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フロートの構造と設備

フロートの本体が持つ主な機能はソーラーパネルによる発電と、得られた電力をH2に変換するための電気分解、そしてメタンを生産させるのに必要なH2とCO2の貯蔵設備ですが、莫大な自然再生エネルギーの生産を事業計画化するにあたっては、ほぼゼロコストで利用できるエネルギーを利用して事業そのものを多角化し、全体のコストダウンを図らなければなりません。このページではフロートを最大利用するための設備群のアウトラインを紹介させていただきます。それぞれの設備の構想の説明については別ページにリンクしてあります。なお、ここで述べるのはフロートが機能するのに必要な設備の紹介であって、フロートの敷設方法などについては別ページで述べるようにします。
赤道反流とは何か?

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<フロート躯体>                          ここで言う「躯体」とはフロートを反流上に浮かべる構造体を指します。 躯体を敷設する規模は広大になりますが、ここではその規模を想定しません。躯体の敷設可能な流域は事実上無限であり、自然再生エネルギーへの需要もほぼ無限にあるからです。                    本体は陸上で製造され現地で組み立てをする方式がメインとなると想定されます。フロートの形状は筏(いかだ)に似ていますが、ソーラーパネルを設置する屋根部分と支柱、水面に浮かぶ基底部分、および水面下の一部に電解設備などを設置するボディ(船で言えば船腹にあたる部分)で構成されます。筏というよりpontoonのイメージの方が近いかもしれません。この画像に壁のない屋根をつけた感じです。フロートを作る最小部分をセル(cell)と呼びます。セルのサイズは輸送の都合を考えて20m×30mくらいになります。                     ⅰ)まず、陸上(船で輸送するので港湾設備に近いところ)にセルの骨組みになる矩形部品の製造をします。素材は補強部分以外はなるべく木材と竹材で作るようにします。セルの矩形の中には格子状に横桁を渡してセル強度を保つと同時に、セルの浮力を保つためのエアバッグを取り付け、他に電解設備や作業員宿舎、貯蔵設備などを入れるボディを作ります。エアバッグは20気圧程度に加圧しても同等の外圧が海水により与えられるので気密性さえ保てればさほど強靭な素材で作る必要はありません。このエアバッグは当初身近な大気を充填しますが、設備が整えばCO2の在庫や貯蔵基地になります。                         ボディは一部が水面下に沈むため船の船腹と同じ強度の素材で作り、そこに電解槽や蓄電池をはじめとして、器具スペースや作業員生活スペースなどを確保します。セルは巨大なタイルを海面に貼るようなイメージで、一つづつ繋げて数百を一組(クラスター)とし、それを更に数百繋げてメガフロートを作ります。セル⇒クラスター⇒メガフロートの間には無数のパイプラインや電線が配備されます。最初のクラスター設置までは貨物船から半完成の躯体を海面に下ろして、あとは手作業で組み立てていかなければなりませんが、当初設置されるクラスター群はその後のセル組み立ての作業場として重機などを持ち込めますし、そうなれば船からの作業と違っていくつものセルを同時に組み立てられますから、効率は飛躍的に向上します。資材の搬入さえできれば後は作業員など規模の問題だけですからノルマンディー上陸作戦よりもよほど易しいと思われます。設置技術に大きな問題はありませんが、最初にセルに浮力を与えなければなりませんから、ソーラーパネルはもちろん耐塩耐水耐圧のエアバッグと自動的に浮力を調節するためのコンプレッサーなどは多数の同一規格品を陸上で大量生産する必要があります。        躯体の製造コストは驚くほど安くできるはずです。同一規格による大量生産ということもありますが、例えば家(バラック)を建てる時と比較すると、海面に浮かべるだけですから基礎工事が要りません。大部分の敷地にはソーラーパネルが設置されますから、屋根を作る費用も壁を作る費用も要りません。バラックの床の骨組み部分だけです。躯体は「コ」の字の躯体を作ってお互いに組み合わせ「ロ」の字の躯体にしますから、製造は三辺だけのコストで計算すればよいことになります。床に当たる部分は適当な補強材を格子状に設置すれば済みます。躯体に取り付ける重量のあるもの電解設備や住居スペースなどは海中に浮かべますから躯体としての補強は要りません。
赤道上に巨大なフロートを浮かべるというとたいそうな建設費がかかるようなイメージになるかもしれませんが、単位面積当たりで言えば、高速道路や新幹線を建設費用の数十分の一、あるいは数百分の一で作ることが出来ます。なにしろ同一仕様の枠組みを次々と海面に浮かべていくだけです。基礎工事も要らなければ、もちろん橋やトンネルを作る費用もかかりません。用地買収費も住民補償も要りません。                    ⅱ)フロート上でのエネルギー取得方法のメインはソーラーパネルの設置による太陽光発電です。発電のためのソーラーパネルはその下を他の用途に使う区画ではある程度の高さ(最大で4mくらい)が必要ですが、それ以外はその下を人が立って歩ける程度の高さがあれば十分かと思われます。ソーラーパネルのメンテナンスはパネルの下面から出来るように設計します。そうすることでパネル同士の間隔を縮めて単位当たりのパネルの設置面積を効率化できます。      ソーラーパネルには発電した電力の中央コントローラーまでの送電線、異常検知器などが取付られます。フロートでは太陽が南北23.5°の間しか移動しないため緯度に合わせた傾斜を持たせる必要がありません。その分設置面積を効率的に利用できます。パネルも特別に高性能のものは必要ありませんが、レアメタルの使用が最低限で済み高温環境下で発電効率の低下が少ないものを選びます。同一場所に同一の製品を数万枚数十万枚の規模で大量に設置するのですから、パネルの製造コストは大幅に下がるはずです。パネルは集約して設置されるので数十年後のリサイクルも問題なくできます。             ある程度の面積の敷設が終わったら、ソーラーパネルに加えて太陽熱による水や空気の加熱・蓄熱設備を用意します。 熱エネルギーはフロート上での海水蒸留や二次製品製造時の熱源の一部に利用できます。                        ⅲ)蓄電池 フロート上のソーラーパネルの発電効率は季節の影響はさほど受けないものの、当然ながら夜間は発電できません。フロートでは設置面積に制約がありませんから、原則的には必要電力の確保には昼間の電解作業を抑えて蓄電をしておくよりも、電解設備などを増やして昼間に使い切ってしまった方が効率的だと思われます。          しかし当然ながら、いくら赤道上でも朝晩と昼間では可能発電量が大きく違いますから、その分を平準化する(例えば電解槽の稼働時間を一日12時間確保する)ための蓄電池は必要になります。現在のリチウム電池の性能や経済性はどんどん向上しているので、近い将来にはソーラーの面積を増やすよりも蓄電池スペースを増やし電解槽を夜間も稼働させたほうが効率的になるかもしれません。                    ⅳ)電解槽と淡水化設備                ソーラーパネルで発電した電気を陸上まで運ぶのには得られた電力で水を電気分解してH2を作り、それをそのまま運ぶかメタンやアンモニアなどのいわゆる水素キャリアと呼ばれる化合物に変えて運ぶことになります。水の電気分解技術は完成しており、既製品がたくさん販売されていますから、そのまま使用することが出来ます。電気分解での電力の使用効率はよく、電力ロスは10%以下だとされています。        既製品の一例(日立造船)                      電気分解には電解槽に入れる淡水が必要ですが、これは海水を蒸留するだけで作ることが出来ます。その熱源には太陽熱をそのまま利用できます。淡水化の過程で大量の塩分(粗塩)が残りますが、これは設備が出来たら塩化マグネシウムとリチウム析出に使い、その後海中に廃棄します。フロートの下の海流は流れているので塩分を廃棄しても一か所に塩分が集中してしまうことはありません。電気分解で発生するO2は大気中に放出します。O2は大気よりずっと軽いので上空に昇って拡散します。これは植物がやっていることと同じですから環境に悪影響を与えることはありません。                             電解に使った淡水は多数の電解槽から移動させてフロートの生活用水に使うか廃棄するかします。電解槽は重いのでフロートのボディに収納しますが、この部分の浮力はボディ本体だけで確保するようにします。生産された水素は液化などせず、そのまま海中のエアバッグに圧縮保管され、フロートの設備の進展に合わせてそれぞれの用途に使用されます。                   ⅳ)港湾設備                     フロートでは水深の制約はありませんから、ほとんどの外縁には大型船が接舷できます。接弦と言ってもフロート側から積載するものはほとんどが液体や気体ですから、桟橋を作って横づけにする必要はありません。船側に受け入れ設備を付け加えればホースの接続だけで用が足ります。フロートで使用する資材などはフロートから若干離れた貨物船の定着場所まで荷下ろし専用に浮力を強化したフロートをタグボートで曳航し、荷物を載せてフロートの所定の場所に運びます。                   ⅴ)工場船
フロート上のソーラーパネルから得られる電力はそのままで陸上まで運べませんから、周囲に無制限にある海水を電気分解して、電気エネルギーを一旦H2に変換し、更にそのH2を原料の一部としてメタンCH4やアンモニアNH3を合成し、それらをフロートからの最終製品として陸上のしかるべき場所に運ぶことになります。CH4やNH3を大規模に(最終的に年間数億㌧規模で)生産するとなると、その生産設備はおそらくかなりの体積(重量)が必要でありフロート上に収めるのには無理があることや、陸上の専門工場でなければできない機械類のメンテナンスやオーバーホールの必要性を考えると得策ではありません。工場船が必要とする原料や製品は工場船の外(フロート上やフロート周辺の水面下など)に貯蔵できますし、電気や熱エネルギーもフロートから供給できます。工場船の機能は原料を製品に化学反応させる設備だけでよいといえますから、船のスペースを効率的に製品生産に振り向けることが出来ます。ただし、フロートは海面下の潜流により反流上に静止しますが、工場船は何もしなければ流されてフロートとの位置関係が安定しませんから、反流の流速に合わせて微速前進後退ができる動力設備が必要です。
また、上記の説明でお分かりのように工場船はタンカーのように巨大である必要はありません。数千トン規模の工場船を多数浮かべるほうが効率的です。フロートは最終的には長さ50㎞に及びますから、工場船が多数あっても接弦場所には困りません。

H2とCO2からCH4を作る作業(メタネイション)はいろいろなところでの研究が報告されていますが、現状は大量生産による実用化にはほど遠いところにあるようです。これは合成メタンが天然ガスに比べて生産コストが高すぎることによるものであり、高コストの主な理由はメタンの合成に必要なグリーン水素のコストがかかるからです。フロートの上でほぼ無料のH2を使えばコストの問題は大幅に改善されます。メタンの合成原料にフロートで作るH2と陸上で排出されるCO2をフロートまで運んで利用すれば、日本や中国・台湾の場合ならおそらく天然ガスの輸入コストとガチで勝負できます。メタンタンカーの陸上からフロートまでの航路にCO2をドライアイスにして運ぶのは簡単ですが、CO2はCH4よりずっと思いために積載量上限までドライアイスを運んでも同量のCH4を作るのには足りません。不足分は次に述べるアンモニアNH3のタンカーも利用します。アンモニアの液化温度は-30℃程度なのでアンモニアタンカーはその温度に合わせて冷却設備を持っていますから、その機能を強化し-80℃まで冷やせるようにすればドライアイスを運ぶことが出来ます。それでも足りなければフロート上で大気中のCO2を採取するようにします。
メタネーションの紹介記事
メタネーションの紹介記事②(ちょっと長いです。)

フロート上でのアンモニアNH3の生産はメタンの生産よりずっと簡単です。NH3は肥料の原材料などに広範な需要があり世界中で大量生産工場が稼働しています。

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