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禍話リライト「飛び込みの石」
昔々の話なんですけど。
田舎の山奥の方に線路が走ってて、
そこにとある踏切があったんですって。
それが、悪い意味でちょうどいいところにある踏切で。
列車からはよく見えなくて、山奥で人も通らないから、
飛び込み自殺の名所になっていたらしくて。
年に一、二回、そういうことが起こってたんですって。
今だったら然るべき人たちが後処理をするんでしょうけど、
これは昔の、田舎の話だから。
みんなで後処理の手伝いをする、
地域で協力し合う、って習慣があったんですって。
いまはもう定年したひとが若いころに聞いた話だっていうから、
かなり前の習慣ですよね。
その日も職場で夜勤してたら、若い人たちが呼ばれて。
またあそこの駅で自殺があったから、
ちょっと手伝ってくれないか、と言われて。
碌に明かりもついてない山奥の駅に向かったら、
手袋と長靴と懐中電灯、そしてバケツを各々が渡されて。
その中に入れていってくれ、と指示されるんですけど──
わざわざ懐中電灯で見たくもないじゃないですか、そういうの。
だから、実際に回収してた方の表現を借りると、
「雨降ってない状況なら、(掴んだ時点で)濡れてるって思ったらパッと入れる」、
そんな回収の仕方になってたらしいんですよ。
手袋越しに、あるいは火ばさみ越しに、
水を含んだ感じがしたら、あまり掴んだものは見ずにバケツに入れる。
そうして、粗方の回収が終わって。
そろそろバケツの中身を確認しよう、という段になったときにね。
その当時で年配の方が、あるバケツの中を見ながら、
「ああ、この石がまた来たか」
そう言ったらしくて。
何だろうと中を見たら、回収した様々なものに交じって、
石が入ってるんですよ、バケツの中に。
そんなに血を浴びてるわけでもない石。
どういうことですか、その方に訊いたら。
「この踏切で飛び込みがあるたびに、みんなでこうして拾うだろ?
そしたら、毎回拾ってくるんだよ。この石を、誰かが」
って、答えたそうなんです。
特に血もついてない、水を含んだ感じなんて当然ない、ただの石。
黒っぽくて、重そうでも軽そうでもない親指大の石。
形に特徴があって、その人は覚えてたとかで。
回収する必要のないものだからといって、
別にわざわざ線路に戻すわけじゃないから、
見つかるたびにその辺にほいって放るんだけど───
「毎回毎回、来るんだよな」
夜の踏切で、年配の人がそう話すのを聞いて。
その方は、うまく言えないんですけど、
ものすごい気持ち悪さを感じたそうです。
ちなみに提供者の方は、
骨が経年劣化したものなんじゃないかって言ってたんですけど、
でも私は違うと思っていて。
黒っぽくて重そうでも軽そうでもない、特徴のある石でしょう?
それ、墓石の一部なんじゃないかなって思うんですよ。
「禍話アンリミテッド 第十九夜」
https://twitcasting.tv/magabanasi/movie/768056148
より、29:34以降の話です。