スタート地点の裏側
2024.09.28
ぺぎんの日記#181
「スタート地点の裏側」
だいぶ前の話になってしまうのだけれど、中秋の名月が綺麗だった頃。
部活を終えて18時半くらいに学校を出てきた私は、真ん丸に輝く月に引き寄せられるように、いつもと違う道を使って下校していた。
わざわざ止まって見るほど綺麗な月でも無かったのだけれど、せっかくなら月を見上げながら帰ろうと思って、道路脇の遮蔽物が少ない道を選んだのだ。
そのときに感じたことの記録。
学校を出て、いつもと違う方向へ曲がると、グラウンドの横を通る経路になる。グラウンドでは野球部がまだバッティング練習をしていた。ナイターの球場にあるやつを小さくしたような明るい照明。それが、緑色の蚊帳のような(おそらくはボールがあらぬ方向に飛ぶのを防止するための)ネットを照らす。ポカーンに少しキーンという硬い音が混じったようなバッティング音が、ここまで聞こえてくる。野球部がこんなに遅くまで練習しているなんて知らなかった。
もう少し走ると、知らない街に来たような感覚になった。シャッターのしまったお店に、街灯の少ない、暗い住宅地。普段通る市街地とは違う、どこか廃れた雰囲気がある。でもその中にも、ちゃんと人の生活が感じられる痕跡がある。
そしてそこからまたもう少し走ると、路面の凹凸が酷い道に出る。もう長いことアスファルトが敷き直されていない、ワイルドなコンクリートロード。街灯も少ないその道を、自転車をガタガタ言わせながらゆっくりと進む。進むうちにだんだんと道路の両脇が開けてきて、山の稜線のすぐ上にある月が見えるようになった。
変な感覚だった。知っていても、自転車で、しかも夜になんて通ったことの無い道。自分が普段使っていた通学路以外の場所にも、人の生活が、努力があるのだと、今更ながら実感したような感じ。
私の中で高校が、どこかスタート地点のような意味合いを持つ時がある。高校から何かが始まり、そこからどこかに進んでいくような。
高校を始点に、具体的にどの方向に私が進んでいるのかと聞かれると、ちょっと上手く答えられないのだが、少なくともこのとき通った道は、私にとって「高校から進んでいく方向」ではなかった。
高校というスタート地点。そこからグングンと、どこかに向かって進んでいたのだけれど、今日の体験を通して、「スタート地点の裏側にも世界が広がっていて、多分色んな人が色んな方向に進んでいくんだろうな」って、そんなことを思った。