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21年目の希望

【はじめに】
まはるの頁にご来訪いただきまして、ありがとうございます。
今回は2023年の夏に執筆した作品をお読みいただきます。
時期的に「夏休み」ということで、このエッセイ掲載を思い付きました。
皆さん、今年の夏休みのご予定はありますか?
もしかしたら、既に行楽地や帰省先にいらっしゃる方もいるかもしれませんね。
JR東海は、昨年、新幹線の発着ベルを、TOKIOの「AMBITIOUS JAPAN!」から、「会いにいこう」に変えました。
長年親しんだ曲が変わることに対しては、様々な意見があったようですが、新曲の「会いにいこう」と、この曲に合わせて流されるPVの内容が大変に良くて、YouTube上でも好評のようです。
私が執筆をした時点では、「会いにいこう」の歌唱は、UAさんと賀来賢人さんバージョンがありました。賀来さんはPVにも出演していらして、格好良いです。
現在は、吉高由里子さん出演で、ハナレグミさんが歌うバージョンも公開されており、こちらも秀逸な仕上がりです。
旅立つひとの「目線」、迎えるひとの「目線」。
どちらも温かく、ひとの営みの素晴らしさが実感できます。思わず涙ぐんでしまう大好きなPVです。
皆さんの夏が良きものでありますように!
是非、YouTubeでPVを見ながら、このエッセイを読んでいただけると嬉しいです!


(1)日本人は臆病?

私は「変化」をあまり好まない。
慣れ親しんだ「もの」の中で、いつまでも安穏としていたい。
新しい世界が怖いのだ。臆病者である。
しかし、「変化」を好まないのは私だけではないような気がする。
何か新しい「もの」が始まる時、必ずと言っていいほど、「今までの方が良かった」という声が上がるのを誰しもが経験している。
もしかして、「日本人」はみんな臆病者なのかもしれない。
以前、韓国に留学したひとが、自書でこう記していた。
曰く
「日本の留学生はすぐに判る。伏し目がちに歩いているからだ。韓国や欧米の人々は、堂々と真っ直ぐに前を向いて歩いている」と。
留学などという冒険心いっぱいの行動に出ているひとでも、そのような評価を受ける。
国内に長く留まっている多くの日本人は、きっと諸外国の人々から見れば、臆病の塊に感じられるのかもしれない。

(2)さらば!「AMBITIOUS JAPAN!」

そんな臆病さ、いうなれば、保守的な日本人の気質を私が改めて感じたのは、東海道新幹線の車内チャイムの話だ。
この7月を以て、東海道新幹線は20年に渡り車内で流していたチャイムを一新させた。
20年間、新幹線に乗車をした人々の耳に馴染んできたのは、TOKIOの「AMBITIOUS JAPAN!」である。
20年前といえば、新幹線が品川駅に停車をするようになった年だ。
「AMBITIOUS JAPAN!」はTOKIOの数ある楽曲のなかでも、誰しもが口ずさめるヒット曲となった。
ヒットの要因は、やはりTOKIO自身が出演したJR東海のコマーシャルの影響が大きいだろう。
ビシッとスーツ姿でキメたメンバー5人が、画面に映し出された新幹線と共に全力で駆け抜ける。
疾走する新幹線と若いメンバーの躍動感が見事にリンクした胸のすくコマーシャルだった。
私はこの新幹線チャイム一新のニュースを受けて、無性にTOKIOのコマーシャルが見たくなり、早速、YouTubeで検索をした。
すると、やや古めかしい映像に辿り着いた。
その中にあって、若き日のTOKIOがフレッシュで格好良い。
この映像に付けられたコメントは、当然のことながらTOKIOに対して好意的なものが多く、尚且つ、「新幹線のチャイムは変えないで欲しい!」という懇願だった。
因みに、コマーシャルだけでなく、この「AMBITIOUS JAPAN!」が使用されたPVも併せて見た。
何本もの新幹線が走り抜けすれ違う様。鉄道ファンにはたまらない作りになっていた。
この映像にも勿論、コメントが付けられていた。
「新幹線のチャイムはこれしか考えられない!」という、「AMBITIOUS JAPAN!」の熱心な信奉者の声だ。ファンはいつの日も強い。
この「ファン」というのは、勿論TOKIOのファンも居るだろうが、この曲を愛し、この発車メロディーにまつわる諸々を大切にするひとの声だ。
なかには、しんみりとするコメントもあった。
「僕の青春はこの曲と共にありました。旅行の始まり、終わり。ワクワクも溜息も。そして踏み出す一歩をこのメロディーが支えてくれました」
思わず涙腺を刺激されてしまった。
20年という歳月は、決して短くはないだろう。
ひとつの命が生まれ、大学生や社会人になるまでだ。
1日に何十本と走る新幹線の中では、様々なドラマが展開されたに違いない。
出張先へと向かう凛としたサラリーマン達の眼差し。
遥か遠くの故郷へと戻る家族の笑顔。
「旅立つひとよ 勇者であれ!」と、力強く背中を押し、鼓舞するような歌詞に勇気づけられた20年だった筈だ。
選曲の素晴らしさ。映像の力強さ。何より、新幹線を利用する人々に対する心からの敬意。
流石は、クリスマスの定番である山下達郎さんの「クリスマスイブ」に乗せて、遠距離恋愛の光景を描いた「クリスマスエクスプレス」のコマーシャルを生み出しただけのことはある。
JR東海のコマーシャルはいつも素晴らしい。

(3)さぁ!「会いにいこう」

そんなJR東海が、またしても特大のホームランを放った。
新しい東海道新幹線のPVがずば抜けて良いのだ。
臆病者で変化を嫌う多くの日本人を唸らせる秀逸の作品だ。
出演するのは、今ノリにのっている俳優の賀来賢人さん。
出張先に向かうサラリーマンの設定だ。
加えて、新幹線内で繰り広げられる様々な場面を曲に合わせて上手く切り取っている。
駅弁を広げる時の笑顔。新幹線名物の固いアイスクリームの蓋を開ける仕草。
手にしたスマホに、「パパ 行ってらっしゃい!」の文字と共に写る幼い子供の愛らしさ。
さぁ!ここから始まるぞ!
21年目からまた新たな一歩を踏み出すそんな「希望」に溢れている。
希望の一歩を応援する曲は「会いに行こう!」。
UAさんが歌うバージョンと賀来さんが歌うバージョン、二人のミックスバージョンもある。
それぞれ、少しずつ映像を変えているのが、また心憎い。
YouTubeには7か月前にアップされているが、早くも再生回数はUAさんバージョンで、358万回だ。
「会いたい顔が目的地」 「言葉より先に笑顔が生まれる」
こんな風に歌う歌詞からは、「やっと会えたね!」「よく来たね!」という暖かい思いが感じられる。
長い間コロナ禍で寂しさを抱えながらも静かに過ごすしかなかったここ数年の空気を吹き飛ばし、人々はまた巡り会うのだ。
「AMBITIOUS JAPAN!」の惜別のコメントにも泣かされたが、この新しいバージョンのPVにはもっと泣かされた。
人の営みがある限り、そこには優しく穏やかな「愛」がある。
パンデミックの恐怖からも立ち直り、逞しく再生する「力」がある。
「AMBITIOUS JAPAN!」のチャイムがいよいよ最後を迎え、明日から「会いにいこう」のチャイムに変わるという車内で車掌さんが粋な挨拶をした。
「明日からも新幹線は、皆様の会いに行こうを支えて参ります」
この挨拶を聴いただけでも涙がこみ上げる。
「おもてなし」というのはこういう細やかな気遣いをいうのだろう。
「AMBITIOUS JAPAN!」—古きも良し。
「会いにいこう」—新しきも良し。
生きていると、嬉しい変化にも出会う。
目下、私は毎日「会いにいこう」を聴いている。


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