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冬山シーズンイン 完璧なビーナスベルト

<難しい選択>
2021年、コロナに明け暮れた今年も、あとひと月を残すだけとなった11月末。ラニーニャ現象によるドカ雪が北アルプスにもたらされた。登山にもBCスキーにも嬉しい降雪ではあったが、入山日のタイミングは、難しかった。
北アルプス北部では、11月19,20,21日までは好天、22日から天気が崩れ始めて26日まで悪天候が続いた。27日から回復に向かい始め28日にThe Dayを迎えた。
この2021年11月28日は「歴史に残る」一日だったとは、立山を滑ったガイドの言葉。この日の室堂でのスキーは素晴らしい体験だったそうだ。

こちらはと言えば、21日から25日まで立山で登山とスキーを予定していたが、あえなく全滅。27日28日は別の山域でお客様と山の計画だったが、当初の目的地であった爺ヶ岳が降雪直後で積雪の様子がわからなかったため、西穂高に転戦した。

ロープウェイを降りて歩き出すと、モフモフの雪だった。底は地面か岩で気をつけないとアイゼンを引っ掛けてしまうが、久しぶりの雪に心が弾む。西穂山荘も空いていて、いつも必ずいる騒がしい宴会グループにも遭遇せず、快適だった。

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<ビーナスベルトと穂高の影>

夜は8時前には寝床について翌朝4時。外に出ると細い月が煌々と輝いていた。気温マイナス12℃、ほぼ無風。山荘を出るとトレースが全く消えていて最初の登りから軽いラッセルだった。ヘッドライトをつけて真っ暗な中を歩く。動物の足跡が道標だ。面白いほど、ルートに忠実に歩いている。まるでナビゲーションしてくれているように。

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丸山まで通い慣れた道だが、赤旗がなければ雪を被ったハイマツや岩の上を歩く羽目になるだろう。丸山近くから吹き溜まりでは腰ほどのラッセルになり、スピードが上がらない。丸山を過ぎるあたりで二番手のパーティーに追い抜いてもらった。独標への急登もところどころで雪が深く手間取る。

ショータイムは6時ごろから始まった。飛騨側に谷を隔てた笠ヶ岳が、うっすらと白く浮かび上がる。息を切らしてラッセルを続けていると西の空がピンク色に染まった。ビーナスベルトだ。丸い地球の影が西の空に作り出す幻想的な風景だ。こんなにクリアに見ることができるのは、久しぶりだ。しばらくすると笠ヶ岳の山頂に朝日が差し込む。すると山の影がはっきりと投影される。ラッセルの足を止めてしばし見入ってしまう。登ってきた方角を振り返ると、乗鞍岳がピンクに染まっていた。後続のパーティーもようやく登ってきたようだ。今日は素晴らしい1日になると確信した。

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<雪の稜線へ>
撮影にも時間を費やし、独標基部についたのは出発してから3時間後だった。いつもの倍近くかかってしまった。途中で追い越してもらったパーティーは早々と独標から引き返してきた。鎖場でやり過ごしてピークに上がる。約束された絶景が待っていた。が、まだ先は長い。ここからはロープ結束して進む。まだピークまで十峰ある。

独標からの下りは急だが階段状になっている。慎重に降ってコルに降り立ち、再び小ピークの登り。トレースがなくマーキングも見えにくいから、地形や岩の形を見ながらルートを判断して行く。特徴的な岩やルートの屈曲、ピークの巻き方を思い出しながら進む。雪はふわふわで底ができてないから、アイゼンを蹴り込むと岩に当たる。不安定な足場にやはり時間がかかる。ピラミッドピーク手前の急登は、短い高低差だが腰までのラッセルだった。

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(上:左のピークがピラミッドピーク。その右奥に西穂山頂。右はジャンダルム奥穂方面)

独標を出発して1時間半でピラミッドピークに到着。時刻は9時半になっていた。クリアな視界の先に西穂高岳山頂が見える。無風快晴。天気はもうしぶんない。が、単独パーティーではこの先のルート工作は難儀しそうだった。下山のロープウェイの時刻を考えると、今日はここで諦めたほうが賢明だった。

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