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ジムジャームッシュ底なしの重力「ナイトオンザプラネット」を観て改めて衝撃が走る
朝起きて昨日の雷とは一転、本当に雲ひとつないという表現以外思いつかないが気持ちの良い透き通る青空が広がっていました。
昨日あったことがまるで嘘みたいに真新しい風を肌で感じすぎてしまって少し寒いのです。
さあ、私はなぜにジムジャームッシュを思い出したのだろう。
昔好きだった人が好きだったから思い出に更けたついでに思い出したのだろうか。
最近は不思議なことがよく起こる。
例えば一度耳にしたことのある歌手を急にまた、聴きたくなって聴く。するとたまたま観始めたドラマの主題歌が彼の曲だったりする。
何かの引き合わせの法則かしらと思いを巡らせるけどすぐに忘れてしまうから、きっと今朝思うことも何でもないことだ。けれどもなぜか引き寄せられてしまいます。
そんな脳内模様を経て、ナイトオンザプラネットを観るに至りました。1991年に公開されて、私が初めてこの作品を観たのは今から5年前の年明けのことです。
5つの都市、同時刻で進むストーリー。
「ナイト・オン・ザ・プラネット」(1991)
pm7 in Los Angeles
空港でハリウッドのキャスティングエージェントを乗せて走りだすタクシー。
ウィノナ・ライダー演じるドライバーは整備士を目指すやんちゃで男前な少女。顔には先ほど修理した時についたオイルがついたままでもお構いなし。
ウィノナの役どころが新鮮で、雑に音を立ててガムを噛んでいたり口の悪い喋り方、仕草が凄く自然で細かい動きが可愛いの。
自分には自分の決めたレールがちゃんとあって、大人になりきらないのに据えててかっこいい。
セリフの中にポパイが出てくるのはお洒落で粋だ。
"おれはおれだ。"
pm10 in New York
タクシーを拾おうとする黒人の青年には一台たりとも止まってくれない。
そんな中、止まった一台のタクシー。
ドイツから遥々やってきた道化のヘルムートはタクシードライバーとしての仕事をようやく手に入れ、これが初仕事になるが慣れない土地と言語に戸惑い運転もままならない彼に変わり、青年ヨーヨーは運転を代わり目的地まで向かうことに。
たまたまかぶっている帽子が一緒だったり、お互いの名前を馬鹿にし合ったり何故か息の合う2人は観てて愉快な気持ちになる。
道の途中で義理の妹アンジェラを乗せ走るもののヨーヨーとアンジェラは口喧嘩ばかり。それを見たヘルムートは「いい家族だ」と微笑む。
金は必要だが重要ではない。そう話し最後まで陽気なヘルムートだったが、自らクラウンとなって結局ニューヨークというサーカス団の中に迷い込んでいってしまうのはなんだかじめっとする後味。
am4 in Paris
まだ日も登る前の朝方。
タクシーだけが街を走る。
アフリカ人タクシードライバーは乗客からの差別発言に苛立ち途中下車させてしまい、料金を請求し忘れたとなんとも嫌な一日だった。
次に乗せたのが盲目の女性、私がいちばん好きなシーン。
ベティブルーであの気性の激しい美しい女性を演じたベアトリス・ダルが盲目役で登場するの。
彼女を乗せタクシーは走りだす。
指示していない道を通っていると文句したり、とても鋭い感覚を持ち自由奔放な彼女の魅力にドライバーは目が離せない。
「目が見えないならサングラスをかけるべきでは。」
「車の運転なんかできないだろう。」
盲目の彼女を差別し批判し、質問を投げかける。
「俺の肌は何色か。」
- 「そんな事関心ないわ。」
「肌の色って違うんだぜ。」
- 「緑でも人参のようにブルーでも色の違いなんか無意味よ。私は色を感じる。わからないでしょ。」
- 「あんたと同じよ。ものを食べ、飲み、味わう。音楽を聴き音楽を感じるの。」
そう言って彼女はドライバーがアフリカ人だと言い当ててしまう。
皮肉にも本質的なところが欠けているのに型にはまっているのは自分だった。
am4 in Roma
陽気なドライバーは人気のないローマをわがもの顔でルールを無視し、気持ちよさそうに街を走り、乗客をも子馬鹿にする。
今夜乗せた乗客は司教。
ドライバーは優しい司教に自分の懺悔を聞いてもらうが自分の話に夢中になり、司教のことなどお構いなし。
ロベルト・ベニーニの完全一人芝居。ひとり喜劇の惹きつけ方がさすがで圧巻ね。
司教様と何度も言うもんだからいつの間にかPadre、覚えちゃった。
ストーリーの中ではコメディ要素のある一話で彼の話すイタリアンジョークに飲まれてしまう心地いいテンポ。
am5 in Helsinki
フィンランドならではのカラフルな建物が暗闇の中光る。
朝の5時、酔っ払い3人組を乗せることに。
どうやら3人のうちひとりが会社をクビになりヤケ酒の後のようだ。
どうしてクビになったのか、人生最悪の一日を語り出したがドライバーの抱える出来事はそれをはるかに超える不幸話だった。
不幸にもドライバーの不幸話を眠っていて聞きそびれた人生最悪の一日を体験した男はタクシーを降りた後、真冬の朝方退職金を片手に座り込む。
タクシーとタバコのはなし
共通点はそれだけ。
それだけのオムニバス仕立てストーリーで、決して点と点がつながる話でもないのですが、なんでもない一夜を他人の人の人生をちらっと覗くことのできる不思議な体験。
夜にひっそりとベランダでタバコでも吸いながら一話ごとに観るちょっとした贅沢な時間にもぴったりな、そんな作品。
各国の俳優陣を一気に拝めるのでそれだけで価値のあるジムジャームッシュのインディーズ界きっての作品とちりばめられた名言をこの、独特で陰湿な音楽と一緒にぜひ楽しんでほしい。
Filmarks @mmko1220