日本人の生成AIへの認識に対する危機感について
日本人の生成AIに対する危機感の欠如: 世界は「実装」〜「活用」へ向かっている
落合です。
突然ですがあなたは、ChatGPT をはじめ、Gemini、Claude 3、その他、ここ最近活気付いているさまざまなAIツール、つまり「生成AI」全般について、どのような印象をお持ちでしょうか。
「面白そうだけど、難しそう」
「自分の仕事には関係ないかな」
「どうせ一過性のものでしょ」
まぁこの記事を読んでいる方はそんなことは無いと思いますが、世の中の認識としてはそんなイメージの方も多いかもしれません。いや、ほとんどがそんな認識でしょう。
正直なところ、私は、めちゃくちゃ焦っています。
毎日数時間は生成AIに触れている私でも、めちゃくちゃ焦っています。
そして、触ったことも無いであろう、大多数の日本人の生成AIへの意識の低さに、強い危機感を抱いています。「勝手に心配すんな!」とか、「上から目線!」と言わずに、まぁ聞いてください。
世界では、生成AIはすでに「実装」を終え、「活用」の段階に入っているのです。このままでは、日本は世界から取り残されてしまうかもしれません。
なぜ、今、生成AIが注目されているのか?
「生成AI」という言葉自体は、もうすでに聞き慣きた方も多いでしょう。しかし、「生成AI」と言われても、具体的にどのようなものか、ピンと来ない方もいるかもしれません。生成AIとは、テキスト、画像、音声、プログラムコードなど、さまざまな種類のコンテンツを自動的に生成することができるAIのことです。
例えば、
文章作成: ブログ記事、小説、詩、脚本、メール、広告文など
画像生成: イラスト、写真、デザイン、ロゴ、3DCGなど
音声生成: 音楽、ナレーション、効果音、音声合成など
プログラムコード生成: Webサイト、アプリ、ゲームなど
といったことが、生成AIによって可能になります。いまや動画生成も可能な領域に入ってきました。
つまり、これまで人間が時間と労力をかけて行ってきたクリエイティブな作業を、良くも悪くもAIが代行してくれる時代になりつつあります。そして、その流れは避けられません。絶対に。
世界中で進む生成AI実装:その背景にあるもの
2022年末に公開されたOPEN AIによるChatGPTは、わずか2ヶ月で月間アクティブユーザー数が1億人を突破し、史上最速で成長したWebサービスとして、世界中に衝撃を与えました。
このChatGPTの登場をきっかけに、世界中で生成AIへの関心が爆発的に高まり、現在も、Google、MicrosoftといったBig Techから、数多くのスタートアップまで、様々な企業が生成AIの開発にしのぎを削っています。
では、なぜ、今、これほどまでに生成AIが注目されているのでしょうか?
その背景には、以下の3つの要因が挙げられます。
AI技術の劇的な進化: 近年、深層学習(Deep Learning)と呼ばれる技術の進歩により、AIの性能は飛躍的に向上しました。特に、大量のデータから言語を学習する大規模言語モデル(LLM: Large Language Model)の登場は、生成AIの可能性を大きく広げました。
デジタルデータの爆発的な増加: インターネットやスマートフォンの普及により、世界中でデジタルデータが爆発的に増加しています。この膨大なデータは、生成AIの学習に不可欠なものであり、生成AIの進化を加速させています。
社会全体のデジタル化の進展: コロナ禍によるリモートワークの普及など、社会全体のデジタル化が急速に進んでいます。この流れは、生成AIに対する需要をさらに高めています。
日本を覆うネガティブな空気:その根源にあるもの
一方、日本では、生成AIに対してネガティブな意見を持つ人が少なくありません。
「人間の仕事を奪う」
「悪用されるかもしれない」
「どうせ一時的なブームだろう」
こうした意見を見るたびにガッカリします。企業によっては実装どころか生成AIの使用を禁止しているケースを多く見かけます。学校教育の現場などでも、「教育手法や課題の出し方を変える時期だ」という意見よりも、禁止したいという声のほうが大きいように感じます。
(クリエイターさんの「画像生成AIの影響によりクリエーターの創作活動や権利が脅かされている」という意見への言及についてはここでは触れません。)
なんだか、インターネットの普及初期や、SNS普及の初期にあった出来事を再び見ているように感じます。あの当時もネガティブに捉える人が多く、日本は遅れをとりました。
今でも「SNSなんて害悪でしかない!」という人はいますが、そうじゃないんだよ。悪だろうと、正義だろうと、普及するものは普及します。もうインターネットもSNSも無い時代に戻ることなんてできないのです。普及を前提に最善の策を取るしか無いの。
私は、このようなネガティブな意見の背景には、日本社会特有の「新しい技術に対する拒否反応」が存在しているように感じています。
日本は、これまで、ロボット技術や自動車産業など、様々な分野で世界をリードしてきました。しかし、近年は、IT分野における国際競争力の低下が指摘されています。
その原因の一つとして、
失敗を恐れるあまり、新しい技術への挑戦をためらう企業文化
変化を嫌う硬直的な労働市場
IT人材の不足
などが挙げられます。
また、日本人は、
未だ高齢者により社会が支配されている
(新陳代謝が無く、出る杭は打たれる)リスク回避を優先する国民性
などの影響もあり、新しい技術に対して慎重になりすぎる傾向があるように思います。
ネガティブといっても、兵器への転用、バイオテロ、プロパガンダ、検閲、監視などに悪用される危険性、AI開発競争に走るあまり安全性への配慮がおろそかになり、長期的には人類に悪影響を及ぼす可能性、超知能のコントロールに関する問題…
などで否定的な意見が出るならば、まだ理解できるのですが、日本人の多くはまだその領域には達していないですよね。もっとその手前。「なんとなく嫌だから」を超えられていないのだと思う。
世界は「活用」へ: 軍、エネルギー、農業…あらゆる分野で進む生成AI革命
しかし、世界に目を向けると、生成AIはすでに「実装」、「活用」の域に入っています。軍、エネルギー、農業、一見すると生成AIとは遠い分野だと思われがちですが、海外に眼を向けると、そのような分野でも、どんどん生成AIの実装〜活用が始まっています。
アメリカ陸軍における生成AI活用: 契約書作成を効率化
アメリカ陸軍は、2024年7月から、契約書作成などの業務効率化を目的として、生成AIプログラムの試験運用を開始することを発表しました。
出典: Army teases pilot generative AI program to start in July (Breaking Defense)
アメリカ陸軍は、AIアルゴリズムの実装に伴うリスクを軽減するための500日計画の一環として、独自の生成AIプログラムを開発し、IL 5(機密性の低い情報を保存・処理するための最高レベルの認証を持つシステム)の安全なクラウド環境で運用するとのことです。
これは、生成AIが軍事分野という極めて重要な領域においても、その可能性が真剣に検討され始めていることを示しています。
従来、契約書の作成は、法律の専門知識を持った担当者が、膨大な時間と労力をかけて行わなければなりませんでした。しかし、生成AIを活用することで、
必要な情報をAIに指示するだけで、契約書の雛形を自動生成
過去の契約書データに基づいて、最適な条項を提案
契約書の内容を自動チェックし、リスクを事前に回避
といったことが可能になります。
これにより、契約書作成にかかる時間とコストを大幅に削減し、担当者はより重要な業務に集中できるようになると期待されています。
生成AI × エネルギー問題: 持続可能な社会の実現に向けて
World Economic Forumのレポート「Fostering Effective Energy Transition 2024」では、生成AIなどのデジタルイノベーションが、エネルギーの公平性と安全性を高める上で重要であると指摘されています。
出典: 3 ways to harness the power of generative AI for the energy transition (World Economic Forum)
具体的には、生成AIは、
資本プロジェクトの遂行におけるスピードとコスト削減: 大規模なエネルギーインフラの建設において、計画立案、設計、資材調達、工程管理などを最適化し、コスト削減と工期短縮を実現
資産効率と生産性の向上: 太陽光発電パネルの角度調整、風力タービンのブレードのピッチ制御などをリアルタイムで行い、エネルギー生産効率を最大化
需要と供給の管理と取引の強化: 膨大なデータに基づいてエネルギー需要を予測し、需給バランスを最適化することで、エネルギーの安定供給と価格抑制に貢献
といった形で、エネルギー問題解決に貢献すると期待されています。
例えば、再生可能エネルギーの導入拡大においては、気象条件の変化に応じて発電量が変動するという課題があります。しかし、生成AIを活用することで、
過去の気象データやリアルタイムの気象情報に基づいて、発電量を予測
需要に応じて、蓄電池への充電量や電力網への供給量を調整
エネルギー需給を最適化することで、安定供給とコスト削減を両立
といったことが可能になるのです。
生成AI × 農業: 食糧問題解決の切り札に
発展途上国の小規模農家を支援するために開発された生成AIボット「Farmer.Chat」は、農家が抱える様々な問題に対して、最適な解決策を提案してくれるAIアシスタントです。
出典: Generative AI for Farming (O'Reilly)
Farmer.Chatは、
多言語対応: 英語、ヒンディー語、テルグ語、アムハラ語、スワヒリ語、ハウサ語など、複数の言語に対応(開発途上国の小規模農家が重要な農業情報を入手できるように設計されています。)
マルチモーダル対応: 音声、テキスト、ビデオなど、様々な形式の情報を利用可能
ローカルな知識の活用: 現地の気候、土壌、作物などの情報に基づいた、きめ細かなアドバイスを提供
プライバシー保護: 農家の個人情報や農場のデータは、厳重に保護
気候変動への対応: 気候変動の影響を考慮した、持続可能な農業を支援
といった特徴を備えており、発展途上国の農家の所得向上や収穫量の増加に貢献しています。
例えば、Farmer.Chatを活用することで、
害虫が発生した場合、その種類や対策を写真から瞬時に診断
土壌の状態を分析し、最適な肥料の種類や量を提案
気象データに基づいて、最適な播種時期や収穫時期を予測
といったことが可能になります。
Farmer.Chatを開発した団体、Digital GreenはAI を活用したプラットフォームにより、既に結果を出しています。
農家からは、
所得が最大24%増加
収穫量が最大17%増加
といった報告が挙がっており、その効果は確かなものとなっています。
日本が「危機感」を「行動」へ: 生成AI時代に生き残るために
このように、世界では、生成AIはすでに様々な分野で活用され、社会に大きなインパクトを与え始めています。
一方、日本は、生成AIに対する危機感の欠如から、世界の流れに乗り遅れつつあります。生成AI領域は進化のスピードが半端じゃありません。もう焦らなきゃいけない。このままでは、日本は、生成AIの恩恵を受けるどころか、世界から取り残されてしまうかもしれません。
日本が生成AI時代を生き残り、世界で活躍していくためには、
政府レベル: 生成AIに関する倫理的なガイドラインの整備、AI人材育成への投資、生成AIを活用した新規ビジネス創出の支援など
企業レベル: 生成AIの導入による業務効率化、新規製品・サービス開発、競争力強化など
個人レベル: 生成AIに関する知識・スキルの習得(ここ最近は政府によるリスキリング支援もあります)、生成AIを活用した新しい働き方への対応など
といった取り組みが必要です。たぶん現状でも他国に比べりゃ政府の施策などは充実しているのだと思いますが、日本社会特有の強烈な「新しい技術に対する拒否反応」を超えていくには、まだまだ足りないのでしょう。私たちの意識も含めて。
まとめ
生成AIは、テキスト、画像、音声、プログラムコードなど、さまざまなコンテンツを自動生成する技術として、世界中で実装、活用が進んでいます。日本においては、生成AIの導入や活用に対する認識がまだ低い現状が続いていますが、世界ではすでに、軍事、エネルギー、農業など多様な分野で活用されています。
この状況を打破し、日本が生成AI時代においても世界で活躍し続けるためには、政府、企業、個人それぞれのレベルでの積極的な取り組みが求められます。特に、日本社会特有の「新しい技術に対する拒否反応」を超えていくためには、生成AIの可能性とその恩恵を広く理解し、受け入れる"過剰なまでの"意識改革が必要です。ではどうすればいいか?は日々考えてはいますが、答えを出すのはカンタンではないでしょう。
いずれにしても、生成AIの時代に取り残されないためには、私たち一人ひとりが危機感を持ち、焦り、行動に移していくことが重要なのではないでしょうか。最初の一歩はそれしかないよね。