怪物はどこ?

映画「怪物」を観ました

是枝裕和監督の大ヒット作品で、
音楽、ストーリー、色彩、俳優陣の演技力
どれも最高で友人知人に会う度に薦めています。

忘れたくないので感想文を書きました
以下、ネタバレにつながる表現がございます。

【不思議なことに】
三度観た。

初見は多角的視点のストーリーを追うのがやっと

二度目でやっと3つの縦軸、時間軸の描き方に底知れぬ面白さを感じて

三度目の鑑賞では考察するのをやめて
映画に没入し、涙が溢れて止まらなかった。

その後「ネタバレ解説」的なネット投稿を漁ったのだが、共感できるものもあれば的外れに思えるものも。
多様な感想があるものだな、と感心したのだが…

しかし不思議なことがある。

俺がこの映画をみて「最も強く感じたこと」についてネットではどなたも語っていない様に思えるのだ。

どうしてだろう?
俺が変なのかな?

でも「あのシーン」でゾクッとした時
確かに俺は変になっていて
その後もしばらく変だったのかも知れない。

【怪物さがし】
告知ポスターにもある

怪物だーれだ

のフレーズに匂わされ、初見では俺も怪物さがしに躍起になっていた。モンスターペアレント、いじめっ子、日和見主義の教師、尾ひれのついた噂話を広める人たち、嘘、報道、等々…

純粋さ故に傷ついてしまう麦野湊(みなと)くんと
許容されず虐げられる星川依里(より)くん。
彼らは2人だけの場所を見つけて解放され
また元の社会に戻る。

世の中は誰もが怪物であり、
視点を変えれば誰もが愛すべき人なんだよな…

【靄(もや)】
初見の感想はこのような「怪物さがし」に終えたのだが、この時から俺の心は靄(もや)がかかったような気持ちだった。

「あのシーン」が何度も瞼に浮かぶ。
そしてもう一度観に行こうと思う気持ちがどんどん強くなっていった。

見落としたであろうディテールも確認したい。
より掘り下げて、もっと感動すべく再び映画館へ

【ごめんね】
前半はスラスラと鑑賞でき、見落としも無かったように思える。そして自分なりの感想を持つことも出来た

子育て中の親の戸惑い…。
俺にも子育ての経験があるのだが、つい先日まで赤ちゃんだった可愛い我が子が身体も、そしていつの間にか心も成長していて何かに苦悩するような様子に親心がざわめく。
子を守ろうと心からの愛情を示すが届かないようなもどかしさ。
佐織さん、解るよ。
自分が不甲斐なくて子供が可哀想、って思う気持ち

伝言ゲームのように噂が伝わって
有りもしない事が真実のように定着する。
当事者としては否定しようにも一体どこから説明すれば良いのやら。
口を閉ざせばさらに強化される作り話は、俺にも向けられた記憶がある。
でも、そんな自分だって…自分の主観を誰かに押し付けてしまう事だってあるんだ
保利先生、解るよ。ごめんな、ってその気持ち

子供のいじめ。
やっている側は無邪気なんだけれど、されている側はね…。
双方とも記憶があるので胸の奥が痛む。
だが切なさの源はその先にある麦野湊くんの葛藤と
受け止める星川依里くんの姿

解る、解るよ。解らない人もいるだろうし
解りたくもないって人もいるだろうが
俺は解るよ麦野くん。今日はごめん、涙が溢れる

そしてあのシーン。

二度目の鑑賞を終えての感想は少し疲労しました、です。
考察欲が勝ってストーリーに没入出来なかったのかも。
しかし俺は確信しました。

怪物だーれだ

【解ってもらえますか?】
この文章を読んで下さってる方で
はーん、解ったぞ「あのシーン」とはきっとアレのことだろ。
と思ってらっしゃる方もいるでしょうが違うと思います。

アレについてはネットで沢山の方が語られているので。

アレよりも、少しだけ前の短い映像なんです。

もしも…俺と同じくあのシーンでゾクッとした人がいるのなら連絡をください。
奢るので飲みに行きましょう

【渇望】
翌日、俺は三度目の鑑賞をしに映画館へ向かいました。
そう、2日続けて同じ映画を観たのです。

俺は明らかに渇望していました。

早く会いたい。あの手、あの声、あの眼差しに。

ここから先は有料…

ではありませんが、読みたい人だけ読んでください
それでは参ります。




【靄(もや)の正体】

俺は性的マジョリティです。
その事をとても幸いに思っていますし、
そういった面で困った事がありません。
不快に思われたらごめんなさい。
自分が自分で良かったと心底思っています。

「怪物」を観る少し前に大ヒット映画「TAR」を観ました。

こちらもかなりの大作でした。

これもし主人公がオジサンだったらさ、こいつサイテー!ってトコかな。でもそれじゃこの物語にならないんだよな云々…
といった感想を持っていたのですが、

その思いが「あのシーン」で甦りました。
そう、もしも星川依里くんが女の子だったら…

「僕は星川依里くんですか?」

二人っきりの屋内で
右手にクイズのカード
左手に美味しい物を持って
両手が塞がってるその子は
長袖シャツの袖口に手のひらが半分隠れた状態で
不意に身体を横たえた。
目と目を合わせてヒントを与えてくれる
その可憐な仕草と声、吐息まじりの微笑み…

そんな星川依里くんが罪深いほどに可愛いのです

映像はスクリーンいっぱいに星川依里くんのアップ。
必然的に「依里くんしか目に入らない」状態になります。

小悪魔?天然?確信犯?

これはさ、そりゃ好きになっちゃうよ。
だってこんな美少…(!)

気が付けば俺は、きっと麦野くんと同じ気持ちで
依里くんに釘付けになっていました。
いや、もはや俺が麦野くんでした。

怪物だーれだ

そこから俺は放心して映画に心を委ねました

そして三度目のラストシーン。本当に
本当に凄くて涙が止まらなかった。
哀しくて美しくて切なくてキラキラしていて

もう考察なんて無用。
2人の最後の台詞が全てを語ってくれてたんだ
そんな気持ちに満たされて幸せでした。

そして、そんな気持ちを優しく包み込んでくれる音楽

坂本龍一さんのご冥福を心よりお祈りいたします

以上、感想文でした
長々とお読みくださり有り難うございました。

~エピローグ~
次の日、日課にしている朝のジョギングをしに外へ。

すれ違う登校中の小学生たち。
カラフルなランドセルが可愛くて、マスクを外した明るい表情が眩しい。
横断歩道で見守るボランティアさんと朝のご挨拶

おはよう
行ってらっしゃい

30分ほど走ってクールダウン。呼吸を整えた
うん、俺はいつも通り
そしてずっとこのままなんだろう。

ペットボトルを片手に公園のベンチへ。
遠くで学校のチャイムが鳴り
静けさがもどる住宅街

炭酸水が身体に沁みて
心地良い疲労感に満たされた
今日も1日頑張ろう。

…しかしよ是枝監督、やってくれたな。

フー危ねぇ、

呼び覚まそうとするんじゃないよ、まったく。

怪物はどこ?/完

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