フロートの多目的利用4.水素化マグネシウム製造に供する金属マグネシウムの海水からの製造
水素マグネシウムは水素吸蔵金属としてすでに利用されていますが、非常に面白い手品のような性質を持った物質です。
水素マグネシウムMgH2は高温高圧下で金属マグネシウムに水素を吸蔵させて作ります。マグネシウムは非常に軽い金属で、原子番号は12で原子量は24ですから、MgH2は中に重量比で2/26(7.7%)の水素を含有します。この含有率は決して高くはありませんが、H2を取り出す時に水を加えると下記化学反応が起こります。
MgH2 + 2・H2O → Mg(OH)2 + 2・H2
つまり、加えられた水H2OのOが金属マグネシウムと反応してしまい、H2OのOを奪ってしまいます。ですから、結果としてフロートで吸蔵させた7.7%のH2が水の分と合わせて2倍15.4%になって出てきてしまうのです。
こんな特徴から水素マグネシウムは水素吸蔵金属として販売されていますが、この方法を大規模に行うメリットがありませんでした。金属マグネシウムの価格はこの目的に使うには高すぎるからです。CO2排出が社会的問題になっている今でもCO2を副生してしまうグレー水素が安い価格で供給されています。CO2を排出しないというメリットだけのために金属マグネシウムを購入して運び、更にそれをMgH2にして出荷するのはどう考えても効率的な話ではありません。
ところが、フロートの上でなければできない取って置きの方法があるのです。それは金属ナトリウムをフロート(正確にはフロートに随伴する工場船)で自家製造してしまうという方法です。海水の塩分NaClを除いた残りのほとんどは塩化マグネシウムです。この塩化マグネシウムを電気分解することで金属マグネシウムが得られます。事実、金属ナトリウムは鉱石から取り出す方法だけでなく、海水から電気分解で取り出す方法も工業化されていますがその製造原価は電気代です。(日本マグネシウム協会のHPによれば1㌧の金属マグネシウムを取り出すのに14,000kWの電力が必要です。)
フロート上であれば電気コストは無視できます。塩化マグネシウムを海水から取り出すのもわけはありません。海水から電解用の淡水を作る時に塩化ナトリウムと塩化マグネシウムは取り除かれていますから、改めて海水を蒸発させる費用は必要ありません。
更にいいことは続きます。MgH2は適当な容器(水分を入れない)か包装をすれば普通の貨物船で「常温常圧」で運ぶことが出来ます。先ほどMgH2からは15.4%のH2を取り出せると申し上げましたが、そのことは液体水素(H2含有率は当然100%)の7倍の重量の水素マグネシウムで同量のH2を運べるということになります。現在ある液体水素の運搬船は一航海で3000トンの水素を運べるそうですが、そのためには水素をー253℃に冷やす専用船を作り港には冷却倉庫を用意しなければならないのと、21,000㌧のMgH2を水分を遮断したコンテナーで運び、そのままオンサイトで使用できるのとどちらがコスト的に有利かは明白ではないかと思います。またH2を取り出した後にできるMg(OH)2は陸上で化学処理をして金属Mgや酸化マグネシウム(マグネシア)として販売も出来ます。
事実金属マグネシウムの生産方法としてドロマイトというマグネシウムを含む鉱石を酸化して金属マグネシウムを取り出す方法は今でも実際に行われている方法です。日本で金属マグネシウムを電解で取り出すには電気代がかかり過ぎます。(前述のように日本マグネシウム協会のHPによれば1㌧の金属マグネシウムを作るのに14,000kWの電力が必要とされています。)
H2を取り除いた後の酸化マグネシウムから金属マグネシウムを作るのに必要なのは高温ですから電力を消費するまでもなく合成メタンを燃焼すれば得ることが出来ます。この方法を採ればわざわざドロマイトの輸送費用やドロマイトに含有されるマグネシウムを酸化する必要がなくなります。金属マグネシウムはアルミニウムとの合金として幅広い工業用途があります。生産規模にもよりますが、Mg(OH)2にCO2を加えて炭酸マグネシウムMgCO3を作って土壌に埋めれば多少なりとも脱炭素の役に立ちます。MgH2を運ぶ船は帰りの航路が空荷になるので、それはそれで使い道があります。
上記の構想が思惑通りになったとしてもマグネシウム水素で運べるH2の量は合成メタンやアンモニアにして運ぶのに比べればたかが知れたものであろうことは事実ですが、水素吸蔵合金としてH2を運べることは大きな魅力です。陸上に運んだMgH2は安全ですから、タンクなどの設備費用なしでそのまま水素ステーションや高圧水素を使っている現場に置いてオンサイトで使うことが出来ます。日本は常に地震や津波などの天災と隣り合わせに生きていますから、もしそんな災害があり、例えば天然ガスの荷下ろし用の港湾設備や貯蔵施設に被害が出てしまうとエネルギー供給に支障をきたすかもしれません。そんな非常時に、このMgH2は何かと役に立ちそうです。
この構想は赤道反流とフロートの特質を生かした企画案のひとつにすぎませんが、実際にフロートが稼働し多方面での商品開発が必要になった時には有望な企画案になるであろうと楽しみです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?