ブルース名盤紹介28 BIG ROAD BLUES/TOMMY JOHNSON
怖い怖い。
ブルース界随一の怖さ。
音楽の雰囲気を言いあらわす時、
デモーニッシュという言葉が
使われる時があります。
訳すと、「悪魔的」ですね。
その悪魔的という表現が
最もぴったりくるのが
トミー・ジョンソンの音楽。
ギターのコードはガチャガチャと、
あまり跳ねないリズムで、
無機質にウネウネと和音がうごめきます。
そこへ暗く低い、こもったような声。
ブルースという、
わりと限定された形式の中においても、
異彩をはなつ節回しの歌。
そして極め付けは、
突然のヨーデル。
アルプスのハイジのような
広々とした草地の景色とは程遠い、
不気味なヨーデルです。
ちなみにハウリンウルフも
このトミージョンソンに
影響を受けているようですが、
ウルフが歌うのが、
エンターテインメント的な
ホラーだとすると、
このトミージョンソンは
ガチの「行ってはいけない心霊スポット」
のような怖さがあります。
このような
「悪魔的」雰囲気の音楽。
他ではシューベルトや
ジャズ・ピアニストの
ソニークラークの音楽から聞こえる
不気味な黒さに、
どこか共通するものを感じます。
さて、今回紹介する
トミージョンソン。
前回のイシュマンブレイシーの
記事でもふれましたが、
ミシシッピ州の都市、
ジャクソンで活躍したブルースマンです。
トミーの生まれは1896年、
ミシシッピ州テリーにて。
その後ティーンエイジャーの頃に
ギターを学ぶと、兄弟でユニットを組み、
地元のパーティで演奏活動を開始します。
20歳で結婚してからは、
ミシシッピの有名な大農場、
ドッケリープランテーションの近くへ移住。
そこでチャーリーパットンとも会います。
盟友のイシュマンブレイシーと同じく、
1928年に初録音。
翌年にも録音をしますが、
酔っ払って署名した何かのせいで
録音できないと信じ込み、
その後の録音は遺されておりません。
1930〜40年代は、
イシュマンブレイシーらとともに
演奏活動を行なっていましたが、
1956年、心臓発作で亡くなりました。
兄弟曰く、
「悪魔と契約してギターの技術を手に入れた」
という伝説がのこされているトミージョンソン。
彼のおどろおどろしい音楽を聴くと、
「悪魔と契約し、魂を売った」
という伝説にも真実味が出てきますね。
ここからは想像で、
フィクションとして読んで欲しいのですが、
「酔っ払って何かに署名した」
というエピソードからも、
トミーは、歌にあるような危険な酒などで
寿命を縮めたのではと推測できます。
そんな彼を近くで見ていたであろう
イシュマン・ブレイシーが
それを「悪魔の裁き」と恐れ
自分はそこから逃れるために
音楽から足を洗い
教会に入ったのではないか、
そんな物語を思い描いてしまうのでした。
そう言えば、イシュマンブレイシーの
”The Four Days Blues”も
どこか異世界のムードを
漂わせる曲でした。
ジャクソンブルースを代表するこの2人。
共に超自然的な才能を感じさせる、
すごいコンビです。
さて、
最後になってしまいましたが、
曲を聴いていきましょう。
”Cool Drink Of Water Blues”
先に触れた、
恐ろしいヨーデルが聴ける曲。
水を頼んだら、
彼女はガソリンを持ってきた
という異常な展開の歌詞。
ちなみにハウリンウルフが
この歌詞から引用して
ちがう曲を録音しています。
“Canned Heat Blues”
うごめく和音に
乗っかる歌。
この節回しの異様さは
言葉では言い表せません。
妙な明るい和音が
余計に不気味です。
”I Want Someone To Love”
いきなりのカントリー風の曲。
エルヴィスプレスリーが
歌っていそうな曲です。
何でもかんでも、
怖がっていては失礼ですが、
この異質感も、なんか妙。
ここでもヨーデルがきかれます。
そういえば、
イシュマンブレイシーの記事で、
手触りの似た曲として
はっぴえんどの細野晴臣さん作の
「夏なんです」を挙げました。
この曲では、同じくはっぴいえんどの
大滝詠一さんが歌う
「空色のくれよん」を思い出しました。
関連は全くないのですが、
不思議な偶然です。
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