日常ほど残酷なものはない
人の数だけ日常がある。
朝日と共に起きて起きて働く人もいれば、夕日と共に起きて働く人もいる。起きる時間も寝る時間もなく過ごすのが日常の人もいる。
そこに突如として入り込んできた人物がいたとする。
それは暇さえあれば会いたくて、ちょっとくらいなら我慢だってしてしまう存在。
「恋人」がフレームインしてきた日常は、その瞬間から今まで過ごしてきたものとは別のものになる。
今までの日常が変化するのではない。新しい「日常」が出来上がるのだ。
出来上がってしまう。
その日常が終わるとき、人は途方に暮れる。
ここに来るまでにいた日常に戻ることができないからだ。
正確には戻ることはできるが、新しく創造されていた日常にいた人はもういないその世界は、人にとって「非日常」である。
でも、それ以外は何も違わないのが厄介なのだ。
それ以外は何も変わらないのに、1番大切なものがなくなっている。
この世界で生きていかなければいけないことなんて分かっているからこそ、生きるのがつらい。
涙を我慢して後頭部が痛くなる。
残酷で色褪せている日常を、痛みに気づきながら生きていかなければならない。