信用金庫の支店長
あらすじ
信用金庫の支店長ナマセ氏が「栗栖」という男性のデイトレードについて調査を依頼した。
その「栗栖」はまるでその日の株価の動きを熟知しているかのように株を買っているのだ。
実は栗栖氏には「同じ日が2回訪れる」という能力があり、それを使って株で荒稼ぎをしていた。
ある日栗栖氏がナマセ氏の信用金庫を訪れる。
ナマセ氏も栗栖氏を監視しようと現れる。
そんなふたりの前に強盗が現れる。
なすすべもなく襲われてしまうふたり。
2回目の同日。
1回目の経験を前提に栗栖氏は強盗防止策を事前に準備し実行。
その計画にはナマセ氏も含まれていたのだが、強盗事件は未然に防がれた。
後日栗栖氏の行動で事件が未然に防止されたことを知ったナマセ氏。
栗栖氏への調査を取りやめるのだった。
本文
日時:平日・夜
堅苦しいオフィスにひとりのスーツ姿の男性が座っている。
この男性のイメージは生瀬勝久(なませ かつひさ)氏。
以後呼称も「ナマセ」で書いていきます。
ナマセ氏は誰かと待ち合わせをしている様子。
悠然と待ち合わせ相手の女性が現れる。
イメージは広瀬アリスさん。
大胆に足を出したスタイルでこのオフィスには似合わない雰囲気。
同様に呼称は「ヒロセ」で書いていきます。
ナマセ氏の前にやってきて
にこやかにピンクの鞄からA4の紙を取りだす。
ナマセ氏がその紙を広げるとある人物の株の売買記録が出てくる。
その記録から以下のことが順次判っていく。
・様々な株を何の秩序も持たず買っているように見える。
・月曜から金曜までひと名柄かふた銘柄の株しか買っていない。
・どの株も買ったその日のうちに売りきってしまう
(宵越しの株は持たない)
・参考資料「今日最も値上がりした株一覧」が載っているが
その中から選んで株を買っている
・朝一番の「成行(金額を指定してしない買い方)」で買った株も一部あるが
ほとんどが「その日の最安値」と1~2円差を指定して買っている
・株を売る際には「その日の最高値」と1~2円差を指定して売っている
疑惑な目で紙を見つづけていたナマセ氏が呟く。
ナマセ氏「……なんでだ? まるで株の動きが判っているようじゃないか。
これでもう30日連続だぞ」
パフェを突いていたヒロセ嬢はナマセ氏の次の言葉が判っているかのように
声をあわせる。
「「本当に株価の値動きが完全に判っているのか? それとも裏が?」」
ヒロセ嬢はパフェを食べている。
そのデイトレーダーの名前は「栗栖」。
* * *
日時:月曜日・朝
目覚ましが鳴る中布団の中でひとりの男性が目を覚ます。
このイメージは高橋一生(いっせい)のような爽やかな男性。
彼こそ「栗栖」である。ひとり暮らし。
栗栖氏は布団から手を伸ばして日づけと時間を確認する。
1時間後。スーツに着がえた栗栖氏は通勤電車の中でスマートフォンを取りだす。
株サイトにログイン。
「現在残っている残高」が大きく表示される。
いくつか株を買う栗栖氏。
「現在残っている残高」もそれに伴って減る。
日時:月曜日・夜
場所・自宅
お茶を飲みながらパソコンでネット配信動画を観ている栗栖氏。
その画面にはヒロセ嬢が映っている。
そこに新しく株価のウィンドウを追加。
いくつか操作をして「その日の最高値」一覧を出す。
その中に「博多ソーラー」が出ている。
栗栖氏はその画面を真剣に見つめつつ「最安値」「最高値」を呟く。
* * *
日時:月曜日・朝(2回目)
目覚ましが鳴る中布団の中でひとりの男性が目を覚ます。
栗栖氏は布団から手を伸ばして日づけと時間を確認する。
「……よし。2回目だ」
安堵の呟きをもらす。
1時間後。スーツに着がえた栗栖氏は通勤電車の中でスマートフォンを取りだす。
株サイトにログイン。
減ったはずの残高が前日の朝のものに戻っている。
栗栖氏は平然と「博多ソーラー」を買う。
「1回目の今日」で調べて「最安値」「最高値」を元に金額を指定する。
栗栖氏・心の声
(同じ日が2回繰りかえされるようになった。
ようやくデイトレードに使えることに気づいた。
しかし、この力はいつまで続くのだろう?
似たような力を持つ人はいるのだろうか?)
* * *
日時:火曜日・昼
某S県・地方都市の信用金庫。ナマセ氏はそこの支店長。
ナマセ氏・心の声
(長年勤めて鍛えあげた直感が『怪しい』と告げている。
あんな株の買い方ができる?
インサイダー取引でもしているのか?
『大事の前の小事』。うちの金庫を護るため。
なんとしてでも証拠をあげないと……。来た!)
それまで不審な顔をしていたものの即座に営業用の笑顔に切りかえる。
ナマセ氏「いらっしゃいませ!」
軽く会釈をして番号札を引く栗栖氏。
少し時間が経過する。
その後目出し帽を被った男達が飛び込んでくる。
「お前ら手を上げろ! 強盗だ!」
そこにナマセ氏の注意が向く。
待合室の客がその隙をついて背後から気絶させる。
身がまえる暇もなく栗栖氏も襲われる。
栗栖氏・心の声
(……そうか。仲間がいたのか……)
暗転。
* * *
日時:火曜日・朝(2回目)
栗栖氏はスマートフォンを見つめる。
日時は「火曜日(2回目)の朝」である旨を告げている。
栗栖氏は何か悩んでいたものの「何か」を決意する。
日時:火曜日・昼(2回目)
某S県・地方都市の信用金庫。ナマセ氏はそこの支店長。
ナマセ氏・心の声
(長年勤めて鍛えあげた直感が『怪しい』と告げている。
あんな株の買い方ができる?
インサイダー取引でもしているのか?
『大事の前の小事』。うちの金庫を護るため。
なんとしてでも証拠をあげないと……。来た!)
それまで不審な顔をしていたものの即座に営業用の笑顔に切りかえる。
ナマセ氏「いらっしゃいませ!」
軽く会釈をして番号札を引く栗栖氏。
栗栖氏が待合用の椅子に座り自分を殴った男を探す。
ごく自然な形で隣に座る。
改めて栗栖氏が見つめると緊張が伝わってくる。
視線を廻すとスタッフ(ナマセ氏)が目に入る。
栗栖氏はナマセ氏の前に立つ。
栗栖氏「あの……。すみません」
ナマセ氏「は……はい。な……なんでしょう?」
声が裏返るナマセ氏。
栗栖氏が1枚の千円札を取りだしナマセ氏に渡す。
栗栖氏「これ。そこに落ちていました。
あの男性のものじゃないんでしょうか?」
そう告げて自分を殴った男を指差す。
お礼を告げてナマセ氏がその男のほうに近づいていく。
ナマセ氏「あの……」
「◎※△……!」
意味不明の言葉を並べて外に飛びだしていく男。
呆然としているナマセ氏。
平然と外に出ていく栗栖氏。
* * *
後日。警察からナマセ氏に連絡が入る。
銀行強盗が信用金庫に押し入る計画があったこと。
待合室に忍ばせていた仲間が「なぜか」飛びだしていったこと。
そのアクシデントで計画が中座したこと伝々。
警察からの連絡を聞いたナマセ氏はヒロセ嬢に連絡をとり
今後の調査を終了することを告げる。
これまでの調査資料をシュレッダーにかけた。
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