La Grève
わたしは正午発のTGVで、ボルドーからパリに向かう予定だった。駅でサンドイッチと炭酸水を買うと、キオスクのお姉さんは今日はストライキだと教えてくれた。買う前に教えてくれよ、と思ったがフランス語でうまく言えないので飲み込んだ。払い戻しをしようにも、窓口は1つしか開いていない。払い戻しの列が、空港のように広いホールを埋め尽くしていた。列に並ぶのは後回しにして、乗るはずだったTGVのプラットフォームでサンドイッチを食べることにした。
ホームにはパリ行きのTGVがドアを開けたまま停車していた。まるで口を開けたまま寝ているおじさんみたいだなと感じた。今後の予定やパリの友達に連絡しなきゃ、とあぐらをかいてラップトップをひろげた。構内のフリーWiFiを拾い、友達宛てにメールを書いた。ふと、同世代らしい男の子が眠ったままのTGVに乗り込むところが目に入った。わたしはPCをしまい彼に続いて電車に乗った。意外にも車内には人がいっぱいいて、青年に声をかけるとこれは臨時便で、パリに行くのだと教えてくれた。今日分のチケットがある人は誰でも乗っていいらしい。
でも、ストライキだから車掌はチケットの確認になんか来ないよ、僕なんかはじめから買っていないよ、と青年は自慢げに笑った。通常の座席はいっぱいだったが、食堂車のスツールが空いていたので座った。30分ほど過ぎたころ、TGVは伸びをするようにゆっくりと動き出した。すっかりこの電車がおじさんに思えていたわたしは、休みの日に無理やり起こされる父を思い出した。 空っぽのバーカウンターでわたしはザックを抱えて本を読んだ。その後も通過駅でTGVはたびたび居眠りをしたので、到着したのは本来の到着予定時刻から3時間ほど超えた夕方の18時頃だった。
パリ南部のモンパルナス駅に着いて吐き出される人の流れに身を任せて外へ出た。お酒のないバーカウンターで過ごす3時間は、とても体力を削った。しかもトイレに立って戻ってきたら席がなくなっていたので1時間半は立っていた。携帯電話は持っていなかったので、駅ですぐWiFiを拾って友人にメールをした。ポンピドゥーセンター前の広場で落ち合うこととなった。