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フロートの構造と機能

フロートの敷設場所
幅20~30㎞とされる太平洋赤道反流(以下:反流)の南北境界、つまり北赤道海流や南赤道海流に近く、反流の下200~300mには沈降した南北赤道海流が西方向に流れているところを選びます。反流は太平洋赤道の西端で盛り上がった水面がなだらかに東に向かって流れ落ちる現象だと言えますから、反流の南北両端では流速が非常に遅くなります。
この立地条件、すなわち反流の水面下に逆方向に流れる海流が存在し、かつ反流の流速が緩やかであるところがフロートの敷設場所になります。   赤道反流については太平洋赤道反流のとは何か?をお読みください。

フロートの構造
上記により、フロートの敷設場所は反流の中でも南北両端に限られるため、その形状は幅2km長さは60㎞~と必然的に細長くなります。
フロートは多数の格子状(一部はハニカム状)セル(詳細は後述)の組み合わせで構成されます。セル一個のサイズを20m×30mとし、フロートのサイズを2km×60㎞(120㎢)とすると構成セルの総数は20,000個(幅100個長さに2000個)になります。この構成をメガフロートと呼びます。ちなみに面積120㎢は東京都の大田区と世田谷区の合計面積とほぼ同じ広さ、琵琶湖の面積の5分の1弱になります。
この敷地面積の広さだけを見ると非常に大規模な工事のような印象を与えがちですが、基本はあらかじめ組み立ててエアバッグをつけたセルを水面に浮かべ、そこにソーラーパネルや電解槽やその他機械類や消耗備品の収納場所や作業員の宿泊施設として船で言えば船腹にあたるようなボディを付け加えながら次々と繋げていくだけです。もちろんフロートの水中水上にはさまざまな配管や配線設備が張り巡らされることになりますが、平面的な海面への敷設ですから工事そのものは陸上の土木工事に比べてたいした話ではありません。なお、生産されたH2は液化せず加圧状態で海中に一時貯蔵します。(メタンやアンモニアを作る時には熱されたH2を使用しますから、エネルギーを使い冷却して保存するまでもないと考えられるからです。)                                                               H2といえば水素爆発のイメージがありますが、海中に保存すれば引火の危険はありません。他にもフロートに付帯する設備やシステムにはいろいろありますが、莫大な設備資金や運営・維持費のかかるものはありません。
詳細はフロートの運営設備をご覧ください。

<工場船>
工場船とはフロートからH2,CO2その他の原料や電源熱源の供給を受け、二次製品を製造する設備を持った船舶のことで、フロートに随伴して再生メタンやアンモニアなどの製造を受け持つことになります。陸上工場では一番場所を取る原料の貯蔵・保管、エネルギー発生設備、製品の貯蔵先などはすべてフロートに置くことが出来るので工場船は化学反応による生産に集中できることになります。生産設備をフロートに置かずに工場船に内蔵させるのは、設備のメンテや更新は陸上で行わざるを得ず、それには設備全体を曳航できるようにした方が合理的と思われるからです。
限られたスペースの船内に工場を作るのは設計施工段階でかなり複雑な作業になりますが、H2が順調に生産されるようになればかなりの規模のメタン合成作業が必要になるので同様の工場船をいくつも必要とすることになります。そんな場合、二隻目以降の工場船は開発費がかからないので経済的にも有利になります。

<フロートの移動>
メガフロートは西から東に流れる反流と、その下に潜って逆方向に流れる南北赤道海流の力を利用して海面での漂流を制御します。
詳しくは「反流上でのフロートのコントロール」をご覧ください。

☆セルの構成
セルとは鋼鉄ワイヤーと木材竹材など天然素材を格子状に組み合わせ、鋼鉄で枠組み補強された幅20m×長さ30mほどの水面に浮かべられる矩形のことで、これがフロートを構成する最小単位になります。それぞれのセルはフロートの外側の枠を共有することで隣のセルと一体化します。
詳しくはセルの構造と機能をご覧ください。

ソーラーパネル
反流上の豊富な太陽光エネルギーはフロート一面に敷き詰めたソーラーパネルから採取します。ソーラーパネルはフロート一面とは言っても直接水面に置くのではなくフロートから2~4mほどの支柱を立ててその上に屋根をふくように設置します。そうすることによって水面部分のスペースを他の用途に使うことが出来ます。
反流上の海水面は常に非常に穏やかですから、ソーラーパネルの架設施設も陸上のように堅牢なものを作る必要はありません。ソーラーパネルは日本で見られるように地球の緯度に合わせた傾斜を持たせる必要はなく、ただ水平に設置すれば用事が済みます。将来的にペロブスカイトのソーラーフィルムが実用化されれば架設作業はさらに容易になります。
詳しくは「ソーラーパネルの構造と機能」をご覧ください。

電解槽
Hの原子量が1であるのに対しOの原子量は16ですから、H2Oは質量比で1/9の水素と8/9のOで出来ていることになります。
したがって、1㌧のH2を作るには9㌧の水を電気分解しなければなりません。
現在市販の電解装置のカタログを見ると毎時200N㎥(約20㎏)のH2を作る消費電力は1000kW-ACですから、その電力はソーラーパネル2000~3000枚で済むことになります。日照時間(発電時間)を一日10時間とすれば3000~4000㎡のフロートで2000N㎥(約200㎏)のH2ができることになり、この必要面積は20m×30m(600㎡)のセル5~6個で済むことになります。(赤道上では一日12時間太陽が顔を出しますが陽光の弱い日の出と日没のそれぞれ1時間を発電時間から外します。)
メガフロートは数万個のセルで構成されますから、ソーラーパネルを設置するセル数が60,000個(設置面積は2km×18㎞)とすると毎日200㌧、年間70,000㌧のH2ができることになります。政府の見通しでは2030年に必要な水素の量は3000万㌧だそうですから、もし仮にメガフロートが構想通り120㎢になるとこれだけで20万㌧以上のH2を生産できることになります。
また、現在のH2の生産コストは化石燃料由来で1N㎥あたり¥50、市販電力使用の電気分解で¥80、太陽光や風力の電力を使用すると¥150程度かかるとされています。化石燃料由来のH2製造はCO2が排出されるのに、その回収処理方法が決まっていませんから論外です。CO2を出さないでH2を作れる電気分解のコストはほぼ100%電力そのものですから、どこで水素を作るにしても自然由来エネルギーを獲得するソーラーパネルや風車は必要であり、大規模な発電をするのには(そのことで自然環境を傷つけることの少ない)広大な敷地面積が必要になります。また、日本のように自然エネルギーで発電した電力を政策的に高い価格で買い上げている所では、それを電気分解に使うよりそのまま電力として販売してしまった方が遥かに有利になります。 たしかにフロートはフロートの敷設費用がかかりますが、日本にはこれだけの広さの敷地を無料で使える場所はありません。しかし、赤道上の平穏な海原に広大なフロートを浮かべてほぼ無料の電力を発電しても、その電力は送電線で送電するわけにはいきませんから、その電力は電気分解に回して限りなくゼロに近い生産コストでH2を作り、さらにそのH2から水素キャリアと呼ばれる別の物質を作り需要地まで運ぶ以外に経済的な方法はありません。つまり、赤道で作ったH2はそれをどうやって安く需要地まで運ぶかという問題を解決しなければなりません。もっとも、零下253℃にしなければ液化しない上に金属容器を脆化させてしまうH2をどうやって経済的・安全に運ぶかという課題は赤道だけでの問題ではありませんから実にさまざまな方法が提案されています。そのうち、フロートの上で行える方法としては下記のようなことが考えられます。いずれも小規模であればすでに実用化されている技術です。                              H2とCO2キャリアとしての合成メタン製造               H2キャリアとしての水素マグネシウム                H2キャリアとしてのアンモニア製造                                


浮力装置  フロートは重量物を収めるスペース以外はソーラーパネルとそれに付随する器具、それらを支える支柱や架台を上に乗せるだけのものなので大きな浮力を必要としません。600㎡のセル一つでも100㌧~200㌧程度の重量かと思われます。

メガフロート

フロートの敷設方法

メガフロートの対海流固定方法

メガフロートの動力

メガフロートに付随する生産設備
淡水化設備・蒸留設備
蓄電池

CO2取り入れ設備

H2・CO2海中貯蔵設備

アオコ養殖設備

対海流安定化装置

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