AI各社が小型AIモデル(SLM)に力を入れる理由とは?
最近、Twitter(X)で「OpenAIは開発力が落ちたからGPT-5を出さずに価格勝負に出た」というような言論を見かけたり、まるでLLMの最新モデルが登場したかのように、GPT-4o miniと、Claude 3.5 Sonnet、Gemini1.5 Proの比較表作っている人などを見かけました。いずれも生成AIの専門家として発信をしているアカウントでしたが、これらの投稿には違和感を感じざるを得ません。SLMの意味、価値を理解していないように見えるのです。
※ちなみに私はLLMの最新モデルは各社、アメリカ大統領選挙、連邦議会選挙の終了を待っての発表だと見ています。今年は世界中で選挙ラッシュですから、世論のAIリテラシーの醸成を待たねばならないでしょう。高度な生成AIによるフェイクニュースや、プロパガンダコンテンツで世論を混乱させる可能性が高いでしょうし。
AI技術は急速に進化し、私たちの生活やビジネスの多くの側面に変革をもたらしています。特に、生成AIはその可能性を広げ続けていますが、その一方で、大型AIモデルの運用には高いコストと膨大な計算資源が必要です。この問題を解決するために、AI各社は小型AIモデル(Small Language Models: SLM)の開発に注力しています。
最近、OpenAIは新しい小型AIモデル「GPT-4o mini」を発表しました。このモデルは、従来の大型モデルに比べてコスト効率が良く、処理速度も向上しています。GPT-4o miniの登場により、開発者や企業は、より経済的かつ効率的にAIを活用できるようになりました。
この記事では、小型AIモデル(SLM)の登場背景と目的、そしてそのメリットや技術的特徴、さらに実際の利用例や競合他社の動向について詳しく解説します。これにより、なぜ今AI各社が小型AIモデルに力を入れているのか、その理由を超わかりやすく説明します。
小型AIモデル(小規模言語モデル:SLM)の登場背景と目的
AI技術の進化に伴い、生成AIは多くの分野で活用されていますが、その大部分は大規模言語モデル(LLM)によって支えられています。冒頭で述べた通り、LLMは膨大なデータセットと計算リソースを必要とし、その運用コストは非常に高額です。これにより、LLMの導入と運用は一部の大企業に限られてしまうことが多く、中小企業や個人開発者にとっては手の届かない存在となっています。
この問題を解決するために、AI各社は小型AIモデル(Small Language Models: SLM)の開発に注力し始めました。SLMは、LLMに比べてパラメータ数が少なく、計算リソースの消費も抑えられているため、運用コストを大幅に削減することが可能です。これにより、より多くの企業や開発者がAI技術を活用できるようになります。
OpenAIが最近発表したGPT-4o miniは、その代表的な例です。GPT-4o miniは、従来のGPT-3.5 Turboと比較して60%もコスト効率が向上しており、処理速度も大幅に改善されています。この新しいモデルは、特に中小企業や個人開発者にとって魅力的な選択肢となるでしょう。
さらに、GPT-4o miniの登場は、単なるコスト削減だけでなく、AIの利用範囲を広げることも目的としています。小型AIモデルは、応答速度の向上や省エネルギーの効果も期待されており、これにより、リアルタイムでの応答が求められるアプリケーションや、エッジデバイスでの利用が可能になります。
以上のように、SLMの登場背景には、コスト効率の向上と計算リソースの削減という実用的な理由があり、その目的はAI技術の普及と利用範囲の拡大にあります。
小型AIモデル(SLM)のメリットと技術的特徴
小型AIモデル(Small Language Models: SLM)には、多くのメリットと技術的特徴があります。ここでは、GPT-4o miniを例に取り、その具体的な利点と技術的な側面を詳しく見ていきます。
コスト効率の向上
SLMの最大のメリットの一つは、そのコスト効率の高さです。GPT-4o miniは、従来のGPT-3.5 Turboと比較して、コストが60%削減されています。具体的には、GPT-4o miniは入力トークンあたり$0.15、出力トークンあたり$0.60と非常に低コストで提供されます。このコスト削減により、多くの中小企業や個人開発者がAI技術を手軽に利用できるようになり、イノベーションの促進が期待されます。
処理速度の向上
SLMは、パラメータ数が少ないため、処理速度も向上します。GPT-4o miniは、レイテンシ(応答時間)が短く、リアルタイムでの応答が求められるアプリケーションに適しています。例えば、顧客サポートのチャットボットや、インタラクティブなアプリケーションなど、迅速な応答が必要な場面での活用が見込まれます。
パラメータの減少による効率化
SLMは、パラメータ数が少ないことで計算リソースの消費が抑えられます。GPT-4o miniは、大規模なデータセットを必要とせず、効率的に動作します。これにより、エネルギー消費も削減され、環境負荷の軽減にも寄与します。パラメータ数の減少により、モデルのトレーニング時間も短縮され、新しいモデルの開発サイクルが早まります。
マルチモーダル対応
GPT-4o miniは、テキストだけでなく、画像や音声といった複数のモーダルに対応しています。これにより、より多様なアプリケーションが開発可能となり、ユーザー体験の向上が期待されます。将来的には、ビデオやオーディオ入力にも対応する予定であり、さらに多機能なAIモデルへと進化していくでしょう。
コンテキストウィンドウのサイズ
GPT-4o miniは、128Kトークンのコンテキストウィンドウを持ち、より多くの情報を一度に処理できます。これにより、長い文章や複雑な会話の理解が向上し、より自然な対話が可能になります。ChatGPT Freeユーザーには8Kトークン、Plusユーザーには32Kトークンのコンテキストウィンドウが提供されており、利用シーンに応じた柔軟な対応が可能です。
最新の安全対策とセキュリティ機能
GPT-4o miniは、最新の安全対策とセキュリティ機能を備えています。OpenAIは、モデルのトレーニング過程で有害な情報を排除し、モデルの行動をポリシーに沿って調整するために、人間のフィードバックを利用しています。これにより、モデルの信頼性と安全性が向上し、商業利用においても安心して使用できるようになっています。
以上のように、小型AIモデル(SLM)は、コスト効率の向上、処理速度の向上、パラメータの減少による効率化、マルチモーダル対応、コンテキストウィンドウの拡大、最新の安全対策といった多くのメリットと技術的特徴を持っています。これにより、AIの普及と利用範囲の拡大が期待できるのです。
AI各社が小型AIモデル(SLM)を開発する理由はここにあるのです。
小型AIモデル(SLM)の実際の利用例と競合他社の動向
従来の大規模言語モデル(LLM)と比較して、 軽量かつ省電力で動作するのがSLMの強み。 この特徴を生かし、 スマートフォンやIoTデバイスなど、リソースの限られた環境での活用が期待されています。
具体的に、SLMは私たちの身近なところで、どのような活躍を想定できるのでしょうか?今後、次々と世に出てくるであろう、SLMを活用したサービス例を考えてみました。
オフラインでも使える音声アシスタント: インターネット接続が不安定な場所でも、快適に音声操作が可能になります。
リアルタイム翻訳イヤホン: 外国語を話す相手の言葉を、ほぼ遅延なく翻訳して聞き取ることができます。
パーソナライズされた学習アプリ: ユーザーのレベルに合わせた問題を自動生成し、効果的な学習をサポートします。
スマート家電の高度な制御: 音声コマンドによる家電操作がより自然で複雑な指示に対応できるようになります。
こんなイメージでしょうか。このように、SLMは "いつでも、どこでも、安価に" AIの恩恵を受けられる社会を実現する鍵と言えるでしょう。
では、SLMの開発競争はどのような状況なのでしょうか? 各社の動向を見ていきましょう。
Google: 今年、2月には20億パラメータと70億パラメータの2サイズで発表した「Gemma」、7月に、90億パラメータと270億パラメータの2サイズを持つGemma 2を発表。
OpenAI: LLM「GPT-4o」の小型版である 「GPT-4o mini」 をリリース。
Microsoft: 38億パラメーターを持つ「Phi-3-mini」を4月に発表。
その他にも、スタートアップ企業を中心に、様々なSLMが開発されています。SLMはその利便性、将来性から、各社争うように開発しており、その状況からも開発力が落ちたから「GPT-4o mini」 がリリースされたと考えるのはちょっと違うでしょう。
落合の意見として
多くの専門家が、SLMとLLMを同列に比較しようとしていますが、これは正しくありません。LLMは大規模なデータセットと高い計算リソースを必要とし、非常に高度なタスクに適しています。一方、SLMはコスト効率と応答速度を重視して設計されており、異なる用途に向けられています。SLMをLLMと比較することは、用途の違いを無視した不適切な評価です。
例えば、BMW 7シリーズとメルセデスベンツ Sクラスをレクサス LSと比較するのは妥当ですが、カローラと比較するのは全く異なるカテゴリの車を比較するようなものです。このような比較は、SLMの真の価値を理解していないことを示しています。
以上のように、小型AIモデル(SLM)は多くの実用的な利点を持ち、さまざまな分野での利用が進んでいます。また、競合他社もSLMの開発に力を入れており、今後ますますその重要性が増していくことでしょう。
小型AIモデル(SLM)の未来の展望
中小企業やスタートアップ企業にとって、SLMは大きな魅力を持っているのはこれまで述べた通りです。低コストで特化した用途を持つAIサービスはこれから開発競争に入るでしょう。
また、SLMの普及により、エンドユーザーの生活も大きく変わるでしょう。スマートホームデバイスやパーソナルアシスタント、エンターテイメントの分野など、さまざまな場面、さまざまなデバイスでAIが活躍することが予想されます。オンデバイスAIってやつです。
いろいろな家電に搭載されることでしょうね。日常生活がより便利で快適になるでしょう。
まとめ
AI技術の進化は私たちの生活やビジネスの多くの側面に大きな影響を与え続けています。特に、小型AIモデル(小規模言語モデル:Small Language Models: SLM)の登場は、AIの普及と利用範囲の拡大において画期的な変化をもたらすでしょうね。
今回は、小型AIモデル(SLM)の登場背景と目的、具体的なメリットと技術的特徴、実際の利用例と競合他社の動向、そして未来の展望について詳しく解説しました。SLMは、コスト効率の向上、処理速度の改善、パラメータの効率化、マルチモーダル対応、最新の安全対策など、多くの利点を持ち、多様な分野での応用が進んでいます。
特に、OpenAIのGPT-4o miniの発表は、SLMの重要性と可能性を強調するものです。GPT-4o miniは、高いコスト効率と優れた性能を提供し、多くの企業や開発者がAI技術を手軽に利用できるようにしています。これにより、AI技術の普及が促進され、さまざまな新しいアプリケーションやサービスが誕生することが期待されます。
AI各社もSLMの開発に力を入れており、競争を繰り広げています。これらの競争は、AI技術のさらなる進化と普及を促進し、ユーザーにとっても多くの選択肢を提供することになるでしょう。
SLMは、AI技術の新しい波を作り出す可能性を秘めています。今後もSLMの進化と普及を見守りながら、その可能性を最大限に引き出す取り組みが求められます。AI技術はますます日常生活に浸透し、私たちの生活をより便利で豊かにすることが期待されます。
ただ小さいだけでもないし、LLMの劣化版でもないのだよ。
最後に…AI技術は正しく理解し、適切に活用することが重要。SLMとLLMの用途の違いを理解し、それぞれの強みを活かしながら、活用していきたいですね。