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赤ちゃんの頭の形が気になる?小児科医が教える絶壁頭や斜頭症を防ぐ方法

日本では従来から、赤ちゃんを仰向けに寝かせることが一般的であり、その結果、後頭部が平らになる「絶壁頭」が多く見られてきました。しかし、近年では少子化に伴い、赤ちゃんの頭の形に対する親の関心が高まり、審美的な観点からも頭の形を整えたいという声が増えています。特に、変形性斜頭症や短頭症といった頭の形の異常が注目されており、どのようなケースで治療が必要か、またどのような対策が有効かについて考えることが重要です。この記事では、赤ちゃんの頭の形に関する最新の情報や治療のポイントについて詳しく解説していきます。

1-1 乳児の頭の変形が発生する原因


乳児の頭の変形には、主に2つの原因が挙げられます。
外圧による変形: これは、出生前の子宮内での圧迫や、出産時の産道、出生後の向き癖など、外部からの圧力によって頭蓋骨が変形するものです。具体的には、赤ちゃんが同じ姿勢で寝ている時間が長いなどの理由で、頭の一部の骨が平らになったり、歪んだりします。このタイプの変形は、変形性斜頭症や変形性短頭症と呼ばれます。変形性斜頭症は、赤ちゃんの後頭部が片側だけ平らになる変形で、変形性短頭症は、後頭部が左右対称に平らになる変形です。これらの変形は、赤ちゃんの発達に深刻な影響を与えることはほとんどありませんが、見た目の問題となることがあります。多くの場合、成長とともに自然に治っていきますが、重症の場合はヘルメット治療が行われることもあります。

頭蓋骨縫合早期癒合症: 頭蓋骨は複数の骨が組み合わさってできており、その間は縫合と呼ばれる線維組織で繋がれています。 頭蓋骨縫合早期癒合症は、この縫合が本来よりも早く癒合してしまうことで、頭蓋骨の成長が阻害され、頭の形が歪んでしまう病気です。この病気の場合、頭蓋内の圧力が高まり、運動神経の発達遅延や、顔の変形などを引き起こす可能性があります。 治療法としては、手術が必要となるケースがあります。頭蓋骨縫合早期癒合症と外圧による変形を区別することは容易ではなく、専門医による診断が必要となる場合もあります。

2-1 向き癖の改善方法


抱っこの向きを左右均等にする: 赤ちゃんを抱っこする際や授乳する際には、できるだけ左右均等に向きを変えるように意識しましょう。常に同じ方向を向かせると、向き癖が固定される原因となるため、定期的に赤ちゃんの向きを変えてあげることが重要です。
興味を引くものを反対側に置く: 赤ちゃんが向き癖で同じ方向を向いてしまう場合、反対側におもちゃや窓など、赤ちゃんの興味を引くものを配置しましょう。これにより、自然に首を反対側に向けるように促すことができます。
チャイルドシートなどに長時間座らせない: チャイルドシートやベビーカーなどに長時間座らせると、向き癖が固定化される恐れがあります。赤ちゃんが同じ体勢を続けないように、適度に体勢を変えることを心がけましょう。

2-2 正しい寝かせ方と姿勢


仰向け寝: SIDS(乳幼児突然死症候群)のリスクを減らすために、赤ちゃんは仰向け寝が推奨されています。仰向け寝は呼吸がしやすく、窒息のリスクを低減するため、安全な寝方として広く推奨されています。
硬めの寝具を使う: 柔らかすぎる寝具は、SIDSのリスクを高める可能性があるため、避けるべきです。適度に硬めのマットレスや布団を使用することで、赤ちゃんが安全に寝られる環境を整えましょう。
ドーナツ枕やタオルでの向き調整: ドーナツ枕や丸めたタオルを使って、赤ちゃんの頭の向きを調整する方法もありますが、これらのグッズが頭蓋変形を予防する効果が確実にあるわけではありません。使用する際は慎重に考慮し、過信しないようにしましょう。

乳児の頭の変形の治療方法

3-1 自然に治るケースと治療が必要なケース


変形性斜頭症と変形性短頭症の治療適応については、以下の点が挙げられます。
軽症〜中等症の場合: 多くの場合、日常生活での注意や理学療法によって改善が期待できます。具体的には、抱っこや授乳の際に左右均等に赤ちゃんの向きを変えることや、タミータイムを取り入れることで向き癖の改善を促すことが推奨されます。これらの方法を試しても改善が見られない場合は、頭蓋形状矯正ヘルメット治療を検討することがあります。
ある研究によると、1429名の18歳以下の健常者を対象とした頭部CT画像の分析で、変形性斜頭症の頻度は0歳時の40%から12~18歳時には11%まで減少し、特に重症例の減少が顕著であったと報告されています。

*タミータイム:赤ちゃんが起きている時間に、大人が見守る中で赤ちゃんをうつ伏せにして過ごさせる時間のことです。タミータイムは、主に以下のような目的で行われます:

  • 体幹の発達: うつ伏せにすることで、赤ちゃんは首や背中の筋肉を使い、これが体幹の強化につながります。

  • 頭の形の矯正: 仰向けで長時間過ごすことで起こる頭の形の歪み(斜頭症や短頭症)を予防する効果が期待できます。

  • 運動能力の発達: タミータイムを通じて、赤ちゃんは寝返りやハイハイなど、次の運動段階への準備を整えることができます。
    タミータイムは、生後1~2ヶ月頃から1日2~3回、短時間から始めるのが推奨されています。赤ちゃんが嫌がらないよう、少しずつ時間を延ばしていきましょう。

重症の場合: 頭蓋形状矯正ヘルメット治療が推奨されます。この治療法は、頭蓋骨の平らな部分に空間を設け、その部分の成長を促して頭の形を整えるものです。治療は早期に開始するほど効果が高く、4〜6ヶ月の時期に始めることが推奨されています。重症例では、治療後も中等度の変形が残る可能性があります。

頭蓋縫合早期癒合症との鑑別: 頭蓋縫合早期癒合症は、頭蓋骨を構成する骨と骨の間の縫合が早期に癒合する病気で、自然に治ることはありません。頭蓋内の圧力上昇によって様々な症状が発生する可能性があるため、早期診断と治療が重要です。この疾患は手術が必要となる場合があり、変形性斜頭症との鑑別が必要です。鑑別には、頭蓋骨の形状や耳の位置、顔貌などを総合的に判断します。特に片側ラムダ縫合早期癒合症は、変形性斜頭症と類似した症状を示すため、注意が必要です。

3-2 矯正ヘルメット治療の効果と使い方


矯正ヘルメット治療は、変形性斜頭症や変形性短頭症の治療法として、日本では薬事承認された医療機器として、自由診療で提供されています。
自由診療であるため、費用は全額自己負担となります。費用は医療機関によって異なり、20~50万円程度が相場です。
治療効果に関しては、複数の報告があり、以下のようなポイントが挙げられます。
治療効果: 矯正ヘルメット治療により、頭蓋骨の平坦な部分の成長を促し、頭の形を整えることができます。ある報告では、159名を対象とした研究で、平均4ヶ月半の装用によって、斜頭変形についてCA(頭の非対称性)が平均16.3 mmから7.7 mmに、短頭変形についてCI(頭の指数)が100.4から92.4まで改善が見られたとされています。
開始時期: 治療開始は早いほど効果が高く、特に4~6ヶ月児での開始が推奨されています。研究によれば、開始時月齢が6か月未満の群で、それ以降に比べて有意に大きな改善が得られています。
治療期間: 治療期間は1日23時間の装用を基本とし、概ね1歳頃までの使用が目安とされています。

*CA(頭の非対称性):CAとは、Cranial Asymmetry(頭蓋非対称)の略で、赤ちゃんの頭のゆがみを評価する指標の一つです。具体的には、頭の右後方と左前方、または右前方と左後方の対角線の長さの差を計測します。この数値が大きいほど、斜頭症の程度が強いことを示します。一般的には、CAが6mm以下であれば正常範囲とされ、6mmを超えると軽度、9mmを超えると中等度、13mmを超えると重症、17mmを超えると最重症と分類されます。


まとめ


乳児の頭の形は、向き癖や圧迫など、様々な要因によって変形することがあります。日頃から赤ちゃんの頭の形に気を配り、向き癖の改善や適切なケアを行うことが大切です。頭の形が気になる場合は、自己判断せずに、医療機関を受診して相談するようにしましょう。


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