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「ぽんと行って取っといで」と「赤毛のアン アニメコンサート」

先日『赤毛のアン』好きの文学コミュニティ「バターカップス」の友人たちとオンラインでお茶会を行った。3ヶ月ごとに2回、私が主催して行っている。今回は6名が参加してくれた。アン関連の情報交換はもちろんのこと、近況報告や読書の話、他愛のない話までいつも話題には事欠かない。面識のない方が参加することもあるが、”好き”が同じだけで、なんとなく気心知れたような気持ちに自然となり、打ち解けるのもあっという間である。バターカップスのメンバーはオープンマインドな人が多いせいもあるが、私はこれまで幾度となくこのような経験をして、”同類の魔法”と呼んでいる。

さて、オンラインお茶会では、毎回飲み物やスイーツなどを用意して臨むのだが、今回は赤毛のアンシリーズに出てくる食器・ブルーウィローのカップ&ソーサーにヨークシャー・ティーを注ぎ、お供は「ぽんと行って取っといで」というお菓子にした。「ぽんと行って取っといで」はモンゴメリの小説『マリーゴールドの魔法』に登場するお菓子で、原文は「hop-and-go-fetch-it」となっている。「かわいい、こぶだらけの干し葡萄入りのお菓子で、砂糖衣をかけた上にピンクのキャンディがのっている」と小説の中で語られている。

写真の「ぽんと行って取っといで」は友人のミワコちゃんが、小説の描写から想像力を働かせて作ってくれたものである。ミワコちゃんの話では、スコーンに似たイギリスのロックケーキのレシピを参考にして、それにアイシングをかけて見た目を寄せてみたのだとか。これがびっくりするぐらい美味しい。お店ができるんじゃないかと思うぐらいである。あまりにも美味しかったのでもっと食べたくて私も挑戦してみたくなった。

ミワコちゃんに「ぽんと行って取っといで」をいただいた時にもう一つ嬉しいサプライズがあった。それがこちらの手作りの巾着。
見て、アンの切手柄なの〜‼️  なんて可愛い! よく見ると消印も、メープルのスタンプも!バターカップらしきお花も!
私が好きすぎて喜ばざるを得ないツボを全て押さえましたと言わんばかりの贈り物に大感激したのだった。

ミワコちゃんから贈り物をいただいた日は「赤毛のアン」のアニメコンサートの日だった。アニメコンサートとはなんぞや? でもアンに関するコンサートだからとチケットを購入。バターカップスの仲間たちも大勢聴きに来たのでちょっとした同窓会みたいでとても楽しかった。

コンサートは大きなスクリーンにアニメが流れ、その下でオーケストラが演奏するという形式だった。主題歌を歌うのは大和田りつ子さん。子どもの頃から何度聞いたか分からないぐらい大好きな歌を、当時と全く変わらない歌声で披露してくださり、感動を通り越して胸がじーんと熱くなった。アニメ「赤毛のアン」の劇中に流れる音楽はクラシック界の大御所・三善 晃さんと毛利蔵人さんが作曲したもので、子ども向けの作品に使われるにしては格調高く、演奏するのも歌うのも大変難しいそうだ。

大和田りつ子さんと、アンの役を担当した声優の山田栄子さんとの裏話トークはとても興味深く面白かった。大和田さんが、主題歌を作曲した三善さんは岸田衿子さんが作詞した日本語の響きを大切に考え、1番と2番の冒頭は言葉の発音に合わせて少しメロディーを変えているとおっしゃって、実際に歌ってくださった。作曲家の深いこだわりを知ったのだった。

山田栄子さんは、役のオーディションで最後まで残ったのは2人で、その1人は島本須美さんだと明かした。高畑勲氏は山田さんを推し、宮崎駿氏は島本さんを推したそうだ。それを聞いて、後に宮崎駿氏がナウシカの声に島本さんを選ぶところに通じていったのだろうかと単純に想像するのだった。

昼の部と夜の部と2回行われたコンサートはどちらも大入だったらしい。半分ぐらいは男性のお客さんだったことにも驚いた。「赤毛のアン」のアニメが放送されたのは1979年。私が10歳の時である。40年以上経ってもなお色褪せない魅力で、これほどまでに大勢の人々を感動させている事実にまた感動を新たにする。この上質なアニメがその後の私の人生に大きく影響したことはいうまでもない。妥協のない本物の音楽を耳にして、大人たちがこだわりぬいて制作したアニメーションの美しさに触れ、モンゴメリの小説「赤毛のアン」の魅力に心を射抜かれて、その矢は未だ刺さったまま。一生抜けることはないだろう。「赤毛のアン」との出会いは私にとって幸運というほかない。コンサートを聴きながらしみじみとそう思った。