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生成AIの社会的影響とその規制について

2022年11月にOpenAIがChatGPTを発表してからわずか18か月。生成AIは公共・民間のあらゆる領域で注目を集めています。私自身にとっても欠かせないツールになっていますし、弊社の事業においては、既に生成AIが無ければ成り立たないほどの存在になっています。
日本における社会実装が遅れているのは事実(毎回のようでしつこいと思われるかもしれませんが、世に危機感を持たせたい思いから、あのグラフは今回も掲載させていただきます。)ですが、その社会的影響の大きさから政治家、経済学者、社会科学者、学校関係者、行政、投資家、もちろんAI開発者などにより、さまざまな角度から生成AIについての協議が行われています。

2023年12月のPwCコンサルティングの調査による生成AI導入率と、日本企業における導入率は極めて低く、僅か18%。豪州企業の66.2%、米国企業の73.5%と比較しても、かなり遅れている

国連人権高等弁務官のフォルカー・ターク氏も、この技術の影響について懸念を示しています。「高度なAI、特に生成AIの人間への影響は、既に多くの人々に感じられています。技術の恩恵がすべての人に行き渡るためには、人々を中心に据える必要があります」と彼は述べました。

生成AIの規制は、その成長と利用をバランスよく進めるために必要でしょう。過度な規制は技術革新を阻害する一方で、適切な規制は安全性と倫理性を確保しつつ、技術の発展を促進します。私たち人類は、AI規制に対し、現在どのあたりの立ち位置なのでしょう。

今回は、生成AIの社会的影響とその規制について、考えていきましょう。

生成AIがもたらす影響

生成AIは、私たちの日常生活に深く浸透し、その利便性と革新性を提供しています。しかし、その反面、多くの課題やリスクも伴っています。ここでポジティブな影響、ネガティブな影響を整理してみましょう。

ポジティブな影響

  1. ビジネスプロセスの効率化:
    生成AIは、複雑なタスクを自動化し、業務の効率を大幅に向上させます。例えば、企業はAIを使ってメールの自動返信やカスタマーサポートのAIチャットボットを導入するケースも増えています。これにより、時間と労力を節約し、従業員がより戦略的な業務に集中できるようになります。

  2. クリエイティブコンテンツのアクセス性向上:
    生成AIツールは、ユーザーが簡単に視覚的に魅力的なグラフィックや強力な画像を作成するのを助け、創造性を広げています。例えば、AIデザインツールを使えば、デザインの専門知識がなくてもプロフェッショナルなポスターやバナーを作成することができます。これにより、小規模ビジネスや個人でも高品質なコンテンツを手軽に作成できるようになります。

  3. 知識の即時アクセス:
    大規模言語モデル(LLM)は、質問に答え、コンテンツを生成し、言語を翻訳することで、情報取得を効率的かつ個別化されたものにしています。例えば、学生が歴史の課題に取り組む際、AIに質問して即座に答えを得ることができます。AIにより、教育はより強化されていくでしょう。一部ではAIによりパーソナライズされた学習体験も既に提供されています。

ネガティブな影響

  1. 品質管理の欠如:
    生成AIモデルの出力を客観的な真実と誤解し、誤情報の拡散を助長する可能性があります。例えば、AIが生成した情報が誤っている場合、それを信じてしまう人が増える可能性があります。これにより、情報源への信頼が損なわれ、社会的な認識や意思決定に悪影響を与えることがあります。

    ※AIはハルシネーションと呼ばれる、実際には存在しない情報を生成する現象を起こすことがあります。生成AIやチャットボットが質問に対して自信を持って誤った回答を提供することがあるのです。見てきたかのように嘘をつきます。これは、AIが訓練データに基づいて予測を行うため、確実な情報源がない場合に架空の事実を作り出すことが原因です。

  2. AIの偏見や差別:
    生成AIは訓練データの質に依存します。訓練データに偏見や差別が含まれている場合、AIの出力にもそれが反映されることがあります。例えば、過去のデータに基づいて作成されたAIが、特定の性別や人種に対して偏見を持つことがあり、これが不公平な結果を生む可能性があります。

  3. フェイクコンテンツの増加:
    生成AIは、高度なフェイクコンテンツを作成する能力を持っています。デープフェイクと呼ばれているものです。例えば、AIを使って偽の動画や音声を作成し、それが真実であるかのように広めることができます。これにより、世論を操作し、公の信頼を損なうリスクがあります。

  4. 所有権の定義の欠如:
    AI生成コンテンツの所有権を定義するための包括的な枠組みが存在しません。例えば、AIによって作成された絵画や音楽の所有者が誰であるかが都度明確であるとは限らないため、法的な問題が発生する可能性があります。最新の技術に対し、法が追いついていないのです。このような状況は、クリエイティブな業界での著作権問題を引き起こすことがあります。

これらの影響は、生成AIが社会やビジネスに与える影響を示しており、ポジティブな面とネガティブな面の両方を理解することが重要です。

AI規制の必要性と進展

生成AIの社会的影響を管理するためには、包括的な規制の枠組みが必要です。今週、EU首脳は数年にわたって協議されてきた、27カ国における人工知能の使用を規制するAI法を可決しました。このAI法では、AIによる感情認識の使用を学校や職場で禁止し、中国の社会信用システムのような行動評価システムを制限するなどの措置が含まれています。さらに、AIを利用した詐欺や非同意の画像生成などの不正行為に対する消費者保護を強化するため、ウォーターマークやコンテンツの証明書を導入することが求められています。

※ウォーターマーク(電子透かし)とは、画像や動画、音声などのデジタルコンテンツに、人間には見えないがコンピュータには検出できる情報を埋め込む技術です。AIによる作成を識別する技術として利用でき、著作権保護や改ざん防止、AIが生成したコンテンツの識別などに役立ちます。

カリフォルニア州もAI規制の最前線に立っており、AIに関する法律の制定に向けてEUと協力しています。EUは2022年、サンフランシスコにオフィスを開設し、テクノロジー関連の法律と規制について、カリフォルニア州とのコミュニケーションを強化しています。カリフォルニア州議会では、企業や州機関に対してAIモデルのテスト結果を報告することを要求する法案や、AI生成の画像や動画にウォーターマークを付けることを義務付ける法案など、複数のAI規制法案が審議されています。これらの法案は、AIのリスク管理を強化し、消費者保護を図ることを目的としています。

AI規制の進展において重要なのは、生成AIの研究と安全な利用を促進するための適切な枠組みを設けることです。例えば、米国の上院議員マーク・ワーナーは、生成AIのバイアスや有害な出力に関する研究を促進するために、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の例外を拡大することを提案しています。要するに、AI研究者がもっと自由に研究できるような環境を整備するということです。これは、AIシステムの安全性と公正性を確保するための重要なステップです。

また、カリフォルニア州のプライバシー保護機関であるCalifornia Privacy Protection Agency(CPPA)は、EUのプライバシー法であるGDPRに触発されて設立されました。この機関は、企業がAIを使用する際のルールを策定し、消費者、学生、労働者の保護を強化することを目指しています。CPPAは、AIの使用による影響評価を求める規則の作成を進めており、これによりAIの透明性と責任性を確保することを目指しています。

規制の導入には、技術の進歩を妨げることなく、社会に対するリスクを最小限に抑えるバランスが求められます。技術リーダーや政治家は、このバランスを保ちつつ、生成AIのリスクを管理し、その社会的利益を最大化するための戦略を策定する必要があります。生成AIは社会、文化、経済に大きな影響を与え続けるため、未来を築くための適切な対策が求められています。

まとめ

生成AIは、私たちの生活やビジネスにおいて重要な役割を果たしつつありますが、その導入と活用には慎重なアプローチが求められます。特に日本では、生成AIの導入率が低く、その利便性と革新性を享受するためには、さらなる取り組みが必要です。

生成AIの普及は、多くのポジティブな影響をもたらしています。ビジネスプロセスの効率化、クリエイティブコンテンツのアクセス性向上、知識の即時アクセスなどが挙げられます。これらは、企業や個人がより効率的に活動できるようにする一方で、教育やクリエイティブな活動にも大きなメリットを提供しています。

しかし、生成AIの利用にはネガティブな側面も存在します。品質管理の欠如、AIの偏見や差別、フェイクコンテンツの増加、所有権の定義の曖昧さなどが問題として浮上しています。これらのリスクを適切に管理するためには、包括的な規制と倫理的なガイドラインが必要です。

現在、EUやカリフォルニア州では、生成AIのリスク管理と消費者保護を強化するための規制が進められています。これには、AIによる感情認識の使用禁止や、AI生成コンテンツへのウォーターマークの導入が含まれています。これらの取り組みは、生成AIの安全性と透明性を確保するための重要なステップです。

また、米国では、生成AIのバイアスや有害な出力に関する研究を促進するために、デジタルミレニアム著作権法(DMCA)の例外を拡大する提案がなされています。これは、AI研究者が自由に研究できる環境を整備し、AIシステムの安全性と公正性を高めることを目指しています。

私個人の意見としては、技術の発展を妨げるような強すぎる規制や、感情論から生まれるような規制は避けてほしいと願います。今の世の中は少しばかり歪みが進み過ぎている。AIの規制に対してもその歪みが加わらないことを祈っています。

生成AIが持つ可能性を最大限に引き出し、そのリスクを最小限に抑えるためには、技術リーダーや政治家が協力して適切な戦略を策定することが重要です。社会、文化、経済に対する生成AIの影響を理解し、未来を築くためのバランスの取れた対策を講じることが求められています。

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