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夢の最前列
【はじめに】
皆さま、こんにちは!まはるです。連日、呟いていますが、皆さんの「劇場版アニメ ベルサイユのばら」に関する感想文が面白くて、夜更けまで読んでいます。
お陰様で、私の書いた作品も思った以上に「いいね!」を貰い、やはり「ベルばらを書いて良かった!」と心底思っています。ですので、今日は前回の投稿の余韻を噛みしめつつ、昨年観に行った「宝塚OG版 ベルサイユのばら」公演のお話です。
「もう、こうなったら、ベルばら蔵出ししちゃえ?!」
滅多に出来ない得難い経験をしたので、感激も一入の作品に仕上がっています。
前回の投稿作品をまだお読みになっていらっしゃらない方、併せてお楽しみください!
(1)再びの夢をこの手に、、、
コトン、、、
何かがポストに落ちる音がした。
外出をしている時ならば仕方がないが、家の中にいるのにいつまでも郵便を受け出さないのは落ち着かない。
さっさとポストに向かう。
何枚かの葉書や封筒に混じって、一際目立つものが手にぶつかった。
やや厚みのある薄いピンク色の封筒
「おぉ!チケット来たぁ~!」
送り主は、「安寿ミラ後援会」。
安寿ミラとは、平成初期の宝塚歌劇団の花組でトップスターとして活躍をした宝塚OGである。
彼女は今でも舞台を中心に女優として活躍をしている。
また、ダンスの名手でもあるので自身の舞台の振り付けや演出をこなすとともに、現役宝塚生たちの振り付けも担当している。
私は、現役宝塚生の舞台の観劇は卒業したが、この安寿の舞台だけは今も追い掛け続けている。
もう、大ファンだ!
そんな安寿の後援会から、ある舞台の告知とチケット先行予約の受付を開始するという趣旨の案内が届いたのは、2024年2月のことだった。
公演の演目は「ベルサイユのばら50」。
今年は宝塚歌劇団で初めて「ベルサイユのばら」が上演されてから、記念すべき50周年の年に当たる。
そこで、かつて「ベルサイユのばら」で主役級を演じた当時のトップスターたちが一堂に会して特別な舞台を上演するのだ。
現役宝塚生のように、「ベルサイユのばら」全編を演じる訳ではないが、当時の記憶を呼び覚ますのには十分な「歌」や「台詞」が散りばめられたショーとなることだろう。
「ベルサイユのばら」がきっかけで、宝塚歌劇団に嵌った私である。
これを観なくて何を観る!
(2)奇跡がやって来た!
チケット争奪戦は相当な倍率を極めていると、後援会から途中経過の報告があった。
何しろ各世代のトップスターたちが集まるのだ。
しかも、「ベルサイユのばら」にまつわる名曲の数々を歌い踊る。
ファン垂涎の的だ。
私は祈り続けた。
(きっと、チケットは取れる!取れるったら取れるのだ!)
そうして届いたチケット入りの特別な封筒。
私は震える手で開封をした。
早速日時と座席の位置を確認する。
(えっと、、、6月4日12時。んん?1階A列?)
暫しポカンとした後、思わず声を挙げた。
「うわぁ~!大変だぁ!最前列だ!いや、待てよ。会場によっては最前列をS列と呼ぶ所もある!どっちだ?どっちだ?」
混乱して軽いパニック状態。もう、何をどうして良いやら解らない。
すると、同行予定のパートナーが冷静に座席の位置をネットで調べてくれた。
「一番前だよ、、、」
「うわぁ~!うわぁ~!」
もう大騒ぎの私だ。
長年、安寿の舞台を見続けて来た。それこそ、宝塚時代から。
けれど、最前列だなんて「夢のまた夢」だった。
一層震える手でチケットを封筒に戻しながら、喜びと驚きの入り混じったぐちゃぐちゃな感情で、大切に引き出しに閉まった。
舞台観劇なんて慣れていないパートナーが、「俺、どうしよう。緊張しちゃう!」と真っ青な顔で言い募り、大騒ぎの夕暮れはふけた。
(3)前日のふたり
「明日はどこにも寄らないで、真っ直ぐに会場に向かってよ!」
パートナーがやや厳しい口調で言った。
「えっ?!カフェとかに寄らないで?」
「そう。最前列だなんてただでさえ緊張するのに、余計な所に寄ったりしたくない!」
パートナーの顔は険しい。
(大丈夫かな?)
パートナーは大きな音が苦手で、私と付き合うまでは「映画」すらまともに見てこなかった。
うぅ~ん、、、舞台観劇なんてちょっとハードルが高いか。
こちらは正直に言うと、♬最前列~ 最前列~♬と歌い出したい気分だ。
しかし、パートナーが直前になって、「行かない!」とご機嫌を損ねたりしないように、大人しく前日を過ごした。
(4)開演のベルが鳴る
いよいよ、決戦の日。
朝が大の苦手な私であるが、早々に起き出し朝食を口にする時間も取れたりして、絶好調だった。
パートナーもいつも通りに「朝活」と称している朝一番の仕事をこなし、落ち着いていた。
(良かった。無事に行けそうだ)
目的地まではパートナーがすっかり把握をしてくれている。
とことん方向音痴の私には、非常に心強く有難い。
東京駅経由で池袋まで。
想像以上にスムーズに目的地に着いた。
既に30人程の列が出来ていた。9割以上が女性の軍団なので、期待に胸を膨らませたお喋りが賑々しい。
私は、20代始めに通い詰めた有楽町の「東宝劇場」独特の賑わいを思い出していたが、パートナーはやたらにエネルギーが溢れているご婦人方に囲まれ、ばつが悪そうだった。
中に入ると、座席横に書いてあるアルファベットを確認しながら前へ前へと進む。
この段になって、本当に最前列か?!と我がチケットを疑い出しだが、A列は紛れもなく一番前でしかもセンターの席だった。
(これは、本当に起きていることだろうか、、、?)
手を少し伸ばせば舞台に触れられそうな距離で、ミラーボールは頭上にある。
後ろを振り返れば、3階席まで用意されており、続々とひとの頭で埋められて行く。
(間違いない。私は今日この席で、安寿を、ベルサイユのばらを観られるんだ!)
「あなた、凄いね!人生初のベルサイユのばらをこんな位置で観られるなんて!」
思わずパートナーに声を掛けた。
「うん。凄いね!」
パートナーも初めての体験に気分が高揚してきたのか嬉しそうだ。
やがて、開演のベルが鳴った。
(5)時が巻き戻る
緞帳が開くと、見慣れた「ベルサイユのばら」の金色の文字が目に飛び込んで来た。
その前で歌い踊る、小公女に扮した現役生たち。
「ベルサイユのばら」の歌は全て頭に入っている。
小声で一緒に歌う。
華やかなオープニングが終わると、安寿たちが出て来た。
主人公であるオスカルを演じていた当時のちょっとおかしい失敗談などを聞かせてくれた。
瞬く間に会場が暖かい空気と笑いに包まれていく。
既に「オールド」と呼ばれる世代である安寿たちだが、スターのオーラは全く色褪せていない。それどころか、益々美しさに磨きがかかっている。
(あぁ、私は本当に良い時代に宝塚を観ていたんだな)
一瞬で「ベルサイユのばら」を初めて観劇した30年前に戻って目がキラキラ。
間違いなく、今年一番の喜びだ。
(6)「ベルサイユのばら」よ、永遠に、、、
往年のスターたちによる「トーク」と「歌」の披露が終わると、今度は比較的若い世代のOGたちによる、「ベルサイユのばら」珠玉の名シーンの再演が始まった。
これは思わぬ拾い物だ。
正直、50周年の記念公演なんて、ちょっとしたオスカルやアンドレの姿が拝める程度だと思っていた。
ところがいざ蓋を開けてみると、「ベルサイユのばら」と言えばここ!といった見せ場の数々が見事に再現された舞台だった。
オスカルとアンドレが「フランス革命」前夜に結ばれるシーン。
アンドレが王宮軍の銃弾に倒れ、悲しみと怒りに燃えたオスカルが民衆と共に「バスティーユ牢獄」を陥落させる群舞の迫力が存分に活きたボルテージ最高潮のシーン。
(来た!来た!来た!これこそが、宝塚版「ベルサイユのばら」だ!)
宝塚本公演では遠くに見えていた、あの場面もこの場面も数メートルもない直ぐそこで展開されている。
こんな奇跡があるだろうか!
後半の、フランス王妃マリーアントワネットが、恋人であるスウェーデン貴族のフェルゼンの命を賭した「フランス国外逃亡」の隠密計画を蹴り、断頭台への階段を昇るシーンでは涙が止まらなかった。
余すところなく観劇すれば、3時間半ほどの宝塚版「ベルサイユのばら」である。
その美味しい場面を上手く凝縮して届けてくれた演出家先生に拍手である。
舞台の世界に少し詳しい方なら聴いたことがあるかもしれない。
「愛あればこそ」
♬ 愛 それは甘く 愛 それは強く
愛 それは尊く 愛 それは気高く
愛 愛 愛 ♬
客席に大いなる感動を与えてくれた公演のクライマックスで、全てのキャストが勢ぞろいし歌ってくれた。
実に素晴らしい舞台だった。
(7)パートナーのささやかなお祝い
夢のような時間が終わりを告げ、劇場を後にするとパートナーが溜息交じりに呟いた。
「あぁ、現実に戻ってしまった、、、」
(えぇっ?!随分と早くない?もう少し余韻に浸っていようよぉ!)
私は内心でパートナーに突っ込みを入れたものの、今日舞台に同行してくれた感謝の気持ちの方が強かったので、黙ったままにしておいた。
電車の中では、パートナーはとっくに帰宅後の自身の仕事のスケジュールに頭を巡らせていた。
(やっぱり私と同じほどの感激はない、か、、、)
本当は、今見てきた舞台の感想などを話しつつ帰路に着きたかったのだが、こうなったら大人しくしているしかない。
楽しい時は瞬く間に過ぎ去ってしまい、気付いた時には自宅の布団で疲れ切っていた。
「夕飯、どうする?俺、海鮮丼食べたい!」
パートナーは魚介類が大好きだ。この世で最も好きな食べ物は「お寿司」だと声を大にして語る。
そんなパートナーは勿論「海鮮丼」も大好きだ。
まぁ、冷蔵庫にも大したものは入っていないし、注文をしても良いだろう、、、。
実は後になって分かったことなのだが、この夜の「海鮮丼」は、無事に緊張を乗り越え舞台を見られた自分へのお祝いだったのだとパートナーが顔を赤らめながら教えてくれた。
(そんなに良かったんかい!)
私は驚くやら可笑しいやらで、パートナーを眺めていたが、私の大好きな「ベルサイユのばら」を理解してくれたことが嬉しく、にっこりと話を聴いていた。
(これなら、現役生が歌い踊る「宝塚」も見せられるかも?!)
私の頭の中である景色が浮かんだ。
それは、パートナーと座席を並べて、宝塚版「ベルサイユのばら」を見ている姿だ。
確か、今年公演がある筈だ。
チケット争奪戦、参加しちゃおうっかな?
言うが早いか、早速ネットで調べ始めた。
「ベルサイユのばら」は、いつの日も私にとって特別だ。