【0.5ライ】ミニチュア

 一緒に夜景を見に行ったら「ミニチュアみたいだね」と言われ、何とは言えない何かがどうしようもなく違っている気がした、そんな帰り道である。

 2人で揺られた帰りのバス、「ミニチュアて!」とツッコミたくなる気持ちをなんとか押し込めて次の予定の話をした。ツッコんだ後なんと言えばいいのかわからないからだ。高校2年生の僕たちは夜景を見たあとだって21時35分に駅で「また明日」と小さな約束をする。

 1人でモノレールに揺られている最中も口から飛び出しそうになる「ミニチュアて!」は飲み込み続けていた。飲み込みすぎてげっぷが出そうだった。いよいよ気分が悪くなりそうだったとき、丁度自宅の最寄り駅に到着した。ぴ、とICカードを翳し改札を出て、とてかんとてかん、と歩道橋にのぼる。懸垂式のモノレールは大袈裟な音を立てながら発車した。歩道橋をのぼりきり、道路の真上に至ったところで、僕は足を止める。

 「いや、ミニチュア……って」


 やっと発声を許された僕の声は覇気がなく、掠れていた。自分でも正直何がそんなに嫌なのかわからなかったけれど、夜景を構成するあの街の煌めきを、ごちゃつきを、ミニチュアみたいだね、と安易に言われたことに言いようのない不快感と怒りをおぼえていた。ミニチュアと称すのなら、このくらいの高さからの景色だろうと無根拠に思う。

 僕はここからの眺めが好きだった。山間いを行くローカルなモノレールの駅の周りに形成される住宅の群れで、コンビニすらなく、光も規則性もさしてない、夜景と言い張るのはどう頑張ったって無理があるような、この駅前の景色が好きだった。

 駅前の大きな区画の家に住んでいるのは主に老人で、22時半を回った今、眼下の町はほとんど死んでいた。死んだ町の上で、僕は時折通る大きなトラックによってゆらゆらと歩道橋ごと揺らされ、彼女のことを考える。彼女は一体さっきの夜景のどこにミニチュアを見いだしたのだろう。ミニチュアってのはもっとこう、細部まで見えて、営みの形跡が伝わってきて、人が居なくてもそこに息衝くなにかが感じられるような、そういうものではないのか。

 ごぅん、の音が連なって、そうしてホームに入っていく3両編成を目の端に捉えて、自分が15分も歩道橋に立ち止まっていたことに気づく。
「今日誘ってくれてありがとう、楽しかったね」とメッセージを送って、僕はようやく歩き出した。

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