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【ショートショート】『壺』

「いいですか!みなさん!ここから先は大学生という自覚を持って、自分で自分の責任を負うようにしてください!」

偉そうな雰囲気を纏った男性が偉そうなことを言っています。

「これからは誰も、あなたのことについて誰も、責任を取ることができないんです!いつまでも学生気分では困るんです!」

誰も、と言う部分に発音記号がつく話し方です。
英単語で言うと、"turtle"と同じ発音です。

第一志望の大学から不合格通知をいただいてから特になんの思い入れもない、適当に選んだ家から1時間くらいで通える大学に通うことを決意し、入学した。そんなある日の出来事です。

入学式の後にオリエンテーションがあるというので、来賓や保護者を30分くらいかけて退場させてから、そのオリエンテーションが行われました。

同じことの繰り返しです。

小学校に上がれば、もう幼稚園ではないので大人を見習ってください。

中学校に上がれば、もう小学生ではないので大人を見習ってください。

高校に上がれば、もう中学生ではないので大人を見習ってください。

そして今、高校生ではないので大人を見習う時が来ました。

僕たちは下のものにはなりたくないという思いを胸に、向上心を維持し続けます。

そして、永遠に追いつくことができない大人という虚像に、僕たちはその一生を棒に振ります。

でも、僕は一生懸命がんばります。

偉そうな人の、偉そうな話が終わったようでした。

と思ったら、その偉そうな人はマイクを隣にいた別の女性に渡しました。

もう少し、長くなるようです。

「みなさん、こんにちは。私はこの世で1番偉い人です。」

次は、この世で1番偉い人からのようです。

この世で一番偉い人は、この世で一番偉いことを言います。

「私、1番偉い人的には、みなさんはまだまだ子供です。視座を高く持って、大人になって、たくさんお金を稼いで、たくさん美味しいものを食べて、たくさんセックスをして、たくさん子供を産んで、そこで仕込んだ子供を私立の有名進学校に通わせて、有名な大学にいれて、有名な企業に入れて、子供の結婚相手に相応しい相手を選んで、残りの人生を子供の家庭に寄生しながら、これまでを振り返って、いい人生だったなあと思える、そんな大人になりましょう。」

やっぱりこの世で1番偉い人の言うことは心に響くなあ。

僕も早く大人になって、たくさんお金を稼いで、たくさん美味しいものを食べて、たくさんセックスをして、たくさん子供を産んで、そこで仕込んだ子供を私立の有名進学校に通わせて、有名な大学にいれて、有名な企業に入れて、子供の結婚相手に相応しい相手を選んで、残りの人生を子供の家庭に寄生しながら、これまでを振り返って、いい人生だったなあと思える。そんな大人になりたいと強く思いました。

「みなさんは犬や猫ではありません。また、アサガオや鉛筆でもありません。みなさんは人なんです。人の素晴らしいところは、自分でものを考えて、自分自身で行動を起こし、その行動によって、それぞれの結果が得られると言うことです。これは人にしかできないことです。」

この世で一番偉い人は、髪を耳にかけて話を続けます。

「犬や猫は自分の行動や一生が、生まれながらに定められています。アサガオもそうです。鉛筆はそれすらもできません。」

そうなんだ。と思いました。
この世で一番偉い人は物知りでもあるようです。

「みなさんはなりたいものになれます。私が保証します。だからみなさん、ぜひ自由な発想を持って、視座を高く持って、大人になって、たくさんお金を稼いで、たくさん美味しいものを食べて、たくさんセックスをして、たくさん子供を産んで、そこで仕込んだ子供を私立の有名進学校に通わせて、有名な大学にいれて、有名な企業に入れて、子供の結婚相手に相応しい相手を選んで、残りの人生を子供の家庭に寄生しながら、これまでを振り返って、いい人生だったなあと思える、そんな大人になりましょう。だって、みなさんは犬や猫やアサガオや鉛筆ではないのですから。」

1000人規模のそのホールから割れんばかりの拍手喝采が起こりました。

僕も負けないくらいに、手のひらが痛くなるくらいに、拍手をしました。

この世で一番偉い人は嬉しそうな顔を浮かべています。

僕もいつか、この世で一番偉い人になりたいです。この世で一番偉い人になって、みんなからたくさんの拍手を受けたいです。

拍手がひとしきりおさまりました。

この世で一番偉い人は言葉を続けました。

『今日はここにいる皆さんにだけ、特別にご紹介します。この壺を買うと、みなさんはこの世で一番偉い人になることができます。今日だけ特別に1個100万円で売ります。たくさん買えばたくさん買っただけ幸せになれます!この後、公演が終わったら出口で売っているのでよろしくお願いします。』

そこで、公演が終わった。

僕は何か違和感を感じた。

こんなもん買う奴がいるのか?
バカにするにも程がある。一気に目覚めた俺は荷物をまとめてからも、しばらく立ち尽くしていた。

やっと動く気になって、綺麗なこの建物の出口に向かってまっすぐと歩いていく。

ざわざわと人だかりが出来ている。

人だかりの方にふと目をやると、例の壺を買うお客がたくさんいる。
彼らの目はとても幸せそうだ。

『皆さんのために一個50万円まで頑張ります!』

おおー!!

と言う歓声と共に、ボルテージが1段階上がったのを感じる。

僕は少し考えてから、50万円を持ってその列に並ぶことにしました。

やっと自分の番が来た時、僕はすごく幸せな気分でした。

これで僕も一番偉い人になれると思ったら、嬉しくてたまりませんでした。

るんるん気分で家に帰ってる途中に、一匹の狼くらいに巨大な犬が現れました。その犬は、なぜだか私に強い敵対心を持って強烈に吠えてきました。

驚いた僕は壺を落としてしまい、壺は粉々になってしまいました。

俺は50万円の壺が割れたことに本気でキレた。

そしてその犬を思いっきり蹴りつけた。

犬が立てなくなるくらいまで痛みつけた後、僕はもう一度50万円を持って壺の列に戻った。

見るとそこにはまだまだたくさんの人だかりがあった。

よかった。これで僕もまだたくさんお金を稼いで、たくさん美味しいものを食べて、たくさんセックスをして、たくさん子供を産んで、そこで仕込んだ子供を私立の有名進学校に通わせて、有名な大学にいれて、有名な企業に入れて、子供の結婚相手に相応しい相手を選んで、残りの人生を子供の家庭に寄生しながら、これまでを振り返って、いい人生だったなあと思える。

僕は幸せな気分だった。

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