第7波の終焉
感染状況を大都市圏(9都道府県)と中小都市圏(38府県)に分け、オミクロン株から第7波にかけて生じた思いがけない変化について述べてきました。思いがけない変化とは、2022/10/15現在の感染状況(図1の右側上下グラフ)を、2022/9/11付の本シリーズ「第7波」に掲載した図2と比較しますと、図1の第7波は感染者数、死亡者数グラフ共に特異な波型へ進化したことを示しています。
註1:図1中の線グラフは、全て大都市圏+中小都市圏を示しています。
比較検討のため、アルファ株とデルタ株の大都市圏と中小都市圏の感染者数と死亡者数グラフを、図1左側に載せました。2022/9/11付の「第7波」にも掲載したアルファ株、デルタ株のグラフは、典型的な大都市圏型感染でした。当時はこの型の感染が新型コロナ収束まで続くもの思っていたので、図1右側の第7波波形への進化は想像もしませんでした。
図1:コロナ各波と都市規模別感染者数と死亡者数
第7波の感染者数、死亡者数が、両都市圏間でほぼ等しくなったのは、簡単に言えばウイルスが津々浦々に染み込んだ社会的背景を推測させますが、何故そのような感染変化が生じたのかは検討しておかねばなりません。
先ず考えるのは、都市機能です。ウイルスからみた都市機能は、ウイルスが寄生先である「人の移動、人の密度」の生の動きに影響を受けるからです。大都市圏のウイルスはその恩恵に大きく与りますが、都市規模が小さな中小都市圏にあっては恩恵の度合いは低く、波形は互いに相似するものの両都市圏のピーク差(=波形の違い)に、その差は歴然となります。一般的に都会なるものの評価が都市機能の差によって決まるとあれば、その大きさの判定はウイルスこそ適任と言っても過言ではないくらいです。
けれども都市機能は無限ではありあません。やがて大都市圏の「人の移動、人の密」を最大限に利用し尽くしたウイルスは、新たな感染拡大の手段を求めることになります。当シリーズ2022/4/10掲載「オミクロン株BA.2」、同4/19掲載「オミクロンBA.2型 検疫が語るもの1」で述べましたが、新たな感染ウイルスは、ウイルスが過剰となった大都市圏を避け、中小都市圏に向かうことが推測されました。2022年3月に始まり6月までの感染者数推移にその過程を窺うことができます。けれども中小都市がそれに応じられるのは短期間で、「人の流れ、人の移動」が効果的でなくなると、ウイルスは人への直接感染以外に更なる拡大手段がなくなり、結局は単に人口そのものに頼らざるを得なくなると思われます。これからはこのような感染様式を都市人口依存型感染と呼ぶことにします。
都市機能や人口数を除けば、ウイルスには各都道府県を個別に選択する能力はありませんし、各都道府県もまたウイルスを受け入れる特別な条件を個別に持っているわけではありません。しかし、ウイルスには不幸にして感染しやすい人を選択する能力があり、高齢者、基礎疾患を背負った人、防疫に油断した人等に遠慮なく感染します。この感染に都道府県差があるとは思えませんので、感染者数、死亡者数は都道府県人口に準じた結果になることが予想されます。
表1:第7波・大都市圏と中小都市圏の人口比、感染者比、死亡者数比
人口 感染者数 死亡者数 人口比 感染者数比 死亡者数比
大都市圏 68467000 7218375 7883 1.2 1.3 1.2
中小都市圏 58605000 5516890 6795 1.0 1.0 1.0
註2:人口、2022年「統計でみる市区町村の姿2022」総務省
註3:感染者数2022/6/11~2022/10/16
死亡者数 2022/7/1~2022/10/16
註4:死亡率は大都市圏(9)で0.11%、中小都市圏で0.12%
表1は、第7波の大都市圏、中小都市圏の感染者数比、死亡者数比が、その人口比にほぼ等しいことを示しています。偶然とは思えず、都市機能に頼らなくなったウイルスと人との一対一の自然な感染=都市人口依存型感染を背景に感じます。
第7波の現在図をみますと、都市人口依存型感染は都市機能による感染スピードでは劣るかもしれませんが感染拡大には効果的であることを、ウイルスは学んだのではないでしょうか。大都市圏と中小都市圏の人口比は1.2:1ですからほぼ等しいので、グラフ上では両者がほぼ等しい高さで重なり合う結果になります。つまり大都市型感染=中小都市型感数→都市人口依存型感染の図式で、今後しばらくは感染が進行していくのではと推測されます。
ちなみに大都市圏感染者数比の割合は、アルファ株2.4、デルタ株2.9、オミクロン株1.9ですので、都市機能の感染関与効果がいかに大きかったか想像できます。表1の感染者数比が1.3と高値なのは、感染初期の勢いが背景にあると思われます。
都市人口依存型感染については、中小都市圏を人口数で更に中都市圏(16)、小都市圏(22)に分ける感染状況を検討する必要がありましたが、その両者の生データが共に未だ落ち着かず、第7波が収束した段階での検討に託しました。
それにしても、第7波の感染者数12734765(=7218375+5516390表1)の多さに驚きます。デルタ波の感染期間2021/6/22~2021/10/31の感染者数940472の13.5倍になります。人口の10%近くが第7波に感染したことになり、世界的にみてもこの感染者数の多さは珍しく、マスコミを賑わしたものでした。この感染者数の多さは、感染が都市機能優位から人口優位にシフトしたことが一因と推測しています。
図2:オミクロン株と第7波・感染者数、重症者数、死亡者数
図2の感染者数、重症者数、死亡者数から、第7波に重症率低下、死亡率低下が認められ、オミクロン株よりも軽症化が進んだことが推測されます。集団免疫が成り立つほどの感染者数とは思えませんが、広域化、軽症化を併せますと感染の流れがコロナ収束に一歩近づいた気がしないではありません。
しかし2022年10月中旬の現実は、図2グラフ右端に見られるような感染者数(濃青色)が跳ね上がる変化が認められ、生データも感染者数の下げ止まりの40000人台が続きます。コロナ終焉はともかく、第7波の終焉を感じます。新たな第8波候補は、都健康安全研究センターによれば世界的に数多です。第7波で生じた都市人口依存型感染が、どのように第8波に引き継がれるのか注意深く観察したいと思っています。
註1:都市人口依存型感染についての説明を追加しました。本文の趣旨に異なるものではないのでご了承いただければ幸いです。
2022/10/20
精神科 木暮龍雄