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咳が止まらない原因はこれかも? 医師がマイコプラズマを徹底解説

最近、なんだか咳が止まらない…そんなとき、あなたは風邪だと思っていませんか?でも、それ、実は『マイコプラズマ』かもしれません!この名前、一度は耳にしたことがあるかもしれませんが、意外と知られていないこの感染症、放っておくと厄介なことになるかも…。今回は、マイコプラズマの正体や、気をつけたいポイントについて、わかりやすくお話しします。


1.マイコプラズマとは?基礎知識を解説

1-1. マイコプラズマ感染症の概要

マイコプラズマは、主に呼吸器に感染する細菌で、特に肺炎を引き起こすことが多いです。この細菌が原因で起こる肺炎は、全体の20~30%を占めると言われていて、特に小学生から若い大人に多く見られます。

1981年から、国立感染症研究所では、マイコプラズマの流行状況を調査しています。この調査によると、1984年や1988年に大流行がありました。過去には、約4年ごとに流行が繰り返されていたことから、「オリンピック肺炎」とも呼ばれることがありました。

1991年に「クラリスロマイシン」というマクロライド系の抗菌薬が市場に登場してから、しばらくの間は流行が見られなくなりました。2000年には、同じ種類の薬である「アジスロマイシン」も登場しました。しかし、その頃から「マクロライド耐性肺炎マイコプラズマ(MRMP)」という、マクロライド系の薬が効きにくいマイコプラズマが現れるようになり、患者の数が増える傾向が見られました。このMRMPの出現は、マイコプラズマの流行や治療方法に大きな影響を与えました。


1-2. マイコプラズマと他の感染症との違い

マイコプラズマ肺炎は、「マイコプラズマ」という特別な細菌が原因で起こります。この細菌は、他の細菌とは違って細胞壁という部分を持っていません。普通の肺炎(たとえば肺炎球菌性肺炎)は、細胞壁を持つ一般的な細菌が原因で起こります。
マイコプラズマには、細胞壁を持っていないので、普通の細菌に効くペニシリン系などの抗菌薬は効きません。その代わりに、マクロライド系やテトラサイクリン系の薬が効きます。
マイコプラズマ肺炎の特徴的な症状は「乾いた咳」です。普通の肺炎では、痰が出たり、鼻水が出たりすることが多いのですが、マイコプラズマ肺炎ではそういった症状は少ないです。
マイコプラズマ肺炎は、小学生や中学生などの若い人に多く見られます。特に学校で流行しやすいです。普通の肺炎は、お年寄りや病気を持っている人に多く見られます。

1-3. マイコプラズマ感染の原因と感染経路

マイコプラズマ感染症は、主に「飛沫感染」で広がります。飛沫感染とは、感染している人が咳やくしゃみをしたときに出る小さな水滴(飛沫)を、他の人が吸い込んでしまうことで感染することです。特に、近くで激しく咳をしている人がいると、その飛沫が他の人ののどや鼻に入りやすく、感染のリスクが高まります。
マイコプラズマは、呼吸器の表面にくっついて増えていきます。そして、活性酸素(過酸化水素など)を作り出して、呼吸器の粘膜(内側の表面)を傷つけることで、咳を引き起こします。
マイコプラズマ感染症は、感染してから症状が出るまでに2〜3週間かかることがあります。この間に、自分が感染していることに気づかず、他の人にうつしてしまうことがあります。また、一度感染しても、何度でも感染することがあります。


2.マイコプラズマの症状と診断方法

2-1. マイコプラズマ感染症の症状


マイコプラズマ感染症の最初の症状は、風邪に似ています。たとえば、発熱(熱が出ること)、頭痛、だるさ、のどの痛み、そして咳がよく見られます。感染してから症状が出るまでの期間は2〜3週間くらいです。最初は、鼻水や痰がほとんど出ない「乾いた咳」が続くことが多いです。これは、マイコプラズマが体の細胞をあまり壊さず、分泌物(痰など)が増えにくいからです。
この咳はしつこく、長い間続くことが多いです。時には、先に高い熱が出て、2〜3日後に乾いた咳が出始めることもあります。
特に子どもの場合、マイコプラズマ感染症では、のどや気管支に炎症が起こることが多く、肺炎のような重い症状が出ないこともよくあります。

また、マイコプラズマ肺炎では、胸のレントゲン写真で肺炎が見つかっても、体全体の調子が比較的良いことが多いため、「歩ける肺炎(walking pneumonia)」とも呼ばれることがあります。

2-2. マイコプラズマの診断方法と検査手順

マイコプラズマ感染症を診断するためには、いくつかの方法がありますが、主に次の4つの方法があります。

1. 病原体の検出
マイコプラズマ感染症の原因となる細菌を直接検出する方法です。特別な培地が必要で、結果が出るまでに時間がかかるため、日常の診療ではあまり使われず、研究の場で使われることが多いです。

2. 遺伝子検査
遺伝子検査では、マイコプラズマの遺伝子を検出します。PCR法という方法は非常に正確ですが、結果が出るまで時間がかかり、費用も高くなります。LAMP法も同じくらい正確ですが、専門の機器が必要で、ほとんどの病院では外部の検査機関に依頼するため、結果が出るまで時間がかかります。

3. 血清学的診断
血液検査で、マイコプラズマに対する抗体を調べる方法です。PA法は簡単な方法ですが、感染初期の診断には適していません。ELISA法は、急性感染の診断に役立つ方法ですが、日本ではあまり一般的ではありません。迅速キット(イムノカード)は、10分ほどで結果がわかる便利な方法ですが、早い段階では陰性になることもあり、結果には注意が必要です。

4. 抗原検査
抗原検査では、マイコプラズマが持つ特定のタンパク質を検出します。イムノクロマト法という方法では、10分ほどで結果がわかりますが、正確さがやや低いです。検体を採取する場所やタイミングによっても、結果に影響が出ることがあります。より感度が高い「銀増幅イムノクロマトグラフィー」という方法もありますが、専用の機器が必要で、時間がかかることがあります。

検査の手順
どの検査方法を使うかによって、手順は異なります。医師の指示に従って検査を受けることが大切です。

3.マイコプラズマ感染症の治療法

3-1. マイコプラズマに効果的な抗生物質

マイコプラズマ感染症の治療には、主に「マクロライド系抗菌薬」という種類の薬が使われます。この薬は、マイコプラズマのタンパク質の作り方を邪魔して、細菌が増えるのを防ぐ効果があります。マクロライド系抗菌薬の代表的な薬には、エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシンなどがあります。これらの薬は、マイコプラズマ肺炎の症状を軽くし、肺炎が治るまでの時間を早める効果が期待できます。
エリスロマイシンは14日間、クラリスロマイシンは10日間、アジスロマイシンは3日間が標準的な投与期間です。
肺炎が重症の場合には、ステロイド薬という別の薬を使うことも考えられます。

3-2. マイコプラズマ治療中に注意すべき点

最近は「マクロライド耐性肺炎マイコプラズマ(MRMP)」と呼ばれる、マクロライド系抗菌薬が効きにくいマイコプラズマが増えてきています。MRMPは、薬が効く場所に遺伝子の変化が起こり、薬の効果が弱くなってしまうため、マクロライド系抗菌薬が効かないケースが増えています。

MRMPに対しては、「テトラサイクリン系抗菌薬」や「キノロン系抗菌薬」が効果的です。テトラサイクリン系抗菌薬にはミノサイクリン、キノロン系抗菌薬にはトスフロキサシンなどがあります。ただし、テトラサイクリン系抗菌薬は、8歳未満の子どもには歯が変色したり、骨の成長に影響を与えたりする可能性があるため、使用が制限されています。

4.マイコプラズマの予防方法と注意点

4-1. 予防法

  • 咳エチケットを守る

    • 咳やくしゃみをするときは、マスクをつけるか、口と鼻をティッシュや肘で覆い、周りの人に飛沫を飛ばさないようにしましょう。

  • 手洗いをこまめにする

    • 外出後や食事前などには、石鹸で手をよく洗い、しっかりと流水で洗い流しましょう。

  • うがいをする

    • 外から帰ってきたときや、人混みに行った後には、うがいをして喉を清潔に保ちましょう。

    • 部屋の湿度を保つ

      • 空気が乾燥すると、喉や鼻の粘膜が乾いてウイルスに感染しやすくなります。加湿器などを使って、部屋の湿度を50~60%くらいに保ちましょう。

4-2. 注意点



潜伏期間が長い
マイコプラズマ感染症は、感染してから症状が出るまでに2~3週間かかることがあります。そのため、知らないうちに他の人にうつしてしまう可能性があります。咳や熱の症状が出たら、早めに病院に行って検査を受けましょう。

  • 何度も感染する可能性がある

    • 一度マイコプラズマに感染しても、また感染することがあります。なので、一度治ったからといって安心せず、予防を続けることが大切です。

  • 重症化するリスクがある人がいる

    • 乳幼児やお年寄り、また持病がある人は、マイコプラズマ感染症が重くなることがあります。そういう人たちは特に注意が必要です。早めの診断と治療が大切です。

5.マイコプラズマに関するよくある質問(Q&A)

5-1. マイコプラズマ感染症はどれくらいの期間で治りますか?

一般的に、マイコプラズマ肺炎は比較的軽症で、治療をしなくても3週間程度で自然に治癒することが多いです。
適切な抗菌薬を投与することで、症状の持続期間や肺炎像が消えるまでの日数を短縮できます。

5-2. マイコプラズマに関連する合併症はありますか?

マイコプラズマ感染症、特にマイコプラズマ肺炎では、肺炎だけでなく、いろいろな合併症(他の病気や症状)が起こることがあります。

1. 中耳炎
マイコプラズマ感染症によって、耳の中で炎症が起こり、中耳炎になることがあります。

2. 中枢神経疾患
脳や神経に関する病気も起こることがあります。たとえば、髄膜脳炎(ずいまくのうえん)や髄膜炎、脳の神経が麻痺することもあります。これらの神経系の病気は、マイコプラズマ感染症による合併症の中で最も多く報告されています。

3. 血液の病気
血液に関する病気もあります。たとえば、溶血性貧血(ようけつせいひんけつ)や、血液が固まりやすくなる播種性血管内凝固症候群(はしゅせいけっかんないぎょうこしょうこうぐん)などが起こることがあります。

4. 皮膚の病気
皮膚に発疹(赤いブツブツ)が出たり、Stevens-Johnson症候群(皮膚や粘膜がただれる病気)などが起こることがあります。

5. 筋肉や関節の病気
筋肉や関節に痛みが出たり、関節炎(関節が腫れて痛くなる病気)になることもあります。

6. 消化器の症状
お腹が痛くなったり、吐き気がしたり、下痢をしたりすることもあります。

7. その他の病気
急性腎炎(腎臓の炎症)、肝炎(肝臓の炎症)、膵炎(すい臓の炎症)など、他の臓器に関する病気が起こることもあります。

これらの合併症は、肺炎になっているときに多いですが、肺炎の症状がない場合でも起こることがあります。マイコプラズマ感染症では、これらの合併症にも注意が必要です。

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