変異株多様化と感染者数の人口数比化が同時進行するコロナ感染
都健康安全研究センター(以下都健安センター)の「世界の新型コロナウイルス変異株流行状況(2月24日更新)」の「日本、東京の血統の普及」を見ますと、オミクロン変異株BF.5型、BA.5.2型、BA5.2.1型による三頭立て感染が崩壊しつつあるのを目の当たりにします。
けれども驚いたのは、主要変異株以外の「その他の変異株」が、全体の63%を占めていることでした。私自身も含めた社会的関心は、XBB.1.5型やBQ.1.1型等の主要変異株の行方ですが、変異株三種が先駆けた第7波、post第7波のピーク形成を考えますと、最近の感染の流れに変異株多様化の時期を迎えた気がしてきます。日本国を三分して牽引した三頭立て変異株体制は、決して偶然ではなく63%の前触れだった可能性を示唆しているようでした。
変異株は、固定した遺伝子部位の変化に始まり、変異株2種類の遺伝子が入れ替わるハイブリッド化した「組み替え体」を経て、更に組み替え体に前者が混合する経過を示すに至っています。変化に変化を重ねる一連の経過から、変異株の多様化に進化を感じます。当然、「ウイルスは何故多様化を求めるのか」という疑問が生じますが、ウイルスの自己増殖欲のみに変異株63%の原因を求めていいものか考えてしまいます。
当シリーズとしては、BA.1型対象の一価ワクチンから始まって、より効果が期待されたBA.4型、BA.5型対応の二価ワクチンが続いたことに注目しています。BA.1型→BA.5型が示す1→5の数字は繰り返された変異経過を示していますが、挙句に三頭立て体制が成立したことを見ますと、変異株多様化が第7波、post第7波を作り上げた可能性を推測させます。2023年に入って「その他の変異株」の更なる増大も、二価ワクチンが背景にある可能性を検討しておかねばとのい思いに至ります。ワクチンと変異株のチキンレースを思ってしまいますが、畢竟、ウイルスは常に何かに抗し変化し続けていくものであり、その何かを問われれば、接種で浸透するそれぞれのワクチンの普及効果(=長期的影響)にあるのではとの推測に至ります。
米国CDCのファウチさんも、ワクチンのコロナ発症防止に関しては匙を投げ、死亡率低下による重症化防止効果を積極的に述べておられました。当シリーズもグラフ上から判断して短期効果は諦めていましたが、感染した時の他者への感染は避けたいことと重症化防止を願って、計5回にわたる接種を受けてきました。短期効果は望めなくても、63%もの「その他の変異株」出現を前にしては、ワクチンが生み出す長期的変化を考えるべき時期に至ったのではと思わざるを得ません。現状ではそのエビデンスを揃えることが出来ませんが、この推測に関しては外堀を埋めつつ確かめる以外にない気がしています。
オミクロン株期に入ってからは、種々の感染状況を時系列的な関連のもとで理解しておく必要を痛感していました。オミクロン株の都市規模別感染者数(大都市圏と中小都市圏)をベースに、ワクチン接種と変異株出現期間を対応させてグラフ化し、図1としました。
盛り沢山でやや鬱陶しいグラフですが、要点は橙色縦棒のワクチン接種時期と橙色横棒が示すおよその変異株期間の経過です。
図1:オミクロン株~現在・都市規模別感染者数、ワクチン、変異株出現
図1は、三ピークを成すオミクロン株の大都市圏と中小都市圏の感染者数が、第7波の bimodal ピークを境に両者はほぼ等高並行するに至り、以降感染者数が都道府県人口数比にはほぼ等しくなる感染経過を示しています。
上段橙色太線の横棒線は、変異株三頭立て体制の成立と崩壊までを示し、下段橙色太線は、「その他の変異株」63%の出現とその後の継続を示しています。「その後の変異株」63%なるものは、人口数比化した感染者数と同時進行下にあることをグラフは示しており、両者の接点を確かめるのが今回のテーマでした。
変異株三頭立て体制が変異株多様化のプロトタイプとしますと、一価ワクチン接種の長期的影響がB辺りから始まり、Dに至った可能性が推測されます。そのおよその経過期間は、二価ワクチン接種がBQ.1.1型やXBB.1.5型を中心とした新たな変異株多様化の始まりを、E~Fの中間辺りに推定されたおよその期間と近似します。二価ワクチンは変異株三頭立て体制の最盛期に接種開始されていますが、その体制確立に直接影響を与えた可能性は経日的に見て無いものと判断しています。「その後の変異株」63%の正確な発現時期については、可能であればより詳細な検討を要すると思われます。
post第7波以後の「その他の変異株」63%が、新たなピーク形成に至らなかったのは幸いでした。その背景には、ウイルスには運悪く感染者数が人口数比化に伴って減少したことを推測しています。変異株多様化と感染者数の人口数比化が、前者にあっては更なる増殖をその多様化に依拠するウイルスの動態、後者は人口数比化を強めつつ感染者数は減少するという人社会の動態が、真逆の関係にあることを推測させます。同時進行する感染者数減の事態は、変異株多様化をもって覇権を目指すウイルスにとっては負担となるに違いなく、人には歓迎されるこの関係は、ウイルスにとってはダブルパンチになりかねません。
オミクロン株始まって以来のリスクにウイルスが直面している可能性を推測しますが、一方、感染者数の人口数比化は、変異株多様化とは次元を全く異にして進行する背景も考慮する必要があると思われます。
2023/3/18現在の感染傾向
一価ワクチンで作られたと推測する3変異株の三頭立て体制は、終了を迎えつつあるのは確かと思われます。WHOが要注意とするオミクロン株サブバリアントは現在7種ですが、その中の上位にあるBQ.1.1型は現在東京都で有病率筆頭株です。既に2022年11月日本で認められた変異株でありながら、都健安センターによれば3ケ月余を経て現在10%の有病率で、2023/2/28~2023/3/7の前期間との増減はー11%とのことでした。世界的にみても、BQ1.1型を感染主流とする国の数はその最盛期時より少なくなり、多くがXBB.1.5型に移行しているのが現状です。
BQ.1.1株と並んで要注意上位のサブバリアントXBB.1.5型株に関しては、BQ1.1型より免疫回避能力も感染性も高いと言われていますので警戒しています。日本では都内で1月19日現在まで22件が報告され、現在は「その他の変異株」に入っていると思われますが、その詳細な有病率は不明です。都健安センターの2月28日~3月7日の国別流行株推移によれば、前週分との増減率はアメリカを始め多くの国がマイナスとなっているのが現状です。
アルファ株がデルタ株にとって変わったことで、集団免疫論が崩れ去った過去を思い出します。第7波のような多変異種(株)体制による感染波成立の可能性もあり、各サブバリアントには等しく警戒を要するものと思われます。それでも世界的な傾向としては、XBB.1.5型にはオミクロンBA.1型の如き覇権を目指す勢いは弱まりつつある印象を感じます。
2023/3/18
精神科 木暮龍雄