【感想】ムーン・ゴースト
ブランド : Purple software
発売日 : 2024-10-25
原画 : すこやかグミ
シナリオ : 御影
⚠️ここからネタバレあり⚠️
◾️ネタバレ感想
心のふれあいを描いた泣きの王道
人類代表がとても好きだ
★はじめに
出会いのきっかけは月の庭園から。
天には青く輝く地球と無限の宇宙。
彼方には煌めく星々。
そして満開の桜。
ああ、なんてきれいな景色なんだろう。
物語の中の世界は心惹かれるものがいい。
ここではない何処かへ連れていって欲しい。
夢見がちな少年少女のようなことを言ってますけど、知らない物語のきっかけなんて、そんな憧れみたいなものから始まっている気がします。
本作のメインビジュアルが見せた景色は、自分の憧れが詰まった夢のような景色でした。
この場所に行ってみたいなって。
思ってしまった瞬間からプレイ確定です。
さもありなん。(これ言いたかっただけ)
さて、今回はパープルソフト最新作『ムーン・ゴースト』のショート感想記事でございます。
御影さんのシナリオなのでとても楽しみにしておりました。
SFを舞台とした物語は久々で、知らない知識に触れるのはワクワクしましたし、先にも触れた通り心惹かれる景色への憧れもあって、エンタメ作品ならではの良さを堪能することが出来ました。
その中でも、やっぱりメッセージ性に惹かれるものがありまして。
御影さんシナリオでプレイ済みの『アマツツミ』『アオイトリ』『クナド国記』と似ている感覚ですね。
というわけで、この感想記事では「善性に溢れた優しい物語」に希望と勇気を貰えて嬉しかったって感想を記させていただこうと思います。
先にお伝えすれば、かなりまとまりに欠け、偏った感想になっている自覚があり、さらには間違った解釈もあるかと思います。
なにとぞ寛大な心でご容赦いただければと思います。
それではどうぞお付き合いくださいませ。
★物語の印象だったり、思ったこと色々と
本作を主観で端的に述べるならば、
”善意からはじまる心のふれあいを描く優しい物語”って感じでしょうか。
ミドルボリュームのなかにエンターテイメント性とメッセージ性がバランス良く整い、冗長さも無くコンパクトにまとまっていました。
物語が進むにつれてSFのスパイスに時間の概念が加わり、世界観は飛躍していきます。
それに対し、あくまでも月の庭園での出来事としているため、全てがミドルボリューム内の物語としてコントロールされていた印象です。
文章は読みやすく、ストーリーは理解しやすいので、ある程度の先読みも出来てしまいます。
でも、最初のピークタイムとなる葬送の鐘を巡り姫子の真相が明かされた時は「うわーそうだったのか!」と純粋な驚きがあり、エンターテイメント性の強さを実感しました。
振り返って物語の全体を見渡せば、『アオイトリ』のような爆発的な盛り上がりどころよりも、『アマツツミ』のような読み進める喜びが中盤まで一定の高い水準で推移し、終盤にかけてじわじわと尻上がりに感情面を揺さぶってくる感じでしょう。
テキストを読み進めながら何度か立ち止まることがあったんですが、決して展開が理解出来ないために立ち止まったのではなく、言葉が伝える想いを咀嚼するためにクリックを止めていました。
バックログを遡っては考えて、自分なりにメッセージを解釈しては、また考えての繰り返し。
とにかく物語の美味しいところを味わい尽くしたかったんですよね。
もちろん純粋にストーリーも楽しめてますので。
色々欲張ったプレイスタイルで臨んだためにかなりスローペースで読み進め、クリアまでは13時間ほどを要しました。
これはプレイヤーである自分自身が、ダアトやビナーや姫子との心のふれあいに要した時間ってことで。
特徴的というかとても面白いなと思ったのは、やはりダアトの存在。女装でもなく、TSものでもなく、概念として二つの性を合わせ持つ新たなエロゲ文化がはじまったぞ!と、興味津々。
おそらくすべてのプレイヤーたちが賞賛を贈る大発明だったと言えます。
ゆくゆくは受け攻め論が争点となり、新たな文化の革新になると勝手に期待しています。(適当)
あともう一点面白いと思ったことを。
それは、登場人物の誰一人として人間がいないこと。
優しいアンドロイドと、後悔や未練を持った幽霊たち。
人間代表はあくまで人間の集合意識。
純粋な個ではないので人間にはカウントせず。
それなのに、心のふれあいが描かれています。
機械人形であるアンドロイドも知性ある心を持っているわけです。
まるで生きている人間のように。
でも人間そのものの心ではなく、少しの歪さをもった不完全な心であり、それでも善意のある心でもある。
そのアンドロイドが幽霊とのふれあいで心を成長させ、成熟した心が葬送の鐘の危機から世界を救い、大切な友の葬送を迎える。
物語としては分りやすいくらい王道の泣きゲー。
ええ、もちろん泣きましたとも。
プレイしたい人は大体同じ感動を共有出来ていると思います。
それに加えた個人的な感動ポイントは、ダアトとビナー、姫子とのふれあいを通して描かれた「知性ある心が持つ善意の可能性」は「人間の善意の可能性」でもあったと、プレイヤーの自分自身が気づいた時。
これはメッセージ性のところですね。
もしかしたら間違った解釈かもしれませんが、自分にはどうしても心に刺さるものがあって、善性由来の優しさに静かに涙が溢れてくる泣きゲーだったなって感想を持ちました。
だからこの感想記事を書いてるわけで。
やっぱり御影さんの作品ならではの善性のメッセージってとても惹かれるものがあって、物語を終えた時に確かにある手ごたえというか、心が温かくなる感覚ってとても価値があるように思えるんですよね。
それを理由として、自分にとってはとても素敵で良い作品だったという結論でございます。
★善性の物語の価値とは
本作の登場人物のすべてが善人。
誰一人として悪人はいません。
そうすれば物語はおのずと善性に傾きます。
何かを成そうとする意志の始まりは心ある者の善意から。ダアトやビナー優しさやの思いやりも、姫子の葬送の鐘に対する強い意志も、知性ある心の善意から始まっているように感じました。
誰の心にもある本来の優しさや、善意に目を向ける考え方は本作の中でも印象的で、幽霊の心に優しく寄り添えるダアトや、人類代表の心のあり方や物事の捉え方はとても素敵なことだと思えます。
穿った見方をすれば、本作の世界はどこまでも綺麗事なのかもしれません。
現実の世界を見ればままならないことだらけ。
だからこそ、本作が描いた善性の物語には価値があります。善意の可能性を、物語として伝え示してくれることに意義があるのです。
世界の善意を否定したらこの世は闇。
そんな悲しい世界なんて、嫌じゃないですか。
意識下でも無意識下でも人と人は助け合い、支え合って、幸せになろうと希望を持っている方が心穏やかじゃないですか。
人は一人では生きてはいけないですから。
自分自身を信じ、他人を信じる。
現実にはなかなか難しいかもしれないですけど、創作の世界だけでも優しい世界でいてくれるなら、心の拠り所になるはずなんです。
だからそれを大切な人たちと共通認識でいられたのなら、とても嬉しいことだと思います。
ビナーが弱音を漏らすダアトに頼られた際に喜んでいたように、心と心が繋がっていたなら、信じあうことはなおさら嬉しいもので、幸せなことだと思えるのでしょう。
これが愛ですよね。
そうであれば良いなという想いは、現実世界での意識付けになり、やがて行動が変わり日常化していく。
こういった希望こそが祈りであり、何かを成そうとする際の勇気となり、幸せに至るヒントなんだと思います。だから綺麗事であったとしても、そうあって欲しいという想いに寄り添ってくれる物語は、自分にとっては大きな価値がありました。
ここで述べた捉え方は本作のメッセージから逸れてしまったかもしれないので、あくまで個人の価値観だと捉えていただければと。
価値観は人それぞれですから押し付けはしませんので。
それでも意志の始まりは心ある善意から。
幸せになりたい、幸せにしたいという祈りは人の善意から始まるべきだと思いますし、そうであれば素敵だなって思ったって話でした。
★人類代表は希望かもれない
本作の中で一番印象的な存在は人類代表でした。
人類代表はどんな時にでもダアトを思いやり、ビナーを思いやり、姫子をも思いやっていました。
人類の集合意識は優しかったんですよね。
「いきなさい」の言葉がその象徴なのかもしれません。
御影さんの過去作の言葉を借りるなら「人を動かすものは絶望ではなく、愛情」で、善意が正しく人間の心に根付いているように思えて、創作の物語であったとしても嬉しくなりました。
人類代表は特定の人物を指すのではなく、言葉通り人類代表なんですから、人間って捨てたものじゃないなって。
物語終盤での人類代表と姫子の約束も信頼ありきで、相手を信じる善意から生まれます。
こういった人類の集合意識の優しさを感じるエピソードが物語の中にたくさん散りばめられていたので、気づけば人類代表が好きすぎました。
ビジュアルも可愛いですし、性格もユーモラスで友達にいて欲しいタイプ。
お声も秋野花さんでしたしね。たまらない。
振り返ってみるとダアトの心の始まり、知性を育てたのは人類代表なんですよね。
創造主でもあり親でもあるわけで、子であるダアトもビナーを思いやり、やがて愛を知り、心と心を繋げて優しさの環を広げていく。
これも人間の持つ力なのでしょう。
善意と悪意のどちらも持ち合わせているのが人間ですが、物語の中での人類代表は一貫して善性に偏っていました。
世界のバランスを保つ意味で、悪があるからこそ善意に価値があるのは理解しています。
当たり前ですが、自分自身も善と悪を持ち合わせていますので。
気分が沈めばネガティブな思考だって生まれますし、魔が挿せば悪意に負けるかもしれません。
それでも、ポジティブな思考で可能な限り善意に目を向けていたい。
これは今を生きる自分を含めた人間たちにとっては希望で、そんな未来があったらいいなと素直に思えます。
もしかしたら未来ではなく、今この時に人類代表という存在を生み出すことが出来たならば、物語の中の人類代表と同じように善意に偏っている可能性だってあります。
その可能性を信じることは祈りなのかもしれませんし、ライター御影さんの祈りだったのかもしれませんね。
めちゃくちゃ適当言ってますけど、自分はそう思いました。
余談。
セフィラ計画を説明したがる人類代表。
なぜなにナデシコのイネスさんじゃん。
(古の知識より)
★姫子から思ったこと
ダアトと共に姫子も主人公でしたね。
物語を見届けたのならば、誰もが納得できるはず。
姫子が安らかに逝くまでの最後のふれあいは、プレイヤーも感情のクライマックス。
この姫子の抱いた感情って、心があるからですよね。
命とは限りあってはじめて生きていることを実感し、魂は輝くのかなって
姫子には郷愁の思いを含め、大切なビナーを失った悲しみもありました。
でも、次元を超えた先でダアトやビナーとふれあった時間は、確かな幸せの時間でものであったはずです。
姫子の旅立ちを見送る時、涙を流しながら画面を見つめていたんですが、不思議と心穏やかでした。
丁寧に言葉にして物語が伝えてくれたからでしょうね。
姫子の心やダアトとビナーの育った心は本物で、心があるからこそ伝わるあたたかさを感じたからなんでしょうね。
自分自身も心を持つ人間です。
心があるから感じ取れるんです。
きっとそういうことなんだと思います。
そうであるなら、きっと鈴の音も。
姫子の物語は終わりを迎え、新たな始まりになるのかもしれませんね。
姫子は成仏することが出来たのでしょう。
この場合の成仏とは、魂の解放と安らかな世界への旅立ち。
鐘の音に呼ばれて生まれた姫子の心は、鈴の音で安らかな世界へ旅立ちました。
ああ、どうか心に安らぎを、魂に救済を。
★受け取ったメッセージに答えを
物語が伝える想いの力を受け留めて自分なりに出した答えは、
「心を通してしか伝わらないものがある」でした。
これは人類代表の言葉でもあります。
心があるから感情がある。
至極当たり前の話ですが、とても大切なこと。
心があるから辛いことや哀しいこともあるけれど、人の善意に目を向ければ、きっとそれ以上に楽しいことや嬉しいこと、幸せなことがあるんだと思います。
そして、人生を豊かにするものは人を愛すること。
これこそ心を通してしか伝えられません。
でも伝わったなら見ている世界は輝きだすはずです。
だからこそ、今の自分にできることは自分を信じて、他人を信じて、善意を信じて、日頃から心の研鑽に努めること。
この世界はきれいだと思えるように。
えーと、こんな感じでしょうか。
これは作品のメッセージを自分なりに解釈して、価値観と照らし合わせて導き出した答えです。
この感想を読んでくださっている方が違う答えを導き出したのなら、それはそれで正しいのだと思いますし、本当はもっと深いメッセージが隠れているのかもしれませんしね。
いつか再走したとき、自分の心が成長していたのなら、また違ったメッセージを受け取れたら嬉しいなって思いますし、楽しみでもあります。
■最後にまとめ
全然物語の話してないじゃん!!
かなり偏った感想になってしまいましたね。
本当に好きだなって思えた作品には、何かしら溢れる気持ちを残しておきたかったわけで、こんな感じになってしまいました。
まとまりもなく、物語の重要シーンにすらあまり触れない感想になってしまいましたが、今回ばかりは感情の備忘録の側面を強くさせて記しましたので、いた仕方なしということでご容赦ください。
盲目的に信仰するわけではありませんが、やっぱり御影さんのシナリオは好きですね。
希望を抱きますし、色々と勇気を貰えます。
自分の心の成熟度や理解力の範囲に限られてしまいますが、心を通して物語に散りばめられた想いを受け取ることが出来たからこその満足感でしょう。
読後にこんな思いを味わえるって凄く贅沢なことだと思ったところで、そろそろ感想を締めさせていただきます。
では最後に謝辞を。
素敵な作品との出会いをくれたパープルソフトウェアの皆様、作品に関わられたすべての方に感謝を。
そして、この感想にお付き合いくださったあなたにも最大限の感謝を。
ありがとうございました。
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