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禍話リライト: 忌魅恐NEO「地蔵の写真を集めている奴の話」

友達と袂を分かった。
って話なんですよ、簡単に言うとね。

高校時代に結構ワルな友達がいて。

小中は違って高校ではじめて知り合って、
僕は悪くもなく普通の生徒だったんだけど、
すごく馬が合ったんです。
家にお互い行き来して泊まったりするぐらい仲良くて。

その人の家ではお父さんが明るく迎えてくれて、
そこはそれなりに広い家なんです。

あ、家がお金持ってるタイプのヤンキーか、
とか思ったのを覚えてます。

普通にいいお父さんで、
一緒にご飯とか食べてるときも楽しくて。

で、ある時、その食卓が何かの流れで、
怖い話をする感じになったんです。

そしたらお父さんが彼を指差して、
「こいつね、実は怖いってか、気持ち悪いとこあんだよ」
とか、からかう感じで言い出したんですよね。

彼は嫌そうな顔をしながら「やめろよ」とか言ってて。
え、なんかあんのかな、って聞いてみたら。

「こいつね」

お父さん、僕があんまり予想してなかったことを言ったんです。

「こいつね、地蔵の写真集めてんだよ。パソコンに」

え?
地蔵の写真?

を、パソコンに?

僕が何も返せずにぽかんとしていると、
渋々、といった感じで彼も教えてくれました。


中学ぐらいのとき、……その、年上の人に、
幽霊が出るって部屋に無理やり連れてかれたことがあるんだ。

で、その部屋に閉じ込められるような形になって。

そこで恐らく何かがあって、
気絶してたらしいんだよ俺。
一応その後、出れはしたみたいなんだけど。

でもそれからなんか身の回りにおかしいことが続いて、
親戚のおばちゃんに相談したんだよ。

色んな対処法を教えてもらったんだけど、
その中でいちばんしっくり来たのが、
「地蔵の写真を集める」ことだったから、
今もこうして集めてんの。


後でパソコンを見せてもらうと、
確かにデスクトップの「新しいフォルダ」の中には、
とんでもない量の画像が入ってました。

友人が自分で撮影したと思しきものと、ネットで拾ったもの。
地蔵の全身が写っているものと、一部を接写しているもの。
鮮明なものと、ただ灰色なことしか分からないもの。

どれだけスクロールしても底が見えないそれらは全部、
友人が集め続けている「地蔵の写真」だそうで。

「……えーっと、これを集めるといいっていうのは、
写真がおふだ代わりになるみたいなこと?
金運が上がる待ち受けみたいな」

「いや、そういうんじゃなくて。
何となく『今日ヤバいな』って分かる日ってあんだよ。
何しててもそわそわする、手につかない、って日」

「……言われてみれば、確かにお前ってそういう時あるな」

「だろ? で、そういう時にひとりになると、
必ず妙なことが起きるんだよ。
急に窓が勢いよく開いたり、
誰かに小突かれたような感触がしたり」

「はあ」

「でな。最後、寝るときになると、
部屋の外がざわざわしてくるんだよ。
明らかに大人数いるような音が続いて、
最後には、……俺の部屋の中に、その人たちが入ってくる」

「……え? やばいじゃんそれ。
今の話だと、それ生きてる人じゃないんだろ?」

「そう。でもな、それには対処法があって。
パソコン付けて、例のフォルダをぶわーって眺めてると、
日によって違うんだけど『今日はこの画像だ』って、
直感する地蔵の写真を見つけられるんだよ。
そのお地蔵さんを拡大表示して、
助けてくださいって念じ続けてると、
そのざわざわした音と気配は収まるんだ」

「…………」

正直信じてはいなかったんですが、
どちらにせよ相当参ってるんだな、
ということは傍目にも判りました。

本当に幽霊だとしても怖いし、
ただ過去のトラウマが原因で、
精神的に不安定になってるんだとしてもやり切れない。

その話は一旦そこで終わったんですが。
意識してみるとそれからも、
高校生活の二、三カ月に一回くらいの頻度で、
彼がやけにそわそわしてる日があって。
何というか、どっちにしても可哀想だな、って思ってました。

その後、僕たちは違う大学に行ったんですけど、
ある時ひとり暮らししてるそいつの家に遊びに行くことがあって。

「おお、久しぶり。ごめんな、こんな急に遊びの約束取り付けて」

「いやいいよ別に。こんなのしょっちゅうだったじゃん」

やけに「ごめんな」って繰り返すな、
とは思ってたんですけど──

夜、僕は酒に酔って彼の部屋の床で寝ちゃってたんです。
ふと目が覚めたら部屋は暗くて、
あいつも寝てんのかなって部屋を見回したら、
彼の机に明かりがついてる。

どうやら彼は机上でパソコンをかたかた動かしながら、
何かをやってるみたいで。

あれ起きてんのか、って声をかけようとして、
そこで気付きました。

「やばいやばいやばい 今日 いいのがない」

かたかたと忙しなく両手を動かしながら。

「この写真も違う これも違う 違う どうしよう やばい」

彼は例のフォルダを漁りながら、
「地蔵の写真」を必死に探してたんです。

なんかよそよそしいって感じてたけど、
今日が「その日」だったのかよ、と。

思ったときに。

部屋の外から、ざわざわとした音が聞こえ始めました。

カラオケボックスの通路を歩いてるときのような、
色んなとこからくぐもった声が聞こえてきてる感覚。

嘘でしょ、と思いながら、
寝たふりをしようかどうか迷っていると、

普通にドアが開いて、
何人もの人が入ってきたんです。

ざわざわした音が急に鮮明に大きくなる感覚が一瞬あって、
そこで意識は途絶えました。

ぱっと起きたら、
明らかに一睡もしていない様子の、
やつれた友人が部屋に座っていて。

「ごめんな」

僕に一言、そう言いました。

「……いや、いい」

恐らく「それ」は僕ではなく、
やはり彼にのみ何かを及ぼしているんだろうなと、
僕はそのときに察しました。
その後も、僕には特に何も起こらなかったので。

とまあ、ここまでだったら、
別に袂を分かってはいないじゃないか、
と思うかもしれませんね。

問題はここからで。

お互い社会人になって、それでも交友関係は続いてて。
友人に新しくできた彼女さんを含めて、
三人で宅飲みしようってことになったんです。
社会人になって引っ越したらしい彼の家で。

そしたら、なんかの流れで彼女さんが、
怖い話をしようって言い出したんです。

恐らくその後のふたりの感じを見るに、
彼女さんは本当にただ単に、知らなかったんでしょうね。

彼は「あー、そうか」みたいな感じで、話し始めたんです。

「俺、ちょっと怖い話があって。
そっかお前は知らないか、こいつは知ってんだけど」

「えー、なになに」


中学ぐらいのときにな。
朝起きたら爺ちゃんが布団の中で死んでたんだよ。

年が年とはいえ健康体だった人が家で死んだから、
警察が来て大変だったんだよな。

それ以来さ、爺ちゃんが寝てた部屋がなんでか、
家族の中でどうにも気持ち悪いって感じるようになって。

誰もいないのに、誰かいるみたいな音がするんだよ。

畳を掻きむしる音とか。
襖が開く音とか。
人が動くような音とか。

誰ともなく、その部屋は使わなくなって、
いつしか開かずの間みたいな状態になってたんだよ。

中学の、夏休みのときだったかな。
俺と親父だけで家にいる時があって。

そしたら急に親父が、
酔っ払ってもないのに俺の首根っこ掴んで、
半分引きずるみたいに俺をどっかに連れてこうとしたんだよ。

俺も何が何だか分かんなかったけど、
親父は力が強かったから全然逆らえなくて。

気が付いたら俺、
爺ちゃんの部屋に閉じ込められててさ。

もう電気なんてとっくに切れてるし埃だらけだし、
何より状況が全然分かんなかったから、
必死で外の親父に呼び掛けたんだよ。
何これ、出してよ、って。

そしたら親父はげらげら笑いながら、
「悪い子にはお仕置きが必要なんだ」とか言って。

真っ暗な部屋の中には明らかに俺じゃない何かの気配があって、
押入れの辺りではがりがり引っ掻くみたいな音が聞こえてきた。

ほぼパニックになった俺が何言っても、
親父はおんなじことしか言わないんだよ。
悪い子はお仕置きだ、って。

いつの間にか朝になってて、
一瞬夢かと思ったけど。

親父は俺を見るなり「昨日は怖かったな」って言ったから、
絶対に夢じゃないんだよな。


なんだよ、その話。

僕は呆然と彼の話を聞いていました。

ちなみに、それ以降の話の展開は、
僕が聞いたものと同じなんです。

閉じ込められて以来、変なことが続いた。

親戚のおばちゃんから聞いた対処法の中で、
一番しっくり来た方法を今も続けている。

地蔵の写真を集め、保存している。

いや、でもおかしいだろ。
当然ながら僕はそう思いました。

“中学ぐらいのとき、……その、年上の人に、
幽霊が出るって部屋に無理やり連れてかれたことがあるんだ”

彼が嫌そうな顔で話し出した、
高校生のあの時のことを思い出しながら。

幾つもの疑問が、僕の頭に浮かびました。

何故そんな話を、他でもない父が、彼に振ったのか。
祖父の死が、その家に何の影響を及ぼしたのか。
彼の家では、一体何が起きていたのか。

そして。

何故彼女にその話をしている間ずっと、
彼は僕を睨み続けていたのか。

その日から、彼とは距離を置くようになって。
もう直接会うことは一度もなくなりました。

ただ、フェイスブックとかでは何となく繋がってて。
写真や投稿を見る限りだと、
たぶんあの彼女さんと結婚してるんですね。

「子供が生まれました」

「元気にすくすく育ってます」

そんなふうに、自宅で子供さんを撮影している写真が。
なんか、やけに真っ暗な気がするんですよね。


〈以下、本放送のコメントより引用〉

・これおじいさんから続く因果なんだろうなぁ
・親父も同じ目に遭ってたんかなぁ

・おしおきするためにわざと悪い子に育ててそう


出典: 禍話インフィニティ第四十夜

(58:20くらいからです)

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