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沢を歩けば

初夏になると沢に呼ばれる。スキー道具を未練たらしく仕舞い込んだ後、そろそろと沢装備を棚から引っ張り出し、天気予報とカレンダーを見比べながら、まずはどこに行こうか、と悩み始める。

今年はそれでも例年と事情がちょっと違った。例のコロナ様のおかげで、いろいろな計画、ルーティーン、仕事が、思いもかけない状態になった。本来なら、春スキー楽しみながら、徐々に残雪初夏の夏山縦走ガイドへと移り行くはずだったが、ぽっきりと折れて雪面に刺さったストックのように、不気味に立ち往生してしまった。あれ、なんだかおかしいぞ、こんなに天気は良く雪も最高なのに、、、。
最後の雪山が3月21日、最後のBCスキーが3月23日。それから2ヶ月と一週間、どこにも出かけなかった。そして気がついたら、沢の季節になっていた。

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沢。

沢を歩き始めた頃、貧乏でろくな装備も買えず、遠出も出来ないし、一緒に行ってくれる人も見つからず、ひとりで丹沢や谷川の沢に出かけ、黙々と地味な沢を歩いていた。その頃は夏冬構わず沢に入っていたので、とくに初夏だから沢にいこう、と言う感覚はなかった。ガイドで沢に入るよになってからは、夏の本格的な沢のトレーニングのために、5月6月の日帰り沢を歩くようになった。

冬の沢は明るい。落葉した木々の梢枝が、冷い空に突っ立っている。早朝、歩き始めると落ち葉の下の霜柱のサクサクばりばりとした感触が気持ち良い。紅葉の色彩からモノトーンへのグラデーション。時々マムシグサの真紅にドキリとさせられる。なるべく水に入らないように、沢の枯れた場所を選びながら登っていく。岩は冷たく手に吸い付いてくる。

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高巻きは見通しが良くなっているせいで、夏よりも選びやすいが、降り積もった落ち葉が思いがけない緊張を強いる。悪い高巻きをクリアして懸垂下降で川底に戻りまた歩き出す。ちょろちょろ流れていた水が凍り始め、ベルグラをバイルで叩き落としながら岩を越えていく。水が枯れ、陰険な感じのザレ場をつめる。

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ある時、ツメた先の山頂で、登山道を登ってくるはずの知り合い達と待ち合わせをした。約束の時刻前に到着し待ったが彼らは現れなかった。電波も通じない、連絡もこない、凍えるし、冷え切った身体を持て余して、1時間ほど待って下山を開始した。登山口にある食堂に彼らは待っていた。やあ、と声をかける気にならず、無視して通り過ぎてバスに乗った。後で考えると大人気ない事をしたと思ったが、後の祭り。あの時、大切な人々との関係を失った。それからも、さらに失い続けた。

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今年は、コロナ様のおかげもあって、新緑の沢歩きをお客様と楽しんでいる。自粛後初めての沢山行では、山行きの格好をして電車に乗ることに、平日でもあり少し抵抗があった。こんな時期に何をしにいくのか、そう言う視線がありはしないかと神経質にもなっていた。自分の中にそんなピリピリとしたものを抱え込んでしまっていたのだ。電車を降りて登山口へのバス停に行くと、すでに並んでいる登山客がいた。それを見てほっとした。

課題をひとつひとつクリアしながら進んで行く。こうでなければと言うムーブをトライアンドエラーで身体に思い出させながら、核心部を越えていく。張ったロープの先に繋がっている人がおり、山に登っていてよかったと思う。そうでなければロクでもない人生であり続けただろう。

今年も沢へ、渓へ。

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<甲武信ヶ岳釜ノ沢 初級沢登り 一泊二日>
 7月4、5日 定員2名
 初級の沢登り 滑滝で有名な東沢の釜ノ沢
 新緑に抱かれて甲武信ヶ岳まで詰めます

Peak2Peakの沢ガイド 募集中です。いずれも詳細はお問い合わせください。
メール:peaknipeak@gmail.com     Peak2Peak檢見﨑まで
HP       : www.kemmisaki.com/jp/

<黒部源流と赤木沢>
 1回目:7月26日から29日 3泊4日 実施決定 残席1名
 2回目:8月14日から17日 3泊4日 定員2名 募集中
 3回目:9月11日から14日 3泊4日 定員2名 募集中
 薬師沢から黒部奥の廊下を遡行し赤木沢へ入ります。
 他の周辺の沢、黒部源流を組み合わせたルートを予定しています。
 赤木沢のみ2泊3日でも実施します。ご相談ください。
 http://kemmisaki.com/jp/ガイド企画一覧/akagisawa/

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