夜に駆けるコーラ
暑い。体の表面からじわりと湿度を感じる。
そうだ、コーラを買いに行こう。
暑い時はコーラ、そう相場は決まっている。
サザンのTシャツ着たまま、あ、下は一応ジーパンに履き替えよう。
玄関を開けて、エレベーターに乗る。無精髭が生えた自分の姿が映る。髭剃るの痛いんだよな、新しい髭剃り買わないと、いつも忘れがち。
管理人のおばちゃんこんばんは。僕が夜に外出するときは、不思議そうな目で見ているよね。たまにロシア語でまくし立ててくる。そばにいる人に英語に通訳してもらうと、大体親切なこと言ってくれてる。おばちゃん、熱量と話の内容に落差ありすぎよ。
外に出ると、思ったよりちょっと涼しかったりする。深い群青色の空、星はあまり見えない。都会はどこ行っても都会。
所謂ミニマートに入る。コーラは一応冷えたとこに入っている、でも多分冷えてない。なんかいつも入荷仕立てみたいな状態。段ボール結構積まれているし。
冷蔵ケースの扉を開けて、手に取る。んまあ、良しとしよう。すごい冷えてるわけじゃないけど、ぬるくもない。
お会計、レジの兄ちゃんは目を合わせないし、座ったまんま。別に気にしないよ、ほんとはそれくらい気楽な方が生きててラクだもんね。ただ、もうちょいセンスの良いお菓子置いておいてほしいな。
店を出て、さっそくゴクリと一発。ん~。美味すぎる。沁みわたる。夏の夜とコーラは世界でイチバン合う。どこに住んでようと普遍の味。低価格で味わえる最良の幸せ。
よくよく考えたら、なんて色してんだ。真っ黒じゃないか。身体に入れるものとは思えない。
だからことこの美味しさは”悪魔的”と表現したい。
家に着く前になくなってしまった。いまにもゲップがでそう。いま走ってる車は、これからどこへ行くのだろう。いますれ違った人は、どうしてもう長袖を着ているのだろう。
なんとなく上を見がちだ。星は見えない。目に入るのは、原色系のネオン。
今年はお祭りも花火もないけど、確かに夏はやってきて、確実に過ぎ去っていくらしい。虫よけスプレーをしてお墓参りにも行けなさそうだ。
今年はいつもより多めにコーラを飲もう。
髭剃り買うの忘れた。
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