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発電燃料としてのアンモニア

アンモニアを発電燃料として利用する構想は2050年の脱炭素政策にも記載されているものです。具体的には再生エネルギーで水の電気分解を行い、生成したH2を原料にハーバーボッシュ法(あるいは高温・高圧を必要としない新開発の技術)でアンモニアNH3を大量生産するというもので、アンモニアはCを含まないので燃焼させてもCO2を排出しないところが脱炭素政策に期待されている所以です。                         政府 資源調達「脱炭素」柱に - Yahoo!ニュース  

日本でこの方法を実現するにはNH3の生産を海外で行うしかメリットがありません。脱炭素を前提にNH3を作るには、先ず再生エネルギーを使ったH2を作らなければなりませんが、そのために電気分解をして、それを使ったアンモニアを作ってまた発電するのであれば、電力のままで使ってしまったほうがずっと効率的だからです。(もちろん、原料になるH2を作る際に発生するCO2を吸収さえできれば従来の生産方法でもいいのですが、その場合でもCO2を捨てる場所のない国内での生産は非現実的です。)
                            
赤道反流上のフロートでアンモニアを生産し消費地まで輸送する方法は従来の生産方法や今いろいろと考えられているグリーンアンモニアの生産方法にはないメリットがあります。発電燃料としてアンモニアを使うとなると、新規の利用法ということになるので従来のアンモニア生産能力とは別に膨大な量のアンモニアが必要になります。そしてアンモニアを作るにはH2が必要であり、そのH2を作るには非化石燃料による安価な電力が大量に必要になります。製造に必要な高温は太陽熱からも太陽光発電からも容易に得ることが出来るので、立地条件以外に技術的な問題はありませんが、アンモニアの生産コストを考えればH2の生産場所とアンモニアの生産場所は隣接している必要があり、なおかつ生産されたアンモニアを容易に積み出せる位置になければなりません。原料のH2を液化して工場に運ぶなどもっての外です。
アンモニアの製造原価はH2の原価であり、H2の原価は発電能力の原価です。これはもともと輸送に費用のかかるH2を安価に輸送するためのアンモニアなのですから当然のことです。
発電場所とH2の生産場所は少しくらい離れていても支障にはなりません。送電ロスは知れたものです。山の上や洋上で発電し、港が近いなど立地条件のよい所でH2とアンモニアを作ることだって出来ます。
日本の発電の一定部分をアンモニアで賄うとすれば必要とするアンモニアは大量になりますから、アンモニア工場の連続運転は好ましく、その意味では太陽光発電でH2を作るより風力発電の方が好ましいように思われます。太陽光発電でそれをやろうと思えば余剰電力を蓄電するか、日中にH2を余分に作って保存する必要があるからです。
それにアンモニア利用の強みの一つはアンモニアは今まで窒素肥料や化学製品の原料として長年大量生産されており技術の蓄積がすでにあることです。そのことは赤道反流上にアンモニア生産プラントを作ることを容易にします。従来のアンモニア生産設備を工場船に設置すれば済むだけの話であり、CO2の地中貯蔵のように一から開発する技術ではありません。初期投資の見積もりも比較的簡単に出来るはずです。(一方でサバティエ反応を利用したメタン生産は大規模な生産設備を作るための技術蓄積がありません。)

アンモニアを発電材料に利用する強みは現在の火力発電の設備を大きく変えることなく使えることです。混焼(石炭とアンモニアを混ぜる)はすでに行われ始めていますし、近い将来にアンモニア専焼に切り替えることも視野に入っているようです。
そのことは新しい発電のための新しい用地を必要としたりしないことですし、労働力の移動も少なくて済むでしょう。
アンモニアの生産は世界で2億㌧ 資源エネルギー庁

資源エネルギー庁のHPを読むと「いいことずくめ」のアンモニアですが、もちろん弱点もあります。
ひとつはCO2を排出しない代わりに他の化石燃料に比べて燃焼時のカロリーが少ないので、同量の熱カロリーを得るためには大量に燃焼させなければならないことです。アンモニアNH3のN(窒素)は燃えてカロリーを放出しません。天然ガスCH4はCO2を排出する代わりにCも燃える分だけ燃焼効率は高くなります。(アンモニアの燃焼カロリーは5.3kcal/g,メタンのそれは13.3kcal/gですから2倍以上の差があります。)少量のうちは無視できるにしても、大量に輸入するとなれば海外からの輸送コストの増加と国内での備蓄場所の増加は無視できません。
繰り返しますが、アンモニアの原料は自然エネルギーです。自然エネルギーで電気を作り、その電気で水を電解してH2を作り、それを大気中の主成分である窒素N2と高温高圧で化合させて作らなければなりません。それだけの手間をかけて作ったアンモニアに輸送費を加えて日本に持ってきて発電するのでは、少なくとも産業エネルギーとしての電力コストは他の国に大きく見劣りしてしまいます。自然エネルギー環境に恵まれた地域なら最初に発電した電気をそのまま使えば済む話でから、エネルギー依存度の高い産業は国際競争力を失いかねません。
もう一つの弱点はアンモニアの毒性です。燃焼カロリーの低さは置いておくにしても、毒性がある限りアンモニアで都市ガスやプロパンガスを切り替えることは不可能です。何か別の方法を考えなければなりません。

自然には恵まれていても自然エネルギーには恵まれない日本にとって、まっすぐ南に進むだけで到達する赤道反流というほぼ無限の敷地と無尽蔵の太陽エネルギーや水の利用は、曲がりなりにもエネルギーを国産で賄うことのできる唯一の方法(多分)です。 
フロートの構造と機能について

フロートでアンモニアを作るのであれば太陽光発電で得られた大量のH2を輸送費用なしで現地利用できます。それでなくてももともと太平洋の真ん中のフロートから送電線を敷設するわけにはいかないし、H2を液化して大量輸送する方法ではコスト的に化石燃料水素に対抗のしようがありません。合成メタンやアンモニアなどの水素キャリアをフロート上で生産することは必須課題です。                           http://sekido-suiso.main.jp/yy/ammonia_manufacturing.pdf

https://www.jst.go.jp/lcs/pdf/fy2018-pp-13.pdf

アンモニア導入目標、50年に年3000万㌧ 脱炭素で普及(日経20210208)   閲覧できないときはこちら

発電用アンモニアを自社生産 東電・中電系、脱炭素へ         閲覧できないときはこちら 

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アンモニアNH3の分子量は17(N=14 H=3)ですから、年間3千万トンのアンモニアを生産するためには500万㌧以上(3000万㌧×3/17)のクリーン水素が必要です。現況のアンモニア製造工場のように、原料を化石燃料由来H2から得ていたらH2の20倍以上のCO2を生産してしまいますから、脱炭素からは逆行してしまいます。また、大規模アンモニア製造は現状では高温高圧を必要としますが、そのために化石燃料を使えば多量のCO2を発生させてしまいます。だからといってグリーン水素を作ってアンモニアを作り、それで発電するくらいなら最初から発電してしまえばいいだけの話で、発電材料としてであればまったく意味がありません。つまり、再生可能電力を使って電気分解によるクリーン水素を作り、それを現地でアンモニアにしてタンカーで日本に運ぶというのは余程の条件が揃わないかぎりコスト的に無理があります。                
実はこれに対する解は一つしかありません。原子力発電です。原子炉発電は天候の影響を受けずに発電できますが、その代りに昼間動かして夜は停めるといったわけにはいきませんから、夜間に発電される電力の無駄を避けなければなりません。(原子力発電の比率が低いうちは夜間には発電できない太陽光発電分の不足を補ったり、化石燃料発電を減らすことが出来ます。より多くの原発を新設して火力発電所を置き換えていけば、それだけでCO2削減の切り札になりますが、昼間の電力需要にあわせて設備を作ると夜間の余剰電力の問題が発生しますから、話は堂々巡りになりかねません。その矛盾の解決策の一つが夜間の余剰電力で電気分解したクリーンな水素を作り、原発の近所でコストの安いアンモニアを作ることです。現在稼動している火力発電所(特に石炭火力発電所)で使用している化石燃料をアンモニアに切り替えられれば土地買収も不要で、発電以外の送電などのインフラはそのまま使えます。政府は2050年までに年間3000万㌧のアンモニアと言っていますが、それが予定より増えたところで誰も困らないでしょう。アンモニア発電所は小型化できる上にアンモニアを運び込める場所なら立地を選びません。場所地域によってはアンモニア肥料やその他の化成品を作ることも出来ます。 そんなこんなで、アンモニア年間3000万㌧の政府見通しは近い将来の原発新設正当化のための伏線のような気がします。
                                  先ほど、再生可能電力を使って電気分解によるクリーン水素を作り、それを現地でアンモニアにしてタンカーで日本に運ぶというのは余程の条件が揃わないかぎりコスト的に無理があると申し上げましたが、実は「よほどの条件が揃う場所」が一か所あります。それが赤道反流です。    
赤道反流の上の巨大フロートに付随するアンモニア生産工場船を浮かべアンモニアを製造すればほぼ無料のグリーン水素を原料に使うことが出来ますし、高温高圧も太陽熱を利用できます。原料や製造したアンモニアの貯蔵はフロート下の水中で出来ますから、工場船は陸上のプラントのように巨大なスペースを必要としません。
蓄電池を用意しない限り夜間の生産のできないのが泣き所ですが、低コストで作って持ってくることができます。日本から近い熱帯亜熱帯諸国では自然環境を破壊せずに大量のソーラーパネルを置いたり沿岸に風車を設置するのは無理です。原料のN2は大気中のN2を使えますし、H2もあります。反応に必要な高温高圧についてもどこより安く使えます。(最近では高温高圧を必要としないアンモニア生産技術も続々と報告されておりフロートでNH3を作ることのコスト的優位性は若干揺らぐかもしれませんが、陸上でNH3を作る場合には常にH2の調達方法とコストが問題になります。                        問題は赤道で生産されるアンモニアの長距離輸送のコストになりますが、政府の構想がどこを想定しているにしても長距離輸送の問題がついて回ることは同じです。
フロートでアンモニアを製造すると他では得られないもう一つのメリットがあります。別のページでも紹介しているようにフロートではメタンの合成も行いますが、それにはH2だけでなくCO2が必要です。また、フロートで行う藻類の養殖にもCO2を必要とします。CO2の貯蔵はいくら多くても問題ありません。フロートの浮力を得るために水中に設置するエアバッグに加圧して充填することができます。
そしてこれらに必要なCO2はフロートから運ぶメタンやアンモニアの輸送船の帰り道を利用することが出来るからです。メタンは-160℃でアンモニアは-30℃くらいで輸送しますから船には冷却設備があります。つまり、船にちょっとした加工を加えればCO2をドライアイスにして運ぶことが出来ます。排出されるCO2の処理については現在でも確立されたものがありません。事と次第によってはドライアイスの運搬専用船を運航させても、それが一番安上がりなCO2処分法になるかもしれません。
                                  <再掲> http://sekido-suiso.main.jp/yy/ammonia_manufacturing.pdf    アンモニア発電(石炭混焼)工業炉での応用 <SIP 動画>       アンモニア動力船の開発 <google 検索>

アンモニアの最新技術                        50 ℃で水素と窒素からアンモニアを合成する新触媒 「CO2排出ゼロ」のアンモニア生産へブレークスルー <東京工業大学>           エネルギーキャリア アンモニア合成システム開発 - <SIP>

アンモニアが発電燃料として注目されたのは最近のことで、今まで使われてきた目的の主なものは尿素( CH4N2O)や窒素肥料の製造原料としてです。尿素はアンモニアをCO2と反応させることにより作ることが出来るのでCO2を固定して減らすことにもつながりますから陸上で排出されるCO2を回収しドライアイス化して赤道まで運ぶ手段が確立して十分な量のCO2が確保できればフロートで尿素を生産してもいいかもしれません。

          

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