定点報告による患者数報告の在り様
オープンデータ終了後1~20週の、定点観測による「一医療機関の平均患者数」データベースを表示します。平均値、合計値以外は、全て厚生労働省報告に基づく各都道府県患者数です。
表1:定点観測による「一医療機関の平均患者数」データベース
NHKの新型コロナと感染症・医療情報では、青い棒グラフ(=第8波)と黄色の棒グラフ(=一医療機関の平均患者数(全国))が、患者数推移を表すとして汎用されています。目立つグラフですが、厚生労働省と国立感染症研究所によると註釈は明らかにしています。
問題は、厚生労働省がオープンデータの青い棒グラフを、黄色の棒グラフと関連させるために黄色の棒グラフで用いた定点観測方式で集計し直した、とグラフ説明文冒頭で述べていることです。具体的に何をどのようにして修正したのか詳細不明ですが、全国自治体が関係者多数と協力して成した貴重なオープンデータ資料を、集計し直すこと自体非常識としか思えません。黄色の棒グラフが全国的な感染者数であることを強調したいために、青の棒グラフを集計し直したのではとの疑問を提起させます。
図1:定点観測下の一医療機関の平均患者数
図1は、表1の下2段目にある平均患者数欄(赤い数字欄)をグラフ化したもので、黄色の棒グラフと同じものです。厚生労働省は、定点観測による一医療機関の平均患者数が、全国の感染者数推移を代理し得るものとして表題末に(全国)なる文字を付けていますが、定点数5000を都道府県数47で割り振った図1が、全国の感染状況を表すのには、多くの人が納得する検証が必要と当シリーズは考えます。
今回のテーマは、定点観測による一医療機関の平均患者数(全国)が、オープンデータがもたらした新型コロナ感染情報と、同質の情報を提供し得ているかになります。
A:オープンデータ終了前後の患者数推移の比較検討
厚生労働省が主張するように、定点観測による一医療機関の平均患者数(全国)が、全国の感染者数推移に代り得る、または比較換算し得るものなら、患者数に伴う属性等も等しく代り得るものでなければと思います。
比較検討する属性の対象として、大中小に分けた都道府県(=都市規模別)患者数比が簡便で且つグラフ操作も容易と思われ、オープンデータ終了時点を前後して、オープンデータ終了前約2ケ月(左)と定点観測開始後約2ケ月(右)の両者の都市規模感染者数推移をグラフ化し、図2として比較検討しました。
図2:オープンデータ終了前後の都市規模別患者数
図2左右のグラフ間に2日ほどの空きがありますが、波形に繋がりと思しき跡は無く、波形事態が全く異なること、大都市圏と小都市圏の患者数が両者で逆転していること、更に図左右は波形上互いに代償し得る相似性を認めないこと等から、両者の属性の関連性に疑問があると推測されました。両グラフの違いが、感染経過に原因する可能性に関しては、想定されるような変化が実際の感染経過に認められなかったことで否定されます。
図2左右グラフ波形の違いを具体的に説明します。
下方矢印棒線位置の大中小都市圏患者数は、右図の場合、赤の小都市圏患者数51%、灰色の中都市患者数32%、青の大都市圏患者数17%で、一方、左図のオープンデータによる都市規模別感染者数比は、赤の小都市圏18%、灰色の中都市圏27%、青の大都市圏54%で、両患者数を構成する感染者層が相反することを示しています。両者がその構成する質を異にするならば、定点観測による一医療機関の平均患者数(全国)は、全国の感染者数を代理し得る証明にならないことになります。
5000定点の割り振りに問題があるのではと思い当たりますが、これに関しては、既に「コロナ定点観測の定点設定に関する疑義」の '具体例での検討' でも述べていますのでご覧頂ければと思います。
B:感染者数と都道府県人口数との関係
A項のみでは、オープンデータで得られた感染者数と定点観測による患者数が別物の証明に不十分と判断される方に、都道府県人口数と感染者数あるいは患者数との両者の関係を追加検討しました。
オープンデータ終了前約2ケ月の、都道府県別人口数と平均患者数の関係を図3グラフに示します。当シリーズでは既に数回に渡り掲載されていますが、新型コロナ感染に関する最も重要なグラフの一つです。
図3:都道府府県別人口とオープンデータによる平均感染者数
2023/3/9~2023/5/8
図3グラフを具体的に説明します。
人口数と感染者数が揃っている波型が注目されます。感染者数が限りなく都道府県人口数比化する感染経過を図式化すると、このグラフが示す通りにならざるを得ないと思われます。新型コロナは、全国の都道府県に満遍なく根を下ろしている感じです。殆ど全ての都道府県の感染者数はその人口数に相応した状況下にあり、感染が極度に偏る都道府県もありません。
この感染者数の人口数比化は、ある日突然況出現したわけではありません。オミクロン株第6波第3相目頃から始まり、一年近い日々を経て認めらたものですが、グラフは一見して固まった様相を呈し、崩れそうではありません。オープンデータ終了後の定点観測下でも維持されているものと当シリーズは推測しています。
ところが、表1の右端の青い数字で表した定点観測下の平均患者数と都道府県人口数の関係を同様にグラフ化して図4としますと、図3とは全く異なった波形を呈してしまうのです。
図4グラフが、視覚的に図3グラフと異なるのは一目瞭然で、両者に共通する因子を見出すことは出来ませんし、お互いが代用し合えるしろものではないのは明らかです。
図4:定点観測下の都道府県人口と平均患者数
図4グラフ波形の意味するところを理解しなければ、図3、図4が別物であることを理解する助けになりません。図2では、定点観測下における患者数の大部分は小都市圏の患者層であり、大都市圏感染者数は少数でしかなかったことを参考にしますと、図4の波形理解は容易になります。つまり、図4グラフの主流は、51%を占めるグラフ右側の小都市圏患者数であり、32%を占める中間の中都市圏患者数がそれに続くことを波形は示し、当然のことながら患者数の多さがその波形を多彩にしていることを示しています。17%の大都市圏感染者数は、左端にひっそりと静まり返る以外にないのです。
これでは、定点観測が感染者全体を対象にしているというより、小都市圏の感染傾向を求めているとしか思えませんし、グラフで表そうとしている対象が異なることを示していることになります。
これに反し、オープンデータの図3は、感染者数は人口数比化する過程を厳然と示し、これは raw data そのもので未加工なのです。
以上のことから、図3と図4はグラフ概観ばかりでなく、意味する処も全く別もので、都道府県の定点観測による平均患者数とオープンデータによる平均感染者数とは、異なるものとの結論に至ります。
コロナ感染現況は、変異株溜まり水の渦中のような状況下にありますから、感染力の強い新たな変異株が登場しますと、XBB.1.5やBXX.1.9が第8波形成に関与し、EG.5.1が変異株エリス波形成に関与したような事態が現れることにもなります。それでも、強力な感染力をもった変異株が現れない限り、図3の赤い折れ線の患者数グラフは、人口数比化を維持しながらも溜まり水が干上がるように、いずれ感染者数を減らしていくに違いないと推測しています。もし、これでパンデミックが収束すれば、感染者数の人口数比化はその衰退の前兆を示す可能性を示すというものです。
NHKが汎用する厚労省制作の「一医療機関あたりの平均患者数(全国)」の青色の棒グラフと黄色の棒グラフは、いくら修正を重ねても残念ながらそれぞれ質の異なるものを並べただけのことで、連ねたからといってもグラフ的には意味はありません。
結局は、問題の全てが定点数5000の割り振りに原因があったと結論せざるを得ないのです。
C:定点5000の割り振りについて
定点5000を都道府県数47で割り振ると、その大中小都市圏比は 9:16:22ですから、定点は小都市圏に多くなり、定点ごとの医療機関の診療規模が等しいとあれば、コロナ患者数は小都市圏で膨らみ最多となるのは当然です。
現行のままでは感染者数報告は行き詰る可能性が高く、患者数報告を続けるとあれば、何らかの対応が必要と考えざるを得ません。
思いつく対応策として次の3通りを考えます。
①、現行の定点観測による一医療機関の平均患者数を続ける。
これには、コロナ感染収束の早期到来を願う以外にありませんが、収束は先の話です。けれども収束宣言は人為的に早めることも可能かもしれません。それまでは、頬かむりして押し通す以外にありません。
②、図3の、患者数が都道府県人口数比に限りなく近づく事実を基にして、人口数比をもって補正した患者数を報告することです。
これは比較的簡便で、当シリーズとしてはそれなりの効果があったと思っています。けれども、PCの扱いに若干スキルが必要になり世に広めるには難があります。また国が薦める事業にしては軽い印象が免れ得ません。
③、定点を都道府県数47でなく、都道府県人口数比に修正することです。
感染者数が限りなく都道府県人口数比に近づくとあれば、考えられる中で最も適切な感染情報を提供してくれると思います。しかしながら、修正はかなりの手間と時間が必要です。また修正にはタイミングも必要と思われます。例えば BA.2.68変異株等の新たな感染浸透等の、強い社会的関心をバックにすることが必要と思われます。
長文になりました。最後までお付き合い頂き感謝しています。
2023/10/11
精神科 木暮龍雄