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同じCO2無排出。原子力エネルギーで作る電力と赤道反流での自然エネルギーで作る電力はどこがどう違うか?

2050年までにCO2の排出を実質0にするという日本政府の方針はEU諸国など環境への意識高い系国々の姿勢に合わせたものですが、この方針決定に元気づいた業界があります。それは原子力発電業界です。電気事業連合会では政府発表の数日後には原子力発電の新規増設を検討する旨のメッセージを発信しています。脱炭素社会のためには安価な自然再生エネルギーの供給が不可欠ですが、火力発電所を次々に閉鎖できるだけの自然エネルギーを供給できるかと言えば、極めて疑問です。自然再生エネルギーは聞こえはいいですが、それを大量生産しようとするとCO2排出の削減は出来ても、他の環境破壊(例えば設置場所の乱開発)や発電コストの高騰などの問題が生じます。ましてや、再生エネルギーで水素を作るとなると更にコストが上昇してしまうことになります。現に政府の政策でも水素エネルギーは基本的に海外に依存するとされていて、国内自給は早々と断念を表明していますが、海外から調達される水素はほとんどが天然ガス由来ですから、CO2を排出している「汚い水素」です。CO2排出国を日本から第三国に移すだけでは看板の架け替えにすぎません。こんな羊頭狗肉水素がいつまでもクリーンだとは強弁できませんから、これは原子力発電を追加導入するためのステップのように見えます。

誰もが知っているように化石燃料に依存しない原子力発電はCO2を排出することがありません。その他にもこれからの日本の発電に必要な条件を満たしています。

原子力と言えば「安全性」が問題になります。しかし、敢えて言えば日本の安全性は放射能や上空を通過する弾道ミサイルよりも何よりも大地震であり、それ以外にも台風、津波、火山噴火など現在の技術では防ぎようのない、しかしいつか必ず訪れるものがたくさんあります。放射能漏洩の危険は天災ではなく人災ですから、「安全対策を充分にして二度と事故を起こさない」と主張することで安全性論議にケリをつけることが出来ます。

原子力発電であればもちろん今後技術的進歩はあるでしょうが、現に運転している原発があるのですから「作ってはみたけど動かなかった。」という文殊のような失敗はありません。技術的には確立していると言えます。それに比べて「赤道反流上でのH2製造」には前例がありませんから想定外の失敗のリスクがあります。(想定外ですから、ここでどんなリスクか述べることは出来ません。述べることが出来たら想定内です。)電力会社や政府のように、「安全には最善を期すから大丈夫」なんて言えません。         
赤道反流でのエネルギー確保のように、前例のないことをやってみるにはファーストペンギンが必要ですが、この件に関して日本にファーストペンギンが出現する可能性は極めて低いと思われます。             
基幹産業で従来の化石燃料コストよりずっと安価なH2を生産できるように多数の小型原発の建設を推進すればCO2問題のあらかたが解決します。ファーストペンギンよりも「みんなで渡れば怖くない」方式で原発を多数作ったほうがエネルギー政策としては安全です。原発で得られた十分な電力で水を電気分解して水素を作り発電以外の分野で利用すれば、そこでもCO2を吐き出すことはありませんし、他の再生エネルギーと違って気象条件などの影響を受けずに24時間稼働できます。                     
たしかに放射廃棄物の発生は避けられませんが、それが社会に危険をもたらすかどうかは別の問題です。現に日本でも多くの原発が「使用済み燃料」(放射性廃棄物の婉曲表現)を発生させていますが、それはむつ小川原関係など地元住民の理解と協力(洗脳とお金でいうことをきかせることの婉曲表現)で何とかなっています。放射性廃棄物は「安全には最善を期した」コンテナーに収蔵し、それを過疎地域に深く埋めて周辺を立ち入り禁止にすればいいだけの話です。(そのことで手つかずの自然環境が守れます。チェルノブイリ周辺は結果的にそうなりました。)もちろん受入れをする地元には充分な補償をします。ダムや道路を作るのとは違い、放射能貯蔵施設はたいていの場所に作ることができます。誘致希望者が出なければ希望者が出るように賠償金額を吊り上げればいいだけの話です。現に北海道の過疎地域では放射性物質の収容場所に名乗りをあげているところがあります。           今稼働中の原発だって放射性廃棄物は排出しています。今後の日本は「原発は事故を起こさない」のではなく、「事故が起きてもたいしたことはない」に意識変革が求められるでしょう。今後新設を進めれば廃棄物は増加しますが、日本には「毒を食わば皿まで」という便利なことわざもあります。

<原発の利点>                           一般市民レベルではなく、政府や電力会社などのエネルギー供給側から見ると、原子力発電にはCO2を排出しないというだけでなく、化石燃料や自然再生エネルギーが遠く及ばないメリットが数多くあります。

まず、忘れてはいけないのはエネルギーは近代社会の基幹産業であり、東電や関電など大手電力供給業者は「総括原価方式」で売電価格を設定できるということです。福島で原発事故が起きたとき、これが普通の産業であれば東電の売上げは急降下したはずです。もちろんそんなことはありませんでした。むしろ、問題になったのは電力の供給不足への不安でした。しかし、エネルギーの供給不安は原発事故に限らず、エネルギーの原料である化石エネルギーを輸入に頼っている日本では根本的な解決は難しい状況です。海外からの輸入と言えばウラニウムも同じですが、化石燃料と際立って違うところは「備蓄」が比較的簡単にできることです。輸入先の国も多岐に渉りますからホルムズ海峡が封鎖されようとマラッカ海峡で紛争が起ころうと関係ありません。採掘地で精錬されるイエローケーキを輸入すれば放射線の問題もなく、数年分の備蓄をしても化石燃料の備蓄のように場所を取りません。                              原子力発電の更にいいところは発電量に制限がないことです。現況の発電技術では大量の水を必要としますが、原子力発電の技術展望によればウラニウムの代わりにトリウムを使った熔融塩原子炉も開発されており、これが実用化されれば大量の水を必要とせず、放射能の問題も軽減され原子炉を小型化できるので全国に散在させることが出来ます。(国内にトリウムを豊富に産出するインドでは既に商用に使われているそうです。)         
一方で、太陽光であれ風力であれ水力発電であれ、自然再生エネルギーの発電設備建設には立地条件や天候に制約を受ける上に、無理に開発をすればCO2排出とは別の環境破壊を招きます。

以上のような建前を別にしても、原子力発電は安定供給と利益確保を両立しなければならない電力大手にとっては魅力的です。電力の価格は公共料金なので総括原価方式により政府の承認を得て決定されます。総括原価方式とは手早く言えば「費用がいくらかかるから、それに適正利潤を加えて電力代はこれこれにする。」という方式です。


赤道反流上でH2を作り、発電燃料用にCH4なりNH3を製造するプラントは一ヶ所で原子力発電所をいくつも作って同能力のエネルギーを得るよりは、何といっても土地の収用や住民補償が要らない分、そして最新技術が要らない分、輸送インフラを作る開発費用が新しくかかるとしても数分の一の費用で出来るはずです。しかし、原子力発電は進化を続けており、プルサーマルも実用化されていますし、劣化ウランのエネルギー使用も研究されていますし、最終的には核融合発電まで研究されています。そうなれば燃料は無料同然の水(重水)になります。数十年前に掲げられた「原子力は夢のエネルギー」の看板はまだ生きています。                                日本は立地的にも原子力発電に向いています。万々一放射能の漏洩やメルトダウンがあったとしても、福島の例のように放射性物質の多くは太平洋側の海上に拡散され外国に大きな迷惑をかけることがありませんが、大陸の国ではそうはいきません。                                今日本では原発増設を既定方針として物事が着々と進んでいます。    今回の2050年までにCO2排出を実質ゼロにするという方針も原発増設という前提がなければ実現不可能です。日本の場合、CO2排出による地球温暖化か、放射能汚染が国土の一部で起きるリスクを引き受けるかの二者択一なのです。                               H2については現時点では海外から輸入するとされていますが、充分な数の原発があれば水を電気分解するだけで日本で作れます。今後は水素も戦略物資になり得ます。水素が不足して経済が回らないようになってから「GO TO 水素」を言っても間に合いません。                       現に政府の方針は「原子力発電への依存を極力減らし」です。      他のエネルギーへの変換が上手くいかなくて、結果的には原子力発電への依存度が60%になっちゃったなんてことは冗談ではなくてありえますし、 国民もそれを受け入れるはずです。                  多くの国民は遠くの原発の危険よりも、電気代が高くなったりとか自分の身の回りの生活の不便になることを心配します。それに、もちろんそう言いきる根拠はありませんが、福島の事故の実感で言えば原発のおかげで死者が 出たり、原発建屋以外の建物が崩れ落ちたなんてこともありませんでした。 

安全保障の観点からも、ウラニウムなら大量に備蓄しても石油や天然ガスと違って場所をとりません。                               どう考えても、少なくとも日本では赤道反流上でのH2生産構想は原子力発電に対抗できないというのが結論でしょう。日本の場合、電力が不足しているわけではなく、今後の課題は如何にCO2排出を減らすかにありますから、原発を増やすか、その分を自然再生エネルギーで置き換えるかの二者択一が可能です。中国のように今後もあらゆる手段を駆使して電力を増産しなければ国が成り立たなくなるということではありません。(中国では毎年東京電力の総発電量に匹敵する電力の増産を行っています。つまり、毎年、東京電力をひとつ新しく作っているのと変わらないのです。)                           WHY CHINA    https://note.com/pec_cep/n/n18e418a27547         

好き嫌いは別にして、中国のリスク負担能力を侮ってはいけません。   万里の長城の長期に渉る建設は赤道反流に巨大な筏を浮かべるのに比べて何倍もの国力を消費したでしょう。                   最近でも予算5兆円のニカラグア運河という無謀なプロジェクトを民間で立ち上げて失敗した例があります。これらの話に比べれば、赤道に筏を浮かべるなどという企画は児戯に類するといっていいでしょう。        ニカラグア運河構想(Wikipedia)

このページでの結論は、赤道反流で何かすることは「日本では無理、中国なら可能かもしれない」ということになるのではないでしょうか。     中国から見ても赤道反流は遠くにあります。しかし、ニカラグアやアフリカ諸国での鉱山開発に行くのに比べれば、距離的にはほんの半分です。   それに、他のページでも触れているように赤道反流上に巨大なエネルギー基地を作ることは別に革命的な新技術を要することではなく、むしろ既存の技術と物量を如何に短期間に大量に集中投入できるかの能力によります。                        もちろん、この海域が米国の感覚からすれば自国の縄張りであることは充分に考慮する必要があります。もし仮に中国が米国の庭先に巨大なエネルギー生産基地を作ろうとすれば、それが脱炭素の流れに沿うものだとは言っても安閑としていられるとは思えません。                 本記事は赤道反流のエネルギー利用と国際関係についてに続きます。(準備中)


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