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うたを飼う

わたしのなかのうたが戻って来ないので
別の誰かのうたを飼うことにした
今はやりの詩人のうただ

アンティークの鳥籠の中で
はやりのうたは
毎日ひとつずつ違ううたを歌ってくれる

人を愛するうた
故郷を偲ぶうた
遠い世界を夢見るうた

どのうたもわたしを慰めてくれるけれど
気付けば視線は窓の外をさまよって
わたしのうたを探してしまう

今頃どこにいるのだろう
毎日窓を開け放したまま
戻って来るのを待っているというのに
おまえは気配すら見せなくて

今すぐわたしのうたが聴きたい
そう思うとはやりのうたがつまらなくなって
籠の外へ放してしまった

はやりのうたは
自由への喜びを力いっぱい歌いながら
空の遠くへと飛んで行った

これでいいのだ
今はわたしのなかのうたも遠くにいるけれど
きっといつかは戻って来てくれるだろう
それまで窓は開け放したまま
わたしはいつまでも待っていることにした


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