追憶の街(1)〜Time to Leave〜
ここは…空港か。
どうやら、国際線到着ロビーにいるようだった。
誰かを迎えに来たのか。
でもなんで手ぶらで来てるんだ?
財布もスマホも持っていない。
ちょっと混乱気味になった俺の横を、キャリーバッグを引いた男性がスタスタと歩いて行った。
ん…?あの人。どっかで見たことあるよな。
あー思い出した!
「Time to Leave」のMVの主役の人だ!
俺は慌ててその人の後を追った。
「あのっ すみません! MVのときはお世話に…」
あれ?全然反応がない。見えてないのか。
肩をトントンと叩いてみる。全然気づかない。
主役さんはそのまま歩いて、タクシーに乗り込んでいった。
ちょっと待ってくれー!
あ、場面が変わった。
どこかのスタジオ。打ち合わせかな?
主役さん、若い男性アーティストらしき人に何やらアドバイスをしている。
ふいにデスクの上のデジタル時計が目に入った。
「2024 0501 14:07」
そっか!
あの旅立った日から3年経ったということか。
ふむ。
海外で成功して音楽活動してるんだ。
主役さんはパソコンでいろいろ調整したり、
スタッフさんとあーだこーだ話をしている。
仕事で日本に来たんだな。
スタジオのみんなが超笑顔。
いいよな〜こういうの。
俺までほっこりするじゃん😄
お、また場所が変わった!
今度はホテルの上層階の部屋か。
おおお夜景すごいー!
大きな宝石箱を覗くとこんな感じなのかな?
空には金貨みたいな月が強い光を放っている。
ふと横を見ると主役さんがいた。
物憂げに夜景を見つめている。
「どうしてるかな」
「会いたいけど…そんなの許してくれるわけないか」
突然そんな思考が俺の頭になだれ込んできた。
そうか。
彼女のこと、忘れられないんだな。
何も言わずに旅立ったもんな。
あ、でもその設定にしたのは俺なんだけどね。
カードが切り替わるように、また景色が変わる。
穏やかな昼下り。
俺と主役さんは電車に乗っていた。
窓辺に座った主役さんは、肘をついて車窓からの景色を眺めている。
俺はちょっと離れたところに立ってその様子を見ていた。
どこに行くんだろう…?
〜続く〜
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