと「ああ今年もやってきた。」とすぐ分かる。子どもの頃のわたしには、このオオハクチョウの群れがとても幻想的に見えた。思えばあの頃から外国に対する強い憧れ、好奇心があったのだと思う。シベリアという私の知らない世界を彼等は知っている。どんな人がどんな生活をしていて、どんな景色を毎日見ているのだろう。そんなことを想像し出すと、どんどん頭のなかで私なりの新しい未知なる世界が広がった。シベリアと言う地域がどちらの方向にあって、どうやって行けるのかも全く分からない。でも彼等は知っている。「途中どこで寝るのかな。何日かかるのかなあ。海の上を休まず飛んでくるのかな。」オオハクチョウに聞いてみたいことがたくさんあった。
名前の通りオオハクチョウは体が大きい。基本的に’動物に乗る(乗れそうなものには)’ということに興味をそそられる私は、いつの間にか、オオハクチョウを見るたびに、いつもの「もしオオハクチョウに乗れたら、、、」というとんでもない期待を持つようになった。そんなある日、うちの牧場の畑にたくさんのオオハクチョウが羽根を休ませているのを見つけた。辺り一面雪で覆われた畑に真っ白なオオハクチョウが戯れる。太陽の光りが雪に反射して、キラキラ輝いて見える。子どもながらにその美しさにうっとりした。この時点で私の心はすっかりオオハクチョウに魅了されていたので他の物はなにも見えていなかった。実際、今もあの時、4歳下の妹がわたしの後について来ていたことを全く覚えていない。とにかく私はいかに白鳥に近づくか、で頭がいっぱいだった。「そっと近づくことが出来れば、もしかしたら白鳥の上に乗れるかも。首に捕まればなんとか振り落とされず、飛んで行けるかもしれない。」そんな可能性ゼロの事を幾度の失敗にもめげず、真剣に考え、しかも実行にうつしてしまう子供だった。
白鳥達を怖がらせない様に音をたてないように数歩すすんでは止まり、すすんでは止まりを繰り返しているうちに陽はとっくに暮れていた。その頃、夕方になっても帰ってこない私と妹の事を、家族が心配しだしていた事なんて、全く考えもしなかった。妹はまだ4、5歳だったと思う。
結局ハクチョウは50mくらいの距離まで近づいた時に一斉に飛び立ってしまった。ずーっと想像を膨らませてきた”オオハクチョウに乗って飛んでみたい”という私の夢は叶わず、おまけに妹まで引きずりこんで家族を心配させた事で母にめちゃくちゃ叱られると言う、悲しい1日になってしまった。