財布を落として貸しを作った話

財布を落としたことが3回ある。
うち1回だけ戻ってきた。

初めて財布を落としたのは、小学生のころ。
ピンク色で、蝶々の刺繍がしてある折り畳み財布だった。
かわいくて、とても気に入っていた。
友人と出かけるため、お小遣い2000円をもらって、大事にしまった。

前後の記憶はいまやすっかり抜け落ちているが、
「…怒られる…‼」という気持ちと、強烈な悲しさ、羞恥心、そして、
おしっこが漏れそうな感覚だけは今でも鮮明に覚えている。
素面で落としたのは、後にも先にもこれが最後だ。

2回目・3回目は酔っぱらっていた。
もう、完全にべろんべろんだった。

2回目は、朝までカラオケオールをかまし、駅でみんなと別れた後に紛失に気付いたが、親切な方が駅前の交番に届けてくれていたおかげで、事なきを得た。
保険証よりも、現金よりも、憧れの先輩とのプリクラが戻ってきたことが嬉しかった。

3回目は、自宅まで気づかなかった。
上機嫌で帰宅したところ、玄関を開けるカードキーを入れた財布がないことに気付いた。
顔面蒼白。
なぜなら、旦那のキャッシュカードも入っていたから…。
なんて迷惑な酔っぱらいの嫁なのだ。
今まで築き上げてきた信用がいっぺんに無くなった瞬間であった…。

居酒屋、鉄道会社、交番に連絡するも、出てこず。
翌朝、二日酔いのする頭で各所に使用停止の連絡を入れ、被害届を出し、
(いちばん被害届を出したいのは旦那だろう…)
私は二度と家計のキャッシュカードを持つことはなくなった。

先日、酔っぱらった旦那がカードキーを紛失して帰宅した。
私は彼を責めなかった。優しく状況確認し、各所に連絡を入れ、
素早く新しいカードキーの手配をした。
彼は「なんて包容力と行動力のある人なんだ…」とうっとりしていたに違いない。

違うんです、あなたはすっかり忘れていますが、
私はあなたのキャッシュカードを落とした人間なのです。

今回ばかりは、忘れっぽい旦那に感謝し、
借りを返したつもりで、貸しにしておいた。