東京事変が好きすぎる〈浮雲編〉
こんにちは。そろそろ灯油の匂いがあちこちでして、ああ冬だなあと思う今日この頃です。決していい匂いじゃないですけど、嫌いじゃないっていう人多いですよね、あの匂い。
さて、今回は〈伊澤一葉編〉に続いて〈浮雲編〉です。
浮雲は、2枚目のアルバム「大人」から、脱退した晝海幹音に代わって加入しました。上記に「ギタリスト、他」とあるように、ギター以外もシタールを弾いたり、ボーカルやコーラスを担当したりする曲も多くあります。また、東京事変の浮雲としてだけでなく、本名の長岡亮介名義で、自身がギターボーカルを務めるスリーピースバンド「ペトロールズ」や、星野源のサポートでも活動しています。おかげで最近は紅白で2回出てくることもザラです。
そんな浮雲の曲は、「反復」「跳躍」「階段」「ABサビ構成」などなど、決まりきったJ-POPの定石に飽き始めたお耳にガツンと響きます。曲のコード進行も、感覚的なようでよく練られた構成も、出鱈目な歌詞も、全部クセになります。そんな浮雲曲の厳選5曲について存分に語りたいと思います!ではいきますよ!!
①某都民
3rdアルバム『娯楽』より。ボーカリストが3人いる東京事変ならではの、トリプルボーカルの曲です。3人の得意な音域と歌い方が最大限に生かされています。
私は都民でもないしこんな曲を歌えるほど大人でもないけれど、知らない世界を垣間見たような背徳感のある曲です。
そして、この曲でボーカルの3人よりも雄弁なのが師匠のベース。わざと音を抜いたようなリフが、却って曲の印象を強くしています。
曲の終結部には『歌舞伎』と同じメロディが使われています。『歌舞伎』ではアグレッシブに歪ませたボーカルが特徴的でしたが、『某都民』では気怠げなテンポに乗った艶やかなボーカルになっています。全く違うイメージの曲なのに同じメロディを使って、しかもそれがどちらもしっくりきてしまうのは不思議です。歌い方だけでなく、休符の使い方もそれぞれ曲の個性が出ていて、そこを聴き比べるのも楽しみの一つです。
②FOUL
4thアルバム『スポーツ』より。歪ませたボーカルやギターのサウンドが特徴的な一曲です。ライブでは拡声器を使って実演されます。
キャッチーなベースのリフに始まり、「NIPPON」を思わせるチアホーンに招かれるように浮雲と椎名林檎のボーカルが入ります。サビの「後のことは知ったこっちゃない」という言葉のはめ方が気持ちよくて毎回一緒に歌ってしまいます。2番Aメロの伊澤一葉の超低音ボイスはOTK発狂ポイントですね。2分半という曲の短さと満足感が比例していない典型的な例です。疾走感溢れるこの曲ははさながらアスリート。このアルバムの中でも特に「スポーティー」さがサウンド面に強く表れていると思います。何がなんでもスイッチを入れたい日に聴くとエネルギーが湧きます。ちょっとアグレッシブな気分になりますが。
③sa_i_ta
誤植じゃありません。全角なんです。この曲が収録されたアルバム『color bars』の曲のタイトルは全て全角で7文字なんです(『今夜はから騒ぎ』『ほんとのところ』など)。
『color bars』は2012年の東京事変解散前最後のミニアルバムなのにも関わらず…という話は前回〈伊澤一葉編〉を参照していただきましょう。この曲は今まで事変にはあまりなかったダンスミュージック風ですね。本当に浮雲の引き出しは計り知れません。5人の演奏を引き立てるミックスも妙で、エンジニアの井上雨迩さんの腕が光る一曲です。
浮雲作詞作曲ですが、歌い方のせいかとても女の子らしく響く気がします。それにとってもお洒落。おしゃれって言葉は使い方が難しくてあまり使いたくないけど、おしゃれ。お洒落。カラッとして湿度が低くて、でもたぶん体温は少し高くて、ふわっといい匂いがして、花のモチーフが多用されているけどイメージは藍色。感覚的ですがそういうイメージの曲です。この曲は、楽器一つ一つのサウンドはもちろんですが、それ以上にぱっと聴いた時の印象と後味が好きです。囁くような「in a moment」といい、サビの上ハモといい、浮雲ファンにはたまらないポイントが満載ですね。10年近く前の曲なのに全く古く聞こえないどころか新しく聞こえます。フロアで踊りたい。私踊れないけど。
④Bon Voyage
東京事変解散後の2013年に発売されたCDボックスセット『Hard Disk』に収録され、ミュージック・ビデオ集『Golden Time』のBGMとしても使われた一曲。作詞作曲に加えてボーカルも浮雲が取り、なんとピアノは第1期メンバーのH是都M!いいですねえ。
ドラムもベースもない、ボーカルとピアノだけの曲ですが、それが曲の物悲しさをより引き立てます。解散前最後のライブツアー『Bon Voyage』でそれぞれ「出港」したメンバーが、海の上から「あなた」を思って歌っているように感じられます。波のように大きく、でも優しく揺れるピアノと、その波の上で揺蕩う浮雲の声がたまりません。疲れた時に聴くと自然と涙が滲んできます。
⑤選ばれざる国民
この曲は、2020年の「再生」発表と同時にリリースされ、その後ミニアルバム『ニュース』の一曲目に収録されました。
(以下少しだけ私の個人的な話になります)
2020年の元旦は、当時中3だった私にとっては高校受験追い込み期。クリスマス、年末年始とイベント盛りだくさんだったはずの冬休みが勉強一色に染められていた頃、ラジオから飛び込んできたのが、この「東京事変再結成」のニュースでした。当時は東京事変を「椎名林檎のバンド」「なんとなくかっこいいことをしているグループ」程度にしか思っていなかったのですが、いきなり攻めたタイトルに度肝を抜かれ、ボーカルが椎名林檎だけでないことに面食らい、ジャンルに囚われないサウンドと展開に夢中になり、…今思えば、私のOTKとしてのスタートはその時だったのかもしれません。ありがとうJ-WAVE。
話を戻します。「再生」一発目のこの曲は、前述の『某都民』の続編でありながら、サウンドも歌詞も何もかも全て新鮮で、新しいかめd…もとい新しい「東京事変」の始まりを告げるのに最高に相応しい一曲です。色々な意味で「王道」ではない曲なのに、「これぞ東京事変!」と思わせてしまう何かがこの曲にはあります。シンガーソングライターの椎名林檎として、長岡亮介として、伊澤啓太郎として、プロデューサー亀田誠治として、そして畑利樹としてそれぞれ過ごしてきた8年間を経て熟成された5人が見る「令和」がここに詰まっている気がします。
この曲を実演でやっちゃうのもさすがといった感じですね。
前回の伊澤一葉編とはまた違った魅力に溢れた浮雲編、いかがでしたでしょうか。東京事変の楽曲をバラエティに富んだものにする上でかなり重要な役割を担っている浮雲曲。文章を読んだだけでは魅力は0.1%も伝わらないので、ぜひぜひ曲を聴いてほしいのです!!!さらに浮雲はカントリーやブルーグラスをバックグラウンドに持つ唯一無二のギタープレイヤーでもあるので…いつか5人のプレイ特集も組みたいですね。
次回は〈師匠編〉の予定です。遅筆のためまた1ヶ月ほど空くかもしれません。OTKの垂れ流し好き語りがどれほどの人に需要があるのかは分かりませんが、これを最後まで読んでくれたあなたが楽しんでいただけたなら幸いです。
最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
※記事内でメンバー名は敬称略とさせていただいたことをご了承ください。