移動するコロナ感染・過去に学ぶべし
「一医療機関の平均患者数」報告に関してはその定点数配分に問題があることを前回シリーズで指摘しました。けれども、都道府県ごとの日々のコロナ感染情報は、この報告を利用する以外にないのが現状です。オープンデータ時の結果や資料と数値的に関連づけることは出来ませんが、日々変化する感染の勢いや流れを見るだけならば、「一医療機関の平均患者数」は利用する余地があると思われます。
2023/8/27、「一医療機関の平均患者数」データベースに都道府県別患者数を記入作業中、東北北海道地方で患者数が急増し、九州地方患者数で逆に減少する傾向を認めました。8行政ブロックの患者数ワークスペースを作り、患者数変化の背景について検討しました。行政ブロック区分が、感染の地域的状況を反映する手段として有効なことを、オープンデータ時代に確かめていたのが幸いでした。ただし、目的は数値上の変化ではなく、図形的な週ごとの変化を確かめることでした。
図1:定点観測下の8行政区分の平均患者数推移
図1左は、8行政区分のコロナ感染が、12週目を境にして新たな変化に突入したことを表しています。その中の最も変動が激しい九州地方(赤の折れ線)と東北北海道地方(淡青色の折れ線)の患者数を抽出して右グラフに示しますと、12週までは最上段と最下段にいた両者が、12週を過ぎると位置を逆転しているのです。感染の流れが変化する前兆と思われ、8行政ブロックを西日本(九州、中四国、関西の4地方)と東日本(東北北海道、関東、北信越、中部の4地方)に分けますと、西日本は赤い折れ線、東日本は淡青色折れ線の波形カテゴリーに準じていました。日本列島のコロナ感染が、西から東に移動している様が浮かび上がります。
新たな感染波登場の可能性を都道府県レベルで確かめたく、2023/8/27に至る11週の都道府県別患者数をグラフ化して図2としました。図2からは、新たな感染波波形と思しき変化は確認できませんでした。グラフ化が早すぎたか、あるいは患者数が少なかったか、「一医療機関の平均患者数」が示す患者数の地域的偏在等の可能性が考えられ、このグラフでの都道府県レベルの感染発症を確かめることの難しさを実感する以外にありません。
図2:都道府県別人口と定点観測下の都道府県別患者数
図1右の赤と淡青色の波形相違が、何故生じたのか知る必要がありますが、実は、2022年9月中旬頃に、似たような感染状況を私どもは経験しているのです。図3は、オープンデータによる第7波、第8波を中心にして、東北北海道地方と九州地方の感染者、死亡者数をグラフ化したものです。今回と似た感染状況とは、図3左の2本の下方矢印線間の2022年9月中旬~2022年10月中旬のことでした。九州、中四国方面の感染者が減少し、あたかも水が低きに流れるかのように東北北海道地方の感染者数増が始まったのです。
当時は、ウイルスが感染浸透地(九州地方)から感染過疎地(東北北海道地方)にターゲットを変えたのではと推測したりしましたが、そんな簡単なことでは済まなかったことを図3は示していました。
図3:第7波期~現在までの感染者数と死亡者数の地域的推移
東北北海道地方の感染者数、死亡者数が、九州地方を上回ったのは、図3左右の2本の下方矢印区間のことでした。感染者数はもちろん死亡者数も、この区間の波形は、第8波ピークよりも先行する独自な感染波であること示しています。以後この波形部分を便宜的に東北北海道感染と命名しますが、この波形範囲は、約1ケ月強続くことになります。特記すべきは、右図の当時の北海道を中心とした死亡者数増は強烈で、感染対策に国の援助を仰がねばならかったのは記憶に新たです。
つまり、2022年9月のあたかも水が低きに流れるように九州地方から東北北海道に向かう感染の流れは、東北北海道感染の先駆けであったと思われるのです。当時のウイルス変異株は、BA.5.型、BA.2.型、BA.2.1.型の三頭立て体制だったのは国立感染症研究所の変異株報告で確認済ですが、発生順序から見て東北北海道型感染は、BA.2.1.型に相当するのではと推測しています。
図1左右の2023/8/27現在に見られる新たな感染の兆しは、2022年9月中旬の東北北海道感染の出だしに酷似します。現在の患者数は、その時の感染者数に比べれば遥かに少ないので、新たな感染成立に至らない可能性もありますが、潮の満ち引きに似たような感染の流れを共に感じさせるのです。
今後1ケ月を注意深く見守る必要があります。以前は、国立感染症研究所の変異株数報告が、感染の流れや実態を知る上での貴重な資料でした。2023年5月以来、この報告を見ないのは残念です。
2023/9/4
精神科 木暮龍雄