雲ノ平、花の巡礼
毎年山が花の季節になると心が騒つく。北アルプスの高山帯なら雪渓が溶け始める7月中旬ごろから、太陽の光と雪解け水がそれまで眠っていた花々を目覚めさせる。
高山帯の雪解けは、6月末から7月上旬にかけてどれくらい雨が降るかによって、その時期と残雪の量が変わる。2021年、今年の黒部源流エリアでは谷筋では残雪が多く、稜線の雪は早い時期に溶けていたようだ。7月に入ってから雨が少なかったせいで、残雪が多いエリアもあった。たとえば標高の高い場所でチングルマやハクサンイチゲが咲き始めているのに、比較的低い場所でまだ蕾だったりしていた。
雲ノ平山荘は標高2500m。お花の見頃はといえば、例年なら7月15日前後ではないだろうか。毎年この時期に雲ノ平へお客様をご案内している。
このエリアで雪解けとともにまず咲き始めるのはショウジョウバカマだ。中国の伝説の生き物「猩猩」に似ているとされる愛嬌のある花を咲かせる。
生命力溢れるコバイケイソウの緑の葉芽が地面からニョキニョキと顔を出す。あっという間に大きくなって白い花序を伸ばす。今年は当たり年で、7月中旬には山荘近くでも壮観だった。イワカガミも早くから咲き始める。標高の低いエリアから高山帯まで広い範囲に分布していて、真紅の可憐な花がひときわ目につく。
高山植物は、稜線の砂礫地や岩場など比較的乾燥している場所に分布しているものと、湿地や雪渓が遅くまで残る斜面に分布しているものがある。雲ノ平は後者で、夏の代表的な花は、ハクサンイチゲ、チングルマ、ミヤマキンバイ、シナノキンバイ、ミヤマダイコンソウ、イワカガミ、イワイチョウなど。高山植物のお花畑を形成する代表選手たちが揃う。
<10種覚えて8種忘れる>
ハクサンイチゲはキンポウゲ科の白い花で、花弁と見える白い部分は萼片だ。蕾は淡い紫色をしている。同じキンポウゲ科で黄色い大きな花を咲かせているのが、シナノキンバイ(信濃金梅)。こちらも萼片が花びらに見える。キンポウゲ科は葉が裂けている場合が多く同じような花でも他の種と見分けがつく。
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