ポルノグラフィティ「君の愛読書がケルアックだった件」をイメージした小説6
家に帰ってから、改めて新井さんの小説を読む。やっぱり面白い。しかも量がすごい、100枚くらいはあるのではないだろうか。
新井さんの小説を読み切るのに、数日かかった。新井さんに小説を持ち帰ったことがバレなかったのは、あの日から新井さんはずっと休みだったからだ。最初はこのことがバレたらどうしようかと脅えていた僕だったが、読み終える頃には罪悪感も薄れていた。こっそり机の中に戻せばバレないのではないかと考え始めたくらいだ。僕はそれを実行することにした。
早く登校するためにいつもより早く起き、お母さんには適当な理由を告げて家を出た。この時間ならまだ誰も教室にはいないはず…そう思って教室まで向かってきたのは良かったのだが、教室のドアが開いていた。僕は慎重に教室の中を覗く。寄りによって今、一番会いたくない人がそこにいた。新井さんだ。
新井さんは自分の机を覗き込み、何かを探しているようだった。僕は意を決して教室に入る。正直に謝ろう。
新井さんは突然の僕の登場に驚いた表情をみせた。
「今井君!?」
「新井さん、ごめん!!見つけているのは、これだよね?」
そう言って鞄から、新井さんの小説を取り出す。
「え?どうして今井君が持っているの?」
僕はこの小説を見つけた経緯を話した。
「これ、読んだの?」
「読みました…勝手にごめんなさい!!すごく面白かったから、読むのが止められなくて。本当にごめんなさい。」
「えぇ~恥ずかしい。」
新井さんは顔を両手で覆った。どうやらそんなに怒っていないようだ。良かった。
「人に見せたことないのに…。」
「そうなの?こんなに面白いのに勿体ないよ!」
「本当にそう思っている?」
「うん!」
「…ありがとう。」
「あ、後もう一つ謝らないといけないことが…。」
「何?」
「あの…小説のコンテストに応募してしまいました。」
「!?」
さすがの新井さんも怒った。先程までの表情と口調は一変して、荒々しいものになった。
「何てことするのよ!」
「ごめん!もっとたくさんの人に読んでもらいたいって思って…僕が言える立場じゃないけど、才能があると思うんだ。」
「だからって…!私のこと何にも知らないくせに、勝手なことしないでよ!!」
確かに僕は新井さんのことをよく知らない。最近少し会話が出来るようになったくらいで仲良くなれた気になっていた。浮かれていたんだ。
「そうだよね…本当にごめん。」
どうしたら許してもらえるだろう。僕は自分がしたことを強く後悔した。
新井さんは何も言わない。僕は頭を下げたまま、新井さんの次の言葉を待ったが一向にその時は訪れない。恐る恐る顔を上げてみる。
「新井さん!?」
新井さんは息苦しそうに肩を上下させながら呼吸をしていて、額には汗が浮かび、顔色も悪い。
「ど、どうしよう…。」
「せ、先生…。」
「何?」
「保健…の先生…呼んできて。」
途切れ途切れにではあったが、聞き取ることが出来た。僕は全速力で保健室へ向かう。
保健の先生に新井さんの名前を伝えると全てを理解したようで、迅速な対応をとってくれた。容態は少し落ち着いたようだったが念の為、新井さんは病院に行くことになった。
「先生は新井さんのこと、何か知っているのですか。」
「保健の先生としてね。でも、これ以上は個人情報になってしまうから先生の口からは言えないわ。もう教室に戻りなさい。」
あんなことがあって授業に身が入ることはなく、僕の頭の中は新井さんのことでいっぱいだった。