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<フロートの多目的利用2>海洋植物性海藻(プランクトン)をフロートで大量増殖させ、その際の炭酸同化作用により、貯留中のCO2を炭素に固定する。

本文中アンダーラインを引いてあるところは出典を明らかにしたり、詳細な内容や関連事項の説明をするために外部にリンクしていることを示しています。ご利用ください。

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フロートに貯留されるCO2の再利用法としては主に再生メタンの生産が予定されていますが、それ以外の利用法もあればそれも加えるにこしたことはありません。再利用すべきCO2は無限にあります。

その中で構想されているのは海藻の炭酸同化作用と炭素固定です。植物プランクトンの養殖などはCO2の処理規模としては非常に小さく感じられるかもしれませんが、赤道反流上で繁殖させれば劇的に効率的なCO2除去が期待できます。植物の光合成を利用しCO2を分解してしまうのですから、CO2を地中に埋めるなどという「易しいことを難しく」するものではありません。
                               
フロートでは、その屋根部分にはソーラーパネルが置けるし水面下にはCO2のエアバッグを置けるのでフロート面積がいくら増えようと使い道がありますが、水面部分はどうしても空きスペースができてしまいます。      水面に置かれるプラント設備はたくさんありますし、作業員の生活スペースも水面に作られますが、最終的には6,000k㎡(2km×30㎞のメガフロートが10個)に達する広大なスペースを利用しきれるものではありません。フロートの運営効率を高めるためにも、ソーラーパネル(空中)とCO2充填エアバッグ(水面下)の間の未使用空間である水面を利用する手段をいろいろと考える必要があります。

一方で、アオコ赤潮は時折り異常に増殖して人々の生活環境を不快にする迷惑至極なプランクトンです。アオコは淡水域に赤潮は塩水域に発生しますが、両方とも植物プランクトンですから日光とCO2を利用した光合成(炭酸同化作用)を行います。成長するのにはCO2以外にも窒素やリンが栄養分として必要であり、それらはしばしば生活排水に含まれるために局所的な水域に富栄養状態を引き起こすことがあり、アオコやアカシオが急激に増殖する理由とされています。

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アオコが増殖してしまった貯水池

普通に考えれば海藻の大発生は迷惑であることは申しあげましたが、その旺盛な増殖力を逆手に取り、フロートの水面に沿岸の環境に似せたプールを作ってこれを増殖させれば、その光合成によってCO2をシステム的に短期間で海藻の体の一部にしてしまうことが出来そうです。
海藻は要するに植物性プランクトンです。海草のように水底に固定される必要はありません。水面で繁殖したものを取り込むだけで済みます。

光合成に必要な太陽光は赤道反流の上ならソーラーパネルの陰であっても十分に確保できるでしょう。日本の海岸にも発生するのですから赤道直下の豊富な日照量は要りません。
もちろん、植物の光合成にはCO2が必要です。海水にはもともとCO2が溶け込んでいますが、フロートに貯蔵されているCO2を溶かしこんでCO2濃度を高めることは可能ですし、更に窒素やリン,鉄分その他を加えれば海藻の爆発的繁殖に最適な環境を作れそうです。これらの微量栄養素は合成肥料を使わなくてもフロート作業員の排泄物や食事の残り、あるいは漁船が獲った魚の死骸、そして収穫した海藻を乾留したときの残余物(灰)などから十分に賄えます。
プールとは言っても強固なものは要りません。水槽の内側も外側も水ですから水圧は内外で拮抗します。極端に言えば小さい子供の水遊びに使うビニールプールを大きくしたものを無数に並べた光景を想像していただいて結構です。                       
ソーラーパネルの下の水面ではどうしても陽光が不足するように思えますが、これも前述のように日本の緯度でも異常増殖が発生することを考えれば赤道の直射日光をすべて必要とするものではありません。ソーラーパネル同士の隙間や作業用の通路から差し込む光で賄えれば海藻の人為繁殖のためにフロートの発電効率を低下させることもありません。透光度の高いソーラーパネルを置いて必要量を増やすこともできます。
フロート上ではエネルギーが無料同然ですから、海藻の繁殖と収穫・加工に関わる一連の作業はお手のものです。プールからは水面で増殖した海藻を取り出し、天日か他の化学合成作業で生じる廃熱を利用し乾燥してから乾留して炭素(C)の粉末(要するに炭)と灰を作ります。
海藻は粉末の炭になりますから薪にはなりませんが、原理は同じです。乾燥の熱源は太陽から採りますからCO2は発生しません。この段階で二酸化炭素CO2は炭素Cに戻ったことになります。
つまり、海藻から12㌧の炭(C100%)を作るとCO2を44㌧減少させたことになります。炭を作った後の灰には窒素やリンなどが残されますから、これは水槽に戻します。(したがって、窒素やP,Feは最初に適量を投下すればその後の補充は少量ですみます。)                                海藻に含まれる炭素の量はセルロース(C6H10O5)nまたはC6H12O6(グルコース、フラクトースなど)と大きく変わらないと見込まれるので、乾燥重量のC比を72/162と仮定すると、1㌧の乾燥状態の海藻を炭化処理すれば450㎏のCO2由来の炭素(CO2の分子量44で換算して1.6㌧以上)を処理できることになります。乾燥重量1㌧の海藻を生産するのにどれだけのスペースと時間(成長スピード)が必要かは分かりませんが、水槽を作れるスペースには制限がありませんから、理屈の上では望むだけの海藻を作ることが出来ます。
                           
話をCO2の回収分解だけに絞れば陸上での植林などに比べて非常に効率的な方法になるのは確実です。フロートでの人為繁殖であれば、伐採して環境破壊することも、枝葉や根といった不要物も生成しません。最終ゴールの炭化までフロート上で作業できるので材料の運搬費などもかかりません。
そして何より二日で3倍に成長する樹木などありませんし、陽光や水温などが安定した環境では繁殖開始二日後から「収穫」ができます。収穫したものは天日で干して乾留するだけですから、それを海底に投棄しなくても固めれば木材のブロックとして利用できるかもしれません。
乾留をしないで木質チップにして陸上まで運びバイオマス発電などに利用することも考えられます。そうすれば、その分自然林を伐採する必要がなくなります。

もし、このようなことが出来れば、森林がない地域に植林などで恒久的な森林を造り出して、そのCO2吸収分をクレジットとして売買するシステムに参加出来そうです。植林など植物の力でCO2を吸収する事業が継続できるようにというカーボンクレジットの仕組みは、今世界で普及しつつありますが、この仕組みは海藻の繁殖事業に向いています。海藻をフロートで人為繁殖しても植林のように生物相が豊かになったり自然の景観を美しくしたり土壌を豊かにするものではありませんが、CO2の吸収ということでは抜群の効率を持つからです。もしそうなれば、海藻の養殖事業はいくらでも大規模化できます。                             
海藻という微生物の力を借りてCO2濃度を下げる事業は、自然の中で行われている炭酸同化作用に人間も参加するということであって自然環境を守る活動だということができます。
それに、もちろんフロートのように無料同然の熱源と無料同然の敷地、そして無料同然のCO2のあることが条件ですが、地面に深い穴を掘ってC貯留するCO2回収のような膨大なコストが発生しません。


この話の凄さにピンと来ない人はもう一度フロートの広さに思いを巡らしてください。20m×30mのセルに深さ1mのプールのようなものを作れば600㎥、つまり600㌧の水を入れることが出来ます。プールの水面が海水面と同じレベルになるようにすれば、プールの水の重さはフロートの浮力を奪うことはありません。(ただし、排水量は増加します。なお、海藻の人為繁殖にあたっては水槽の深さは要求されません。水面に海藻が溜まれば光が下に届かなくなって海藻の光合成が阻害されるからです。)
海藻のようなプランクトンは環境さえ整えれば常に爆発的な増殖を起こし、天候や季節を選ばず何十回もの収穫を繰り返せるので、海藻を人為的に繁殖させて1haあたり何㎏を収穫するといった農業的発想が可能になります。
フロートはメガフロートだけで120㎢の広さがありますから好きなだけの広さを海藻の繁殖事業に使うことが出来ます。

以上ですから、好きな広さを使って好きなだけCO2を分解処理することは決して難しくはありません。高密度で繁殖させれば夜間呼吸による酸欠もあるかもしれませんが、養殖池の水は海水を引き入れて攪拌するだけでなく、電解時に発生し大気中に排出しているO2の一部を添加することもできます。 下記の研究レポートでは水温30℃~35℃が最適とされており、赤道直下の海水温は理想的です。そんなセルを10,000個作ったところで直接の所要面積は2km×3㎞(6k㎥)、フロートの面積(120㎢)からすれば微々たるものです。しかも、その面積は海草の繁殖池専用ではなく頭上にソーラーパネルも置けるし、下にはCO2のエアバッグも併行して設置しますから、その部分のフロート費用が海藻の繁殖事業にだけにかかるものではありません。最初に申しあげた20m×30m×2mのプールで炭素化できるCO2は年間10㌧かもしれないし、100㌧かもしれません。もし100㌧できるのであれば、フロートの片隅に作る100,000個の繁殖プールでは年間10,000,000㌧以上のCO2を消滅させることが出来る計算ですし、もし、そこまで効率的でなくても、毎年の収穫ができます。フロート上の養殖面積を増やせば、藻類の繁殖力に応じていくらでもCO2を分解してもらえます。
ちなみに、東京電力がNEDOから委嘱を受けて実証試験をしているCO2の穴埋め作業は貯留量が300,000㌧で費用は数百億だそうです。
穴を掘ってCO2をそのまま埋めるのではいつか穴は一杯になりますが、海藻の繁殖を利用すればCO2はCに還元されます。ビニールのプール、繁殖水の循環と汲み上げ器、海藻を干して乾留する設備、いったいいくらかかるでしょうか?                                原理は簡単ですが、この着想はほぼ無限のスペースと無料の動力や熱エネルギーをふんだんに使えるフロートがあってこそできる話です。

本文中では誰にも馴染みのあるアオコを例に取り上げましたが、海藻は光合成を行う無数のシアノバクテリアの集合体です。
シアノバクテリアは数十万種類ともいわれる多彩な種類があり、ユーグレナやスピルリナのように健康食品として利用されているものもあります。
CO2の回収源であると同時に食料としても使えるという観点からも多くの研究がされています。
以下は東京農業大学のホームページからの引用です。引用元はこちら。  引用開始
<シアノバクテリアと未来を開く>
シアノバクテリア(藍藻)は植物と同じように光合成を行う藍色の原核藻類である。約27億年前に地球上に大量発生したシアノバクテリアにより、大量の酸素が供給され、現在の地球環境が形成されたと考えられている。現在でも海、河川、湖沼から氷河まで地球上の至るところに分布する多種多様な生物群であり、一次生産者として地球環境を根底から支えている。また、植物の細胞の中に存在する葉緑体もシアノバクテリアに由来する。シアノバクテリアをはじめとする藻類は植物に比べ単位面積あたりのバイオマス生産量が高く、近年では物質生産のホストとしても注目されている。
<引用終わり>
そのような多種類のシアノバクテリアから赤道反流での人為繁殖に適した種バクテリアを選び、繁殖させて食料として利用できれば、フロートの空きスペースで農耕を行えることになります。
フロート空きスペースに多数のプールを作りシアノバクテリアを入れて増殖させれば陸上では考えられない規模とコストで農耕?をすることができます。
1)反流上の水温はほぼ変化がなく、毎日晴天の陽光が得られるので繁殖環境を一定に保ちやすい。
2)貯留しているCO2をプールに入れた海水中に放出することが出来る。 プールで繁殖させるのであれば、そのために必要な栄養素の添加も易しい。
3)収穫物の吸い上げや移動、乾燥などすべての費用が少なくて済む。
フロートでの繁殖であれば熱や動力エネルギーのコストは無視できるほど少ない。
4)栄養価の高いバクテリアを繁殖させれば家畜の飼料などになりうる
5)栄養価は低いが成長の速いバクテリアは乾燥させて代用木材としたり、あるいは乾留してメタノールなどを採取した後純粋の炭素として海中投棄しても環境に悪影響は与えない。あるいは陸上に持ち帰って木炭材料として使用する。

この構想の魅力は何と言っても桁違いな、敷地(プール)面積を最大にとればおそらく年間1億㌧ちかい農産物生産能力が見込めることであり、そのことで多くのCO2が食物連鎖に取り込まれてCO2循環に参加できることにあります。この方法であればCO2の固定は継続して行えます。穴を掘って埋めるのでは一回限りですから投資効率が違います。
※海洋性植物プランクトンの働きを利用して海中のCO2の濃度も下げようという構想もあります。海藻をCO2固定に利用するという点において私達の構想と被る部分もあるのでここに紹介しておきます。電力中央研究所研究報告




でも、そもそもフロートは実際に作れるものなのでしょうか?

こちらもお読みください。
フロートの赤道反流上での固定方法
フロートの洋上敷設方法
フロートの洋上エネルギー基地化

<付記1>                              増殖に使うCO2はフロートに「在庫」があります。また大気中から大量に取り入れることも可能です。→https://note.com/pec_cep/n/n92e51b1fb72c                              アカシオ以外の植物性プランクトンであっても、富栄養状態で、捕食生物がいない、水温も最適でCO2も豊富にあるフロート水槽のような環境であれば、アカシオに負けない増殖速度をもつものがいる可能性がありますが、何分資料がありません。

淡水に生息するアオコについては詳しいレポートが公開されているので、それに準拠しました。                          アオコの増殖及び分解に関する研究                  皮肉なことに出典は国立公害研究所研究報告書です。

<付記2>                             フロートの水面部分はユーグレナ(ミドリムシ)の養殖にも使えるかもしれません。大量に生産したユーグレナからバイオ燃料を作るのでは、いくらカーボンニュートラルだとは言っても、加工費輸送費の観点から石油と価格競争するのは難しいでしょうが、フリーズドライ加工などで栄養分を破壊せずに陸上まで運べれば、人間や家畜などの食糧に利用できるかもしれません。そのことで無理な耕作地開発などを多少なりとも行わないで済めば、間接的ではあっても地球の自然保護に貢献することが出来るでしょう。

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<日経産業新聞20220112>

日経産業新聞に下記の記事が出ていました。

研究チームはユーカリを候補と考えている。成長が早く5~10年で伐採時期になるという。
建築用の木材生産では数十年かけて樹木を育てるが、バイオ燃料用は「バイオマス(生物由来の資源)を効率よくとることが重要になる」(吉田教授)。短期間で効率よく育てて伐採し、燃料とする。100メートル四方の土地で年間40立方メートルのバイオマス生産が目標だ。<引用終わり>

100m四方ということは10,000㎡ですから、フロートのセル(20m×30m)の17倍にあたります。40㎥をイメージすると10000立方メートル×0.01m×0.01mで1㎥ですから、体積だけで言えば藻類を10000㎡のプールで養殖してr乾燥し固形化した状態で厚さ40㎝の藻類が出来ればユーカリと同量ということになります。ユーカリは山火事になるとてがつけられないと言われるほど豊富な油分があるので燃料に適しているのでしょうが、藻類でもユーグリナのようにそのまま燃料になるものもあります。
今フロートで想定している一般的な海藻(植物プランクトン)では乾燥したものも建材だとかメタノールの製造材料くらいにしか使えないかもしれませんが、技術的に難しいことはなくCO2の回収という観点からはそれで十分かと思われます。

こちらもお読みください。                      赤道反流フロートのコンビナート化

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